花の四阿

    Lala掲載の『狼陛下の花嫁』二次小説のブログです。某SNSで書き溜めた小説の他・イラスト・詩文・写真・徒然日記・一部鍵つきを掲載しています。

    【長編】楼蘭ー邂逅編ー 1  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭






    灼熱の太陽は容赦なく、大地を焦がし、
    砂漠を進む旅人たちを、衰弱させる。

    ようやく登りきった砂山の山頂から、旅人が見た落胆の景色。

    ……砂……砂……砂……す…な。

    あたり一面、乾いた砂漠が続く。


    はるか地平線まで、続く砂丘の砂原。
    陽炎揺らめく砂の景色は……砂漠を旅する人々の方向感覚を狂わせる。




    目印一つ。

    ――草木の一本も生えぬ不毛な大地。






    ここタクラマカンの影となって、黙々とキャラバンは進む。

    ウィグル語で、「タッキリ・死」「マカン・無限」

    「生きては戻れぬ死の砂漠」とは、よく名づけたものである。


    この砂漠で、道に迷ったのだろうか?

    時折、足元の砂に埋もれ
    白い骨を晒した動物の屍が横たわる
    その脇を無言で進むキャラバン。

    先を急ぐ人々に「次はお前の番だ」 と、屍は告ぐ

    旅人たちの脳裏に「死の砂漠」タクラマカンの異名が、ちらつく。
    道に迷えば、即“死”に繋がる。

    駱駝に乗った人々は、死を覚悟して砂漠を旅する

    陽射しを避ける日よけのフードを目深(まぶかに)に被り……
    男たちは、先を急ぐ。





    ーーーー悠久の交易都市「楼蘭ーろうらんー」を目指して



    ……2へ続く

    2015.08.23..改訂
    012.08.15.初稿




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    【長編】楼蘭ー邂逅編ー 2  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭






    砂漠のはるか彼方に横たわる
    雄大に霞む大山脈

    タリム盆地にそびえる

    北に、天山
    てんざん山脈。

    南に、崑崙
    こんろん山脈。

    真夏にも、かかわらず真っ白な雪化粧を冠した大山脈が地平線に輝く。


    その山並みを目指しながら進むキャラバンの影。
    もう数日間で旅の目的地である“楼蘭“に着くはずだった……

    砂漠を旅する男たちの足取りは、ひどく重い。

    天山南路を、西に……国を出てから、
    もう何日、旅したことだろう?

