花の四阿

    Lala掲載の『狼陛下の花嫁』二次小説のブログです。某SNSで書き溜めた小説の他・イラスト・詩文・写真・徒然日記・一部鍵つきを掲載しています。

    【長編】楼蘭ー離宮編ー17  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭







    夜の離宮を彩る
    オレンジ色した沢山の篝火(かがりび)

    砂漠の凍えた空気を暖め
    客人(まろうど)をもてなす  

    夜を照らす 暖かな灯りに
    皆の気持ちも和らぐ

    年若い女主人の離宮だけあって
    華やかで、繊細な異国情緒あふれる調度品。

    東西の商人たちが、一同に集まる 
    シルクロードの要衝都市・楼蘭ならではの異国の品が
    品良く部屋に配置されていて……
    主の趣味の良さが心地良い。

    離宮の湖で飼われている孔雀の尾羽が部屋の片隅の
    大降りの青染付けの中国花瓶に挿してあった

    上手(かみて)の隅には五本爪の双龍染付けの大きな花瓶に
    オレンジの娯楽鳥花と様々な木花が華やかに活けてある。

    大降りの繊細な鋳物の香呂から、薫り高い伽羅の香りが部屋に香った。 

    湖からの少し冷たい夜風が、孔雀の羽と伽羅の煙を揺らす。

    はるか西の国ペルシアからはるばる商人が運んできたであろう。
    何枚もの繊細な模様の美しい絨毯が、部屋の床に敷き詰められていた。

    壁にも装飾として、美しい刺繍の布が飾られている
    大き目の窓辺には、一幅の絵のような夜の星空を映す湖の眺望……

    部屋の絨毯に いくつも重ねられた大き目のクッション
    金糸銀糸で刺繍された花鳥柄が、煌びやかで美しい。

    床で寛ぐスタイルは
    南国を模したここの女主人の趣味だという。

    黎翔は、クッションに凭れ掛かり、
    爽やかなオレンジの実を齧(かじ)りながら、
    離宮の女主人・美しい夕鈴姫の登場を待っていた。





    明日は、とうとう楼蘭の首都へ旅立つ。
    ……最後の砂漠越えをする出発の日。

    (滞在のお礼と、お別れの挨拶をしなければ)

    黎翔の気持ちは、出立の晴れやかさとはかけ離れ、ひどく沈んでいた。
    夕鈴姫との別れの時は砂時計のごとく、さらさらと残り少なくなってゆく。



    ……18へ続


    2016.02.10.改訂
    2012.08.21.初稿 続きを読む
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    【長編】楼蘭ー離宮編ー18  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭






    部屋に近づく 密やかな衣擦れの音
    上品な花の優しい香りが黎翔の鼻をくすぐる

    部屋の入り口に立て掛けてある
    繊細な透かし彫りの衝立の向こうに、チラチラと隙間見える淡い女物の衣の色。

    いやが応にも、彼の期待は切ないほどに高まっていく。
    それだけで愚かな恋心は、彼の胸をドキドキと高鳴らせていた。




    ……シャラン。

    女主人の登場を期待させる
    涼やかな貴金属の擦れた音が、広間の場の空気を一変させた。


    夕鈴姫の登場を知らせる 
    控えめな侍女の先触れの声が広間に響く。

    黎翔は逸る気持ちを押さえきれず、彼女を入り口まで出迎えた。

    夕鈴姫は、普段の慎ましやかな衣装とは違い、
    今宵は、出会いを彷彿とさせる胸元を大きく開けた女性を意識させる衣装で現れた。

    歩くたびに、チラリと幾重にも重ねた薄紅の薄衣から、スラリとした白い脚が透けて……
    今宵の大胆な姫の衣装に黎翔は、ますます胸の鼓動が跳ね上がるのを抑えられなかった。

    美しい花の顔(かんばせ)は、瞳を伏せ気味にして頬に睫毛の濃い影を落としている。
    感情豊かな瞳は今は影になり見えない。
    篝火に揺れる睫の影さえも、黎翔には愛おしい。
    白檀に螺鈿細工の扇で、目元から下の顔が隠されていたが上品な姫の美しさは隠しきれなかった。

    印象的な彼女の白い額(ひたい)に、映える鮮やかな紅の赤い花押(かおう)。
    伏せ気味の目元にも 同じ色で化粧が施され、赤い縁取りがなされていた。
    エキゾチックで、艶ややかな目元。


    篝火に輝く豊かな金茶の髪は、半分を背に流し、もう半分を複雑に高く結い上げている。
    金と銀と七宝の玉を連ねた長い簪を数本髪に挿していた。
    背に流した髪に沿って連なる玉の飾りは流れ落ち、彼女が首を傾げる毎にシャラ…シャラとした涼やかな音を鳴らす。
    耳元の髪には、あの日湖で咲いていた一輪の赤い花が、髪に彩りを添えて、かぐわしい香りを薫らせていた。

