花の四阿

    Lala掲載の『狼陛下の花嫁』二次小説のブログです。某SNSで書き溜めた小説の他・イラスト・詩文・写真・徒然日記・一部鍵つきを掲載しています。

    【短編】本誌沿い「桃始華」

    白陽国に、隣国から水蜜桃の苗木が贈られたのは、
    黎翔が王位を継ぐ前、父王の時代であった。
     
    今は、王領地のなだらかな丘陵地に、立派な実をつける
    水蜜桃の果樹園となった。

    今年も、王領地を統べる領主から、水蜜桃の花が咲いたとの知らせが、
    早馬で、薄紅色の花枝と共に、王宮へ届けられた。

    黎翔は、その花枝を持って、夕鈴の元へと向かった。
    せっかく咲いた五弁の花。
    しおれぬうちに、愛する唯一無二の妃へ贈る為に。
    散らぬようにと気を使い、急いで後宮へと足を向ける。



    陛下が訪れる時間にはまだ早く、日も高い。
    先触れもなく、突然訪れた陛下の出現に、侍女たちは慌てた。

    自室で、寛いでいた夕鈴は、陛下の訪問に何事かと驚いたが、
    穏やかに微笑む彼の様子に、落ち着きを取り戻した。

    「陛下、お出迎えもせず……
    失礼いたしました。」

    「いや、急に君に会いたくなったのでな。
    先触れを省いて、会いに来た、許せ。」

    「いえ……、
    お会いできて嬉しゅうございます。」

    侍女の手前、甘い演技は、続けられる。
    引き寄せられた指先に、口付けられて頬が熱い。

    この程度で、恥ずかしがってちゃダメよ、夕鈴。
    プロ妃を目指すのでしょう?

    夕鈴は、自分に言い聞かせるものの……
    顔が、薄紅に染まるのは、とめられない。

    「嬉しいことを、言う。
    このように頬を染めて……
    我が妃は、いつ見ても初々しいな。」

    狼陛下の視線に囚われ
    更に、耳朶まで熱くなった。

    「恐れ入ります。
    しかし、どうしたのですか?
    こんな時間に……」

    陛下の片手があがり、静かに人払いがなされた。
    侍女たちは、心得たように、部屋を静かに退出して行った。




    夕鈴以外、誰も居なくなったことを、黎翔は確認すると
    小犬のような人懐こい笑顔で、夕鈴に微笑んだ。

    「コレを君に、早く見せたくて……」

    黎翔は、夕鈴の片手を引き寄せると
    手のひらに、そっと、
    今、さっき届いたばかりの美しい花枝を握らせた。

    心なしか、見えない尻尾がブンブン振っている。
    全身で、夕鈴に褒めて褒めてと伝えていた。

    そんな陛下の様子に夕鈴は、クスッと笑ってしまう。
    そして改めて、手の中の小枝を見つめた。

    「これは……桃の花枝ですね。
    なんて綺麗。」

    夕鈴は、ふわりと嬉しそうに笑ってくれた。

    桃の花を見て綻ぶ、私の花は、どの花よりも美しいというのに
    君は、ちっとも分かってくれない。
    黎翔は、少し切ない想いを隠して、夕鈴に伝える。

    「夕鈴、前に桃が好きって言っていたでしょ?
    花が咲いたと、王領地の農園から知らせが来たんだ。」

    ああ・・・そういえば、桃の実を食べた時に
    陛下と話したことを夕鈴は、思い出した。

    “甘くて瑞々しくて美味しい。
    陛下も食べてみてください。
    美味しいですよ”

    “ほんとだ、美味しい桃だね。”

    “私、桃の木って大好きなんです。”

    “花は、鑑賞として美しいし”

    “葉は、よく青慎のあせも予防に使っていました…”

    “つぼみは、利尿のお薬、種は、血流のお薬”

    “樹木は割れにくく丈夫で、箸を作る材料になるとか、”

    “樹皮は、染料。”

    “ほんとに余すところなく
    人の役にたつ樹木だなんて他に無いですね。”

