花の四阿

    Lala掲載の『狼陛下の花嫁』二次小説のブログです。某SNSで書き溜めた小説の他・イラスト・詩文・写真・徒然日記・一部鍵つきを掲載しています。

    【現代パラレル】ピュア「瀬津音さんのメルティ作品 1 」

    《恋人ながらまだキスすらお預けな正しい交際期間中。
    黎翔さん我慢な時期設定でお届けいたします。(=人=)ナムー》

                                 2013.12.17.瀬津音


    今年の瀬津音さんの狼陛下納めだそうです。
    貴重な作品を、ありがとうございます。
    題は作品末にあります。
    ピュアピュアな瀬津音ワールドをお楽しみください。       
    最後になりましたが、瀬津音さんへのコメントは、直接ご本人様にお届けします。
    お気軽に、お寄せください。  
    (拍手数と皆様のコメントのご報告に、いつも瀬津音さんは喜んでおります。)

                                  さくらぱん












    暗くなるはずの空は微妙に明るく、いつもとは異なる色を醸し出していた。

    これは―――雪だ。

    普通の女子高生、汀夕鈴はぼんやりと遥か頭上を見上げつつも、歩む足を止めない。右手には学校指定のバッグ。左手にはほんの少しの気休めになればと手作りクッキーが入っている。しかも近所の豆腐屋からもらったヘルシーなおから入りクッキーだ。彼女は材料費の割には上出来なそれにほくほくしつつ弾むような足取りで、ある一つのビルに入った。

    「こんばんは、汀さん」
    「こんばんは。御苦労様です」

    入口の警備員にぺこりと頭を下げる。自分の娘程の年齢の夕鈴に警備員は微笑みかけ内心思った。

    ―――ああ、こんな子がうちの馬鹿息子のところに来てくれれば…いや、いかん!この子は社長の―――

    彼の思考はそこで半強制的に終了した。いや、させたと言った方が正しいだろうか。これ以上考えても否生産的であったし、何より―――

    「―――あの、これ」

    ちょっとはにかんだ笑顔に再び「うちの嫁に…」と横に逸れた思考を中断し、差し出された物を見る。小さくラッピングされたクッキーを反射で受け取ってしまった。

    「おからクッキーですけど、少しお腹の足しにして下さい」
    「でも―――社長に」

    そう、彼が警備する白陽コーポレーションの社長はI T業界の寵児の名を欲しいままにし、その頭脳とビジュアル故どんな女でも欲しいままに出来るものの、彼が溺愛しているのはこのごくごく普通の女子高生なのだ。
    しかもその執着の度合いは異常なまでで。このようなシーンを見られたら最後、職を失うどころか命すらも危うい。
    しかし彼女はからっと笑ってみせる。

    「大丈夫です!黎翔さんがそんなちっちゃい事言うわけないですから!」

    いや、充分貴女に関しては心ちっちゃいですから!

    突っ込みたいのは山々だが賢明にも口には出さない。
    牽制か。はたまた天然なのか。
    まあ多分この子の場合は後者であろうと当たりをつけつつ、ありがたく受け取る。

    「すまないね」
    「いいえ!雪が降りそうですし、風邪ひかないように気をつけて下さいね!」


    じゃあ、と軽く右手を振って自動ドアを潜る彼女を手を振って見送る。そして小さなクッキーを制服のコートのポケットにそっと入れると、甘い物好きで夕鈴ファンの妻へのお土産にしようと心に決めた。一度、弁当を持って来た時に鉢合わせ、すっかり彼女の魅力にとりつかれてしまったのだ。

    でも―――一つくらいは先にくれよ?

    次の交代時には普段飲まない紅茶を飲もうと密かに決め、彼は改めて前を向く。
    そしてふと気づくと、白い物がふわふわと舞い降りて来ていた。




    顔パスと言えど、彼女は一人一人に立ち止まり「こんばんは」と頭を下げる。当初は女子社員の目の敵にされていた彼女も、今ではごく普通に『社長の最愛の恋人』と認識されている。
    それでも彼女はただの掃除婦として勤務していた頃と同じように挨拶をする。そこまで行くともう彼女の性分なのだろう。片手を挙げて挨拶する者もいれば、無視する者もいる。それでも夕鈴はさして気にもせず、ある一室へと歩みを進める。
    ―――そして着いた先は重厚なドアの前。
    ノックをしようと右手を挙げた時、中からタイミングよくドアが開いた。慌てて避けると開けた人物がにこりと笑う。
    ああ、この人も大分変わったな…と思わず思ってしまうのは本人には内緒だ。

    「―――いらっしゃいませ。夕鈴さん」
    「こんばんは。李順さん」
    「どうぞ。お待ちかねですよ」

    秘書である李順が入れ違いに部屋から出る。

    「すみません、遅くなって」
    「―――大分おかんむりですよ。予告されていた時間からかなり遅れましたから」

    こそり、と囁かれた情報に眉を下げ、もじもじと制服の裾を弄る。

    「実は…再テストで」
    「…またですか」
    「あ!でも前よりも点は上がって「夕鈴!!」

    室内から響いた声にびくりと身体が強張る。微かに青ざめた彼女に苦笑しつつ李順は夕鈴を室内へと通してさっさと消えた。

    あ、ああ!李順さんっ!!せめて室内まで一緒に…

    「夕鈴!!」

    再度呼ばれた己の名に、彼女は視線を下に下に向け、敷き詰められた絨毯に穴でも開けようかという勢いで凝視しながら恐る恐るその室内へと足を踏み入れた。

    「―――夕鈴」

    先程よりは荒々しくなかったものの、黎翔の声が響く。夕鈴はびくびくしながら視線を上げると―――どっかりとレザーの社長椅子に座った紅い瞳と目が合った。
    いや、会ってしまった。

