花の四阿

    Lala掲載の『狼陛下の花嫁』二次小説のブログです。某SNSで書き溜めた小説の他・イラスト・詩文・写真・徒然日記・一部鍵つきを掲載しています。

    【本誌設定】猫になりたい……

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    陛下のお願いは
    いつも唐突で、私は時々困ってしまいます。


    「夕鈴。
    お昼寝するから膝枕してくれる?」

    小犬陛下の可愛らしい?
    おねだりで、その日の午後は始まった。

    「えっ!
    いま、此処で、です、、か?」

    「そう!
    今すぐ」

    「だって、
    ここ執務室ですよ」

    「問題ないよ。
    夫婦が仲良くしているのを見ても、
    誰も何とも思わないさ……」

    日当たりのよい南側の窓を開けて、
    近くにあった長椅子を窓辺に引き寄せた。

    いそいそと昼寝の支度をする陛下に、
    私は呆然と固まってしまった。

    職場で昼寝なんて、本当に平気なの?

    ぽすんぽすんとクッションを叩いて、
    陛下が、これでよしと私を手招きする。
    どうやら、そこに座れと言うことらしい。

    ぐずぐずと迷っていたら、
    急に陛下の機嫌が急降下した。
    眼差しが鋭くなる。

    「君は猫なら簡単に膝に乗せるのに。
    私はダメなのか?」

    ……は?

    突然の態度の急変と話の展開についていけず、
    私は固まったまま陛下を仰ぎ見た。

    「昨日、君は後宮に迷いこんだ仔猫を
    膝にのせたと聞いた。
    私は猫より下なのか?…………」

    だ、誰から聞いたの?
    というか猫に嫉妬ですか?

    やめてください………


    「あれは!
    私、陛下に膝枕しないって、
    言ってないですよ、ね?」

    むくれる陛下を宥めつつ、私は陛下に一歩近づいた。
    ご機嫌が治らない…………って。
    もう、どうして!

    「もお、やだ!
    猫にまで嫉妬しないでくださいっ!」

    ご機嫌を急降下させて、
    半ば脅してくる陛下に本気で呆れながら
    指定された長椅子に私はヤケ気味にポスンと座った。

    ……ああ。
    結局、陛下のお願いは断れないのね。

    首尾よく私の膝を独占することができた陛下は、ごきげん麗しく

    「猫になりたいな。
    猫になったら、
    日がな1日、夕鈴の膝を独占できるのに……」
    などと、まだ寝言を呟いている。

    多少、戸惑ったが、いつもと変わらない午後の昼下がり。
    陛下も、ご機嫌だし。
    これなら午後の政務にも、支障なさそうね。

    私は少しほっとして
    陛下に油断をしてしまった。



    「……夕鈴」

    少し艶を含んだ声で、陛下が私を呼ぶ。

    「はい。
    なんでしょうか?」

    突然、呼ばれたことを無邪気に問う私に
    陛下が、それはそれは艶っぽい微笑みで私を魅了した。

    垂れ下がる私の髪を、くるくると指に巻き
    器用に遊び始めた。

    「私も君に猫の挨拶がしたい。
    鼻と鼻とをあわせるのだったか?」

    次の瞬間……

    そう言うと素早く起き上がって、私の鼻先に陛下の鼻先が触れた。
    それだけでなくペロリと鼻先まで舐められた!

    「……ふぎゃ!」

    盛大に驚いた私は、間抜けな大声を出した。
    そのまま涙目で真っ赤な顔のまま、舐められた鼻を両手で押さえる。

    「昨日、仔猫に鼻を舐められたらしいな。
    今後、猫と言えども私以外が触れることは許さない!」

    ……だ、だからなんで、
    そんな事を陛下が知ってるのよ~~~~!

    誰?
    こんなことを陛下の耳に入れたのは!

    「毎日、君の膝を独占できるなら猫の身分もいいな。
    今後、私は君の猫になろうか!」

    「なりません!
    いい加減、お仕事してくださーいっ!!」

    白陽国の王宮は、
    仲睦まじい国王陛下夫婦のおかげで大変賑やかで
    今日も平和なのです。




    おしまい(笑)


    2017.02.22.初稿 本日、猫の日



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    【IF設定】春を待つ

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    小さな鉢植えの花が、後宮に届いた。
    それは硝子細工のような純白の花。

    ……まだ蕾の小さな小さな蕾が数輪。

    「これは……?」

    珍しく居室に届けられた鉢植えを、物珍し気に眺める女主(おんなあるじ)に
    お付きの侍女たちは、微笑みながら答えた。

    「国王陛下からの贈り物だそうです。
    なんでも高地に咲く、とても珍しい花だとか」

    「まあ、陛下が……
    とても愛らしい花ですね」

    「“セツブンソウ”といかいう花で
    春を呼ぶとのことです。
    蕾が膨らんでおりますので、ここ数日のうちに開花しそうですね」

    「ここのところ庭へも、おいでになれない
    お妃さまのお慰めになれば……

    そう、陛下より伝え聞いております」

    「今日は顔色がよろしいようですね。
    お庭へ行かれますか?
    お部屋に籠もりきりなのも、お身体に障りますし」

    「体調がよろしければ、お散歩などはいかがでしょうか?
    陛下からのお誘いが来ておりますが、どういたしましょう……」

    「そうね。
    病気ではないのですし、陛下がご一緒であれば安心だわ」

    大きくなったお腹を摩りながら
    すっかり母の顔をした夕鈴が
    小さな鉢植えを眺めて、嬉しそうに微笑んだ。

    「春」はもうすぐ……

    愛しいあの方に暖かな家族を。
    そう願って、身ごもった。


    彼女が育む命が、白陽国に「春」を呼ぶ

    セツブンソウよりも早く。

    開花を待ちわびる彼女も、また自らの春を待つ。



    子供という宝物を愛する人のその腕に抱かせるために

    その喜怒哀楽を分かち合う為に……


    白陽国の春は、もうすぐ。



    【本誌沿い短編】風のイタズラ

    麗らかで暖かな陽差しが、
    あでやかな後宮の庭の紅葉を輝かせる。
    小春日和の午後

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    珍しく陛下が、
    朝から政務室に向かうことなく……

    「今日は公休だ」

    と突然、宣言されました。
    それを聞いて驚いたのは私、夕鈴。

    (休みだなんて一言も聞いてないわ……でも)

    このところ仕事が多いとかで、
    日付を越えて帰って来る夫を
    密かに心配していた私。

    まだまだ新婚期間で、甘く贅沢な二人だけの時間を過ごしていたい。
    片身の狭いイチャイチャLOVE LOVEは、恥ずかしくて困るけれど……

    私と過ごす時ぐらいは、陛下に寛いでもらいたい。

    「夕鈴。
    珍しいお菓子があるんだ!
    一緒に食べよう」


    何をするわけでもないけれど
    久しぶりに、のんびりとした甘い休日を過ごすつもりで
    夫が仕事を前倒ししてまで、時間を作らせたことなど、私は知らなかった。

    今日は“いい夫婦の日”なのだから!

    老師から手に入れた情報で、張り切って休みをとったなどとは露知らず……

    老師が、これで御子が♪ 御子が~~♪
    変な笑いで、みょうちくりんな踊りを披露し、
    その場を盛り上げたことについて夫は完全無視だったらしい(笑)

    しっかり「甘い休日を夫婦で過ごす1日」は、いたく夫の心に刻まれた。
    老師の策略に、まんまと乗せられたということだろう。

    いつもは痒い所に手が届く優秀な侍女たちも、
    今日ばかりは早々と気をきかせて、でしゃばることなく夫婦二人っきりにさせてくれた。

    黎翔が呼ばない限り邪魔するつもりも無いのだろう。
    影も形も気配さえも感じられない。

    夫婦二人っきりになると、タイミング悪く、
    必ず割って入るお邪魔虫(李順さん)も
    今日は、そんな心配をする必要がなかった。

    今日は、なんの気兼ねもなく堂々と
    朝からいちゃついて誰にも咎められない。

    夫は、そんな腹黒さを胸に秘めて
    私を膝に乗せ、食後のお茶の時間を嬉しそうに楽しんでいた。

    私が淹れたお茶と茶菓子を、私が夫の口へと運ぶ。

    一口食べた後に、私の指まで齧るのは勘弁してほしい……

    齧られた指先が熱い。

    恥ずかしくて爆発しそう。
    逃げ出したい!

    いや、今すぐ本気で逃げ出そうかしら?

    私は真っ赤な顔で、少し冷めてきた飲みかけのお茶を、わざと大げさに啜ってみせた。
    多少、后として庶民らしく品がなくとも、二人きりなら許されるだろう。

    「新婚だから、多少甘いのは仕方がないよね」

    真っ赤になって身悶える私に可愛いと何度も口付けながら、
    陛下は私を説き伏せてくる。

    そんなはず無いじゃない!

    いくら新婚でも甘いわ!

    まだ、ちょっと納得していないけれど。
    夫が、幸せいっぱいに微笑んで
    上機嫌なので、良しとする。
    (騙されてあげる)

    美形の夫の極上の微笑みに、至近距離で逆らえるはずもない。
    結局、私も夫に甘いのだ。

    なにせ臨時妃であった頃から、
    恥ずかしいほど妃に甘い夫は、
    結婚して本物の妻になってから、ますます私に甘ったるい。

    なんでこんなに甘いの?

    「今日は
    私が君の世話をする!」

    「紅が、(口付けで)とれてる
    塗り直してあげる」

    ウキウキと、あれこれ張り切って世話を焼きたがる彼と違い。
    突然の張り切りように私は夫を、どう接していいのかわからなかった。


    結局、美味しいお茶とお菓子のお礼だよと言われて

    相変わらず、そのまま夫の膝に横座りさせられ。
    夫の手ずから、私の口へと
    一口大の小さなお菓子を夫から餌付けされた。

    「はい
    ゆーりん。

    あーーん!
    して……

    美味しい?」



    「美味しいですけど……

    もう今日は、
    いったいなんなんですか?」

    いつも以上に、甘やかされて口説かれる、
    細々と世話を焼きたがる夫に、私は早々に根をあげた!

    甘い。

    甘い。。。。。甘すぎるっ!

    いったい、なんなの?
    もう!

