花の四阿

    Lala掲載の『狼陛下の花嫁』二次小説のブログです。某SNSで書き溜めた小説の他・イラスト・詩文・写真・徒然日記・一部鍵つきを掲載しています。

    【短編】現代パラレル『milk cocoa』 ※Boxing Day

    ※こちらは、現代パラレル『ミルク・ココア』です。
    現代パラレルが苦手な方は、閲覧を控えてください。
    それでもかまわないかたは、どうぞお楽しみください。








    20100205121511d5d.jpg



    彼女の手に、じんわりと温かなマグカップ
    中身は、ミルクたっぷりのココア

    風邪を引いてしまった恋人の為に、たった今、心を込めて夕鈴が作ったばかり。
    まだ、火を止めたばかりなので病人には熱すぎて飲めない。

    「黎翔さん、ココアを作ってきました。
    ……飲めますか?」

    寝ている彼のベットサイドのテーブルに“コトン”と静かにマグカップを置いて、
    夕鈴は近くの椅子をベットサイドに引き寄せた。

    介護に手慣れた様子で、てきぱきと風邪をひいた恋人の看護をこなしていく。




    ゴホゴホ……ゴホ


    「大丈夫ですか?
    ゆっくり起き上がってください……」

    「ーーーーすまない」

    せっかく座った椅子から立ちあがり、夕鈴は彼の背中を支えて
    起きあがるのを手伝った。
    背中にクッションを入れて楽にしてあげる。

    本当に手慣れている。
    黎翔は、怠そうに起きあがると彼女の差し入れたクッションに
    深々と身を沈めるように凭れた。

    顔色がよくない。

    熱のせいで彼の瞳が潤んでいた。
    いつもは堂々とした屋敷の主ぶりだが、
    今日は病のせいか覇気もなく気弱に見える。


    「ごめん、夕鈴。
    せっかくの休みなのに……」

    しょんぼりと項垂れた彼は小犬のよう。
    うるうると熱で潤んだ瞳で彼は申し訳なさそうに彼女に謝罪した。

    「ううん。
    いいんです。
    気にしないでください。
    わたし黎翔さんのお役にたてて嬉しいんです」

    温かな笑顔で彼女は明るく頬笑んだ。

    「普段、わたし黎翔さんの役にたってないから……」

    困ったように、眉を下げる恋人の手を黎翔は、掴んだ。

    「そんなことない。
    君は十分役に立っているよ!
    ……君が来てくれて助かった」

    「ほんと!?」

    …とポツリ呟いた夕鈴の手を握り、黎翔は真摯にうなづく。

    彼の両手で握られた夕鈴の手が熱い。
    風邪の熱で高い彼の熱が伝わる。

    でもそれだけじゃなくて。

    役に立っていたことが嬉しくて、でも恥ずかしくて…‥
    自然、夕鈴の顔も恥ずかしさで、どんどん赤くなっていく。
    結局、耳まで火照った顔を見られまいと、夕鈴は俯いてしまった。

    黎翔さんは、そんな彼女を見て、益々可愛くて仕方ないとばかりにギュと両手で握りしめた。

    静かすぎる時が流れて行く。
    庭で鳴く小鳥の声が部屋に響いたが、二人の耳には届かなかった。


    「あの……」

    「何?
    夕鈴」

    そんな甘やかな沈黙を破ったのは、状況に耐えられなくなった夕鈴だった。
    先ほどから、ずっと気になっていたことがある。

    閑散とした今日の屋敷の様子に夕鈴は戸惑っていた。
    いつもは、たくさんの使用人が居るはずの大きな屋敷は今日は人の気配が無い。
    廊下にも庭にも台所にも、今日は来てから誰一人とも出会っていなかった。
    そのことに彼女は首を傾げていた。

    大きな厨房を使ったことがないので尻ごみしたが。
    病人に温かな飲み物を作ることができて夕鈴はホッとしていた。

    なにしろ夕鈴が来るまで水分さえ(面倒くさくて)摂らなかったらしい。
    自分の体力に自信があったがために油断して、結果的に風邪をひいたらしかった。

    普段、頼らせてなどくれない恋人だから、アレコレ世話を焼くのは楽しい。
    でも病気の主を置いて使用人たちは何処へ行ったのだろうか?