    降水量の極端に少ない不毛の大地、

    水を湛えるオアシスが、少なく
    旅人たちの手持ちの水が、もう尽きそうだった。

    水が残り少ないことが、旅人たちを焦らせ
    初めて砂漠越えに挑むキャラバンを、道に迷わせた。

    このままでは、タクラマカンの名前どうり
    死の砂漠の餌食になってしまう……

    焦るキャラバンの人々は、生き延びる為
    命の水を湛えるオアシスを捜していた。

    ……3へ続く

    2015.08.23.改訂
    2012.08.12.初稿



    【長編】楼蘭ー邂逅編ー 3  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭






    照りつける砂丘の僅かばかりの影に寄り添い、しばしの休憩をする駱駝の群れ。
    キャラバンの屈強な戦士が、一人の青年に水袋を差し出した。

    「……黎翔様。
    飲み水をお飲みください。」

    「いや、私は大丈夫だ。
    それよりも、お前が飲め。
    先ほどから、水を一滴も口にしていないではないか」

    水袋の受け取りを拒否して、黎翔と呼ばれた青年は
    差し出した戦士に、水を勧めた。

    「いえ、私は平気です。
    それにオアシスに着けば、幾らでも飲めますゆえ……」

    「……すまぬ。
    残り少ない貴重な水だ。
    水を欲している者に、私の分も分け与えてくれ……」

    黎翔は、歩き疲れた人々を見渡し、苦しそうに顔を歪めた。
    皆、疲れきった顔をしていた。

    「浩大の先発隊の報告では、もうそろそろ休憩できるオアシスがあるらしい。
    皆の者、今しばらく水を我慢してくれ」

    商人らしくない力強い激が飛ぶ……

    目深に被った日よけフードから、力強い光を放つ紅い双眸と
    商人にしては、端整な美しい顔立ちが垣間見えた。

    どうやら、この青年がキャラバンを率いるリーダーだった。





    タクラマカンの西にある小国“白陽国”
    近年、内戦が続いていたその国は、新しい国王に代替わりをしてからというもの
    めきめきと国力をつけてきていた。

    内戦を制圧し、若いながらも国内外に“冷酷非情の狼陛下”との異名を轟かす国王。

    珀 黎翔陛下その人が、商人に姿を窶やつ
    し、
    少数精鋭の部隊のみを引き連れて、このタクラマカンの大砂漠を越えようとしていた。

    ところが運の悪いことに、砂漠越えの知識を持つ、道案内の商人とはぐれ、
    砂漠のど真ん中で道に迷ってしまった。

    更に運の悪いことに、砂漠越えの経験をした者が部隊に居なかったこともあり……
    乏しい水を分け与えつつ、あてどなくキャラバンはオアシスを探していた。

    陽炎が立ち上る……砂の大地。

    容赦なく吹きすさぶ熱風と果てしなく終らぬ水の無い旅は、
    さすがに屈強な戦士たちの体力を、少しずつ着実に削ぎとっていった。

    もはやオアシスが見つからねば、部隊の全滅は時間の問題だった。

    部隊を引き連れた国王・黎翔も、
    本当はカラカラに咽喉が渇いて水を欲していた。

    しかし自分以上に水を飲むのを我慢して、
    国王である自分を信じて、ついてきてくれる部下たちに水を残したかった。

    (……きっと、もうすぐオアシスが見つかる)

    激を飛ばす黎翔は、砂漠の向こうに必ず青い清冽な水を湛えたオアシスがあると信じて、疑わなかった。
    力強く皆を励ます国王に、キャラバンの誰一人として明るい希望を失っていなかったのである。

    ……4へ続く

    2015.08.23.改訂
    2012.08.12.初稿

    【長編】楼蘭ー邂逅編ー 4  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭






    雨雲一つ見えない快晴。
    ギラギラ……と、照りつける太陽が恨めしい。

    熱風逆巻く、砂漠の果てしない青空に、黎翔は2羽の鳥が飛んでいるのを見つけた。

    水を湛えたオアシスが近い証に、乾ききった旅人たちの瞳が輝く。
    急いで大空を優雅に舞う二羽の鳥を目指して、黎翔達はキャラバンの進む方向を変えた。

    まだ、点にしか見えない鳥の辺りは、幾つもの大砂丘に阻まれ、
    オアシスの存在の欠片さえも見えない。

    水を求めていた旅人たちには、二羽の鳥が神の導きに見え……
    誰もが「これで水が飲める……」 そんな安堵の顔をしていた。

    幾つかの大きな砂丘を越えた時……

    ようやく砂とは違う、青く光る天藍(てんらん)の色
    砂漠にぽっかりと出現した青く輝く水と涼やかな木陰の緑のオアシス。

    誰からともなく、歓喜の声が湧いた。
    中には、涙ぐむ者も……

    湿った水の確かな匂いに、誰しもが咽喉を鳴らした。

    近くて、遠いこの距離がもどかしい。
    砂に足を取られ、思うようにキャラバンはオアシスに進めなかった。


    ようやく緑の影が、椰子の木だと分る距離に来て、はじめて黎翔はキャラバンを止めた。

    このような荒れた不毛の土地のオアシスは、盗賊や無法者が多い。
    他に、どんな危険が待ち受けているのかが、分からなかった。

    ここは、白陽国の国内などではなく、国外なのだ。
    オアシスの安全を確かめるべく、誰か偵察をして安全を確かめてから
    オアシスに向うのがセオリーだろう。

