花の四阿

    Lala掲載の『狼陛下の花嫁』二次小説のブログです。某SNSで書き溜めた小説の他・イラスト・詩文・写真・徒然日記・一部鍵つきを掲載しています。

    【長編】 君を守れなかった僕の自罪 4


    夕鈴は、大きな池の中央に建てられた
    四阿に向かう橋を渡っていた。

    たゆとう濃い霧が、
    君の姿をかき消してゆく……

    「待ってくれ!
    夕鈴」

    僕の叫びに振り向きもせず
    君は……霧の中に走り去っていく。

    どうしようもない寂しさと
    失望感に苛まれ……

    僕はその後ろ姿を追った。

    ふらふら……と覚束ない足取りで、
    君の居る四阿に着くと……

    池を背に、夕鈴が僕を待っていた。

    「…………陛下。
    私のことは、お忘れくださいとお願いしたのに
    どうしてついて来るの?」

    「忘れることなんて出来ないよ。
    僕は君の夫なんだ。
    愛しているから、心配するのは当然だろう?」

    「それより君は
    いったいどうしようというんだ!」

    「そんなに走って、せっかく治りかけた傷が、
    開いてしまうではないか!」

    「大人しく僕と自室に戻ろう!?」

    差し伸べた手を夕鈴に差し出すと、
    彼女は、その手をとらず……
    頭を振りかぶって、僕を拒絶した。

    「この傷は……治らない。
    ……ううん。
    もう治らなくても、いいんです」

    敷布からチラリと見えた薄紅色した唇。
    夕鈴は唇を噛み締め、苦しげに呻いた。

    「もう…
    あなたは、醜い私を愛してはくださらない!
    誰の花嫁にもなれない!
    ――私は、ひとりぼっち」


    「夕鈴。
    君は、僕の可愛いお嫁さんだよ!
    醜くなんかない綺麗だよ!」

    「そんなことを仰るのは、陛下だけですわ…」

    口元を袖で隠し、夕鈴が僕を見た。
    ハシバミ色の大きな瞳には、大粒の涙が光り
    悲しみに翳る。

    クっクっク……

    突然、小さく笑いだした夕鈴は、気が触れたかに思えた。

    「……ゆーりん?」

    「陛下は、私を愛してますか?
    こんな醜い私でも、変わらず愛してくださいますか?」

    突然、頭に被っていた敷布を取り去った夕鈴。
    ふぁさりと床に落ちた布は、瞬く間に風に攫われ池に落ちた。
    ゆっくりと底の見えない池の底に沈んでいく。

    「……私、キレイですか?」

    低く呟く夕鈴は、口元を隠した両袖を広げ、顔を露にしていく。

    久しぶりに、君の顔が見れると期待した僕は馬鹿だった。


    「うわぁ!
    ゆーりんっ!」


    敷布を取り去った彼女の姿に
    僕は驚き、戦慄した。
    その場で腰が抜けて、ドスンと尻餅をついた。

    その顔は……

    その姿が……


    まるで別人だった。

    可愛らしい君の顔に醜く走る一文字の刀傷。
    僕が、何度も口付けた愛らしい唇は、耳まで裂け…
    白い骨までもが、生乾きの瘡蓋で
    凄惨な傷を更に凄惨に見せる。

    とても生きているのが、不思議な傷だった……

    僕は、言葉も出ず…
    床に尻餅をついたまま……
    動けなかった。

    目を逸らそうとにも逸らせない。
    怖いもの見たさのように、夕鈴の顔を凝視していた。

    黎翔には、今見ているモノが、信じられなかった。
    愛しい人の変わり果てたこの姿が……

    「……あなたにだけは、知られタクナカッタ……」

    両袖で、顔を隠した夕鈴。
    夕鈴の悲しみだけが、濃厚に朝の濃霧に溶けてゆく……

    僕の罪深き白い闇が、僕の手足に絡みつくようだ。
    指先さえも、絡みついて、動けない。

    「陛下。
    今生の別れです。
    愛しておりました……」

    「……さようなら」

    夕鈴は、すぐ近くの手すりをあっという間に乗り越えて、
    池へと身を投げてしまった。

    僕は、何故か身体が動かず……
    その一部始終を黙って見ているだけだった。

    あんなに愛していたのに……
    僕の唯一無二の愛する人。

    ゆーりんっ!

    夕鈴!

    世界が暗転し……
    僕の世界から光が失われた

    ゆーりん。

    君を失ってしまった。
    僕はあんなにも、愛していたのに……

    君は僕の花嫁にならなければ……
    あんな傷を顔に負わずに
    幸せな一生を送るはずだった。

    僕の手を取ったばかりに……

    ゆーりん!

    ゆーりん!

    愛してたんだよ!

    君を追い詰める気は無かった。

    ゆーりん!

    僕の愛しい人。

    失った光が哀れで、悲しく切なくて……
    失っても尚、愛しくて……

    僕は止まらない涙でーを流す。
    頬を濡らし慟哭しながら、意識を手放していった。

    ……続く


    SNS内部・ハロウィンパーティ突発企画
    口裂け子さんと絵師Dさんのネタをお借りしています。
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