花の四阿

    Lala掲載の『狼陛下の花嫁』二次小説のブログです。某SNSで書き溜めた小説の他・イラスト・詩文・写真・徒然日記・一部鍵つきを掲載しています。

    【長編】『楼蘭』―黎翔編―外伝 【砂漠の帳 1】

    楼蘭外伝 








    【砂漠の帳 さばくのとばり 1 】



    幾つもの星がざわめく 砂漠の夜に
    明々とオレンジ色の焚き火が灯る

    夕鈴姫のいる
    夜営する蒋(しょう) 将軍の部隊。

    部隊に守られるように華やかな緋色の女テントから
    焚き火に誘われるようにーーー旅衣装のうら若き夕鈴の姿。

    「蒋(しょう) 将軍」

    焚き火に近づいた夕鈴は、
    駱駝の乾燥した糞を燃やし
    明々と燃え盛る焔を見つめていた老将軍に話しかけた。

    「姫様。
    どうされました?」

    「なにもないわ。
    隣……いいかしら?」

    「こんなところで、よければ。
    御用件なら、テントまで伺いましたものを」

    「もう真夜中だし、侍女達も寝ているわ。
    起したくなかったし、将軍とお話したくて」

    「昔みたいに、焚き火を囲みながら
    あなたとお話がしたかったから……」

    膝を抱えて老将軍の隣に座った
    焚き火に照らされた夕鈴の顔は、子供のように無邪気に将軍を慕い……
    先の見えぬ不安の影は、色濃くその顔に滲み出ていた。

    蒋(しょう) 将軍にも、わが子同然の姫の様子に、胸が痛い。

    ささやかな幸せな夢に浸る年頃なのに ……
    それさえも彼女には許されない。

    それを思うと仕える楼蘭王の苦悩も分かり
    溜め息しかでてこなかった。

    明々と燃える焔を見つめながら、夕鈴は淡々と話す。

    「王都と王宮の様子は相変わらずなのですか?
    漢は私との約束を、きちんと守っておりますか?」

    「楼蘭を守る
    漢の駐屯地の衛兵は、いまだ我が物顔で町を闊歩。
    楼蘭を守る為と言っていますが最近は兵を増強しており、あれでは占領ですな」

    「王宮には、相変わらず漢の目と耳が送り込まれ続けています。
    王宮に着きましたら、言動にご注意ください。

    此度の使者は漢の将軍。
    下手な使者より扱いも悪いかと」

    「……それは何故?」

    「武帝直属の卓越された近衛を率いる武帝お気に入りの将軍と聞いております。
    その発言や決定は、武帝の決定に准じた扱いとか……

    それに年若い将軍ながら武と智に優れているとか。
    奴なら楼蘭王宮の見取り図など手元に無くとも、
    簡単に頭に叩き込むことでしょう」

    「それに、他国の間者や刺客も入り込みましょう……
    漢と楼蘭の婚姻は、西方諸国の今の関心。
    気に入らない諸国は、昔から多い。

    姫様も、十分にご注意ください。
    王宮にいる間は、この蒋(しょう)が命をかけてましても姫様をお守りいたします」

    父と同じ、年老いた将軍は、いつも夕鈴の心配をしてくれた。
    皺の刻まれた顔に、決意が漲る。

    心配してくれている……ただ、それだけで彼女の心は温かくなる。
    嬉しくて、少し涙が滲んだ。

    「ありがとう、蒋(しょう) 将軍。
    嬉しい言葉だけど私より、お父様を守ってほしいの。
    約束して!
    決して命を粗末にしてはいけないと……」

    「楼蘭の民は誰一人として、血を流してはいけない。
    私は、その為に武帝に嫁ぐのよ」

    毅然と胸を張る夕鈴の言葉は、
    民を守る優しさと強い決意に溢れ、一国の王女らしい言葉だった。

    早くからそれを求められ、強いられてきた言葉に彼女の運命の過酷さを改めて知る。

    「街の様子。
    王宮の様子は、よく分かりました。

    私からも、一度
    武帝に頼んでみます。
    漢軍が楼蘭の人々に、酷いことをしないように……と」

    焚き火の焔を見つめ続ける夕鈴の表情からは
    老将軍はその心を読み取れなかった。



    ……砂漠の帳 2へ 続く



    2016.06.10.改訂
    2012.11.15.初稿
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