    皆の反対を押し切って、キャラバンで 一番元気な国王・黎翔が、
    オアシスの偵察に、一人向かう事となった。

    そこに彼の運命が、待ち受けているとも知らずに……。

    ……5へ続く

    2015.08.25.改訂
    2012.11.13.初稿

    【長編】楼蘭ー邂逅編ー 5  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭




    砂塵が舞う……熱く赤い砂丘から
    黎翔は、砂漠に強い駱駝を乗りこなし砂丘を疾風のごとく駆けくだる

    乾いた砂は、砂埃をたてて駱駝の足を絡め取る

    脆く不安定な砂の大地は、簡単にサラサラ……と崩れ
    黎翔の行く手を阻んでいた

    オアシスを隔てる砂の砂丘はあと一つ

    やっと昇り切った、頂からオアシスを望む

    オアシスの湛える水は
    砂漠の風景をにじませ
    景色の輪郭を朧気にする

    輝く緑のオアシス
    湛える水は、空の青  天藍(てんらん)に輝き
    潤いの恵みは、木々を豊かに茂らせ緑に彩る

    近づくにつれ、濃く香る水の匂いに

    (これで皆が助かる……)

    黎翔は、そう思った。


    ……6へ続く。


    2015.08.26.改訂
    2012.11.12.初稿

    【長編】楼蘭ー邂逅編ー 6  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭






    雲ひとつ無い大空に空高く舞う、仲の良い二羽の鳥たち
    乾いた赤い砂塵が舞う砂漠の一角で、大きな円を描くように飛んでいた。

    最初、空の染みのように小さく見えていた鳥は、
    今や何の鳥か判別できるほど近くで飛んでいる。
    逆光で影としてしか見えなかった鳥が、青鷺の類だったことを黎翔は知った。

    鷺ならば、必ず近くに水辺があるはず……黎翔の読みは当たった。

    砂漠の乾いた空から
    青鷺が、急転直下で砂漠に舞い降りた。

    その青鷺を追いかけて……

    ようやく黎翔は、砂丘に隠された青いオアシスを見つけた。

    小さいオアシスが見つかればよいと思っていた黎翔は、そのオアシスの大きさに驚く。
    砂丘に沿って豊かな水を湛えるオアシスは、遠くに水平線が見えていた。

    思っていた以上に、溢れる水を湛えたオアシス。
    もうここはオアシスというより、湖と言っても差し支えなかった。

    黎翔は、首をひねった。

    (こんな湖、地図にあったか?)

    国を出る時も、道案内の商人からも、砂漠にこんな大きな湖が存在するなど聞いていなかった。
    これだけ広い湖ならば、地図にも載っていてよさそうなのに地図には、湖の存在など記されていなかったと記憶していた。





    黎翔の胸に、水を見つけた喜びが湧き上がる。
    逸る気持ちを抑えて、砂漠からオアシスへと足を踏み入れた。
    もちろん、細心の注意を払って

    湛える豊富な水の煌めき
    その中で、優雅に舞い踊る二羽の青鷺

    番(つがい)だろうか?
    仲睦まじく、舞い遊ぶ
    その姿が、ほほえましい。







    黎翔は、周囲の様子に目を疑った。
    目の前の風景が、黎翔自身 信じられなかった。

    「ここは、いったい?」

    砂漠の湖は対岸が見えない。
    浅瀬の青鷺の姿の先は、陽炎(かげろう)にゆらぎ霞(かす)む湖。

    緑濃い木々は 水の豊富さの証。

    何より信じられなかったのは、
    そこに集う鳥達だった。

    水の気配濃い空気に
    赤や黄、桃色、白、オレンジ、青など、極彩色の花をつける満開の木々

    その木々の間を縫うように
    ふるふると羽を扇のように広げ、求愛の踊りを踊る
    崑崙山脈を越えた南の国に棲むはずの孔雀たち

    白や七色の孔雀が、緑の岸辺を歩いていた。

    (……ここは、どこだ。)

    黎翔は、夢を見ているようだった。



    ……7へ続く


    2015.08.27.改訂
    2012.11.12.初稿

    【長編】楼蘭ー邂逅編ー 7  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭



    黎翔は、砂漠の夢から醒めるために
    ……吸い寄せられるように湖に近づいた。

    衣服が、水に濡れることも厭わずに
    湖の端に、膝(ひざ)まずき、
    日よけのフードを後ろに 払いのけると
    両手で、水を掬(すく)い 顔を洗った。

    日焼けで火照った肌に、冷たい清水が心地よい。
    砂漠の熱で、廻らなくなった頭が、少しずつ冷えてくる……

    それでもまだ、夢から醒(さ)めない
    ……まだ、冷やし足りない。

    黎翔は、乾いた咽喉(のど)を潤すため、水面に口をつけて
    咽喉を鳴らしながら、ごくごくと水を飲んだ。

    何時ぶりだろうか?
    水の残りを気にせず、思う存分 水を口にするのは?