    「今日は人が居ないのですね。
    ……いつもの使用人の方達は?」

    「今日はBoxing Dayだからね。
    数日間、休みをとらせている」

    夕鈴は聞きなれない単語が出てきて、もう一度黎翔さんに聞き返した。

    「Boxing Day(ボクシング・デイ)……?
    何ですか?
    それ……」

    「簡単にいうとクリスマスに働かなければならなかった人の為に
    家族で過ごすクリスマス休暇のことだよ」

    「だから休暇の間は自分のことは
    自分で、しなければならないのだけど……」



    ……ああ、だからなのね。
    と彼女は納得した。

    風邪をひいたのは、きっと夜遅くまでお仕事を優先していたに違いない。
    それを止める使用人たちが居なくて、彼は寝食を忘れて無茶をしたのだろう。


    まったく、この人は。
    辣腕ぶりで世間から恐れられているというのに……
    自分のこととなると、あまりにも無茶で無頓着だ。

    これは風邪だけですんでよかったのかもしれない。
    誰も居ない屋敷で、過労で意識なく倒れていたらと思うと怖いものがある。



    「夕鈴、ホントにごめん。
    せっかく、お見舞いに来てくれたのに、家事を全てやらせてしまった」

    「いいんです。
    これくらい家族で慣れてますから」

    「元気になったらデートしようね。
    何処へ行きたい?」

    「それより、せっかく作ったココアが冷めてしまいます。
    これを飲んで、もう一眠りして早く治してください」

    夕鈴は、ベットサイドに置いたマグカップを手に持つと、
    弟にしていたように、ふぅふぅ……とココアを冷まし始めた。

    黎翔は、その様子を呆気に取られてみていた。
    使用人たちは、黎翔に飲み頃の適温しか渡さない。

    夕鈴のやり方のような飲み物の冷まし方など知らなかった。
    見つめられていることに、気付いていない夕鈴は、一生懸命に黎翔のココアを冷ましてくれている。

    黎翔は、口元に手を当て顔を真っ赤にして耐えていた。

    ……ヤバイ。
    可愛すぎるよ、夕鈴。
    家に帰したくないな。

    ーーーーこのまま朝まで看病してほしい。
    そんなこと言ったら、嫌われるだろうか?

    ますます黎翔の顔が赤くなる。
    もしかして首筋まで赤いかも……

    くすぐったくて凄く嬉しい。
    こんなこと、されたことないから、尚のこと。

    う~~~~ん。。。
    風邪じゃなかったら今すぐ君を押し倒すのに。

    そのままココアが冷めるまで、真っ赤な顔で夕鈴をジッ見ていた。
    不埒な妄想ばかりが、彼の頭を占めていく。

    彼の視線に、やっと気付いた夕鈴は、真っ赤になって謝った。

    「ああっ!
    黎翔さん、子供じゃないのに……
    ごめんなさいっ!!!
    ーーーーつい。」

    「いや、新鮮で嬉しいよ。
    夕鈴」

    彼女の冷ましたミルクココアを受け取りながら
    とても幸せな気分で一口飲んだ。

    「美味しい!」

    彼女に心からの感謝の言葉を伝えた。
    嬉しくて笑みが止まらない。


    君の心は、僕の心を温かくする。
    触れると、このココアのように身体の芯から温まるんだ。

    ホントは君の唇の甘さも欲しいのだけど……
    風邪をうつすのは気がひけるし

    今は、コレで我慢。
    残りのココアをイッキに飲み干して、君の気持ちを飲み込んだ。
    彼女のいう通り、早く風邪を治さなきゃな。

    夕鈴にお礼のkissも出来ない。
    「ご馳走様」とひと言呟いて、黎翔は再び横になった。

    「喜んでいただいて嬉しいです。
    じや、私コレ片づけてきますね」

    「待って。
    それ後にしてよ」

    引き留めるつもりなんて無かったのに、気づいたら彼女を引き留めていた。
    お互いに、戸惑った視線が交錯する。

    「黎翔さん?」

    「ねぇ、夕鈴。
    手を握ってよ。
    僕が眠るまで傍に居て」

    「……こう?
    ですか?」

    少しだけひんやりとした小さな柔らかな手が、僕の左手を、おずおずと覆った。

    「……安心するね。
    気持ちいいな」


    いつもの日常って、こんなに幸せだったっけ!?
    今日はBoxing Day。

    屋敷には、君と僕の二人っきり。

    君は気付いていないようだけれど……今、二人っきりなんだよ。
     










    早く、こんな日常が来るといい。
    家族になろうよ、夕鈴。


    僕は彼女の温もりを感じながら微睡みの中へ落ちて行く。






    ーーーー願いと共に。









    “a story ” by sakurapan

    2017年03月16日改訂
    2012年12月26日初稿
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