花の四阿

    Lala掲載の『狼陛下の花嫁』二次小説のブログです。某SNSで書き溜めた小説の他・イラスト・詩文・写真・徒然日記・一部鍵つきを掲載しています。

    本誌設定【長編】 緑風―彼のときめき―

    緑風


    そんな会話を交わして、黎翔と夕鈴が微笑みあった……
    数日後の或る日。

    普段、後宮を管理する張老師が、珍しくも政務室に向かう廊下を一人歩いていた。

    ご機嫌で足取り軽く、鼻歌交じりに歩くその姿は、とても毒に精通する医官であり、
    狼陛下から、絶対の信頼を寄せられている重要人物には、とても見えない。

    立派な白い髭で、ようやく大人と分るほどの身長の気のいい小さな老人である。

    狼陛下の唯一の妃が住まう後宮を任されている張老師。
    ――高級官史でさえ、首部を垂れ敬意を払う。

    その小さな老人が皺だらけの手に、小さな包みを抱えていたことなど、誰も気にも止めなかった。

    当然とばかり官吏達が忙しく政務している政務室に入ると、更に奥に老師は進んだ。
    精緻な彫刻が施された陛下の居る執務室の重厚な扉の前で老師は“ピタリ”と立ち止まった。

    「コホン」

    少し、もったいぶって小さく咳払いをすると、入室の許可を願い出た。
    その顔は嬉々としていて、いつも以上に朗らかに見える。

    「陛下、いらっしゃいますかな?
    張元でございます。
    入りますぞ……」

    静かでありながら、朗々とした張りのある声は、さすが現役を勤める後宮管理人である。
    その声に、仕事に集中していた官史達は、手を休めて振り向くと……

    「お待ちしておりました。
    張老師。
    どうぞお入りください」

    眼鏡をかけた陛下の側近が、老師を招き入れ
    扉に消えゆく後ろ姿だった……

    「もう、そろそろお越しすると思っておりました。
    陛下が痺れを切らしてお待ちです。
    政務に支障無きよう、さっさとソレを陛下にお渡しください」

    少し不機嫌気味に、柳眉を寄せて
    側近である李順は、事務的に淡々と言った。

    「なんじゃ?
    一番待ち望んでおったのは、お主か?」

    「ここ数日、毎日問われ続けておりましたから。
    そして休憩時間でもないのに、お妃様のところへ報告に抜け出すので
    政務がさっぱり進まないっっっ!
    まったく困ったものです」

    ぷぷっ(笑)

    笑いをこらえきれず、失笑した老人を、李順はキッと睨みつけたが、まったく堪えていなかった。
    張老師は、ますますゲラゲラ……と笑うばかり……

    次の老師の言葉に、李順は黙って口を噤んで会話を流した。
    視線は、冷たく鋭いままで……

    「若造。
    おぬし、恋というものを一度もしておらぬようじゃな。
    今まで一度も、もてなかろ?

    陛下に、ようやく春が訪れておるのじゃ……
    ワシは、陛下の恋に協力したい。
    言われんでも、コレを陛下に届けたら、すぐに立ち去るつもりじゃて
    安心せい」

    皺枯れた腕で、大事に抱えてきた小さな包みを、
    ひと撫でするとにっこりと微笑んだ。

    「コレを届けるだけで、夫婦仲がますます仲良うなることは、いいことじゃ……

    お妃は、ほんに贅沢からは無縁じゃからのう。
    綺麗な衣も、高価な宝石もいらないという。
    それどころか、高価な贈り物を喜ぶどころか、陛下を叱って怒る。
    質素倹約がお妃の身上。

    唯一の贅沢が、陛下にお出しするお茶とは、
    実にお妃らしいではないか?

    ……ところで陛下が見当らぬが、どこじゃ?」

    「只今、周宰相と共に謁見の最中です。
    しばしお待ちくだされば、すぐに戻られます」

    「おぬしは、何故行かなかったのじゃ?」

    「ここで、張老師が来るかもしれないからと、
    留守番を申し付けられました。

    なにも其処までしなくとも……そう進言したんですけどね」

    陛下に届ける大事な品を卓に置くと、
    老師は手近にある椅子に、ちょこんと座った。

    「だから、おぬしには春は来ないんじゃよ……」

    そういって、今度はにやりと訳知り顔に笑った。




    「陛下はまだ来ぬかの?……」

    軽く目を瞑り、寝入ったように見える張元が、顔を紅潮させて

    いっそ本物のお妃として……
    だの

    たわむれに御子が産まれぬものかのぅ?……
    だの

    ブツブツとつぶやくのを、李順は聞くともなく聞くと、
    大きなため息をひとつついた。
    そのまま彼は、老人のたわ言を無視することに決めた。


    執務室の窓からは、燦燦と降り注ぐ春の陽光に、若葉が輝き踊るように揺れていた。
    白陽国の王宮に穏やかな春が訪れていた。

    ……「陛下のときめき」へ・続く


    2016.02.10. 改訂
    2016.02.09..初稿



    DSCN0275-20160210.jpg

    続きを待ち望んでいた某ゲスト様へ、捧げます
    彼が彼でなくてごめんなさい。
    急に老師の「御子が…」のときめきが書きたくなったんです(笑)
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    2000:

    へへへ(#^.^#)待ち望んでおりました!
    さくらぱんさんこんにちは。お忙しい中ありがとうございます。
    御子のトキメキのせてくださりまた楽しみも増えます!

    今日は中国茶オレンジ&ジャスミンです。
    色も香りも華やかです。

    猛威をふるっている彼等に長男の学年が倒されつつあります。家族は無事なのがまだ救いです。
    さくらぱんさんご家族も体調等万全にしてお気を付けくださいね!

    2016.02.09 19:19 ゲスト様 #- URL[EDIT] 返信

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