    舞姫のような見たことも無い、柔らかな色彩が溢れる繊細な衣装。

    異国情緒溢れる薄い布は、幾重にも豪華に色を重ね、
    下に着ている 絹の薄紫のドレスを 透けて見せている。

    特に胸元が大胆だった。
    まろみを帯びた双丘が1/3見えており、柔らかく身体を包む。

    開いた胸元には、七宝とカットされた宝石が輝く。
    繊細な金細工のネックレスが胸元に華をそえていた。

    細かい鳳凰の刺繍が施された羽織ものは
    薄羽根の蜻蛉のごとく透けており、細い手足も華奢な手首も透けて見える。
    黎翔には、彼女自身が華やかに輝く宝玉のように見えた。

    先ほどの入室前の涼やかな音の正体は、
    華奢(きゃしゃ)な手首に、幾重(いくえ)にも重(つら)ねられた、繊細で細い金細工の腕輪から……
    彼女が動くたびに涼やかな綺麗な音が奏でられた。

    黎翔は彼女を迎え入れる為、夕鈴姫に手を差し出した。

    「珀 黎翔殿。
    出迎えありがとうございます。
    お待たせ致しましたか?」

    夕鈴姫の鈴の音のような可愛いらしい声が、黎翔の胸を喜びで満たした。
    差し伸べた黎翔の手に、そっと重ねられた優美な白い小さな手。

    扇で隠されていた花の顔(かんばせ)が現れた。
    匂いたつがごとく上気したバラ色の頬。
    うっすらと色づき密やかに生きづく、陶磁器のような滑らかな白い肌。

    夢見るような柔らかなはしばみ色の瞳は、黎翔を間近で見つめていた。
    彼だけを見つめる視線に、黎翔は胸を熱くさせる。

    愛しの姫の登場に、黎翔はうまく言葉が出ない。
    言葉の代わりに重ねられた手に、ゆっくりと賛辞の口付けを贈った。



    ……19へ続く


    2016.02.14.改訂
    2012.08.21.初稿

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    【長編】楼蘭ー離宮編ー19  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭





    黎翔に誘(いざな)われ、夕鈴姫が優雅に宴席の中央を横切る

    南国の香木・伽羅の香りと姫の優しい花の香りが部屋を包んでいった。
    ふわふわと姫の後ろには、優雅に踊るようにたなびく幾重もの薄衣(薄ごろも)

    豪華な衣装に身を包みながら、軽やかな彼女らしさを失っていない。
    楼蘭王国の王女らしく気品溢れる美しい微笑みで、客人達の視線を集めていた。

    その姿に、黎翔は嫉妬していた。
    その微笑みのすべてが……
    彼女の柔らかな眼差しが……
    自分に向いていて欲しいと願った。
    彼女の瞳に、私以外の者など映したくないと思った。

    やがて短すぎる誘いの時は過ぎ、あっという間に姫の席へと着いた。
    黎翔は、当然とばかりに姫の隣に席を着く
    重ねられた手に名残惜しいものを感じながら、黎翔は姫の手を離した。

    (明日から姫の姿が見られなくなる……)

    姫に会えなくなる例えようもない淋しさを、
    引き裂かれる苦しみを、黎翔は既に感じていた。

    (――姫と離れたくない)

    姫と初めて出会ったあの日のことを鮮やかに思い出す。
    そして、離宮で過ごした素晴らしい数日間。

    楽しかっただけに余計に夕鈴姫と別れ難かった。
    夕鈴姫の手を再び取り、その美しい花の顔(かんばせ)を熱く、じっと見つめる黎翔。

    黎翔に見つめられて、ぽっ…と頬を赤く染める夕鈴姫。

    「……あの?
    いかがなされましたか、珀殿?」

    「今宵の姫は……とてもお美しい。
    貴女の美しさに、今宵の月は恥じいるでしょう」

    「…ぁ//////ありがとうございます」

    至近距離での賞賛の賛辞と握られたまま離さない手に、
    困ったように手元と黎翔の顔を交互に見る夕鈴姫。

    (困った顔も愛らしい)

    そんなことを黎翔が考えていると、姫と視線がかち合った。
    とたん夕鈴姫は、ますます頬を赤らめた。

    (ああ……
    なんて可愛らしいんだ)