    真っ赤になって叫ぶように抗議すると……
    真顔で、夫に抱きしめられた。

    「私たちは新婚なのに、
    親密度が足りない気がするんだ。
    今日は、その距離を埋めよう。
    なにせ今日は ……の日だからね!」

    にっこりと至近距離で微笑まれて
    素早くギュッと、力強く腕に抱きしめられた。

    今度は、お菓子でなく
    甘い口付けを貰う……

    抗議する言葉を奪われ、
    ぐずぐずに甘く溶かされた。

    いつも以上に甘ったるいのは、なにか今日に意味があるらしい。
    更に、夫の甘い誘惑は続く……

    「遠乗りへ行こうか?
    二人っきりで遠出しよう」

    「それとも下町へ遊びに行こうか?
    君に似合う簪を手に入れよう」

    どれもこれも違う気がして
    断り続けるうちに、
    夫は、すっかり機嫌を損ねてしまった。

    声色が冷たくなっていく。

    「ゆーりん。
    冷たい」

    マズイ……
    そう思った時には既に遅く。

    ちょっと怖い拗ねた瞳で
    私を真っ直ぐに見詰める
    綺麗な紅い瞳に射竦められた

    「それならば……
    君は、どうしたいんだ?」

    「何も…………ただ。

    そうですね。
    二人で庭を散歩したいです!」

    特別なことなど何もいらない。
    貴方が傍に居てくれれば……

    「なんだ。
    そんな事か?
    それでいいのか?」

    「はい!
    行きましょう」

    「丁度、池の畔の紅葉が色付いていて見頃なんです。
    貴方と二人で見たかったの!」

    そんな愛らしい笑顔で、欲の無い可愛らしいお願いを新妻からされて、
    夫としては否やはなく……

    「じゃあ行こうか?」

    「はい」



    *****


    燦々と降り注ぐ
    五色に煌めく紅葉の木漏れ日のシャワー
    木立を抜ける細い小道を、枯れ葉を踏みながら二人並んで、ゆっくりと散歩する。

    どちらとも知れず、
    いつの間にか、しっかりと繋ぎ握ぎられた右手と左手。

    時間がゆったりと進む。
    こんなにも夫婦で寛いだ時間を過ごしたのは、久しぶりだった。

    立后してからというもの、
    気の休まる日も無くて忙しかったような気がする。

    今日という日に、素晴らしい時間をくれた夫に私は深く感謝した。

    「……黎翔さま」

    「なに?
    夕鈴?」

    「ふふっ……
    なんでもないです。

    ただ呼びたかっただけ……」

    燦々と降り注ぐ木漏れ日を浴びて
    どちらともなく夫婦で笑いあった。

    城に居ながら森の空気を味わえる。
    後宮の庭は不思議な場所だ。

    それから会話もなく、ただ手を繋いで二人仲良く道を歩く。

    寡黙な夫の沈黙が心地よくて、
    私を包む夫の手は大きくて温かかった。

    池の畔まで歩むと、突然イタズラな風が私たちに吹いた。

    「あっ!」

    ザワザワと紅葉の枝か大きくざわめいた。
    フワリ舞い上がった私の
    薄衣の肩掛けが風にさらわれ、
    大空へと高く高く舞い上がる‼

    フワリ

    フワ フワリ

    高い紅葉の梢の上にフワリと落ちた肩掛けは、ひらひらと裾舞いながら悪戯に私たちを誘った。

    ちょっと背伸びすれば、背の高い夫の手が届く高さ
    でも、向こうが透けて見えるほどの薄い肩掛けは、枝に引っ掛かり落ちてこない。

    私のお気に入りなのに……

    強く引っ張ると破れそうで、
    強く引っ張ることができなかった。

    「なかなか落ちてこないな……」

    少し苛立ち気に肩掛けの端を持ち
    乱暴に強く引っ張る陛下に

    「あまり無理して
    引っ張らないでください!
    破けちゃうわ!」

    「ゴメン。
    ゆーりん。
    外すのは無理そうだ!

    誰かに梯子をかけさせて
    とらせようか?」

    だんだんと大がかりになっていく
    事の顛末。

    「気にいってる肩掛けなのに
    …………どうしよう。

    そうだ!」

    困り顔で夫を見守る私に、妙案が浮かんだ。

    「陛下。
    ……あのですね」

    耳垂れてショボンとした
    小犬のような夫の袖を引き、
    今、浮かんだアイデアを夫に伝えた。

    「あともう少しで、手が届くようですので……
    だったら私を何時ものように、抱きかかえてくれませんか?」

    「自分で、余裕で外せる気がするんです!
    お願いします」

    私が、夫の耳元で恥ずかしそうに呟いた提案に、
    黎翔は嬉しそうに、パアッっと笑顔を見せた。

    「いいね。
    やってみようか?」

    軽々と夫の逞しい両腕で、高々と抱え上げられ……
    梢へと手を伸ばした私の指先。

    絡まる衣を優しく枝から外して、
    無事に生地を痛めることなく、
    肩掛けを自分の手元へ引き寄せ
    回収することに成功した。

    「よかった!
    どこも破れてない」

    「無事に取り戻せたね」

    「はい!
    陛下のお陰です」

    「良かったね!
    ゆーりん」

    「ありがとうございます!」

    無事に肩掛けを取り戻したものの……
    一向に私を抱えたまま、下ろしてくれない黎翔。

    「あのですね。
    肩掛けを無事に取り戻したことですし
    そろそろ降ろしてくれませんか?」

    「降ろしたくないな……
    せっかく、滅多にしない君からのお願いなのに」

    「えっ!?
    でも、でも。
    重いから、さっさと早く降ろしてください」

    「重くないよ。
    昔は、よくこうして君を連れ去っていたっけ……」

    「…………あの頃は」

    「降ろすと脱兎のごとく
    君は逃げ出していたね」

    謳うように、うっとりと昔を懐かしむ夫の顔は、
    ひどく優しく微笑む。

    逆らう気力さえも奪うかのようで、
    その微笑みに私は、しばし見とれた。

    「そうだ。
    昔のように、
    このまま君を、ここから連れ去ろう。
    寝所まで……」

    艶のある魅力的な低い声色で
    色っぽく囁かれた。

    下から口付けられて、
    俯くことも出来ない。

    熱視線が私を嬲る。
    急に腕の中が居心地悪くなって、
    身を捩って逃げようとするも
    既に狼に囚われたままで………
    地面からは足が遠くて。

    「えっ!
    えぇ⁉
    やぁ、ダメです!
    降ろして!」

    その先の展開が読める気がして
    私は、顔から火が噴き出しそうだった。

    暴れたら暴れるほどに、
    夫の笑みは意味深に深くなっていく……

    はらり……と、紅葉が舞った。
    秋は深まり空は青く澄んで高い。

    私の抗議する声と陛下の笑い声が、
    空に響いた。

    麗らかで穏やかな秋の幸せな1日。
    その後、後宮の寝所で、その日1日の中で
    極上に甘い時間を過ごしたのは、言うまでもない……







    2016.11.29.初稿
    さくらぱん


    いい夫婦の日に、間に合わせたかったのだけど、間に合わず……
    筆が乗らなかった。

    久しぶりで、書き方を忘れてます(笑)
    おかしなところは、目をつぶってくださいね





    【短編】 絆

    言葉は要らない。

    寄り添い、恋人繋ぎした手から伝わる
    互いの温もり。

    コテン……と、彼の肩に頭を乗せる

    少し早めの規則正しい鼓動が私の鼓動と重なった。

    どちらともなく
    いつの間にか触れた唇

    “すき

    好き

    ……大好き”

    好きが加速する実感。

    心が、“繋がる” 幸せな瞬間


    2016.07.16.改訂
    2016..07.15.初稿 続きを読む

    【短編】金魚

    窓辺に置いた金魚鉢。
    その中で、美しく泳ぐ魚たち

    薄絹のような真っ赤な尾びれが水中で揺らぐ……
    水を張ったガラスの向こうは、揺らぐ別世界。

    きっと私の住む世界と違うんだわ。

    ……まるで私は、この金魚のようね。

    狭くて綺麗な後宮で、美しく着飾り……
    何をするわけでもなく、ただただ陛下を楽しませる

    くるりと…一回転した金魚の尾びれが、水中でひるがえり優雅に舞った。

    この場所を、選んだのは私。

    “貴方の傍がいい…”

    “愛しています。
    もう離さないで……”

    貴方の居る場所が、私の居場所
    貴方が居ない場所には、生きられない。

    分かってる
    今でも後悔なんてしてない。





    ……只

    「ただ…」

    時々、酷く場違いな場所に居るような感じがして……
    訳も無く不安なの

    ユラユラ踊る金魚たち。
    波立つ心、ゆらゆらと……


    金魚鉢をぼんやりと見つめながら
    私は、そんなことを考えていた。


    ーーその時。
    背後から、きゅっと抱き締めてきた逞しい両腕に
    私は、現実に引き戻された。




    「只…なんだ?」

    優しく問われて、頬に口付けられる。
    後宮の私の自室で、そんな不埒なことをするのは、一人しか知らない。

    「陛下!
    いつの間に……」

    「ただいまぁーー、夕鈴。
    僕のお嫁さんは、何を憂いているの?