    口元から零れる水は、黎翔の咽喉(のど)を伝い
    胸元に流れ落ち 衣服を濡らした。

    ――――それでもかまわなかった。

    乾いた身体が欲するままに……水を思うまま飲んだ。

    冷たい清水は、舌に甘く感じる。
    黎翔が、口にしてきたどんな美酒よりも、美味かった。

    ふぅ~~

    黎翔は、水にひとしきり満足して、思わず安堵のため息が零れた。
    ようやく生き返った気分だった。




    ……8へ続く。



    2015.08.29.改訂
    2012.11.00.初稿

    【長編】楼蘭ー邂逅編ー 8  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭



    ようやく冷静さを取り戻した黎翔。

    蓄積された知識と
    記憶を照らし合わせ
    答えを導き出そうとする頭脳

    ……いったい、ここは何処なのか?

    天国のような醒めない夢に、疑問が残るもののの
    砂漠に残してきた部下たちも気になる。

    皆、黎翔の報告を待っていることだろう。

    黎翔の警戒心を忘れない鋭い眼光が周囲を探る。
    瞳を凝らす。
    オアシスの安全を見極めようと耳を澄ます。

    黎翔の五感に感じるのは……
    静寂に包まれた濃厚な水の匂い。
    空の色した静寂の湖と……水鳥と孔雀たちの気配。

    当初の役割を果たすために、周囲の探索をすると
    別に、危険な野党などの気配もなく安全な場所らしい。

    今度は、慎重に腰の皮袋を取り出して、黎翔は水を汲み始めた。
    砂漠で待つ、部下たちの為に……

    キラキラと輝く透明な水が、皮袋に入っていく。
    水を汲みながらも、黎翔は周囲に警戒心を怠らない。

    黎翔は、李順からの楼蘭王国の知識を思い出していった。


    もしかしたら、ここは……


    うろ覚えながらも、
    心当たりのある記憶が手繰り寄せられた。

    ……ロプ=ノール。
    タクラマカン砂漠の彷徨える湖。

    黎翔の頭に、昔語りで知った……
    一つの幻の地名が浮かんだ。


    ……9へ続く


    2015.08.29.改訂
    2012.11.00.初稿

    【長編】楼蘭ー邂逅編ー 9  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭






    ……ぴちゃん

    静寂の場を破り、水鳥がたてた音ではない水音を 黎翔の耳が拾った。
    警戒しつつ周囲を探るも 水音以外、特に変わった様子がない。

    ……ちゃぷん。

    静寂の湖に、響き渡る鮮明な水の音。

    日よけのフードを目深に被りなおし
    腰の剣に手をかける。

    警戒しつつ、水音のするほうへ黎翔は歩みよる

    少しづつ足音を無くし 音のほうへ
    茂みに紛れジリジリ・・と 気配を消して近づく。

    盗賊かと、赤い花の咲く木の茂みの陰から 黎翔が湖を覗くと・・・

    孔雀が遊ぶ花の岸辺の近くの水辺で

    うら若き乙女の水浴び。
    目深に被った薄く透けるヴェールから覗く
    艶やかな絹糸のような金茶の濡れ髪。

    癖のない豊かな髪を背に流し
    強い日差しに、髪の輪郭は黄金色に輝く

    湖に、腰まで浸かり
    冷たい清水に身を沈める、白い肢体。
    水に濡れた衣は、身体に張り付き、悩ましい身体の線を浮き上がらせる。
    衣の貼りついた遠目からでも分かる白い肌。

    水に濡れた透けた衣から、キラキラと水滴が滴る
    水滴は空中で小さないくつもの虹をつくり、霧散していた。

    この世のものとは思えぬ、儚くも美しい娘
    砂漠の湖で出会った瑞々しい乙女に、黎翔は天啓のような衝撃を覚えていた。

    彼女から、目が離せない。
    黎翔は、高鳴る胸の鼓動を抑えきれなかった。


    ――顔が見たい。



    想像もしていなかった乙女の存在に、黎翔は気をとられ
    気配を消すのを忘れたのだった。



    ……10へ続く


    2016.01.03.改訂
    2012.11.00.初稿
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    【長編】楼蘭―邂逅編― 10  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭



    今まで優雅に舞い、遊んでいた青鷺達が激しく羽ばたき
    黎翔を警戒して、けたたましく 鳴きだした。
    つられて、孔雀達も 鋭く鳴き出す。
    静寂を破る 鳥達の声

    何?
    ……どうしたの?

