花の四阿

    Lala掲載の『狼陛下の花嫁』二次小説のブログです。某SNSで書き溜めた小説の他・イラスト・詩文・写真・徒然日記・一部鍵つきを掲載しています。

    本誌設定【長編】 緑風―芽吹きの季節― 

    緑風



    「陛下。
    助けてっ……!」

    小さな悲鳴と共に、黎翔の背中に小さくて柔らかな衝撃!

    黎翔は、池の四阿に渡る橋のたもとで、急に呼び止められた。
    最愛の夕鈴の声を聞き、一瞬刺客かと思い緊張が走る。
    黎翔を周りこんだ夕鈴を背に庇い、辺りを鋭く伺うと

    ……そこには、彼女を狙う刺客など影も形も居なかった。

    訝しむ黎翔。

    夕鈴付きの侍女達が、庭を数人走ってきていたが、
    黎翔の姿を見つけると、皆うやうやしく頭を垂れた。

    いったい、誰から逃げてきたのだろう?
    夕鈴は、誰から「助けて」欲しいのか?

    夕鈴から詳しい事情を聞こうと、黎翔が彼女の方に振り向くと
    ……彼は息を呑んだ。

    息を弾ませ、胸の動悸を両手で抑える夕鈴は、常の慎ましい姿と違い、
    宴に赴くような軽やかで煌びやかな衣装を身に纏い、
    碧玉や白玉で身を美しく装っていた。

    匂いたつ朝露を纏った若葉を思わせる新緑の衣装。
    朝餉の時と同じ化粧が、黎翔には少し惜しかった。

    「夕鈴、キレイ……
    どうしたのソレ?」

    事情が呑み込めず…
    間抜けな賞賛の言葉を呟く黎翔に…

    彼女は、美しく装った外見にそぐわない顔で、
    黎翔を恨みがましく涙目で、ねめつけた。

    「陛下がイケないのです。

    “君の輝く笑顔が見たい”などと…

    先触れの御使者に、伝えるのですもの。
    私付きの侍女たちが、喜んで張り切って
    私を飾りたてたのです」

    「私……
    途中で、逃げてきました!」

    ピンクの唇を尖らせて、拗ねたように抗議する夕鈴。
    身長差があるとはいえ、上気した頬で涙を浮かべた大きな瞳で
    僕を見上げるのは反則だよ、夕鈴。

    「ごめん。ごめん。
    ……でも、ホント綺麗だよ!

    夕鈴、もっとよく見せて!」

    怒っても、拗ねても、君は可愛いだなんて言ったら……
    君は、ますます怒りだすだろうか?

    喜怒哀楽を、まったく僕の前で隠さない君は、王宮では稀有な存在。
    生き生きとした君を見ているだけで、灰色の僕の世界は、極彩色の輝きをみせる。

    質素倹約を美徳とする君は、不必要に自分を飾りたてるのを好まない。
    財政難な僕の国で、 君の考えは価値のあることだけど…

    君が美しく装った姿を、時々見たいなと願うのは、僕の我が儘なのだろうか?

    夕鈴は、呆れ怒りつつも……しかたがないと
    僕の目の前で、くるりと一回転してくれた。

    金糸の縫い取りがされた若草色の薄衣。
    風に揺れる袖から、腕の白い肌が透けて見えた。
    袂からは慎ましい襟に反して、鎖骨が…胸元が…透け見える。

    碧玉と白玉を陽に輝く髪に編み込み、流れる金の簪が風に軽やかな音をたてて耳を楽しませた。

    金糸、銀糸を織り交ぜた巾の広い錦の帯を、細い腰にキュッと巻き、
    豊かな胸が強調されて、彼女の女性らしさが強調されて魅惑的だった。

    着飾る夕鈴は、仮とはいえ僕の花嫁。
    仮で、こんなにも僕の胸をときめかすのに、
    もしも本物の花嫁となったのならば、どんなにドキドキと狂おしいのだろう?






    「陛下、お妃さま。
    失礼致します!
    お妃さま、お支度の途中でございます!
    お部屋にお戻りくださいませ!」

    「夕鈴。
    諦めたほうがよい、鬼ごっこは終わりだそうだ。
    お迎えがきたよ……」

    「……でも。
    陛下を待たすわけにはいきません!
    どうか、このままで……」

    君に“助けて”と目で訴えられても……
    僕の心は決めていた。



    「いや大丈夫だ。
    私は、まだ来たばかり。
    それに美しく装った君が見たい。

    ……君の支度が整うまで四阿で待とう」

    「ぅ……
    でも、でも」

    「……夕鈴。
    動くな!」

    「え!?
    あ……はい?」

    ?????

    素早く夕鈴の頤を捉えて、そのピンクの紅の唇に僕は唇を重ねた。
    びっくりした夕鈴のハシバミ色の瞳が、更に大きくなる。

    僕は、真っ赤になった夕鈴を腕に捉えたまま……
    後ろに控えていた、先ほどの夕鈴付きの侍女と夕鈴に話しかけた。

    「今朝の化粧のままでは、この衣装に似合わぬな。
    紅が薄い……」

    たった今、口付けたばかりの夕鈴の唇をしげしげと吟味すると、
    彼女の顔が益々真っ赤になった。

    「そうだな。
    スモモが良い。
    瑞々しく食べ頃の齧りたくなるスモモの実のような
    オレンジかがる紅の色」

    「……夕鈴」

    とん……と背中を軽く押して、彼女を侍女へ引き渡した。

    「かしこまりました」

    律儀な侍女の控えめな声に重なり、夕鈴の声。

    「んもぅ。
    ……しかたがない人ですね。
    しばし、お待ちください」

    「夕鈴。
    楽しみに、しているよ!」

    僕は足取りも軽く翡翠宮へと続く、池の橋を渡る。
    美しく着飾った君を待つために……


    ……至福の刻・前編へ 続く


    2016..03.02.初稿

    唐突に、彼女の口紅の色が気に入らなくて、口付けで拭う陛下が書きたかったんです。

    芽吹きの季節は、恋の季節陛下の幸せ度高くてすみません。
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    2010:

    さくらぱんさん、こんにちはー\(^o^)/

    (≧∇≦)の顔が変形するかと思っちゃったぐらいの
    陛下ったら幸せさーん‼︎‼︎
    キラッキラ夕鈴✨可愛過ぎ大好きっ!
    読めて嬉しいです〜(*^^*)

    2016.03.02 14:45 タイフーンです(≧∇≦) #- URL[EDIT] 返信

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