    物憂げな姿も、愛らしいけれど……」

    ちゅっ

    …ちゅっ

    優しく気遣う抱擁。
    それ以上は、陛下は私に問いかけ無い。

    優しい口付けの雨が降る

    「陛下。
    唇に口付けて……ください」

    珍しい私からのお願いに
    一瞬だけ目を見開き、驚いた様子。
    でも、すぐに嬉しそうに微笑んでくれた。

    「いいよ……君が望むのならば。
    何度でも!」

    優しく触れるだけの口付けは、あの日と同じ。
    貴方が、私を好きだと言った……あの日と同じ。
    何度も求められ、触れては離れてく

    優しいだけの
    いたわりの甘い口付け

    水中で揺らぐ金魚のように
    私の心の中に、沁みてくる愛。

    ユラユラが、とまらない……

    気持ち、い…い……

    「夕鈴。
    今日は、いったいどうしたの?」

    「……なんでもないの」

    幸せすぎて、泣きたくなる。
    鼻の奥がツンとして、語尾が掠れて言葉にならない。

    何かを感じてる陛下が、私の耳朶に囁く。

    「夕鈴。
    愛してる」

    「……私も」

    陛下の首にしがみ付いて、首に頭を摺り寄せた。

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    私は、狼陛下の花嫁、夕鈴。
    身分違いの世紀の恋を実らせた。
    稀有の少女。

    だけど、それは秘密なの。
    内緒なの。

    今も、昔も変わらない……
    後宮に咲く一輪の花の話。



    2016..07.14.改訂
    2016..07.13.初稿 続きを読む

    【短編】春陽 はるひ


    麗らかな日差しが降りそそぐ……春の四阿
    うたた寝の陛下を膝に抱き、陽に透ける真っ直ぐな黒髪を指梳いた。

    「……毎日
    お仕事、ご苦労さま」

    近頃は春の案件が多いとかで、後宮への帰りも遅い。
    陛下は忙しいのに、私と過ごす時間をわざわざ作ってくれるのが、とても嬉しかった。

    私の膝で、安らかな寝息をたてて眠る密かに好きな人。
    きっと貴方の寝顔を、こんなに間近で見られるのは私くらいだと思うと、
    頬が緩み、心が幸せに満ちる。

    まだ……
    もう少しだけいいよね?

    午後からの政務に支障をきたさないうちに、起こさなければと思うのだけれど……
    陛下の安心しきった寝顔を見ると、おこすのを躊躇う。

    貴方を起こしたら、この幸せな時が終わり
    また貴方が離れてしまうから……

    だから、もう少し。
    梅の花弁が次に散るまで……

    もう少し……
    もう少しだけ私の膝で、うたた寝てくださいね。

    梅の香(か)薫る
    良き時に…
    あなたと二人
    幸せな時。

    寝返り
    私の膝に、顔を埋めて
    甘える貴方の
    黒髪を掻き分けて……

    その愛しい耳朶に
    イタズラに私は、口付けた。

    Chu!……” 

    ぱっと散った
    陛下の耳朶が赤くなる。

    寝返りうつ
    愛しい貴方は
    嬉しそうに、はにかんで笑っていた。

    「……夕鈴」

    いつから起きていたの?
    イタズラが見つかった子供みたいに、私は居心地が悪くなる

    恥ずかしくて真っ赤になった私に、陛下が囁く。

    「夕鈴、可愛い……
    顔が真っ赤だ!」

    ますます陛下の顔が見れない!
    視線を逸らす私を、陛下が捉えた。
    すばやく引き寄せられて、口付けられる。

    「夕鈴
    愛してる……」

    「私も……」

    同じ気持ちを分け合って、幸せに満ちる時も
    つかの間。

    「膝枕ありがとう!
    行ってくるよ!」

    陛下との午後の別れの時。

    ……離れたくない。
    このまま傍に居て……

    我が儘な私の願いは、胸に仕舞う。
    軽く寂しくなった、私の膝の重み。




    お願い。
    風よ……
    陛下の温もりを攫わないで。


    溢れだす愛しさは
    涙溢れ、零れ落ちる。
    秘めた恋とは、なぜこんなにも切ないのでしょう?

    無垢な小犬のような無邪気な貴方の笑顔に、私の胸は締め付けられるばかり……
    しあわせで幸せで、叶わぬ恋と知る残酷な夢。

    「狼陛下の花嫁」の臨時花嫁の仕事が終わったら、ただの市井の娘と国王陛下に戻る……

    それは何時?

    今はただ……
    切ないほどに愛しくて、
    唯一愛を交わす
    貴方との時間を、宝物のように過ごしている。

    いつか水泡のごとく、全てが消え去るというのに……

    貴方の前から私が消える。
    私は、もう貴方にお目にかかれない。


    ――――――別れの時が、永遠に来ないといいのに……


    はらはら……と、梅が咲き零れる。
    貴方が居なくなった四阿は、私には広すぎて…

    春の日差しを受け、庭には金色の福寿草が輝いていた。
    私はその光が、眩しく感じて瞳を閉じた。

    先のことは考えられず
    春陽を閉ざして……

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    【短編】恋詩譜 ―こひしふ―

    あなたが好き。

    あなたが、好きな自分が好き……

    大好きで……
    好きすぎて

    どうしていいのか
    分からないくらい

    あなたが堪らなく
    大好きなの

    だから、ギュッと抱きしめていて……

    この恋のメロディーを
    ずっとずっと……
    聞いていたいから


    「……夕鈴?
    寝てしまったのか?」

    しとしとと…
    雨の降る
    休日の昼下がり


    夕鈴と黎翔の二人は、
    池の畔の四阿で雨宿り

    涼しげな睡蓮が水面に華を添える
    華やかな初夏の庭。

    急に降り出した弱い雨は、
    四阿の景色を煙る景色にしていた。

    池に張り出した四阿に添うように
    枝を伸ばした青柳から雨の雫が落ちる。

    ポトン……
    ポトン…………
    と静かに落ちる
    涼やかな水の綾


    いつも政務に忙しいあなたが、
    私のそばに居る…

    それだけで
    私は嬉しいのに…

    あなたの腕の中に
    囚われて…

    とくんとくん…

    規則正しい
    あなたの心音に、
    私の音が重なる…


    しとしと…と降る雨
    世界の音が心地良く溶けて私の耳に甘く響く



    とくん…とくん。

    あなたが好き

    とくん…とくん……

    あなたが大好き

    とくん…とくん…とくん……

    私と重なるあなたのメロディーが、一つに調和する。

    「…ゆーりん」

    私の名を呼ぶ
    あなたの声

    ずっと聞いていたい

    この素敵なメロディー

    意地悪な運命の
    神さま
    もう私たちの恋を邪魔しないで……

    もう二度と離れたくないの
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    【短編】春風に揺れる花のように……

    コミックス未収録、本誌ネタバレ含みます・・・なのかな。
    それでもよければ、どぞ。





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    【短編】梅の香

    「お妃さま…
    陛下から、見事な花枝が届きました……」

    ひと抱えはあろうかという、古枝に見事に咲いた紅梅のひと枝。
    芳しい香りが、部屋中に漂う。

    「お妃さま
    陛下から御手紙をお預かりいたしました」

    「ありがとう…」

    文箱を開けると几帳面に折られた手紙と共に、薄紅の梅の小枝が入っていた。

    “身体の具合は、どうか?
    君が床に伏せってからというものの…
    宮中は、灯火が消えたようだ…”

    “君の花の顔が見たい。
    早く良くなってくれ…梅園が見頃だそうだ。
    元気になったら、一緒に見に行こう……”
    文と、贈られた梅の花を夕鈴は、交互に眺めた。

    ふわりと優しい風が、梅の香りを夕鈴に届けた。

    ホロリと、陛下の優しさが身に染みる。

    目を閉じれば…
    そこは梅の香りが漂う満開の梅園。

    優しく笑う陛下が居た。

    (早く良くならなくてはね……)





    しばらくして陛下のもとにも、一通の文が……

    丁寧に四つ折りにされた料紙に一言。
    夕鈴みずからの手で…
    “約束楽しみにしております”

    梅の香が香る料紙からは、陛下が贈った梅の花枝がひと花添えられていた。




    その後、春たけなわの梅園を陛下と夕鈴が訪れたのは、言うまでもない。


    【短編】 風花

    見上げた青く
    澄み切った あの空から
    羽根のように舞い降りた
    混ざりけのない 雪の花弁

    伸ばした両手で受け止める
    心の奥
    はかれない重さ

    その温かな両手の中へ
    僕の心をも受け止めてよ

    傷つき萎縮した心に
    虚勢の仮面を被り
    本当の自分を失っていた。

    誰もが王であることを望み
    王であり続けることを説いた


    君だけが
    人としての心を
    思い出させてくれた。


    いつも包み込んでくれる
    優しく温かな君。

    僕をいつも癒してくれる
    温かな君の手を

    いつか手放さなければならない時
    はたして僕は
    君を手放すことが出来るだろうか?






    風花が、キラキラと静かに舞い散る
    君という花に彩を添える
    冬の華


    枝いっぱいに咲き綻ぶ
    薄紅色のさざんか

    冬の木枯らしに耐えて
    美しい花を咲かせる
    それによく似た
    君という花を手折らずに

    いつまで愛で続けることができる?
    できれば、ずっと見守り続けてたい。

    ひたひたと押し寄せる王宮の闇
    残酷な運命が、脆い砂糖細工の僕らの関係を壊す

    手放す気が無いのなら
    いっそ本物の花嫁として愛で続ければいい?

    君を守りたい。
    君を傷つけたくないよ。

    きみが幸せになれる場所へ……

    静かに風花が舞い散る
    白銀の穢れない花

    変わることを恐れ
    僕は、そのままの君を……と乞い願う。


    君の両手に
    雪が舞い落ちる

    瞬く間に解けたあの雪のように
    私の心も溶かしてくれ

    君の温かな手ひらで
    私のせつない初恋をどうか……受け止めて。

    君に溶かされ一つになりたい。


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    【短編】美しき日々

    愛しき君の笑い声……

    空高く夏も終わりの、とある日。
    春に訪れた花見の場所に、黎翔と夕鈴は来ていた。

    光る川面で、つかの間の水遊び。


    …ピチャン。

    「陛下っ!
    お魚が…」

    瞳を煌めかせて、喜ぶ夕鈴……

    活き活きとしたその表情は、普段後宮では見られない。
    夕鈴の本質。

    後宮から、連れ出して良かった……
    君らしい君が見れた。

    眩しげに微笑む黎翔に、
    夕鈴は小首を傾げて、眩しく微笑む。

    まだ夏の日差しがキツい。
    今日は、蒸し暑かった。

    ほんのちょっとのイタズラ心が夕鈴に湧いた。

    「陛下っ!」

    川の水を掬い、パシャッ!
    黎翔にかけた。

    キラキラと煌く……
    水しぶきを弾いて……
    濡れた僕を、子供のように明るく笑う夕鈴。

    お返し……とばかりに、
    僕が、かけ返すのは必然で。

    二人で、びしょ濡れになりながら
    子供のように、はしゃいだ

    夏の終わり。


    君と過ごした
    あの美しい日々……











    美しく色褪せない
    愛しい記憶。


    僕の心の宝箱。







    2015.02.12.改定
    2014.09.06.初稿 続きを読む

    チョイ前本誌添い?【歌詞風】沈黙の唇




    つらつらと…思いつくまま…
    わけのわからないものが……

    夕鈴side
    コミックス未収録辺り?
    ネタバレかも…



    久しぶりだと、書き方も忘れてます←(ToT)



    *沈黙の唇*

    甘く酔う
    金木犀の香り

    オレンジ色に染まる
    夕陽が、
    空を染め上げる

    優しい風に抱かれ
    季節が蘇るように……

    貴男の腕に抱かれた
    想い出が蘇る……

    たどたどしくも、絡めた指が辿る
    懐かしい愛の軌跡

    狂いだした
    時の運命(さだめ)に
    逆らえず……

    離れても、
    尚、忘れない

    忘れることなんて
    できない。

    貴男の腕に抱かれ
    もう二度と
    離れないように

    この目に映る全てを
    私は受け入れたい

    貴男が私に隠した
    闇も穢れも
    何も恐れはしないのに…

    辿る記憶は全部

    知らず知らず、
    優しく守られて

    離れている
    この時も
    ずっと、ずっと……
    私を守るの

    私にとって
    貴男と離れることこそが……

    どんなに、辛く寂しいことか、
    貴男は、解ってない!