    ここにいたのは、「白陽国 国王 珀 黎翔」ではなく
    麗(うるわ)しい夕鈴姫に恋する一途(いちず)な青年だった。



    ……20へ続く



    2016.02.14.改訂

    【長編】楼蘭ー離宮編ー20  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭






    「姫…ひとつ。
    願い事があるのだが……」

    「……?
    何でしょう?
    私に出来ることがあれば、なんなりと……」 

    引き寄せた柔らかな手に恭しく口付けると
    やや緊張した面持ちで、擦れた声で夕鈴姫に囁いた。

    「夕鈴姫……・
    私はこの数日の間に、夢のような時をここで過ごすことができました。
    それは貴女との出会いが、もたらした幸せ。

    この数日の間……・
    私は貴女の信頼を得られましたでしょうか?」 

    黎翔は、ひと言ずつ区切り夕鈴姫に囁いた。
    姫の返事を真摯に待った。

    姫の手に自分の手を重ね目を閉じて、その時を待つ。
    気分は、審判を待つ者のようで、ドキドキと不安な動悸が治まらない。

    「はい。
    私も楽しゅうございました」

    「最初は、盗賊かと思いましたが……・
    今では信頼しております、珀 黎翔殿」

    姫の言葉に、黎翔は喜んだが。
    しかし、黎翔は切なげに柳眉を寄せた。
    再び、姫の白い指先に口付ける

    「夕鈴姫……ありがとうございます。
    では是非“名前”で呼んでいただきたい。
    ……「黎翔」と」

    真っ直ぐな焔の瞳が彼女を映す。
    その力強い瞳に、夕鈴姫は魅入られた。
    重ねられた黎翔の手を、熱く感じたのだった。

    夕鈴姫は乞われるがまま、舌に黎翔の名を乗せ、呟いてみる

    「・・・・れい・・しょう・・・どの」

    「ただの黎翔でよいのです。
    姫」

    「・・・・れいしょ・・・う・さま」

    「それでは、先ほどとかわりませぬ。
    黎翔と!」

    「……れ…いしょう」

    「黎翔」

    姫の口から紡がれる自分の名
    その甘美な響きに、黎翔は心から笑みが零れた。

    夕鈴姫は、乞われるがまま何度も名を呼んだ。
    名を呼ぶ度に、小犬のように嬉しそうに笑う黎翔。
    辺境の神殿に居る自分に、まして訳ありの姫に言い寄る異性など居ない。

    自分が、名を呼ぶだけでこんなにも喜ぶ男性を夕鈴姫は見たことが無かった。
    彼の笑顔に魅力を感じてドキドキとする甘酸っぱい感情の名を知らずに……
    夕鈴姫は、目の前に居る黎翔に頬を染めて、繰り返し彼の名を呼んでいた。

    生まれて初めて名前だけで呼んだ異性の名に…………自分が驚く。
    黎翔という名前を舌に乗せ、もう一度、目の前の青年を呼ぶ

    「黎翔」

    夕鈴姫は、その名の持つ
    意外な効果と甘い響きに次第に酔いしれていった……。

    自分に呼ばれて、本当に嬉しそうに微笑む黎翔。

    客人としてしか意識していなかった黎翔が、
    夕鈴姫の中で一人の男性として認識された瞬間だった。

    ……21へ・続く



    2016.02.17.改訂
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    【長編】楼蘭ー離宮編ー21  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭 






    「それと、もう一つ……お願いしたい。
    私も、“夕鈴”とお呼びしても良いだろうか?」

    「はい、黎翔様。
    どうぞ、お好きにお呼びください」

    聞き馴れた自分の名が、黎翔の口から紡がれると
    ドキドキとした甘い胸の動悸を感じて、夕鈴姫は軽い眩暈を覚えた。

    「夕鈴。
    私は明日の朝、楼蘭へと出立いたします。

    その前に、貴女と初めて出会ったあの場所で
    ……二人っきりで、お会いしたい」

    「湖の畔のあの場所ですか?
    何故?」

    初めて彼と出会った出来事は、
    夕鈴姫にとって、思い出すだけで恥ずかしい出来事……
    瞬く間に、顔の火照りを感じ手元の扇で顔を隠した。



    だけど隠しきれない姫の耳朶が、赤いことに気づいた黎翔は笑み零れる。
    姫を愛しげ見つめると、更に微笑むのだった。

    「夕鈴…………」

    躊躇い無い瞳で、真っ直ぐに彼女の瞳を見つめた。

    彼女を愛しいと思う気持ちは、もう押さえきれない。
    黎翔は、国へこのまま彼女を連れ去りたかった。


    「少々、事情が変わりました。
    はじまりの場所から、貴女とやり直したいのです」

    「…………」

    「夕鈴。
    私は貴女に打ち明けなければならない。

    私自身のことを……
    私の内なる気持ちを……」

    「黎翔様……」

    秘密を抱えている夕鈴姫の心の警鐘が鳴る

    (……これ以上、聞いてはいけない気がする)

    真摯な彼の面持ちに興味を持った夕鈴は、
    彼のことがもっと知りたいという好奇心を止められなかった。

    黎翔の――聞いて欲しい話とは、いったい何だろうか?