    静かな湖に、劈(つんざ)くような鳥たちの警戒音が響き渡る。
    激しく羽ばたき、水面を叩く 青鷺。

    鳥達の警戒は、ただ一点…
    黎翔に 向かっていた。

    耳を塞ぎたくなるような その鳴き声に
    気配を気付かれた、黎翔は歯噛みする。

    鳥たちの鳴き声に 緊張を露にした
    水の乙女が、湖岸を鋭く振り向いた。

    金茶の髪が、振り向きざまにふわりと舞う。
    ふっくらとした頬に、鼻筋の通った美しい顔(かんばせ)。

    遠目の薄いベール越しでも、はっきりと顔立ちが分かる。

    今は、鳥たちの騒ぎに柳眉は寄せられ、不安な弧を描き。
    はしばみ色した大きな瞳には、鋭い警戒の色が滲む。

    言い知れぬ不安に、頬は強張(こわば)り 青ざめ気味に
    唇を白くなるほどかみ締めていた。

    ……素早く周囲を見渡す瞳が、人影をとらえた。

    その大きな瞳が…
    木陰いる不審な男を見つける。
    大きな剣を携えた 黒いフードの男。
    目深に被った日よけのフードからは、紅い瞳が覗いていた。

    男は腰に履いた剣に 手を当てている。
     危害をくわえるつもりなのか?
    瞳に映る、陽光に反射する鋭い光を放つ剣。

    誰?
    ……刺客?
    それとも、盗賊? 

    「……誰っ?
    そこにいるのは!!!」

    先ほどの儚く優しげな雰囲気とは、異なり
    厳しい誰何(すいか)の声が飛ぶ。

    「出て来なさい。
    フードを取り、顔を見せなさい!!!」


    けたたましい鳥達の鳴き声の中、
    その声は、黎翔の耳にハッキリと届いた。


    ……11へ続く。




    2016.01.03.改訂
    2012.11.00.初稿
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    【長編】楼蘭―邂逅編― 11  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭






    水の乙女の厳しい誰何(すいか)の声に、自分が不審人物に思われたことを知る。

    この状況では、仕方無いことなのだが……
    何故だろう、そのことに“ ツキン ” と、自分の胸が痛い。

    彼女のはしばみ色した大きな瞳が、黎翔を射るように見つめていた。
    お互いに、瞳を逸らさない。逸らせない。

    探りあう瞳。

    ――――視線が外せない。

    ……緊迫した時間の中、お互いをしばらく見つめていた。





    腰まで、水に浸かった彼女のその姿。

    水浴び中だった為 乙女の身体は濡れそぼり
    身体に巻きつけた薄いベールは、意味もなく身体に貼りつき透けていた。

    少女のような未成熟なその身体
    まだ硬い果実のようなその双丘も・・・
    その先端の蕾のような色合いの先端も・・・

    大人にまだ、なりきれていないなだらかな身体のラインも……
    濡れたベール越しに、すべてを黎翔に晒されていた。

    乾いたばかりの柔らかそうな金茶の髪が、
    黄金色(こがねいろ)に風に輝く……

    自分の無防備なその姿に 気づいていないのだろうか?
    そんな姿で男の前にいるというのに、身体を隠そうともせずに
    背筋をピンと伸ばし、黎翔を警戒するその勇気。

    女神の如く神々しいほどのまばゆい気品を全身に放ち
    その瞳に宿した強い勇気とプライドに 黎翔は惹きつけられた。

    (この私に、気丈にも相対して威嚇している。……面白い。)

