花の四阿

    Lala掲載の『狼陛下の花嫁』二次小説のブログです。某SNSで書き溜めた小説の他・イラスト・詩文・写真・徒然日記・一部鍵つきを掲載しています。

    紫雨―しう― 3.   MIX.color

    このまま、ここに居ても仕方ない。
    空虚のまま……重い足取りで、後宮の自室に向かった。


    何をしても、気が滅入る。
    どうしても、気が散って仕方なかった。
    何も手につかない、仕方なしに
    夕鈴は窓辺に椅子を運ぶと、流れる雲を眺めた。

    思いだすのは、これまでの陛下との日々。
    楽しかった思い出が、浮かんでは消え。
    消えては、浮かぶ。






    いつの間にか、辺りは暗くなり
    刻々と青から藍へ変わりゆく空を見つめ
    陽は落ちて、夜に変わる様を夕鈴は飽きずに眺める。

    とうとう…細く冴えた弓張り月が昇り、部屋の灯りが無くなっても……
    夕鈴は、空を見上げながら、物思いにふけった。


    「夕鈴・・・・・ゆ・・・・・・りん・・・・・・・・・・ゆうりん。」

    この声は。

    「陛下。」

    「こんなところで、どうしたの。
    灯りもつけずに……」

    驚きの声と共に、肩に手をかけられた。

    「どこか、具合でも悪いのか?
    侍医を呼ぼうか?」

    「いえ……
    大丈夫です。
    ご心配いりません。」

    「ただ、月日が経つのはこういう風に
    一日が過ぎることが積み重なるってことなんだなと思って……」


    「???」

    陛下の怪訝そうな表情。
    確かにそうよね。
    私だって意味不明なことを口走っていることくらいわかっているもの。

    それでもね具合が悪くないことを陛下は知ると
    いつものように、小さな「ただいま」と共に、
    甘い演技で後ろから抱きすくめられた。

    「夕鈴、その積み重なった月日が
    僕にとってどんなに大切なことかということは分かる??」

    「えっ???」


    月明かりに映る陛下の表情は、穏やかなモノだった。
    甘い言葉に、愛されていると勘違いしそうになる。


    そんなことは、万に一つも可能性はないのに……

    月明かりに浮かぶ穏やかな陛下の表情。
    小犬でもなく…狼でもない温かな……


    吸い込まれそうなほど美しい陛下の紅い瞳は、
    夜の闇に深く沈んで…真意までは見いだせない。

    夕鈴は、陛下の逞しいその腕で、更にキュッと抱き締められた。

    力強さに、ドキンと跳ねる心を抑えられない。

    耳元で甘く囁く陛下の言葉が、夕鈴の心を掻き乱す。

    「君との日々は、毎日が宝物だ…」

    「……陛下。」

    引き寄せられた陛下の胸の中で、大好きな陛下が囁く。

    ……好き。

    もうすぐ、こんな風に過ごせなくなると思うと、
    恥ずかしさより、哀しみが胸に押し寄せてきた。

    …陛下が、だいすき。

    ……なのに。

    言葉にすることが、できない。

    …好きなの。


    その一言が言えない。


    このまま陛下が好きと伝えないまま……
    バイト期間が終了して
    陛下と別れていいのかな?

    いつの間にか、冷たい涙が頬を伝う。

    温かくて、とても苦い
    叶わぬ恋の苦しみ。


    夕鈴の心からの涙だった。

    ……続き

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