    「黎翔様。
    ここで話せないことなのですか?」

    大きなハシバミ色の瞳が、真っ直ぐに黎翔を見つめ返し問いかける。
    夕鈴の揺れる瞳に、不安と動揺が入り混じる。
    黎翔は無言で頷き、安心させるように姫の指先に口付けた。

    「今夜、あの場所で全てお話します」

    二人っきりで……

    「わかりました」

    「黎翔様が、そこまで願うのであれば……
    はじまりの場所へ行きましょう」

    「離宮の裏口に、駱駝を用意させます。
    待ち合わせは、そこでよろしいでしょうか?」

    「感謝します。
    夕鈴」

    ロブ=ノールの運命の車輪は、廻り続ける。
    誰も二人の運命を止められない。






    ……21へ・続く



    2016.02.20.改訂

    【長編】楼蘭ー離宮編ー22  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭 





    今宵も澄み切った砂漠の夜空に 降るような輝く星々
    キラキラと宝石よりも輝き、夜空を彩る。

    ロプ=ノールの天鏡は星空を切り取り、湖面はもう一つの夜空のように輝きだす。

    漆黒の夜空に輝く、満天の星空と……
    天空の星々の輝きを映す、星空の反転した水鏡と……

    悠久の時間である過去の星の光命と、今を瞬く人々の光命
    相反し交錯する時の輝きを 今に映し出す天の鏡

    ロプ=ノールの星鏡

    幻の湖の幻の景色に誘われるかのように
    黎翔と夕鈴の二人は、先ほどの約束のままに、はじまりの場所に着いた。

    「寒くは、ありませんか?
    夕鈴」

    「平気です。
    ここは生まれ育った土地。
    夜の砂漠は、慣れております」

    椰子の葉擦れの音がサヤサヤと……
    二人がはじめて出会った湖の畔あたりで、黎翔は駱駝の足を止めた。

    「足元が、暗い。
    夕鈴、気をつけて……」

    黎翔は、駱駝から先に降り
    夕鈴姫の腰を支え、降りるのを手伝った。

    「ありがとう。
    黎翔様」

    一瞬、黎翔の胸に夕鈴は飛び込んだが
    すぐに、パッと離れてしまった。
    そのことが、黎翔には少し寂しく思う。

    「綺麗ですね」

    黎翔の少し先を歩く、夕鈴を呼び止める。
    目の前は、ロブ=ノールの湖が見渡せる開けた場所。

    遠く離宮の篝火も美しく水面を彩っていた。

    「ええ……
    ここは、いつ見ても美しい場所(ところ)。
    朝も昼も夜も……」

    「私の心静かになれる場所。
    何時、どんな時も……」

    夕鈴は、胸に両手を重ねて、静かに瞳を閉じた。
    まるで星鏡に祈るような仕草は、はじめて出会った印象のままで……

    黎翔には、穢れない水の乙女のように見えた。
    どうして、こんなにも彼女のことが気になるのだろうか?
    物悲しく儚げなその様子に、黎翔は不安を掻きたてられた。


    「ここで夕鈴。
    貴女と出会って、私は幸運だった。
    おかげで、命拾いをしました。
    改めて感謝申し上げます」

    黎翔は、夕鈴姫の足元に跪き、その衣に口付けた。

    「黎翔様」

    「ここで……貴方とお会いしたことが数日前のこととは……
    時とは、短いものですね。
    私も、お会いできて良かった。
    お連れの皆様も、誰一人欠けることなく、ご無事で良かったです」

    「夕鈴、ほらまた
    お約束が違います。
    「黎翔」と呼んで欲しいと約束したはず……」

    「どちらでも、良いではないですか?
    きちんと、お名前で呼んでおります!
    これからも私の呼びたいように呼ばせていただきますわ!」

    口を尖らせ、子供のようにプイッと怒り出す夕鈴。
    その姿は、先ほどの姫君然とした宴の面影はなかった。

    「クッ……
    やはり夕鈴は面白い!!!」

    実に楽しそうに、黎翔は屈託無く笑った。
    先ほどの姫君然とした彼女も好きだが、
    生き生きとした表情をする今のほうが夕鈴らしく、黎翔は好きだった。

    取り澄ました顔だけの姫君より、ずっといい。
    彼女は見ているだけで楽しくなる。
    見ていて飽きない。
    仮面をつけて妃に名乗りを揚げる母国の女たちには正直、黎翔はウンザリしていた。