    時は過ぎ
    季節は流れ…

    旅立つ私は、
    果てない空を見上げる

    いつか…
    いつの日にか
    再び、貴男に会える日を夢見て

    いつか…
    いつの日にか
    この燃ゆる想いを
    貴男に届ける為だけに

    新しいステージに立つ為に…
    今、私は旅立つ。

    再び、
    貴男が私の名呼ぶ
    その日まで……

    沈黙の
    この唇は
    貴男の名を秘するの。

    【短編】IF「大好き」※ネタバレ

    私の好きなもの


    風渡る草原

    雲一つない青空

    眩しい太陽

    キラキラ…降り注ぐ木漏れ日

    優しいあなたの笑顔

    私を見つめる温かな瞳

    心乱すあなたの囁き

    そして…

    何よりも清い決意



    どうしてかしら……

    後宮を辞して、日がたつというのに…
    忘れるどころか、鮮やかに蘇る

    あの日……
    あの時……

    晴れ渡る景色が、滲む。

    もう会えることなど出来ない。
    大好きな人。

    あなたの願いで、去った自分。

    ホントは、離れるなんて嫌だった。

    ずっと傍に居たかった……

    物分かりの良い人を演じて

    痛みなんて無いと、装って

    あの日、サヨナラのkissからの数日間。
    虚ろな心に笑顔の仮面を貼り付けて…

    記憶が曖昧な空虚な数日間を過ごした。

    何故……
    と、問うことも許されず。

    陛下。
    大好きなあなたに、会いたい。

    一つだけ、心残りは

    この気持ちを伝えなかったこと。

    離れても尚、私をまもろうとしていることが、分かり始めた今。

    まだ危地にいる、あなたが愛しい…

    募る想いは、勇気へと……

    分かりにくい愛情の誰よりも不器用なあなたが、一番大好き!

    ゼロでないのなら、会いに行こう!

    大好きって…
    あなたに伝えるために!

    【遅刻な】蜂蜜の日

    なぐり書き
    お許しを……

    *****

    それは……甘く惚ける琥珀の味わい






    「陛下っ!」

    突然、政務室に飛び込んで来たうさぎは、まっすぐ黎翔の元に駈けてきた。

    隣に立つ李順は、頭を抱えて
    「妃らしくない!」
    と、呟くが……
    無視した。

    「どうしたの?」

    政務机で、毛を逆立てた子猫のように怒る君は、とても元気で……

    怒っている時ほど、
    生き生きしていて……
    “どの時よりも、可愛い…”

    君の様子だと、些細な王宮と市井の認識の違いとふんで…
    僕は、満面の笑顔で、夕鈴を出迎えた。

    「夕鈴。
    ……どうしたというのだ?」

    「陛下っ!
    蜂蜜がっっ……!」

    涙を浮かべて、政務机に両手をつく夕鈴は、大きく肩を震わせて意外な言葉を口にした。

    「蜂蜜?」

    私と李順は、ますます訳が分からないと怪訝な顔を見合わせた。

    「はい……
    蜂蜜です。
    お願いです!」

    「蜂蜜を後宮に届けさせないでください!
    勿体無い!」

    「届けるのならば、厨房に!」

    「夕鈴、話しが見えないンだけど……。」

    “ダンっっ……!”

    キッと、僕を睨みつけた夕鈴は、この国の王である私を恐れない。

    「ですから、
    超高級食材である蜂蜜を、妃の美容として届けさせるのやめてください!」

    「たった半日で、あんなにたくさんあった蜂蜜が、半分も…無くなったなんて……」

    「あれだけあれば、甘くて美味しいお菓子が、陛下のために沢山作れたのに……」

    「……蜂蜜。」

    ポロポロ…と涙を零しはじめた夕鈴。
    黎翔は、机を回りこみ慰めようと抱きしめようとした。

    ところが・・・

    キッ・・・

    ハシバミ色の瞳で、睨まれた!?

    あまりの迫力に、黎翔は少したじろいた。

    「陛下っ
    蜂蜜を、妃の美容の為に使うのは間違ってます!!!」

    「肌は、べたべたと甘ったるいし・・・・
    高級品の食材を無駄にしてるかと思うと・・・・・・」

    あーーーーーー・・・・・


    「なんだ・・・そんなことか。
    蜂蜜は、美容にも良い」

    「この国の妃に献上する美容液として
    収められたものだ。」

    「君に使われることに、かわらない。」

    「ほら、こんなにもしっとりと、肌が光り輝いている。
    美しい肌だ。」

    夕鈴の手をとり、すべすべとした肌を楽しむ黎翔に
    夕鈴の怒りは収まらない。

    庶民にとって、どんなに蜂蜜が高価で
    薬だというのを陛下は理解してくれない。

    その甘みは、食してこそ価値があるのだというに。
    コレが市井と王族・貴族の感覚の違いといってしまえばそれだけのことなのだけれど。
    でも、夕鈴には我慢がならなかった。

    陛下にとっては、普通でも。
    夕鈴にとっては、普通じゃない。

    「陛下っ!!!
    ぜんぜん分かってない。
    私は、真剣に話してるのにっ。
    ーーーー陛下のばかっ!!」

    バタバタバタバタ……

    嵐のように去った夕鈴に
    追いかけるように陛下が、執務室から出て行った。

    投げ出された途中の書簡と
    廊下から聞こえる・・・遠ざかる喧騒。

    李順は、深いため息と共に、二人が去った出口を見つめた。

    「夕鈴殿……陛下。」

    頭を抱え、酷くズキズキ・・・と痛む頭痛に耐えたのはいうまでも無い。





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    【短編】本誌添い「大好き……」  ※ネタバレ注意

    静かな月明かりの夜
    ぼんやりとした灯火を一つだけ灯して、
    夕鈴は自室から蒼い夜空を見上げた。

    頬を撫でる風は、いつの間にか夏めいて
    湯上りの肌を冷ます。

    濡れた髪を無造作に纏めて
    静かに輝く月に
    陛下の面影を重ねた。



    後宮を出てから…
    あれから、ずっと陛下に会っていない。

    もう会うことも出来ない人。
    それなのに……
    思い出すのは、陛下のことばかり。







    後宮では、私を困らせてばかりで……
    演技とは思えないほど
    妃には甘くて……

    傍にいると
    切なくて…苦しくて…でも嬉しくて

    その甘いkiss も
    抱擁も
    私のものなのに……
    辛かった。

    偽りだと分かっているのに
    本物だと勘違いしてしまいそうになって
    困ったの。

    結局、結ばれない。

    身分違いなど
    はじめから知っていたのに





    ……バカね。
    好きと伝えられなくても、
    溢れ出す想いを止められず
    大切に育てていたわ。

    大切だから……
    あなたを忘れたくないの。

    大好きだから
    あなたの傍に、もっと居たかったのに。


    もう会えない。


    あなたに会えない。




    ……どうしよう
    離れたくなかったよ。
     
    会いたいよ。

    ……陛下。

    愛してるって
    言っておけばよかったかな・・・

    沈黙の月に想いを重ねて……
    あなたに想いを馳せる夜。







    大好きよ。

    ……大好き。

    静かな夜は、私に優しく溶ける。








    揺らめく灯火を灯して
    煌々と明るい執務室。

    黙々と仕事をこなす陛下に、李順はため息を零す。
    夕鈴殿が、後宮を辞してからというもの。

    まともにお休みになられていない。

    これから王宮が荒れる時だというのに
    陛下は、何をお考えなのだろうか?

    毎日の浩大の夕鈴殿の報告を糧に
    それ以外は、黙々と仕事をこなし続けている。

    本当に、これでよかったのだろうか?

    「夕鈴を解雇する」

    その言葉の意味は、これ以上王宮の闇に巻き込みたくないとの配慮から
    「陛下の特別」その意味をあの娘は知らない。

    毎日、夕鈴殿の様子を知るために
    懐刀である浩大に、未だに守らせている。

    もう妃でもなんでもない。
    市井の娘への異例の配慮。

    でも、このままでは陛下がお倒れになる。

    「陛下、夕鈴殿を呼び戻してはいかがですか?」

    「・・・・李順。」

    鋭い、陛下の誰何の問いが飛ぶ。
    漆黒の前髪越しに、荒んでしまった鋭い眼光で見つめられて
    ……それ以上は何もいえなくなった。

    李順の口から、重苦しいため息がこぼれた。

    「……ですぎたことを申しました。」


    夜が濃くなった。

    一人になる時間は、君を思い出してしまう。

    窓辺から
    薄墨の雲に重なる月を見上げた。




    大切だから
    時々意地悪をしたくなった。

    いろんなことして
    いろんなとこ触って

    真っ赤に頬染めて
    困るとこ、
    もっと見たくて……

    どうしよう。
    離れたくない 。
    そう思った。

    だけど、ここにいては
    君を守れない。

    離れても尚
    君を愛してる。


    月を見上げて
    もう傍らに居ない君に向けて呟く。



    愛してるって
    もっと、言っておけばよかったな・・・
     
    もっと、君を傍におきたかった。


    大好きだよ。

    夕鈴……大好き 。

    おやすみ、今夜もいい夢を。
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    【本誌沿い】 My Dearest

    ほんのりネタバレ。
    コミックス派は、お逃げください。

    白友A沢さんのイラストに、捧げます。
    眼福イラストご馳走様です。




    右肩にかかる愛しき君の重さ。
    胸に引き寄せて改めて思う
    無くせない大切な存在の大きさを。

    「そんなに無防備に眠らないでよ、夕鈴。
    狼に食べられてしまうよ?」

    ……返事など無い。
    呟く私の言葉など、眠る君には聞こえていない。

    信用されているのは、幸いなのか?
    不幸なのか?

