花の四阿

    Lala掲載の『狼陛下の花嫁』二次小説のブログです。某SNSで書き溜めた小説の他・イラスト・詩文・写真・徒然日記・一部鍵つきを掲載しています。

    【長編】『楼蘭』―黎翔編―42 ※要注意!古代パラレル 黎翔編・完

    楼蘭






    「そうか……
    夕鈴は、もう少し早く貴殿と会いたかったと……そう言っておったか。
    不憫な……」

    小さく呟いた比龍王の言葉は、
    誰に向けたものでも無く、父としての心情、本音。

    馬頭琴を傍らに置き、立ち上がり
    遥か遠くロブ=ノールに住む愛娘を思う。

    国の為とはいえ、運命に逆らえず好いた男の手を取れなかった……
    そのことに対して、父親として胸が痛い。
    沈痛な面持ちで比龍王は、湖にひろがる対岸を眺めた。

    ストゥーパ(仏塔)は、星空に濃い濃紺の影を落とし……
    対岸の家々には、温かなオレンジ色の灯りが幾つも灯る。
    夕鈴が守りたい……父王・比龍の治める幸せな楼蘭王国の風景。

    とても平和な楼蘭だが……
    それは夕鈴の犠牲あっての平和。

    漢帝国の手で、仮初めに守られている、うわべに過ぎない。
    夕鈴を漢の武帝に差し出したとしても、
    皇帝の気まぐれで、何時戦が起きたとしても不思議ではなかった。

    冷たい夜風が比龍を翻弄する。
    漢帝国という大きな嵐。

    その嵐に晒されて、果たして楼蘭王国はどうなるのか?
    娘は、どうなる?
    比龍は暗い瞳で、冴えた美しい星空を見ていた。

    その時、ストゥーパから西へと大きな美しい星が二つ流れた。
    楼蘭王国から、砂漠の西、白陽国へと……

    天啓のような……その光!

    かつて、ロブ=ノール湖で初めて出会った比龍王と藍鈴姫も
    数奇な運命に導かれ、結ばれた仲だった。
    そんな場所で、かつての自分と同じく、娘は黎翔と恋に落ちた。

    「これは天啓なのかも知れないな。
    なぁ……藍鈴!?」

    まだ遅くは無いのか?
    まだ間に合うのか?

    比龍の自問自答の答えは無く、星々が煌くのみだった。
    比龍王は、娘・夕鈴の運命の歯車が、大きく廻り始めたことを知る。

    運命を信じてみるか?

    瞑目して更に自問自答を繰り返したが、正しいと思える答えは出なかった。

    黎翔は星空を見上げる、比龍王の言葉を待った。

    こちらに背を向けているため、その表情は伺い知ることが出来ない。
    粘り強く老王の言葉を待つ。

    黎翔は、その背に滲む苦脳を読み取り
    同じ王として不安を抱いた。だが…もはや、ただじっと待つしかない。










    しばらくして比龍王は、夜空を見上げながらこう告げた。

    「……数日。
    あと数日で夕鈴は、この王宮に戻る」

    「時は巡り……
    運命は変わりゆくのだろう」

    「珀 黎翔国王殿。
    貴殿に娘の憂いを打ち明ける前に、私も娘に聞かねばならないことが出来た」

    「夕鈴が戻る。
    その後でいいだろうか?」

    「構いません。
    姫に出会えるのは私も嬉しい。
    感謝します、楼蘭王」

    そう言うと踵を返して、与えられた自室に戻る黎翔を
    比龍は、静かに見送った。
    比龍の心は、国王としての自分と父親としての自分がせめぎあう。

    今宵、黎翔と話して比龍は、一つ決心した事があった。

    ロブ=ノールの神託に……
    黎翔と娘の運命に任せてみよう……すべては、娘の夕鈴の幸せの為に。

    しばらくして、四阿から物悲しい馬頭琴の音色が聞こえてきた。
    震える琴の音色は、望めぬ国の未来と、娘への愛情を奏でているかのようだった。

                  ―黎翔編・完―

    黎翔編 外伝 砂漠の帳1へ 続く

    本編 夢逢瀬編 43 へ 続く



    2016.03.09.改訂
    2012.11.14.初稿 
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