    自分の足元で、自分を笑う黎翔に、夕鈴は顔を更に赤くして怒った。

    「……なっ!!!」



    「黎翔様!!! 
    面白いって失礼ですわ!
    しかも、そんなに笑うだなんて……」


    「私を、からかう為に連れ出したのでしたら」
    私、離宮に帰らせていただきます」

    きびすを返して帰ろうとする夕鈴の手首を、黎翔は捕らえた。
    そのまま……
    彼女を手中に捕らえた。

    「離してください!!
    黎翔様!!!」

    怒った夕鈴は、黎翔を振り払おうとしたが振り払えない。
    緩やかな抱擁でありながら、振りほどけない力で引き止められた。

    「離して!!!」

    激昂する彼女を更に抱き寄せ、彼は強く抱きしめた。
    暴れる夕鈴の耳元で、黎翔は囁く。

    「すまない。
    怒らせてしまったか?
    からかってなどいない」

    「むしろ貴女が好ましくて、褒めていたのだか……」

    「面白いが……
    お国では褒め言葉ですの?
    そんなの、おかしいわ」

    「夕鈴、ホントに悪かった……。
    笑うつもりは、まったく無かったんだ」

    耳元で、囁かれた黎翔の言葉は、夕鈴の心を柔らかく打つ。
    激昂していた彼女も、しだいに、心が凪いでいった。
    はじめ暴れていた彼女は、今では黎翔の声に耳を傾け、身を任せるようになっていた。



    なぜなら、彼は、もう笑ってなどなく、
    真面目で真摯ないつもの彼に戻っていたから。

    夕鈴姫が、信頼する珀黎翔に……
    夜風に揺れる星鏡が、二人の心の様を映しているようだった。





    ……23へ・続く


    2016.02.20.改訂

    【長編】楼蘭ー離宮編ー23  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭 




    「夕鈴姫。
    無礼を承知で、このまま聞いてほしい」

    黎翔の夕鈴を抱きしめる腕に、力が籠もる

    夕鈴は呼吸もままならないほど、きつく抱きしめられて
    気が遠くなりそうになりながらも……
    彼の言葉をひたすら待った。

    その言葉は彼女に思いがけない茨の呪縛を与える。

    「私は白陽国の国王。
    珀 黎翔」

    「黎翔様が国王様……」

    呆然と青褪めて身を強張らせる夕鈴。
    彼女が黙している彼女の秘密と、黎翔の告白の事の重大さに
    血の気が引く思いで、彼女は耳をそばだてた。

    腕の中の彼女が、身を強張らせるのを感じつつ……
    黎翔は覚悟を決めて、先の言葉を続ける。

    「タクラマカンの西の都・カシュガルよりも、
    遥か遠い国を、私が治めている。

    故あって楼蘭王国の王に会う為に、
    はるばる砂漠を越えてきたのだが……
    慣れない砂漠で道に迷い、
    偶然、貴女に助けられた」

    「姫……夕鈴姫。
    今まで、貴女に黙っていたことをお許し願いたい」

    「夕鈴、貴女を愛しております。
    貴女を国に連れ帰り、私の妻にしたい」

    「明日の早朝、楼蘭の王都へ向け出立いたします。
    貴方の父上に、結婚の承諾をもらってこよう」

    「楼蘭王国を去る時には、貴女を国に連れて帰りたい。
    夕鈴、どうか……是と言ってほしい」

    星明りが浮かぶロプ=ノールを背に
    黎翔は胸に迸る想いを夕鈴に告げ……

    「……夕鈴」

    ……ぁ。

    言葉では伝えきれない気持ちを込めて、
    腕の中の彼女の柔らかな唇を奪うと、そのまま情熱の口付けをするのだった。


    ……24へ・続く。


    2016.02.21..改訂

    【長編】楼蘭ー離宮編ー24  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭 




    夕鈴は、黎翔との初めての口付けに困惑していた。

    本来なら、はじめて意識した異性との熱い口付けは、
    恋する乙女ならば、すべてが薔薇色に満ちて幸せになるはずなのに……

    「……ゃ!
    ダメ、黎翔様!」

    何故だろう
    ……忍び寄る不安。

    “いけない!”
    警鐘が割れ鐘のごとく、頭の中で大きく鳴り響く。

    足元から地に吸い込まれそうな……
    そんな喪失感と、絶望感。

    愛する人を愛せない
    私には、それが許されない。

    砂漠を吹きすさぶ夜風が、夕鈴の心を凍らせる

    恋を知ったばかりの彼女には残酷だった。

    彼女は知っていた。
    この恋は実らない。
    実らせるわけにはいかない。



    自分の手で幸せを壊す、定められた未来に忍び寄る影。
    未来に起こりうる出来事に、彼女は胸を痛め、身体が小刻みに震えた。
    運命が、軋んだ音をたてて廻り始めた気がした。

