花の四阿

    Lala掲載の『狼陛下の花嫁』二次小説のブログです。某SNSで書き溜めた小説の他・イラスト・詩文・写真・徒然日記・一部鍵つきを掲載しています。

    黒龍【長編】果樹の杜 1

    DSCN0426-20150423.jpg
    桃の花・2015.04.10.撮影




    麗らかな春の陽差し
    昨日までの雨が嘘のように晴れた
    とある日。

    私は、陛下の誘いで王都から離れた
    果樹園に来ていた。

    「夕鈴
    気をつけて」

    「……はい。
    陛下」

    来る途中、花盛りの中紅色の桃の林を抜け
    感嘆の声を零した。

    「……綺麗!」

    ふわりと風に香る
    季節花の芳しい香りを二人で楽しんだ。

    陽射しに透ける桃の花弁と
    澄んだ青空が心地良い。

    「綺麗ですね。
    桃の花を見せに、連れてきてくれたのですか?」

    「違うよ。
    夕鈴に見せたい景色は、あの丘のむこう……」

    「私に、見せたい景色って何ですか?」

    「んーーーー!?
    ……まだ内緒」

    楽しげに、イタズラっぽく笑う陛下は、
    いつもの王宮での狼陛下とも小犬陛下とも違う顔で笑う。

    新しい陛下の顔を知るたびに、私の心臓は“ドキン”と跳ね上がった。
    また貴方に恋をする。

    ( もう、どこまで好きにさせたら気が済むの? )
    照れ隠しで、理不尽な怒りが沸き起こった。

    「陛下。
    もう、そろそろ……
    目的地ぐらい教えてくれても、いいではないですか?」

    馬上ということも忘れ……
    ふくれっつらで怒る私は、陛下の胸をぐいっと押しやった。

    苦笑う陛下は、本当に楽しそうで……
    砕けた雰囲気に、二人の距離が縮んだ気がした。

    「夕鈴、あまり馬上で暴れると
    危ないよ!」

    「このくらい平気です。
    落ちやしません「アッ!」」

    「あぶないっ!!
    夕鈴っ」

    落ちかけた私を、
    陛下は、すばやく抱き止めてくれた。
    ゆっくりとした足並みとはいえ、高さのある馬の上。
    落ちたら只では済まされない。

    助かって、ほっとしたのもつかの間。

    陛下に、ぴったりと身体を抱き寄せられて、
    先ほどよりも、近付いたゼロの距離。

    陛下の腕の中は変わらないというのに……
    このいたたまれなさを、どうにかして欲しい。

    注意されたばかりで落ちそうになったことも拍車をかける。
    私は、とても恥ずかしくなった。

    「ほら、危ないと言ったばかりだ。
    ……ゆーりん
    君は、私の心臓を止めるつもりか?」

    陛下の怒気を孕んだ言葉。
    耳朶に囁かれて、知らず身体が震えた。

    ……怒られた?
    呆れた?

    確かめるのが怖くて、陛下の顔が見れない。
    ぎゅっと、陛下の袂を握り締めて、小さく呟いた。

    「陛下、ごめんなさい。
    ……助けてくれて
    ありがとうございます」

    美しい果樹の森に、私は目を奪われたフリもできない。
    ……だって陛下の腕の中に、深く囚われたから。

    意識しなくとも
    普段よりずっと近い距離。

    陛下の匂い
    陛下の体温を……私は意識せざるを得ない。

    片想いだった頃は、近すぎる距離を仕事と割り切れた
    でも、今は……いまでは

    近すぎる距離に緊張して
    ドキドキと耳を打つ心臓の鼓動が煩い。

    大好きな恋人の腕の中だから……
    意識しすぎて、平常心が保てない。

    陛下と触れた箇所から
    私のドキドキが伝わってしまうような気がして
    緊張感と恥ずかしさで消え入りたくなった。

    ううん、違う。
    この遠乗りが始まった頃からだわ。

    陛下と共に、黒龍の背に揺られ
    陛下に抱き締められて支えてもらった。
    陛下の逞しさを知る度に……
    私の身体が火照り、鼓動が激しくなった。

    わざと景色に意識を向けて
    はしゃいでいないと、この距離に耐えられなくて……

    はしゃぐ私を見つめる
    陛下の瞳に、心焦がされて

    あぁ……どうしよう。
    「好き!」が、溢れて止まらない。

    両想いになった今だから
    貴方に恋する私は「貴方が好き!」を隠せない。

    不器用な私の恋は、何年たっても苦労するのよ。
    だって好きになった人が、たまたまこの国の王様だったのだから…………


    ……続く
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