    私は、異性として
    見られていないのではないのか?
    そんな考えが、ふとよぎる。

    顔にかかる
    素直な癖の無い長い髪を払いのけ
    君の寝顔を確かめる。

    私の肩に、頭(こうべ)を預けて
    気持ちよさそうに寝ている君。

    昼間の仕事の疲れなのか?
    警戒もせず
    凭れかかって、のんきなものだ。

    民に恐れられ、狼陛下と呼ばれている私の傍らで
    信頼しきって眠る者など、君ぐらいだよ夕鈴。

    いつだって君には敵わない。

    私の胸に、湧き上がる
    この気持ちを愛と呼ぶのなら
    壊したくない……

    君の安らかな眠りを脅かしたくない。
    だけど、君には触れていたい。

    葛藤の末、夕鈴の柔らかな頬の感触を
    何度も何度も確かめる。

    傍らに眠る大切な君へ
    「愛している」と
    面と向かって
    伝えられないまま……

    君へと募る
    愛しさだけが降り積もる

    どうか、このまま……時を止めて
    I think very tenderly of you.

    二人の時間を、
    ほんの少しでも大切にしたいんだ。

    王宮に嵐が来る。
    別れの予感。

    愛し君の姿を、忘れないために
    僕のすべてで、刻みこむ。

    君と過ごしてきた
    愛しき日々

    I want you to be the way you are.

    無くしたくない
    僕の宝物

    My Dearest


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    【短編】「抱擁」

    花盛りの
    春の四阿。

    備え付けの長椅子に寝そべり、
    風の歌に、耳を傾ける。

    風の音。
    木々の声
    眩しく光る
    池のさざ波

    ……そして
    ぱたぱたと、駆け寄る
    私の…
    愛しい人の足音。

    元気で、可愛いお嫁さんの気配に……

    少し思案して、寝たふりを決め込んだ。

    私の予想が外れなければ、
    きっと君は私の近くに来るだろう……

    予想通り…夕鈴は、先客に気付いて、近付いてきた!

    優しい花の香り…
    身体に、触れた何か柔らかな衣の気配。

    パチリと瞳を開けて、夕鈴を捕まえた!

    最初に見えたのは、心底驚いたような大きなまん丸のハシバミ色の瞳。

    「陛下、離してくださいっ!
    起きているなら、起きているとそう言って下さい!」

    顔を真っ赤にして、抗議する可愛い私のお嫁さん。

    その手には、柔らかなショール。

    バタバタと、手足を振り回して逃げようとする夕鈴を、ぎゅう…と強く抱き締めた。

    柔らかな身体の感触と髪の香りを楽しむ。

    「離さない…」

    「意地悪しないで下さい!」

    「離して―」

    君が居るから…楽しい。

    “好きだよ、夕鈴”

    色の無い日常が、生き生きと原色になる。

    【短編】本誌沿い「桃始華」

    白陽国に、隣国から水蜜桃の苗木が贈られたのは、
    黎翔が王位を継ぐ前、父王の時代であった。
     
    今は、王領地のなだらかな丘陵地に、立派な実をつける
    水蜜桃の果樹園となった。

    今年も、王領地を統べる領主から、水蜜桃の花が咲いたとの知らせが、
    早馬で、薄紅色の花枝と共に、王宮へ届けられた。

    黎翔は、その花枝を持って、夕鈴の元へと向かった。
    せっかく咲いた五弁の花。
    しおれぬうちに、愛する唯一無二の妃へ贈る為に。
    散らぬようにと気を使い、急いで後宮へと足を向ける。



    陛下が訪れる時間にはまだ早く、日も高い。
    先触れもなく、突然訪れた陛下の出現に、侍女たちは慌てた。

    自室で、寛いでいた夕鈴は、陛下の訪問に何事かと驚いたが、
    穏やかに微笑む彼の様子に、落ち着きを取り戻した。

    「陛下、お出迎えもせず……
    失礼いたしました。」

    「いや、急に君に会いたくなったのでな。
    先触れを省いて、会いに来た、許せ。」

    「いえ……、
    お会いできて嬉しゅうございます。」

    侍女の手前、甘い演技は、続けられる。
    引き寄せられた指先に、口付けられて頬が熱い。

    この程度で、恥ずかしがってちゃダメよ、夕鈴。
    プロ妃を目指すのでしょう?

    夕鈴は、自分に言い聞かせるものの……
    顔が、薄紅に染まるのは、とめられない。

    「嬉しいことを、言う。
    このように頬を染めて……
    我が妃は、いつ見ても初々しいな。」

    狼陛下の視線に囚われ
    更に、耳朶まで熱くなった。

    「恐れ入ります。
    しかし、どうしたのですか?
    こんな時間に……」

    陛下の片手があがり、静かに人払いがなされた。
    侍女たちは、心得たように、部屋を静かに退出して行った。




    夕鈴以外、誰も居なくなったことを、黎翔は確認すると
    小犬のような人懐こい笑顔で、夕鈴に微笑んだ。

    「コレを君に、早く見せたくて……」

    黎翔は、夕鈴の片手を引き寄せると
    手のひらに、そっと、
    今、さっき届いたばかりの美しい花枝を握らせた。

    心なしか、見えない尻尾がブンブン振っている。
    全身で、夕鈴に褒めて褒めてと伝えていた。

    そんな陛下の様子に夕鈴は、クスッと笑ってしまう。
    そして改めて、手の中の小枝を見つめた。

    「これは……桃の花枝ですね。
    なんて綺麗。」

    夕鈴は、ふわりと嬉しそうに笑ってくれた。

    桃の花を見て綻ぶ、私の花は、どの花よりも美しいというのに
    君は、ちっとも分かってくれない。
    黎翔は、少し切ない想いを隠して、夕鈴に伝える。

    「夕鈴、前に桃が好きって言っていたでしょ?
    花が咲いたと、王領地の農園から知らせが来たんだ。」

    ああ・・・そういえば、桃の実を食べた時に
    陛下と話したことを夕鈴は、思い出した。

    “甘くて瑞々しくて美味しい。
    陛下も食べてみてください。
    美味しいですよ”

    “ほんとだ、美味しい桃だね。”

    “私、桃の木って大好きなんです。”

    “花は、鑑賞として美しいし”

    “葉は、よく青慎のあせも予防に使っていました…”

    “つぼみは、利尿のお薬、種は、血流のお薬”

    “樹木は割れにくく丈夫で、箸を作る材料になるとか、”

    “樹皮は、染料。”

    “ほんとに余すところなく
    人の役にたつ樹木だなんて他に無いですね。”

    “そうだね。
    白陽国でも、仙木・仙果として尊ばれている。
    昔から邪気を祓い不老長寿を与える木と言われているね。

    桃には邪気を祓う霊力があると考えられいるんだよ。
    桃の木で作られた弓矢を射ることは邪気除けの。
    桃の枝を畑に挿すことは虫除けのまじない。

    桃の実は長寿を示す吉祥図案だね。
    君や私の衣装にも、描かれている”

    “美味しい実も、美しい花も楽しめるって、
    お得な木ですよね。”

    “君らしいね。”

    そう言って笑いあったのは、確か昨年のこと。
    あれから、何ヶ月も過ぎていて、
    私は、そのことさえも忘れていたというのに。
     
    ーー陛下は。

    「以前、私が桃が好きと言った事を、覚えていてくれたのですね。」

    手のひらに乗った桃の枝から、じんわりと伝わる陛下の優しさ。
    このバイトにまで、気を配る陛下の優しさを
    なぜ人は、狼陛下と呼んで畏怖するのだろうか?

    夕鈴は、心までじんわりと温かくなる。
    心の底から

    「……嬉しい。」

    花枝を抱きしめ、笑みが浮かんだ。

    「ありがとうございます。
    陛下。」

    「君に喜んでもらって、嬉しいよ。」

    予想していたとはいえ、
    夕鈴の素直な笑顔に、黎翔も笑みが浮かぶ。
    嘘のつけない豊かな表情の彼女を見るのは、楽しい。

    素直な感情の発露は、王宮では稀有なもの。
    それだけに、夕鈴が愛おしく思える。

    もっと、この笑顔を引き出したい。
    君の笑顔は、私の心を温める。

    もっと、君を見ていたい。

    “手放したくないな……”

    そう思う自分の心の変化を、夕鈴には教えない。
    手放せなくなるから。

    ……っ。

    ーーそれでも。

    黎翔は、いたずらを思いついたような笑顔で
    夕鈴の手を取ると……

    「明日、君と遠乗りをしたいな。
    王領地の桃の花が見ごろだそうだ。
    視察も兼ねて、一緒に行こう?」

    「よろしいのですか?
    私が一緒で視察の邪魔になるのでは?」

    桃の花は見たいけど、お仕事の邪魔はしたくないわ。
    不安げに問う夕鈴に、黎翔は、にっこりと微笑む。

    どうしても、明日は君と遠乗りがしたい。
    小犬から狼に雰囲気を切り替えて、夕鈴に迫った。

    「いいも悪いも、私が一緒に行きたいんだ。
    ダメか?」

    ……ぅ。
    なんで、ココで狼陛下なの?

