花の四阿

    Lala掲載の『狼陛下の花嫁』二次小説のブログです。某SNSで書き溜めた小説の他・イラスト・詩文・写真・徒然日記・一部鍵つきを掲載しています。

    【長編】楼蘭ー王宮編ー29 ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭 




    楼蘭王宮に激震が走った。


    東の関所と接する敦煌(とんこう)より、東の皇帝の使者が来た。
    定期的に、夕鈴姫の所在確認をする漢の武帝の使者である。

    いつものように、楼蘭国主・比龍王は、謁見だけで事を済ませようとしていた。
    しかし今度の使者は、敦煌より更に東……帝都から来たのだという。

    年頃になった夕鈴姫を、なかなか皇帝に差し出さない楼蘭に痺れを切らし
    武帝は、大変ご立腹だという話だった。

    皇帝の命を受け、夕鈴姫を使者の目で確認し婚儀の日取りを決めて
    報告せねばならないのだという。

    夕鈴姫の父王である比龍王は頭を抱えた。

    …………もう少し。
    娘に自由を与えたかった。


    親心が疼く。
    彼女の行く末を思うと、沈痛な面持ちで瞑目するのだった。


    ……王宮編 30へ・続く



    2016.02.29.改訂
    2012.08.30.初稿 
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    【長編】楼蘭ー王宮編ー30 ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭 




    皇帝の使者が、居なくなった謁見の間で、
    楼蘭国王・比龍王は、物思いに沈み動けないでいた。

    この『楼蘭』は、シルクロードの要衝
    南北の天山北道・天山南道の合流地でもある『交易都市・楼蘭』

    オアシスの豊かな水の恵みは、タクラマカン砂漠を越えてきたキャラバンの人々を癒し、
    そして多くの旅人を、タクラマカン砂漠へと送り出してきた。

    西域地区36ヶ国の内でも特殊な立地条件。
    砂漠において豊かな水の恵みと、貿易による枯渇することのない
    豊かな国庫は他国にとって、あまりにも魅力的だった。

    『楼蘭』を狙う国は多く、たびたび首都は戦の炎に包まれた。
    その都度、騎馬戦上手な『楼蘭軍』が活躍をみせ、国を堅固に守ってきたのである。

    比龍王は深い溜め息を吐き、玉座に疲れたように身を沈めた。
    傍らの空の王妃の玉座を見る。

    比龍王の正妃・藍鈴 妃―あいりん ひ―
    『西方の宝石』と謳われた美しい寵妃は、先の戦で亡くなっていた。

    楼蘭妃のあまりの美しさに、彼女の為に度重なる争奪の戦が起きた程である。

    先の戦も、藍鈴妃が火種だったと噂された。
    最後、楼蘭王宮は炎に包まれ
    正妃は、敵の手に落ちる寸前に自害し尊い命を散らした。

    ……自分の所為で、国が炎に包まれた
    責任を感じての覚悟の自害だったという。

    次々と正妃付きの侍女たちも、それに習い命を散らす。

    炎に包まれた楼蘭王宮。
    正妃の部屋で自らに刃を向けて血の海に沈む女達……

    その地獄のような光景を、幼き日の夕鈴姫は、逃げる間際に見たのだという。
    狂ったように燃え盛る炎と、影絵のような女達の末路。
    深い悲しみに満ちた光景は、今も姫を夢で苦しめる。

    比龍王は、愛する人を守れなかった。
    彼女の自害を止めることが叶わなかった。

    戦に勝ち、攻めてきた敵国を退けたものの……

    王が妃を助けに、王都に着いた頃には、すでに彼女は自害しており、
    炎上する炎に包まれた王宮は焼け落ちる寸前だった。

    年若い侍女、数名に守られて、呆然と炎の王宮を見つめる夕鈴姫を
    父である比龍王が見つけられたのは、奇跡だったのかもしれない。


    その頃から急速に勢力を伸ばしてきた
    漢の帝国の皇帝・武帝。

    その勢いは止まらず、昇竜のごとく拡大する東の強国。
    女・子供でさえも容赦しないという残虐な国。

    そんな不穏な漢帝国が、楼蘭に意外な行動にでる。
    内外共に疲弊し痛手を負った楼蘭王国に、手を差し伸べてきたのである。

    王都が炎上した楼蘭を、漢帝国が武を持って諸外国から守ると提案してきたのである。
    ただし、それにはある条件がついていた。

    条件は、12歳という年若い夕鈴姫を、武帝の寵妃にすること。
    比龍王は、国が疲弊したまま……漢との戦の覚悟で断ろうとした時に、
    異を唱えるものが居た。

    夕鈴姫、本人である。
    必死に、父王を説得したという。

    二度と炎に包まれる母国は、見たくない……
    この身を差し出すだけで、この国が助かるのなら
    喜んで武帝のもとに嫁ぎましょう……と。

    その面差しは亡くなった母にそっくりで、
    父に向ける眼差しの強さは、揺るぎない固い決意が溢れていた。

    ……藍鈴(あいりん)。
    君が、もし生きていたのなら何と言うだろうか?