    “そうだね。
    白陽国でも、仙木・仙果として尊ばれている。
    昔から邪気を祓い不老長寿を与える木と言われているね。

    桃には邪気を祓う霊力があると考えられいるんだよ。
    桃の木で作られた弓矢を射ることは邪気除けの。
    桃の枝を畑に挿すことは虫除けのまじない。

    桃の実は長寿を示す吉祥図案だね。
    君や私の衣装にも、描かれている”

    “美味しい実も、美しい花も楽しめるって、
    お得な木ですよね。”

    “君らしいね。”

    そう言って笑いあったのは、確か昨年のこと。
    あれから、何ヶ月も過ぎていて、
    私は、そのことさえも忘れていたというのに。
     
    ーー陛下は。

    「以前、私が桃が好きと言った事を、覚えていてくれたのですね。」

    手のひらに乗った桃の枝から、じんわりと伝わる陛下の優しさ。
    このバイトにまで、気を配る陛下の優しさを
    なぜ人は、狼陛下と呼んで畏怖するのだろうか?

    夕鈴は、心までじんわりと温かくなる。
    心の底から

    「……嬉しい。」

    花枝を抱きしめ、笑みが浮かんだ。

    「ありがとうございます。
    陛下。」

    「君に喜んでもらって、嬉しいよ。」

    予想していたとはいえ、
    夕鈴の素直な笑顔に、黎翔も笑みが浮かぶ。
    嘘のつけない豊かな表情の彼女を見るのは、楽しい。

    素直な感情の発露は、王宮では稀有なもの。
    それだけに、夕鈴が愛おしく思える。

    もっと、この笑顔を引き出したい。
    君の笑顔は、私の心を温める。

    もっと、君を見ていたい。

    “手放したくないな……”

    そう思う自分の心の変化を、夕鈴には教えない。
    手放せなくなるから。

    ……っ。

    ーーそれでも。

    黎翔は、いたずらを思いついたような笑顔で
    夕鈴の手を取ると……

    「明日、君と遠乗りをしたいな。
    王領地の桃の花が見ごろだそうだ。
    視察も兼ねて、一緒に行こう?」

    「よろしいのですか?
    私が一緒で視察の邪魔になるのでは?」

    桃の花は見たいけど、お仕事の邪魔はしたくないわ。
    不安げに問う夕鈴に、黎翔は、にっこりと微笑む。

    どうしても、明日は君と遠乗りがしたい。
    小犬から狼に雰囲気を切り替えて、夕鈴に迫った。

    「いいも悪いも、私が一緒に行きたいんだ。
    ダメか?」

    ……ぅ。
    なんで、ココで狼陛下なの?

    「いいえ、嬉しいです。
    陛下、連れて行ってください。」




    「そうと決まれば、急がなきゃ……
    明日は、陛下の為にお弁当作りますね。
    桃の花の下で、一緒に食べましょう。
    何かリクエストは、ありますか?」

    「ありがとう夕鈴。
    君の手料理は、どれも美味しいから。
    明日の楽しみが、増えたよ。」

    「明日は、晴れるといいですね。
    遠乗りが楽しみです。」

    「そうだね。
    楽しみだね。」

    二人、手を取り合って、
    微笑む瞼の裏に、まだ見ぬ王領地の薄紅の桃の花畑を見たような気がした。

    この想いを秘めたまま。

    眼差しは、まっすぐにあなたへと、
    幸せに微笑みあいながら……

    明日は、あなたの笑顔を
    独り占めさせて……

    満開の薄紅色の桃の花の下で。
     






    本日は、瀬津音さんのお誕生日。
    おめでとうございます。

    杏、露草、桃。
    本日の誕生花の桃で作って見ました。

    桃の花言葉は、「私はあなたのとりこ」

    突貫工事ですいません。
    喜んでくれるといいな。

    桃が咲き始める今時期は七十二候において、中国では桃始華と呼ばれています。

    自宅の桃の花も今日明日、咲きそうです。
    わくわくで待っています。

    源平桃は、花見山で買ってきた記念の花です。
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