    「いいえ、嬉しいです。
    陛下、連れて行ってください。」




    「そうと決まれば、急がなきゃ……
    明日は、陛下の為にお弁当作りますね。
    桃の花の下で、一緒に食べましょう。
    何かリクエストは、ありますか?」

    「ありがとう夕鈴。
    君の手料理は、どれも美味しいから。
    明日の楽しみが、増えたよ。」

    「明日は、晴れるといいですね。
    遠乗りが楽しみです。」

    「そうだね。
    楽しみだね。」

    二人、手を取り合って、
    微笑む瞼の裏に、まだ見ぬ王領地の薄紅の桃の花畑を見たような気がした。

    この想いを秘めたまま。

    眼差しは、まっすぐにあなたへと、
    幸せに微笑みあいながら……

    明日は、あなたの笑顔を
    独り占めさせて……

    満開の薄紅色の桃の花の下で。
     


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    【短編】「優しい雨」

    木漏れ日が、降り注ぐ
    桜の天蓋

    若草に寝転び
    空を見上げると

    薄紅色の花越しに
    雲一つない
    真っ青な空が見える

    ハラハラと音もなく
    舞い踊る花びらに

    私の想いが
    静かに溶けていく

    散りゆく桜に
    想い重ねて……



    光る空は、どこまでも
    澄んだブルーで
    綺麗な空に吸い込まれそう…

    どんなに、手を伸ばしても
    届かない空は

    どこか手の届かない
    アナタのようで…


    ――急に、胸がいっぱいになった。




    優しい花びらが、雨のように
    私の心にまで 降り積もる
     
    あなたへ恋心が
    降り積もるよう。

    こんなに晴れ渡る眩しい空なのに
    私の心には、優しい雨が降り続ける



    ……恋しても
    ……恋しても
    報われぬ想いは
    花開く前に 、散ってしまうのでしょうか?

    こんなにも
    綺麗な想いなのに 、
    散らせてしまうのが、惜しいと思ってしまうのは
    一抹の迷いもない
    アナタへの恋心ゆえなのです。

    ハラハラと、音もなく花が散ります
    また今年もアナタと桜の季節を迎えました。
    この切ない想いを秘めたまま…

    アナタの下で 、美しく咲きましょう。



    例え、いつ終わるとも知れぬ
    偽りの花嫁だとしても…

    アナタを愛し、愛されている…
    幸せな笑顔の私を演じるのです。

    それが偽ることをやめた、
    私の本当の願いだとしても。



    【短編】IF本誌添い「鶯―うぐいす―」

    昨日、ぎりぎりでパラレルに落とし逃げしたものの手直しです。

    ○本誌沿い
    ○夫婦演技し始めたばかり
    ○四月一日設定。





    後宮の春は、ようやく訪れた季節を喜ぶように、
    新しい妃を喜び受け入れた。





    花盛りの四阿。

    香り高い梅の香りが当たり一面に広がる梅林の四阿で、夕鈴は陛下と一緒に午後のひと時をたのしんでいた。

    「へ…いか、お茶のオカワリは、イカがですか?」

    「いや、まだ飲みきっていないから、いい…
    それよりも、そんな隅に居ないで、私と一緒にお茶を楽しもう」

    「恐れ多くてできません。」

    「……そう?」

    すっ…と指先を夕鈴の頬に触れると、にっこりと陛下が微笑んだ。

    「ん――♪
    まだ、ちょっとぎこつないかな~?」

    「……初々しい花嫁って感じもしないでもないけど。」

    「へいかっ……近すぎますっ!!!」

    真っ赤になった夕鈴は、陛下の手を振り払うこともできず・・・
    真っ赤な顔で、困惑のまなざしを向けた。

    まだ、偽者夫婦となってから日が浅く、二人は先日出会ったばかりである。

    恥ずかしがる夕鈴が、ようやく陛下の腕から逃げ出して、
    更に奥まった四阿の隅に逃げ出したのは、仕方がないことで・・・・

    「へーか・・・からかっていませんか?」

    ドキドキと収まらない胸を押さえて夕鈴は、抗議の声を上げた。

    昨夜から、可愛らしい生き生きとした反応を見せる娘に
    興味を持った、黎翔。
    お嫁さんが新鮮で、ついもっと生き生きとした表情が見たいと願ってしまった。

    「君を、からかってなどいないよ。」

    にこにこと、警戒されないように人懐っこい小犬の表情で可愛らしいお嫁さんに微笑んだ。

    ーーその時。

    ケキョ…


    後宮の梅林に鶯が鳴く……

    「へーか、聞きましたか?
    うぐいすですよ!」

    「今年初めての鳴き声ですよ!」

    「春ですね!」

    梅林の片隅の四阿。
    美しく咲く紅白の梅林の中を
    夕鈴は、ウグイスを見つけようと、四阿の手すりに身を乗り出すように
    探した。

    仮初めとはいえ、夫婦。
    そのしぐさに黎翔は、微笑みを隠せない。
    洗練されたしぐさではないが、どこか惹かれるものを彼女は持っていた。

    ーーー素直な感情、というべきか。
    嘘のつけない尊い資質。


    初めて出会ってまだ数日、“お妃さま”と侍女に呼ばれることに慣れず…ましてや国王陛下を“陛下”と呼ぶことにも慣れず…
    それでも、一生懸命努力してくれる様は、好感が持てる。

    “夕鈴で良かった。”

    一緒に居て、癒されるという感覚など、
    黎翔は、今まで一度たりとも感じたことがなかった。



    *****


    「そうだね。
    今年初めてのうぐいすだね。」

    「鳴き声が、若いな…。
    きっと初めて鳴いたんだね!」

    「鳴き声で、そんなことまで分かるんですか!?」

    びっくりした夕鈴は、大きな目を更に大きくして、陛下を見た。

    「うん、鳴き声が下手だったからね!」






    「知ってた?夕鈴。」

    「鶯には、学校があるんだよ!
    鳴き声の上手な雄が先生なんだ。」

    「上手な鳥の真似をして、
    上手い鳴き方を覚えるんだね。」

    「この鳥は、練習中なんだ。」

    「鳥に学校なんてあるんですか
    ヘーカは、物知りなんですね!」

    「……夕鈴も、ウグイスみたいに少し練習が必要かな?」

    「ぎこちないよね…」

    「……鳴き声ですか?
    私、うぐいすの真似なんてできませんよ…」

    怪訝な顔で、陛下の顔を見ると、違うよと言われて手招きされた。



    手招きした陛下は、さっと夕鈴を膝抱きすると、話し始めた。

    「諸外国の国王夫妻は、名前で呼び合うんだ。」

    「私は君のことを名前で呼ぶが…」

    「夕鈴は、私を名前で読んでくれないよね…」

     「ぎこちないよね…」

    「練習が必要だとおもうんだけど…」

    「へーかで、ダメなんですか?」

     「夫婦演技に必要でしょ?
    それっぽく、見えない。」

    「それに…コレって…」

    国王陛下に膝抱きされるバイトって居るのかしら…
    恥ずかしくて、夕鈴は、黎翔の言葉を半分しか聞けない…

    「これは、夫婦演技の練習。
    仲の良い夫婦を演じるのだから」




    「ねぇ…夕鈴。
    黎翔って言ってみて?」

    「そんなへいかに、恐れ多い……」

    「これから必要になるよ、慣れてもらわなければ・・・・
    れ・い・しょ・う」

    「う~~……
    れ い し ょ う さ ま」

    「うん、まだぎこちないかな?
    もう、一回。」

    「……れいしょうさま。」

    「まだまだ……」

    「黎翔さま。」

    「うん、
    もう、一回。」

    「黎翔さま。」


    ……。

    ……。

    endless。



    四月一日は、特別な日。

    国王夫妻が、必ずしも名前で呼び合うのかどうかは、誰も知らない。
    ウグイスの学校・・・あるのかは、内緒。
    とある四月一日の梅林での出来事。



    このあと、李順さんが来て陛下でいいです。と言われるまで
    陛下ニコニコで、続けて欲しい。
    その間、夕鈴真っ赤でお膝抱っこ←拷問。


    お粗末様でした。

    さくらぱん

    【短編】「花」

    ふわり……


    風に乗り
    何処からか
    迷いこんだ

    光に透ける
    桜の花弁

    淡い薄紅色に染まる
    花を見て
    君を思いだした。

    なんだか急に
    会いたくなったら
    居てもたってもいられない。

    花枝を
    ポキンと、手折り…

    花を片手に
    後宮へと足が向いていた。

    君の花の笑顔を見る為に……

    【短編】「陽だまりの場所」



    暖かな日差しが降り注ぐ

    ……桜の四阿
    キラキラと薄紅の光が、舞い踊る

    ――――君と共に至福の時。



    cimg_2014032701580422c.jpg 

    (2014.03.27.イラスト絵師ダリ子様)

    君が幸せに、微笑むから……
    僕もつられて笑うんだ。

    ふるふると……
    薄紅色の彩る雨が、舞い踊る

    君と私に、降り止まない祝福の花びら
    ――――君が居るから、ここは僕の陽のあたる場所。

    心の奥底で、永遠の眠りについてたはずの
    我侭な、もう一人の自分が目覚めた。

    かつて見た
    夢の続きを見ているよう……

    願うことさえも、許されなかった
    温かな僕の居場所

    望んでも手に入れられず
    欲しくても、諦めることしかできなくて… …
    泣き疲れて、心の奥でうずくまっていた、あの頃

    もう一人の僕は、望むものを忘れることで
    穏やかな眠りについたはずだった。

    望んでは、いけないもの。
    僕は王にならなくてはならなくて 甘えることや弱さは許されなかった。

    王は、王でなくてはならない。
    そのためには……
    国を統べることのできる、強さを僕は選びとり
    もう一人の僕は眠りについた。

    歯向かう敵を、噛み殺す強靭な牙を持つ、私となった。

    君という光を知らなかった頃の私。

    狼陛下という畏怖の名で呼ばれた私。






    君と出会えた奇跡。
    君との出会いが世界を変えた。

    いつの間にか、君を好きになっていたんだ。

    僕の瞳に映る世界が、キラキラと輝きだした。

    君が居る……それこそが、僕の確かな光。

    天と地に降りそそぐ 薄紅の彩りの雨

    君という光が、絶え間なく僕に降り注ぐ

    君の居る場所は、僕の陽だまり。

    ねぇ、夕鈴。
    知ってる?

