花の四阿

    Lala掲載の『狼陛下の花嫁』二次小説のブログです。某SNSで書き溜めた小説の他・イラスト・詩文・写真・徒然日記・一部鍵つきを掲載しています。

    【長編】『楼蘭―風の行方―』 53 ※要注意!古代パラレル


    楼蘭







    「どうした夕鈴?
    何を泣いておるのだ?」

    四阿の入り口の桟橋で佇む娘を
    父は見つけて優しく微笑む。

    「こちらに、おいで……」

    馬頭琴を奏でる手を休め
    比龍王は娘を手招き呼び寄せた。


    四阿の篝火が煌々と焚かれて、
    夕闇にそこだけ明るい。
    夜空に赤々と火の粉が舞った。

    優しく微笑む父・比龍王。
    昼間の謁見の間以上に、温かな父の笑顔がそこにあった。

    「夕鈴。
    お前を待っていたよ。
    ずっと会いたいと思っておった」

    馬頭琴を立てかけた小卓に手を伸ばし
    古ぼけた木箱を開ける。


    そこには見知った色とりどりの手紙が入っていた。
    何度も読んだであろう手紙は擦り切れてボロボロに、でも大事に保管されていて。


    それは夕鈴が離宮から父へと送っていた手紙だった。

    「父を恨んでおるか?
    一度も、そなたの顔を見に行かなかった父を……」

    卓に置いた父の手が固く拳を握った。
    いつの間にか老いた手は、離れていた親子の月日を感じさせた。

    その手に、そっと夕鈴姫は手を添えて首を振る。


    「……いいえ。
    お父さま。
    いいえ、夕鈴は恨んでなどおりません。

    ただいま、お父さま……」


    確かに幼い頃は、勝手な真似をした娘を父が怒っているから会いに来ないのだど恨んだ時もあった。
    国の為を思えばこその婚儀による繋がりが、父の為だったと思っていたから。
    そんな事を、今なら望んでいなかったことを成長と共に知った。
    決して娘が嫌いになったからなのではなく、むしろ夕鈴を守るため。
    会いたい気持ちを長年、封印してくれたのだと国政を知るようになって、周辺諸国を知ってわかった。


    父は娘に会いに行きたくても、行けなかったのだ。
    夕鈴は、離宮にいる間に様々なことを教わった。

    それはつかの間の自由と、帝国で夕鈴が生き残る術だった。


    「いいえ。
    いいえ……おとうさま」


    感謝しています………


    最後の言葉は喉に引っ掛かり言葉に出来なかった。
    いつの間にか親子は再会を喜び涙を流していた。



    ーーーー言葉はなくとも
    親子だからこそ伝わる。


    離れていた絆を、溢れる涙が埋めた。
    それで、もう十分だった。





















    「必ず、お前は此処に来る
    と思っておった」

    父の膝で甘える娘の頭を撫でながら、父は愛しそうに言った。

    「お前の到着を待ち望んでいたのは、私だけではない。
    お前の客人(まろうど)が奥におる。
    ……早く会いに行きなさい」

    静かに語りかける父王の声で、夕鈴姫は我に返った。

    頬の涙を袖で拭き、不安そうに首を傾げる。

    「私を……ですか?
    どなたでしょう?」

    優しく慈しむような温かな父の眼差し。

    静かに落ち着いた声で、娘に語りかけた。
    国を支える支配者としての王ではなく……
    娘を持った一人の父親としての言葉。

    「奥の四阿に行けばわかる。
    そなたの良く知る人物だ」

    「……父上?」

    「……積もる話もあるであろう。
    ゆっくりと語らうがよい」

    「お前には、すまなかった。
    父親らしいことを、一つもしてやれなかった」

    「まずは四阿に行きなさい。
    夕鈴」

    「お前の邪魔をするつもりはない。
    私は、ここで琴を奏でていよう」

    そう呟いた比龍王は、再び馬頭琴を手にした。
    弦の震える奏でる音が、再び夜の湖を駆け巡る。


    風が父の想いの音色を運ぶ。


    それ以上夕鈴に、何も言わなくなった父。
    そんな父に不安げな表情を見せる夕鈴姫。

    比龍王は、そんな娘に
    慈しみといたわりの微笑みを投げかけると
    奥の四阿に視線で促した。





    父の脇をすり抜けて
    奥の四阿へと歩き出した娘を
    比龍王は静かに見守る。

    奥の四阿は明かりが落とされていて
    しっかりと風除けの垂れ幕が下ろされ
    中が暗くて見えなかった。
    とても中に待ち人がいるように見えない。

    入り口の垂れ幕の端を持ち上げたものの……中へ入る勇気が出ない。

    父が側にいるのだから、
    彼女に危険な人物と会わせるはずが無い。
    それでも不安だった。

    隔てる布の端を持ち上げたまま……父を振り向くと。

    静かに琴を奏で………中へ入るように
    促す父の顔。

    篝火に煌々と照らされた優しい父としての慈しみ溢れる笑顔だった。

    彼女は、その微笑みに勇気づけられ後押しされるように垂れ幕をくぐり
    四阿の中へと入っていった。


    彼女を待ち望んでいた、もう一人の人物と会うために……



    ……54へ 続く。


    2017年02月23日改訂
    2013年09月28日初稿

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