    「こ、こんばん「遅い」

    目を眇められ、ぴしりと身体が固まる。

    「遅くなるまでにおいでって言ったでしょう?もう暗いよ?」
    「…はい」
    「心配なんだよ」

    ああ、この目には勝てない。

    「本当なら学校まで迎えに行きたいぐらいなんだけど」
    「や、やめてください!それだけは!!」

    あの目立つ車で校内に横付けなんて!
    以前のあの騒ぎを再び起こしたら、それこそ先生の心証が悪くなる。

    ―――そ、それに…。

    「…楽しみを奪わないてください」
    「―――え?」
    「ここに来るまでの間…すっごく楽しいんです」

    黎翔さんは楽しみに待っててくれているだろうか。―――自分が来る事を。
    いつ来るか、わくわくして。
    持参したおやつを二人で食べて。
    どんな話をして。
    どんな言葉を交わそうか。

    「~~~~~…っ!」
    「すっごく楽しみなんです」

    そう恥ずかしげに微笑む彼女をどうしてくれようか、と不埒な思いが脳裏をよぎる。
    可愛すぎる、自分の恋人は。
    限りなく、純粋過ぎて、彼には眩しいくらいなのだ。―――手に触れる事すら戸惑うくらい。

    「今日はおからクッキー、持って来たんです」

    ごそごそとバッグを漁り、はいっとラッピングされたクッキーを取り出す。そして勝手知ったるとばかりにお茶の支度を始めた。
    楽しそうなその後ろ姿に彼は再び目を眇める。今の紅い瞳は―――愛しさで満ち溢れていた。





    ざっと書類を片付け。来客用のソファに落ち着くとブラックコーヒーと共に待ちに待ったおやつが供される。

    「もう夜ですから、お砂糖とミルク、少し入れた方が眠りに響きませんよ」

    そんな言葉と共に置かれたカップからは香ばしい香りが辺りに漂っている。
    対して彼女は紅茶だ。今日はミルクティーにしたようで、黎翔の向かいにティーカップを置き、お盆を脇に置いて座る。
    隣に座ろうと考えないところが如何にも彼女らしいのだが、些か残念な面も否めない。
    それでも彼は紳士らしく彼女の一日の出来事を尋ね、今日体験した事を一つ漏らさす残らず聞き取る。普段知らない所で可愛い彼女の一面を他人が見るのはしゃくだけれど―――自分も彼女の全てを知りたいから。黎翔は心の中で自嘲しながらコーヒーを飲み、彼女の話に耳を傾けた。



    どれくらいたった頃か。
    ふと会話が途切れ夕鈴が窓へ目を向けると、そこには白い物が漂っていた。
    彼女はソファから立ち上がり足早に窓へ寄る。「夕鈴?」と尋ねる黎翔の声も耳に入らぬ程、彼女は外の世界に釘付けとなった。

    「―――雪」

    しんしんと降り注ぐ雪は超高層の最上階故遮る物もなく、不思議と明るい空から舞い降りて来る。ぺたりと両手と額を大きな窓にくっつけた彼女は首を上下に振りながら白くてぼたん大の雪が地上に降りて行くのを見守っていた。

    「積もりますかねー?」
    「…さあ?ねえそれよりこっちでお茶の続きをしない?」
    「え、あ…はい…」

    生返事にむっとする。
    柔らかなその茶色の瞳に己の姿だけを映して欲しい―――というのは我が儘なのだろうか。
    華奢な背中を眺めつつ、ため息をつく。この白陽コーポレーションを一代でここまで築き上げたこの珀黎翔を、ここまで溺れさせるこの汀夕鈴というただの女子高生を―――僕は一体どうすれば良いのだろう。

    「―――夕鈴」

    ぽつり、とその名を呼んでみても、彼女の意識は既に外。―――彼は全くの蚊帳の外だ。返事すら返してくれない。
    黎翔は子供っぽくも口を尖らせ、むうっとその背中を睨む。
    面白くない。
    誠に面白くない。
    雪に彼女を盗られるなんて。
    こんなにも淋しい想いをさせているのもそっちのけで、彼女は空と地上を見比べている。

    ―――まるで雪が恋人みたいだ。

    そんな子供っぽい思考に捕らわれた恋する男を誰が止められるだろう。

    その目に自分を映して欲しくて。
    その唇で自分を呼んで欲しくて。

    黎翔は音もなく彼女の背後へ近づいて一気に彼女を抱き上げる。

    「きゃ…っ!」

    ぐらりと傾いだ身体に思わず彼の首へ腕を回し、頬を膨らませながら睨んでも黎翔は至極満足げだ。

    「あ、危ないですよ!黎翔さん!!」
    「大丈夫だよ。君を僕が落とすわけないし」
    「そ、そういう問題じゃ…っ!と、とにかく降ろして…」
    「やだ」

    きっぱり断言した黎翔は唖然と黙り込んだ彼女を抱き上げたまま、コート掛けに掛かっていた二人分のコートと紙袋を取ると、社長室のドアを開ける。

    「ちょ、こんなままで…降ろして「空に一番近い所へ行こうか、夕鈴」

    そう甘やかに囁き、真っ赤になった恋人を、彼は漸く自分を見てくれたとばかり嬉しそうに外へと連れ出す。

    そしてその先には―――


    ……続く
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    2013.12.25 10:06 # [EDIT] 返信
    1457:OCOさん 2013.12.24. 拍手コメントありがとうございました。

    ※1631

    見ましたの印v-22
    OCOさん
    お久しぶりです。 
    頂いたコメントは、瀬津音さんにお送りしました。

    ありがとうございました。

    2013.12.27 14:19 さくらぱん #- URL[EDIT] 返信

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