    優しくてあったかい。
    君の居る場所は、どんな時でも居心地がいいんだ。

    君が、僕を満たしてくれる
    凍えた僕を、すぐに温めてくれる

    「……陛下。」

    君が僕を呼んでくれるだけで、
    僕の心が、こんなにも喜びに沸き立つ。

    君が・・・笑うだけで、僕は幸せになれる。

    ――――好きだよ。夕鈴。

    愛することを教えてくれたのは
    君一人しかいない。


    光り輝く世界への扉の鍵は、ただ一つ。
    夕鈴、君自身なんだ。

    僕の愛は
    たった一人。

    ――――愛する君(女性)、一人だけに。



    ************



    ――――――桜の四阿


    あたり一面、まるで薄紅の花の絨毯を敷き詰めたかのよう。


    見上げれば、輝く太陽。
    抜けるような青空を背に
    あなたが、桜の花びら舞い散る景色の中に佇んでいる。

    降り注ぐ陽差しよりも眩しい。
    私だけに向けられる陛下の温かな微笑み。

    美しい空から、幾つもの彩りの雨が私たちに降り注ぐ

    祝福の薄紅の花びら

    ふるり……舞い踊り、

    ふるら……光煌めく

    … 幸せの光の軌跡。

    光輪を受けて輝く、漆黒のあなたの髪にも、祝福の花びらが舞い降りた。

    私の指先が、あなたの前髪に触れる。

    真っ直ぐな視線とかちあった。
    吸い込まれそうな美しい紅い瞳。

    陛下の瞳に魅入られたように、私は動けない。

    私の高鳴る胸の動悸は、速まるばかりで……

    誰にも、気づかれないでと願いつつ……

    「こんなところにも……」

    何気なさを装って、薄紅に頬を染めて、あなたの髪に手を伸ばした。

    サラリと流れた黒髪から
    たおやかに摘んだ繊細な桜の花びら

    ゆっくりと流れる時間に身を委ね、自分の高鳴る心音を聞く……

    少しだけ乱れた心拍数は、確かな温かさで私の耳を打つ。

    「夕鈴。」

    名を呼ばれて、気づけばいつの間にかあなたの腕の中。

    小鳥のように、胸をトキメかせながら、あなたの手に梳かれた髪に
    感じた大きな手のひらの感触に酔いしれる

    あなたの胸の中で、あなたの心音を聞く……

    ドキドキと高鳴る力強い鼓動に
    緊張しているのは自分だけでないと安心するの。

    力強い愛の鼓動に、私の心は、溶かされていく




    お願い…………このまま
    薄紅色した至福の時に浸らせて。

    あなたの腕の中で、私は幸せな小鳥になるの。

    【短編】「太陽の移り香」

    暖かな日差しが、差し込む
    のどかな窓辺で……

    彼女が本を片手に、
    うたた寝をしていた。

    「風邪をひくよ?」

    私の呼びかけにも答えず……

    ……ん。

    ただ……睫を震わせた。

    「……おっと!」

    広げられた本が、
    彼女の手元から滑り落ちる。
    私は慌てて受け止めて、
    近くの卓に置いた。

    陽の光に透ける金茶の髪が、
    蜂蜜色に輝く。

    暖かな陽射しが差し込む窓辺。
    優しいそよ風が、
    彼女の前髪を揺らした。

    「このままだと風邪をひくよ?」

    独り言めいた言い訳をして、
    私は彼女に近付いた。

    君の髪から薫る
    ひだまりの香り

    あたたかで優しい
    太陽の香り

    そっと……起こさないように、
    彼女を抱えあげる。

    大切な君を抱きしめて、
    髪の移り香を嗅ぐ。

    私の心まで和ませる
    太陽の匂い。

    穏やかで暖かな
    早春の昼下がり

    いつまでも、
    君と過ごしていたい

    ひだまりの移り香のする君と……

    【短編】本誌設定「距離をおきたい貴方と寄り添っていたい私」

    ――――失うことが怖いだなんて、貴方に出会うまで知らなかった――――




    きっかけは、ほんの些細な出来事

    今までも、あったことなのに
    “いつものこと…”
    として、貴方はとらえなかった。



    私の食事に、毒を盛られた。
    幸いにも、命には別状がなかったが……
    タイミングが悪く
    毒に耐性のある陛下と一緒の食事の時。

    陛下の目の前で、毒を知らずに口にした。
    身悶え苦しみだした私を真っ先に介抱したのは、陛下だったという。

    私は、狼陛下の唯一の妃だから…
    貴方の隣に、仮とはいえ鎮座する者。

    命を狙われることは、常で…
    それが、臨時花嫁としての私の仕事。

    それなのに……
    命をとりとめて目覚めた私に陛下は、こう言った。

    「夕鈴。
    臨時花嫁の仕事は解雇する。
    囮は、もういい…君は、下町に戻るんだ。」

    冷たい言葉と裏腹の
    今にも泣き出しそうな沈痛な陛下の顔。

    「今なら私が、君に飽きたが世間に通用する。
    身体が落ち着いたら、家に帰るんだ…」

    ビックリした私は、陛下に問いただす。

    「突然、どうしてですか?」

    まだ、毒気が抜けない重い身体を引きずって……

    「まだ陛下には、臨時花嫁が必要なのでしょう?
    なのに……なのに……どうして?」

    陛下の袖を掴み、陛下の瞳を見つめた。
    暗い赤の瞳と暗い表情に、私は、胸が痛む。

    「陛下……何故?」

    二人に重く のしかかる沈黙を破り、陛下が囁く。

    「これ以上、君が犠牲になるのは耐えられない……
     このままでは、君は殺されてしまう……」

    「私の力でも、今回のように防げないこともあるだろう。」

    「……君を失うことが、怖いんだ……」

    ポツリと呟いた言葉に、胸が熱くなる。

    「……ありがとうございます。」

    「でも……私は、貴方の花嫁です。
    ずっと、お傍にいたいんです。
    帰れだなんて、言わないでください。」

    「陛下のその優しいお心と言葉だけで十分です。」

    私は、陛下を引き寄せて、キュッと頭を抱きしめた。

    「お傍で、貴方を守らせてください。
    私は、なにがあっても平気です。」

    「絶対に、死にませんから!!」

    「花嫁は、陛下の味方です。
    これからも、ずっと陛下のお傍にいますよ。」

    「……だけど。」

    「陛下、私を信じてください。」

    「ホントに、それでいいの?」

    「はい。」

    「ありがとう、夕鈴。」
    変なことを言ってごめんね。」

    「もう二度と、こんなことが無いように。
    君は私が守るから……約束するよ。」

    「はい、陛下。」

    「ずっと、お傍に寄り添っていますからね。
    もう二度と、私を手離すなんてこと考えないでください。」

    「私が、陛下をお守り致します……」

    “君が(貴方が)好きだから……”

    本当に、伝えたいことは伝えられないまま……

    愛しい気持ちが、温もりから溶け出していく。

    抱きしめたこの温もりが失われないように、自分に深く誓おう。

    “必ず君を(あなたを)護るから…”

    愛しさを増していく……私達の未来の約束は、これからも守られていく。

    【短編】本誌設定「home」

    私を形作る
    17年の生きてきた証

    下町で生まれ
    下町で育ち
    人を疑うことを知らず
    人を信じて
    愛に包まれて生きてきた
    私の歴史。

    それは
    水のように……
    空気のように……
    時間をかけて少しずつ私に溶け込んで
    私を、私に形作ってきた。



    今 あなたと出会って、
    私の中にあなたが混ざる。

    私は、あなたを知らなかった頃の
    わたしには、もう戻れない。



    あなたは、
    王家に生まれ
    辺境に育ち
    人を疑うことで
    21年間を生き延びてきた。

    愛を満足に知らず
    人を信じれず
    今もまだ、孤独な王の道を
    たった一人で歩み続ける。




    白陽国に君臨する国王陛下。
    その素顔を知る人は少ない。
    その微笑みを知るものは、さらに少ない。

    人々の為、国の為に、
    “孤高の冷酷非情な狼陛下”の仮面を
    自ら被る優しい王さま。



    あなたの優しさに触れるたびに、
    私はどんどん好きになっていく。

    あなたの闇を垣間見て、
    あなたに拒絶された時、とても悲しくなる。

    この感情が、あなたを愛するということなら……
    あなたのすべてを知りたい。
    私の知らなかったあなたへの感情をすべて引き出して。

    あなたに強く惹かれる、私の想いは止められない。

    あなたのすべてを受け入れたいの。
    あなたの裸の心に、私は寄り添っていたい。

    人を信じられないのなら、私が信じさせてあげよう。
    愛を知らないというのなら、私が愛をあげる。

    あなたのすべてを抱き締めたい。

    お願いだから、
    私まで拒絶しないで……



    「忘れないで……
    私は何処に居ても、どんな時も、あなたの味方です。」

    「あなたの一番近くに、私は居ます」

    たとえ臨時とはいえ、
    私は、あなたの花嫁。

    私とあなたとの最初の約束を覚えていますか?
    私は、あなたを決して裏切らない。
    約束は守る為にあるのですよ!?