    黎翔の甘く蕩けるような口付けを受けながら……
    彼の愛に応えることは出来なかった。
    愛する彼の求婚に応える日は、永久に来ない。

    いつの間にか、夕鈴の眦(まなじり)から静かな涙が伝った。
    止まらない涙が溢れる……次から次へと彼女の頬を冷たい涙が流れた。

    この恋を忘れなければ……

    自分と黎翔との恋は永遠に実らない。
    彼の国に、自分は嫁ぐことは無いだろう。

    ……何故なら、もう自分の運命は定められているのだから。

    夕鈴は、芽生えたばかりの恋を失うのが、とても辛く悲しかった。
    彼女の冷たい涙は、いつの間にか黎翔をも濡らしていた。


    ……25へ・続く



    2016.02.21.改訂

    【長編】楼蘭ー離宮編ー25  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭 






    昼間は熱砂の砂漠の夜は、凍えるように寒い。
    冷たい夜が、二人を包む。

    ロプ=ノールの星鏡に、夜風か吹き渡り、水面に細波(さざなみ)が立つ
    星鏡は、歪んだ天空を映しだしていた。

    …………まるで、夕鈴の心のように。








    いつの間にか、離れた二人の唇。
    黎翔は、静かに涙を溢(こぼ)す夕鈴を深く胸に抱きしめ、
    姫の言葉を静かに待った。

    時おり夕鈴の泣き濡れた頬に、優しく口付けをして優しく囁く 
    「愛しています」 の言霊と共に……

    優しければ優しいほど、夕鈴の恋心はジクジクと痛み出す。
    もはや自身では、立っていられない身体を
    かろうじて黎翔に支えてもらっていた。




    ……っ。



    もう少し早くお会いしたかった……





    消え入るように呟いた、彼女の言葉を黎翔は聞き逃さなかった。
    その言葉は、黎翔に向けたものではなく、
    自分自身に呟いたものだと分った。


    「ごめんな……さぃ……」

    静かな涙は今や嗚咽(おえつ)に替わり 静かに切なく泣き崩れる夕鈴。
    黎翔の胸を切なく締め付ける彼女の姿。

    黎翔は訳も分からず…………
    ただ愛しい彼女の髪を梳き、涙が止まるまで慰めるしか手はなかった。




    ……26へ・続く。




    2016.02.22.改訂

    【長編】楼蘭ー離宮編ー26  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭 



    夕鈴は泣き疲れ
    身体が妙に、だるく重く感じた。

    とろとろと、薄れいく……意識の中で・
    黎翔の声を聞いた。

    「私は、もう貴女に
    この思いを隠そうとはしない」

    「夕鈴姫……否
    夕鈴」

    「何故そのように涙する?
    答えてくれ夕鈴」

    「先ほどの君の涙は悲しみの涙だった。
    私の求婚に応ええられない理由は、何故だ?」

    「君をここまで苦しめる。
    秘密とは……いったい?」

    「答えてくれ!
    夕鈴」

    今は、何も考えたくなかった。
    過去も今も未来も。
    眠りにこの身を任せたいのに、彼は許してくれなさそうだ。

    空っぽの意識のなか夕鈴の耳に、黎翔の悲痛な叫びだけが響く


    彼女は、黎翔の問いに答えなかった。

    ……沈黙の時間が流れる。

    すべては、愛する貴方・黎翔の為。
    滑りゆく意識の中で、夕鈴は夢で答えた。






    ――――――私は、国の為に嫁がなければならない。
              第29番目の寵妃として……    
               皇帝の待つ 東の強国へ嫁ぐの。

    ――――――黎翔様。
              好きよ。

    ――――――たぶん、初めてお会いしたときから。
              気付くのが、遅かったけれど
                出会うのが、遅すぎたけれど