    そのことに黎翔は、強い興味を覚えた。




    ……12へ続く。



    2016.01.06.改訂
    2012.11.00.初稿

    【長編】楼蘭―邂逅編― 12  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭




    水滴に彩られた
    彼女の誰何(すいか)の求めに応じ
    黎翔は、茂みから素直に彼女の前に姿を現した。

    警戒を解くために、わざと腰の剣から大げさに手を離す。

    「すまない。
    君を驚かすつもりはなかった」

    謝罪し日よけのフードを、後ろへとなぎ払う。
    彼女に顔を見せるなど、愚かな盗賊ならしないであろう。

    数十日間もの間、砂漠を旅してきたであろう日焼けした浅黒い肌。
    品のある西の国の衣装と、黒い日よけマント姿の若い男。

    漆黒の短髪と、優しい光を帯びた瞳。
    生き生きと輝く紅い双貌が印象的な男らしい精悍な顔つき。

    遠目でそれだけが、彼女の知り得る情報だった。

    当然といえば当然。
    彼女は、まだ警戒を解かない。

    「あなたは、いったい誰なのですか?」

    更なる追求の声。
    顔に滲む不安の色を、微塵も感じさせない声に黎翔は驚く。

    凛とした涼やかな声。
    落ち着いたその声に、静かな怒りが滲む。

    人を従わせるのに慣れた言葉遣い。
    気品ある立ち居振る舞いと犯しがたい雰囲気に目を見張る。

    こんな場所で水浴びをしているのだから、土地の村娘かとも思ったが……
    もしや身分の高い娘なのか?


    惜しいな。
    ……彼女の弾んだ笑い声が聞きたい。

    初めて出会う娘に、そんな考えが浮かび黎翔は、一人苦笑する。

    「私は、珀 黎翔。
    タクラマカンより西の白陽国から来た」

    黎翔は、なぜか偽りの名を彼女に教えたくなかった。

    彼女の口から偽りの名前で呼ばれたくないと思った。

    彼女には、本名で呼ばれたいと、そう強く願った。

    それが、恋とは知らず……

    「砂漠を越えて、楼蘭王国に向かっていたのだが……
    道に迷ったらしい」

    「水が尽きかけて困っている
    まだ砂漠に仲間がいて、死にかけている。
    助けては、くれないだろうか?」

    まだ他に仲間が……
    私に、助けてと?