    私は、もう下町に帰れない。

    私の帰る場所はただ一つ。
    あなたのところ。

    あなたの傍が最も安らげる私の居場所。
    私もあなたの、安らげる場所になりたい。
     
    あなたが、あなたらしく在れる居場所。


    ねぇ…陛下。
    あなたの傍に、ずっと居ていいですか?
    もっと、あなたの話を聞きたいの……
    もっと、あなたのことを知りたいの……

    同じものを見て、
    同じ目線で一緒に笑って、
    あなたと寄り添っていたい。

    それだけで私は幸せ。

    陛下。
    今夜もここに……。
    私のところに、帰ってきてね。


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    【短編】本誌設定・夕鈴編「あなたの傍に……」

    ※1月11日の、誕生花は匂い檜葉(においひば)
    「君の傍に生きて」


    空高く
    小鳥達が、可愛らしく鳴く
    午後の麗らかなひと時。


    突然、鳥達が一斉に飛び立った。
    その音に驚いた時、
    鋭い音と共に、私の頬を矢がかすめた。

    四阿の柱に深々と突き刺さる間もなく、次々と雨のように矢が降り注ぐ。

    私は、夢中で四阿を逃げ惑った。
    侍女達を遠ざけた一瞬の隙を襲われたのである。

    「夕鈴っ!」

    名を呼ばれて振り向く間もなく……

    円を描く、煌めく光の軌跡と共に、誰かが、私を四阿から助けだした。

    そのまま四阿の傍の茂みに私達は逃げ込んだ。

    整わない息。
    心臓がバクバクと煩い。

    ちらりと、助けてくれた人物を見ると、
    濃紺の衣がみえた。

    襲われたばかりで、緊張で、表情が固い。

    それでも、助けてくれたお礼を言おうと顔を上げると、助けてくれた人物と視線が、かち合った。

    ……陛下だった。

    「夕鈴、遅れてすまない……
    大丈夫か?」

    優しい気遣う声。
    至近距離で陛下の心配気な表情。

    端正な顔が、心痛で歪んでいた。

    「誰が、無抵抗な君を狙うなど……」

    紅い瞳が、怒りに沸き立つ……

    私は肩に置かれた陛下の手に、私の手をそっと重ねた。

    「陛下!
    私は、大丈夫です。襲われるのは慣れていますから……」

    これ以上、陛下が心配しないように、にっこりと笑ってみせた。

    陛下は、その言葉に、ため息をつきつつ…複雑な表情を見せた。

    陛下の瞳が、スッと暗くなった。

    切り替わる冷酷非情の狼陛下。
    陛下と私に害なす敵を容赦しない。

    纏う気配を変えて、

    「すぐ戻る。
    夕鈴は、ここに隠れていて。
    動かないように。」

    「はい。
    ご無事で……」

    陛下は、私をギュッと抱き締めると、私の傍をスッと離れた。

    抱き締められた時に移った、陛下の移香。
    爽やかで甘い森の中にいるような……
    安心できる陛下の香り。

    陛下が、そばに居なくても、陛下に守られているような絶対的な安心感。

    私は、陛下との約束を守り、茂みの中でじっと陛下を待つ。

    なかなか薄れない香りに、私は気が付いた。

    この茂みは、匂い檜葉の木。
    香りが良い葉の香り。

    陛下の香に、よく似た……爽やかな森の香り。

    偶然とはいえ、なんて心強い。

    考えるのは、陛下のことばかり……

    大丈夫と分かっていても、陛下への心配は尽きない。

    ご無事で。

    いつの間にか、私は胸に重ねた両手を握りしめいた。

    陛下の無事を私は必死に祈る。

    茂みの外に耳をそばだてる。

    …何も聞こえてこない。
    何も状況が、分からない不安を祈りにかえた。

    陛下!

    ……陛下!

    陛下の香りによく似た匂い檜葉が、私を守る。

    私の心を慰める。

    陛下に、抱かれ守られているような安心感。

    なかなか戻らない陛下に、私は不安と焦燥感が増していた。

    それでも匂い檜葉が、その場に私を引き止めていた。




    だいぶ経ってから、
    茂みの外から、私の名を呼ぶ声。

    「夕鈴。
    もう大丈夫だ。
    危険は排除した。
    茂みから、でておいで……」

    陛下の優しい呼ぶ声に、私はようやく茂みから出れた。

    「……陛下。
    ご無事でなによりです。」

    私は、陛下の無事な姿を見てようやくホッと安堵した。
    自然と笑みこぼれる。

    「……ゆうりん。」
    陛下に、引き寄せられて、キツく抱き締められた。
    強く香る陛下の香り。

    甘く爽やかな森の香りが、私を包む。

    「また君を危険な目にあわせてしまった。
    ……すまない。」

    「陛下、謝らないで下さい。
    助けてくれて、ありがとうございます。」

    私は、陛下の背に腕を廻した。

    「君が無事で本当に良かった……」

    陛下の背中が、震えているような気がして、私もギュッと抱き締め返した。


    ただのバイトである私まで、気遣う優しい陛下。

    このまま、ずっと…あなたの傍にいたい。

    どんなに危険であっても、あなたの役にたてるなら……
    私は、あなたの傍で生きていたい。

    この香りにずっと包まれていたい。

    私達は、時が許す限り抱きあっていた。
    お互いの無事を喜び、それぞれの想いを深める。

    私は、知らない。
    私の中に生まれた陛下への想いの名を。

    一つだけ、強い願い。


    ……お願い。

    私をあなたの傍に、ずっと居させて……

    【短編】本誌設定「雪椿」

    とある早朝、
    いつもの政務室への渡り で

    ふと……回廊を渡る
    私の目に留まった。
    純白の雪椿。

    ぽってりと丸い花びらを、
    幾重にも重ねて咲き誇る複弁の花。

    灰色の玄武の庭に、
    一足早い春の彩りを添える冬の花。

    可愛らしく咲く雪椿。
    君に見せたくて、私は庭に降りたった。

    君の為に、
    一番、見目の良い花を選ぶ。

    一輪決めて、慎重に花を手折った。

    手元の花を引き寄せて、花の香りを嗅ぐ。
    先取りの春の香りがした。

    雪より白く、温かみのある純白の大輪花。
    君の髪を彩るに相応しい。

    想いを寄せる彼女のもとに
    私の朝一番のささやかな贈り物。

    傍に控える侍女に

    「この花を花簪にして、妃に届けるように…」

    と手渡した。








    その日の午後。

    政務室に、私の花が
    楚々として咲いている。

    時折、視線を投げかけると、
    視線が合って頬を染めた。

    扇に隠れない赤い顔が初々しい。
    髪には今朝、私が贈ったばかりの雪椿が挿してあった。

    薄紅色に染まった肌に、
    純白の雪椿が良く映える。

    いつまでも、君を見続けて居たいのに
    無粋な側近の咳払いが、邪魔をする。

    「もう少しで、休憩時間となります。
    花を眺めるのは、それからでもよいでしょう?」

    仕事で殺伐とした政務室。
    君という魅力的な花が、私の心を慰める。

    君を臨時の花嫁と知らぬ者は、
    私の切ない想いに気付かない。

    君も然り……

    何も知らない無邪気な瞳で、私の心を射落とす
    罪作りな君。

    私の花嫁の申し分ない
    可愛らしい魅力に
    誰も気付かせたくはないとおもうのに、
    傍で愛でいたいと思う我侭な僕を、誰が責めると言うのだろうか?

    美しく咲く君と言う花は
    私だけのもの
    その髪に挿した雪椿よりも美しい。

    ついつい仕事を忘れて、
    魅入ってしまうのもしかたがない。
     
    私にとって魅力的な花なのだから。

    美しさも罪というなら
    その可愛らしさも罪。

    君の魅力に逆らえぬ私は、
    君が無くてはならないらしい。

    今では、政務室に
    君は欠かせない。

    今日も私は、想い届かぬ花に
    切なくため息を零す一日。





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    【短編】本誌設定「初花―はつはな―」

    「夕鈴……」

    君を引き寄せて抱き締めた

    華奢な身体は、
    簡単に私の腕の中へ収まる。

    「陛下……あの。」

    突然の包容に、
    戸惑いを隠せない君は、
    美しい肌を薄紅色に染めて身じろいだ。

    大きな瞳は羞恥で潤む。

    そんな瞳で、見つめないで…夕鈴。

    簡単に、私の理性など吹き飛んでしまうから。

    私には余裕などないのに、
    あるように見せたいのは何故なのだろう…

    君に恋しているからなのか? 


     
    花で言えば、まだ蕾。

    君のおとがいを指先で捕らえて、
    上向かせ覗き込む。

    「…私の愛しい花」

    「好きだ……夕鈴。」

    王の花は、
    たちまち熱を帯びて、真紅に染まる。

    「私も、お慕いしています……」

    君の耳朶までもが赤い。

    微熱めいた光を灯す
    はしばみ色の大きな瞳。

    愛を紡ぐ可愛い唇は、
    花弁のように赤く染まった。

    私は溢れる愛しさを止められず、
    君に触れた。

    「夕鈴……「ぁ…」」

    赤く染まった顔(かんばせ)
    柔らかな花弁に、私は唇を重ねた。

    息さえも、はばかれる。
    止まったような時間。

    今年、はじめての初花を味わう。

    甘やかで鮮やかな
    君との口付け。

    私だけが、
    手折ることができる
    この喜びを知る

    初花の口付け。

    【短編】本誌設定「こと始め」

    新しい年の幕開けに相応しい朝日。

    私は早朝、まだ夜が明けたばかりの
    後宮の自室をそっと抜け出した。

    (きざはし)をおりて、
    誰にも見つからぬように…目立たぬように歩く。

    目指す場所は、ただひとつ
    陛下の自室。

    この時間なら、もうとっくに起きているはず…
    政務室に向かう準備をしている時間。


    どうしても今朝は
    陛下に一番に会いたかった。

    冬枯れた景色に浮かぶ東雲の空。
    冷たい空気に、身が竦む。
    それでも今すぐ、陛下に会いたい。

    はやる心が、足早にさせる。
    息をはずませて、陛下の自室の扉の前に立った。
     
    ドキドキと早鐘を打つ心臓の音。

    入室を問う私の声に
    扉の向こうの陛下が応えた。

    ゆっくりと扉が、開かれる。

    「おはようございます、陛下。
    明けましておめでとうございます!」

    この一言を、あなたに
    一番に言いたくて…ここまで来たの。

    新しい年の始まりを
    あなたへの挨拶から始めたかったから!

    頬をゆるませて、
    陛下の優しい瞳が私を見つめる。

    「おはよう、夕鈴。
    明けましておめでとう。
    今朝は早いね。」

    とびきりの笑顔と共に、
    新しい年の幕開けを、
    はじまりの挨拶から始めよう。

    「今年も、宜しくお願い致します!」

    あなたと共に……



    【短編】本誌設定・ぴゅあの実『恋に落ちて』

    ほんとうの貴方を知った時
    貴方の優しさに触れた時
    私はあなたに恋に落ちました。

    気づけば戻れないぐらいに
    いつの間にか好きになっていました。


    身分違いの叶わぬ恋
    そんなことは、はじめから分かっていたことなのに

    戸惑う私を
    あなたはいとも容易く壁を乗り越え
    心を奪ってしまった。

    恋に落ちて気付いたの。
    変わってしまった私に

    恋する自分に

    心を占める人はあなただけ…
    恋の甘さを知ってしまったから。

    あなたが心から想う大事な人は誰ですか?

    他の誰かでなく、あなたが想う大事な人は私でありたい…
    そんなことは現実にはありえない。

    夢のまた夢なのに
    どうしても甘い夢を見てしまう。

    ねぇ……神さま。
    夢を見ることぐらいは許されるのでしょう?

    私は恋に落ちました。

    あなたが大好きです。








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