    ――――――貴方に恋して良かった。
              この想いを胸に秘めて、かの国に嫁ぐことができる。

                黎翔様。
                   ……ありがとう


    ――――――だから許して……
              何も告げることの出来ない私を。
               貴方を、私の運命に巻き込みたくないの。





    ――――――だから、忘れて。
              お願い……私のことを。

    ――――――ロプ=ノールの星鏡が見せた夢だとおもって……
            私ははじめから幻なの……



    ……27へ・続く。



    2016.02.24.改訂

    【長編】楼蘭ー離宮編ー27  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭 



    黎翔の腕の中で気絶するかのように、意識を手放した夕鈴。
    その顔は悲しみに満ちて、未だ止まらぬ涙が頬を濡らす。

    意識を失う間際に
    ようやく聞き出せた彼女の秘密

    ぽつり……ぽつり……と、ところどころようやく聞き取れた。
    彼女の言葉の欠片を繋ぎ合わせると……
    どうやら国の為に、何処かへと嫁ぐらしい。

    嫁ぎ先が決まった娘は、他の男の目から隠される。
    楼蘭国王が愛娘を、この離宮に隠したのもそんな理由からだろう。

    黎翔の衣服を、しっかりと握り締め、彼にすべてを委ねる夕鈴。
    国の命運を一人で背負うつもりだったのだろう。
    楼蘭王女としてのプライドが、そうさせたのかもしれない。



    まだ……間に合う。
    君は、未だ嫁いではいない。
    君の憂いを、取り除くとあの日決めていたんだ。

    夕鈴……待っていて。
    必ず私のもとへ
    白陽国に連れて帰るから……



    華奢な彼女の身体を抱え直し、その瞼に口付けた。
    震える睫に夜露のような大粒の涙が、ひと粒輝く。
    黎翔の唇に触れて消えた、その涙は彼女の切ない悲しみの味がした……

    痛々しいその姿に、黎翔は決意を新たにするのだった。



    ……28へ・続く


    2016.02.24.改訂

    【長編】楼蘭ー離宮編ー28  ※要注意!!!古代パラレル  離宮編・完

    楼蘭 




    白み始めた天空の空
    まだ朝陽が昇らぬ ロプ=ノール湖畔。

    先ほどまで輝いていた星鏡は、もう湖面のどこにも無い。
    夜のヴェールから昼の装いへと……刻々と変化する湖。
      
    ロプ=ノールに、また新しい一日が始まろうとしたいた。


    水面に、静かに影を落とす一対の青鷺。
    あの日の青鷺なのだろうか?

    水中を探り、仲睦まじく寄り添い歩く。

    どうやら、朝食の時間らしい……
    静かに凪ぐ朝の湖面に、穏やかな風が吹く




    腕の中の姫の温かなぬくもりが、今は切なく辛い。

    黎翔は、確かな絆が欲しくて彼女を抱き締める。
    君は私と、心通わせる時間をくれなかった。

    未だ、涙の痕が残る頬を優しく撫でる
    滑らかな手触りと柔らかな頬の感触。

    切ない想いが、黎翔の心を
    キュッと締め付けた。






    昨夜の切ない嗚咽の声と、抱きしめた彼女の肩の震え
    星鏡のロプ=ノールに 儚く消えたその美しい涙

    抱きしめて、抱き寄せても……
    かき消えてしまうのではなかろうかと、不安になって、
    何度も何度も、彼女を抱き寄せ口付けた。

    触れあう温もりだけが、彼の確かだった。

    もうすぐ朝陽が昇る
    生き物たちの寝覚めの気配。

    楼蘭の首都「楼蘭」への出立の刻限が迫る
    未だ目覚めぬ、愛しい人との別れの時間が恨めしい。

    陽が昇れば、白陽国・国王 珀 黎翔と 
    楼蘭王国 王女 夕鈴姫に、戻らなくてはならない。

    陽の光が、湖水を輝かせるまで、あと数刻なのが恨めしい
    二人が、背負うべきしがらみが無い刻を過ごせる時間は、あと僅か。







    黎翔は、未だ目覚めぬ愛しい人に口付ける。

    ――――涙で彩られた睫が、美しく煌く瞼に……

    ――――柔らかな曲線に沿って、いまだ消えぬ涙の痕が残る頬に……

    ――――朝日に輝く、朝露に濡れたようなバラ色の唇に……

    黎翔は、僅かな時を惜しんだ。

    番いの鳥が優しく相手を啄ばむように、黎翔が夕鈴に口付けを贈る。




    ……君の憂いは、僕が晴らす。
    夕鈴、君を愛してる。
    ……誓おう
    必ず君を迎えに来るから……






    新たな願いを叶える為に……首都・楼蘭へ
    すべての鍵は、彼女の父。
    楼蘭国王・比龍王が握る。

    朝日が、ロプ=ノールを輝かせる。
    夜明けの湖は、青空を映し始めた。

    輝く青の湖面から、澄んだ風が二人を包む。

    すでにロブ=ノールの運命の車輪は、
    強く二人を結び付けて、静かに廻り始めていた。


                    ー離宮編・完ー


    ……離宮編・外伝1へ 続く

    ……本編・王宮編 29へ・続く


    2016.02.25.改訂
    2012.08.29.初稿

    【長編】『楼蘭』ー離宮編・外伝1― ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭外伝 






    今宵も、ロプ=ノールの星鏡が美しい。

    夕鈴姫は、離宮の湖に張り出した四阿に居た。
    湖面に響く静かで切ない二胡の調べ……

    花の顔(かんばせ)は四阿に置かれた篝火に照らされ、
    彫りの深い顔立ちに濃い陰影を作る。

    今は閉じられた、はしばみ色の瞳。

    どこか切ない音色は、夜の湖を渡る……
    風に乗って、その調べは何処へ行くのか?