    「それでも父親ですかっ?」、

    罵倒されそうだな……

    比龍王は、今は主無き空の玉座に、寂しく呟き力なく微笑んだ。

    夕刻のオレンジ色した陽射しが、
    誰も居ない謁見の間に細長く床を輝かせていた。




    ……王宮編・31へ 続く。




    2016.03.01.改訂
    2012.05.30.初稿

    【長編】楼蘭ー王宮編ー31 ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭 




    当時、漢の武帝は26歳、夕鈴姫は12歳。

    一回り以上も年の離れた男の下に、誰が好き好んで嫁にやろうなとど思うものか。
    母を亡くしたばかりの娘を気遣い、比龍王は武帝に嘆願する

    せめて姫が大人になるまで、故郷に留めることを父は願った。



    武帝の間者からの眼の届かぬところ

    漢を恐れた他国が、姫に刺客を送り続けることが予測された。
    他国からの間者からも、眼に届かぬところ

    王家の者と、その一部の神官しか知らぬ場所
    彷徨える湖、ロプ=ノールの離宮に夕鈴姫を隠して早5年。
    その間、自由に過ごせていた夕鈴姫の娘時代は、もうすぐ終わる。

    今の、漢の武帝は31歳、夕鈴姫は17歳。
    開き始めた花の蕾の年頃。
    恋も知らぬであろう娘に、心で比龍王は詫びた。

    王宮に戻れば娘の運命は、確実に変わる。
    動き始めた夕鈴姫の過酷な運命を想うと、父として胸が痛い。

    ……もはや神域ロブ=ノールの奇跡に、娘の運命を委ねるしかなかった。




    「誰か、離宮に使いを…… 
    夕鈴姫を王宮に呼び戻せ!」

    父王・比龍王の断腸の想いの決断。
    重い姫の重責に、誰しも頭を垂れたのだった。



    ……王宮編・32へ 続く。




    2016.03.02.改訂
    2012.08.31.初稿

    【長編】楼蘭ー王宮編ー32 ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭




    楼蘭王の密命を受けた使者の到着の知らせは、
    まだ離宮の夜も明けぬ早朝だった。

    滑らかな絹の掛け布に身を潜りこませ、薄絹の夜着に身包んで
    夕鈴姫は、いつものように寝台でスヤスヤと眠っていた。

    金茶の長い癖のない髪は、扇のように絹の敷布に広がる。
    閉じられた睫は、微かに震えて覚醒の時を待っていた。
    淡い色の唇から微かな寝息……


    夕鈴は離宮の自室 白い帳が幾重にも重なった寝台で、
    ぐっすりと子供のように丸くなって眠っていた。

    ……ひ……さま。 
    ……姫様、お起きください。

    ……ん
    なあに……?
    もう朝なの?

    まだ外は暗いわ?
    どうかしたの?

    夕鈴様。
    王宮から、姫様に密使が参りました。
    楼蘭の将軍が密使です。

    なにやら急用とのことで……
    姫様に、謁見を願い出ております。

    いかが致しますか?

    ……急ぎ。
    お召し物のご用意を……


    昔から、夕鈴付きの侍女の揺り起こす声に気付き
    夕鈴姫は、まどろみから目覚めた。
    寝台から身を起こし、侍女に答える。

    「将軍が密使とは穏やかじゃないわね。
    お父様に、なにかあったのかしら?」

    「急いで会う必要がありますね。
    謁見の用意をしてください。
    教えてくれてありがとう」

    「将軍は、お父様の信も厚い。
    私(わたくし)も、昔から良く知っています」

    「ここで、お会い致しましょう!
    お通しして……」



    姫様、それはいけません。
    ……万が一、武帝のお耳に入りましたら姫様に、災いが起きます。
    どうしてもと仰るなら、
    簡単にでも、お召し替えをお願いいたします。




    夕鈴は、嘆息すると……

    「分かりました。
    急いで着替えましょう……用意をして」

    「支度が出来る間。
    将軍には離宮の湖畔の四阿にて、お待ちくださいと伝えてください」

    夕鈴姫は、そう言い残すと支度をするべく
    奥の続き間へと消えた。


    ……王宮編・33へ 続く



    2016.03.02.改訂
    2012.08.30.初稿 
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    【長編】楼蘭ー王宮編ー33 ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭








    「お久しぶりね。
    蒋(しょう) 将軍、お父様はお元気かしら?」

    離宮の四阿は、まだ夜明け前。
    漆黒の湖に、篝火が明々と四阿を照らす。

    簡素に着替えた夕鈴は、昔なじみの懐かしい将軍の顔を見つけると
    嬉しそうに老将軍に近付いた。

    「姫様。
    火急の用件につき
    早朝からの謁見を、お許しいただきありがとうございます。
    王は変わりなく、お元気でございます。

    それにしても……
    しばらく見ないうちに、益々お美しくなられましたなぁ。
    年々、今は亡きお妃さまに似てきておりますぞ……」

    「将軍、堅苦しい世辞はもうよい。
    それよりも火急の用件とはなにか?」

    「わざわざ……
    将軍が密使とは、穏やかではありませんね」

    「姫様。
    気を確かに、お聴きくだされ
    御父君・楼蘭王より、ご伝言です。

    「皇帝より密使あり
    至急、王宮に戻るように」との仰せです。

    私と共に至急お戻りください。
    王が王宮でお待ちです」

    「そうですか。
    武帝の……」

    「どうやら今回は今までどおりでは、はぐらかせないご様子。
    王の苦渋の御決断。
    姫様、私と共に
    王宮にお戻りくださいませ……」





    「……とうとう時が来たのですね」

    夕鈴は沈鬱な面持ちで、蒋(しょう)  将軍をジッ…と見つめた。

    父と同い年の、この老将軍には、
    何度も忙しい父の代わりに、夕鈴の心を支えてくれた。
    離宮を出るということは、故郷を告げ……親しい人々との別れを意味していた。

    (そう、とうとう……)

    夕鈴の瞳から、ツツー……と涙がひと筋、頬を流れた。

    ……っ

    「~~っ」

    蒋(しょう)  将軍は、静かに泣き始めた姫に親心にも似た胸の痛みが走る。
    娘同然に見守ってきた姫を抱きしめ、謝罪した。

    「姫様っ
    申しわけありませぬ……」

    「私も辛い。
    あなた一人に、国の命運を押し付けるのは……」

    「蒋(しょう)  将軍……
    昔から分っていたことです。
    大人しく参りましょう」

      ……っ

    父のように慕う
    蒋(しょう)  将軍に、やさしく背を慰められながら
    夕鈴の涙は、止まらない。

    頭では分っていても、心が苦しかった。

    ロプ=ロール湖は、対岸が見えないほど濃い朝霧に包まれていた。
    先の見えない景色は、彼女の心にも似て晴れない。

    もうすぐ夜明けが近い
    夕鈴は、昨日と違う新しい一日を迎えようとしていた。

    …………王宮編・34へ 続く。




    2016.03.04.改訂
    2012.08.30.初稿 

    【長編】楼蘭 ―王宮編 34 ※ 要注意! 古代パラレル 王宮編 完

    楼蘭






    蒋(しょう)将軍に優しく背を撫でられながら、夕鈴は昔を思い出していた。

    あれは母を亡くした12歳のある日。
    楼蘭王国に突如現れた東の大帝国・漢の軍勢。

    統率された押し寄せる人の波。
    圧倒される漢の軍事力。
    その軍を束ねる、初めて見た漢の皇帝。

    煌びやかな鎧・兜を身に付け
    雄牛のような大きな軍馬に跨り、夕鈴を馬上から見下ろした。

    「そなたが、楼蘭王の娘、夕鈴姫か?
    なるほど母親に、面差しがよく似ておるな……」

    夕鈴に興味がひかれた武帝は、
    馬上から降りて、夕鈴に近付いてきた。


    「髪の色は、父譲りか。
    藍鈴姫(あいりんひめ)は美しい黒髪だったな。
    だが、そなたは綺麗な金茶の髪をしておる」

    冷たく値踏みされるような武帝の視線。
    不躾なほど、しげしげと見られて、亡き母と比べられる夕鈴。

    冷たい視線に晒され……
    ただ武帝に対し“怖い……”という感情がうまれていた。

    「国を救いたいか!? 
    夕鈴姫」

    突然の武帝の問いに、幼き日の夕鈴姫には、すぐに理解できない。
    何も答えられず……武帝の話だけが、淡々と先に進んでいく。

    圧倒的な国力の差を見せ付けられて
    夕鈴が、選ぶべきものは何もなかった。

    「選べ。
    国の未来か!?
    …そなたの未来か!?」

    ……っ

    「国を選ぶなら、そなたは私に嫁ぐがよい。
    さすれば、祖国は余が守ろう。
    断るのなら、この場で楼蘭王国を滅ぼす。

    嫌なら私の寵妃になるがいい……
    どちらを選ぶ?
    夕鈴姫」

    拒否権など、もとより無い。
    はじめから質問の答えなど、わかっている茶番だった。

    「私の国を守ってください……」

    青ざめ震える12歳の夕鈴の幼い唇に、武帝の唇が触れた。
    冷たい契約の口付けだった。

    武帝との口付けは、閉ざされた未来の契約。
    背筋につめたい冷や汗を感じて、ガタガタ震える眠れぬ夜を過ごしたあの日。

    あの日と同じ戦慄と悪寒。
    武帝との忌わしく重い記憶が蘇るごとに、
    思い出すのは黎翔との甘やかな口付けの記憶。


    ――――黎翔様っ!!!

    夕鈴は遙か遠く……砂漠を旅する楼蘭に向かう愛しい黎翔に想いを馳せ、
    新たな涙を流すのだった。

    彼女もまた、定められた運命の道を歩み始める。

    幼き日から彼女をずっと守っていた、ロブ=ノールの離宮を離れ……
    産まれ故郷・父王の待つ王宮へと旅立つのだった。


    ―王宮編・完―

    …続く。



    2016.03.04.改訂
    2012.08.31.初稿 続きを読む