    突然、二胡の音色が途絶えた。
    夕鈴は、物憂げな眼差しで、ロプ=ノールの星鏡を眺める。

    楽器を、傍らに床置いた。
    二胡は、これからの自分に必要な“教養”なのだと父が話していた。

    二胡も、上手く演奏できるようになった。
    香も、練れるようになった。
    あちら風の刺繍も、綺麗に入れられるようになった。

    だけど唯一、恋愛だけが分からなかった。
    誰も教えてくれなかったし
    知らなくてもいい……と自分は思っていた。

    自分の人生に、恋は望んではいけなかった。

    ――――だけど知ってしまった。

    ……予期せぬ
    甘い恋の味を。



    夕鈴は、耳朶に触れた。
    彼女の耳には、対であるはずの翡翠の耳飾りの片方が無くなっていた。

    外された耳環は、今朝出立したばかりの黎翔の耳朶にあったのを、
    彼女は思い出していた。

    琅玕(ろうかん)の美しい、シンプルな造りの翡翠の耳環は、
    ロプ=ノールの湖の緑を写し取ったような鮮やかな緑色。

    トロリとした瑞々しいその耳飾りは、夕鈴のお気に入りの耳環だった。

    そういえば黎翔様に会う時は、必ずしてたっけ…

    残された冷たい耳飾りに触れながら、彼と過ごした日々を思い出す。
    湖面に美しい月が映っていた。

    揺らぐ月影に、彼の笑顔を思い出す。

    「……また、会えるかしら?
    でも、その頃には……」

    私は嫁いでいるのかもしれない。
    もう会えないのかも。

    欠けた魂を探すように、心は黎翔を求めていた。



    いつの間に耳飾が、外されていたのかしら?

    きっと昨晩、彼と会った時なのだろう。

    彼に求婚され、何度も口付けられた唇が熱を持つ。

    今は、どのあたりを旅しているのかしら?

    王都までは、5日間かかる。
    黎翔様は、今朝出立したばかり…

    夕鈴は瞳を閉じて、残された片耳の翡翠の耳環に触れた。
    二人を結びつけるものは、もうこの対の片方の耳環だけだった。

    夕鈴の瞼の裏に焼きついている鮮やかな今朝の彼の凛々しい姿。
    彼の片耳に、この対の耳環があった…

    昨晩の出来事を再び思い出す。
    彼の腕の中で、何度も口付けられた記憶が蘇り、切なく心も身体も熱くなった。

    黎翔様
    旅のご無事を祈っております……

    星鏡の湖に願いを込め、夕鈴は片割れの耳環を愛おしそうに、ひと撫でした。


    月も星も穏やかに彼女の願いを聞いていた。


                     -完-


    ……離宮編・外伝2へ 続く



    2016.02.26.改訂 続きを読む

    【長編】『楼蘭』ー離宮編・外伝2― ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭外伝 






    ――――砂漠の夜は、凍えるほど寒い。

    薄墨の濃淡のある砂山が、連なるように地平線に広がる

    キャラバンは、駱駝の乾いた糞を燃料にわずかな暖を採った。
    輪の中心の暖かな焔は、皆の心を和ませる。

    黎翔は、砂漠を彩る星々の明りを見上げた。
    夜空は、昨夜のロプ=ノールの湖畔を思い出す。

    黎翔は、そっと焚き火の輪を離れ……一人砂漠の頂きに佇む。

    ……君は、今どうしているのだろう?

    少しでも、私との別れを惜しんでいるのだろうか?

    星鏡の湖の畔に住む、美しい人を思い出す……


    黎翔の耳に着けた彼女の翡翠の耳飾り。

    その色は、彼女と出会った湖の色

    天空を流れた星に願いを込めて

    耳飾りに触る。

    「…………夕鈴」

    万感の思いで呟いた黎翔の言葉は、
    冷たい砂漠の夜風に消えた。


    彼の心は、砂漠を越えて……遥か。

    煌めく星々だけが、黎翔の思いを知っていた。 


                    -完-



    2016.02.27.改訂