    「では盗賊や
    刺客の類ではないのですね!」

    「神に誓って ……
    私たちは断じて盗賊や刺客ではない」

    「確かに……貴方の服装は、カシュガルより西の国のご衣装。
    わかりました。
    私に、助けを請うたのも何かのご縁。

    貴方を信じましょう。
    珀 黎翔殿」


    ……13へ続く

    2016.01.07.改訂
    2012.08.09.初稿

    【長編】楼蘭ー邂逅編ー 13  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭





    薄いベールから滴る雫が、輝き砕けながら落ちていく。
    彼女の強張った身体から、緊張の色が消えた。

    警戒の色の濃い鋭い瞳から、
    柔らかで煙るような優しい色合いのはしばみ色した瞳に変わる

    極度の緊張が解けて、上気しはじめた顔(かんばせ)は、
    黎翔には、可憐な花の咲き始めを思わせた。

    咲き初めの薔薇のような色をした柔らかそうな頬
    薄くれないの瑞々しい蓮のような唇は弧を描き
    彼に、優しく柔らかく微笑んでくれた。

    涼やかな鈴の音のような美しい声が、黎翔の耳に届く
    彼女の眩しい笑顔に、黎翔も微笑むのだった。

    「珀 黎翔殿。
    ここは、ロプ=ノール。」

    「砂漠を1600年周期で移動する幻湖。
    タクラマカン砂漠の伝説のさまよえる湖ですわ」

    「そして、わたくしは西域地区36ヶ国のうちの一つ。
    シルクロードの要衝・楼蘭王国の現国王・比龍王の一人娘・夕鈴です」

    「ようこそ我が王国へ・・・・珀 黎翔殿 幸運でございました。
    砂漠で迷われて、ここロブ=ノールの離宮に辿り着ける者は稀です」

    「聞けば、お困りのご様子」

    「砂漠の仲間と共にしばし、ここに留まりなさい
    わたくしの離宮にて、客人としてもてなしましょう」

    「楼蘭王国の首都までは、まだ距離があります。
    砂漠越えが出来る体力が回復されるまで、癒されるが良いでしょう」








    ……14へ続く

     2016.01.09..改訂

    【長編】楼蘭ー邂逅編ー 14  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭





    「但し、私の客人になるのに、一つだけ条件がございます」

    わずかに柳眉を寄せて、
    静かで物悲しげな夕鈴姫の声が続く。

    「ここでの滞在期間中、見聞きしたことは
    秘密にしていただきたいのです」

    「特に私が、ここに居ることを秘密にしてほしいのです。
    この条件が、守れるならば…客人として手厚くもてなしましょう」

    物悲し気な夕鈴姫のその様子は、
    酷く黎翔の胸を騒がせた。

    「もちろん、秘密に致しましょう。
    ここのことは勿論、姫のことも誰にも洩らしません。
    お約束致します」

    「ですが……夕鈴姫。
    貴方の様子が、私は気になる」

    「とても悲しげで……
    是非、訳をお聞かせ願いたい」

    意外な申し出に、夕鈴姫は驚き黎翔を見た。

    確かに国の者にも言えぬ、重い憂いを抱えいる。
    誰かに吐露したいとも思っていた。

    しかし国を支える国王の娘が、弱音を吐くことは許されないと考えていた。
    不安を隠し、姫としてふるまうこと。

    与えられた役割を果たすために、
    父上の元を離れ、ここに隠れて暮らしている。

    共の者さえ知らない自分の心を、
    珀 黎翔という若者に見抜かれるとは……。

    見透かされたことは、恥ずべきことだった。
    だが身勝手でも、誰かに打ち明けて……、心を軽くしたいとも思っていた。
    見ず知らずの旅人。

    ましてや、今日会ったばかりの親切な人に話すことは、憚(はばか)られた。

    (できれば、巻き込みたくない……)

    それは、夕鈴姫なりの優しさだった。
    彼女は、しばし迷い……彼の提案を、断る言葉を探した。



    ……15へ続く



    2016.01.10.改訂
    2012.11.20..初稿

    【長編】楼蘭ー邂逅編ー 15  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭




    「…………っ。
    できれば、話したくはありません」

    「聞けば、こちらの事情に巻き込まれることでしょう。
    珀殿の為でも、あるのです。
    分かっていただけますか?」

    ハシバミ色の瞳の色を更に深くして、夕鈴姫は懇願した。

    黎翔は、納得いかなかったが、
    姫の彼に対する心優しさに免じて 今、聞き出すことを諦めた。

    しばらく姫の離宮に滞在することになった。
    もしかしたら、その間に姫の事情を聞き出せるかも知れない。

    その望みに賭けた。
    その為には、姫の信頼を勝ち得なければ……

    (夕鈴姫の憂いを取り除きたい!)

    黎翔は、唇を噛み締め、強く決心した。



    ――――そう願い、黎翔は姫を熱く見詰めた。

    夕暮れ迫るロブ=ノール湖が、美しい薔薇色に染まる。
    風が、小さな漣をたてた。


    黎翔は、彼女の異変に気がついた。
    微かに身体が震えているような気がする。

    ひやりとした空気に、砂漠の夜が近づいていたことを知る。
    そういえば、いつから夕鈴姫は、湖に入ったままなのだろうか?

    黎翔は、急にそのことが気になってきたのだった。

    ……16へ続く



    2016.01.26.改訂
    2012.11.20..初稿

    【長編】楼蘭ー邂逅編ー 16  ※要注意!!!古代パラレル     邂逅編・完

    楼蘭







    黎翔は、夕鈴姫の身体を気遣い 声をかけた。

    「夕鈴姫。
    もう、そろそろ水から出た方がいい。
    夜が近づいている。
    あなたの身体に良くない」





    黎翔からの指摘により、
    夕鈴は自分の身体が、震えていることに初めて気が付いた。
    それと同時に、自分がどんな姿で彼と相対峙していたのかを知る。

    夕鈴姫は自分の姿に、ハッ…と気がつくと、
    羞恥で大きく身体が震えだした。

    気付いた途端に、
    ガタガタと大きく膝が震えて、膝から崩れ折れそうになる。

    かろうじて踏みとどまったのは、せっかく乾いた衣が
    水に透けるのが嫌だったから……

    同時に、全身が朱に染まる。
    恥ずかしすぎて・・・景色が涙で滲んだ。

    突然の夕鈴姫の様子に、黎翔が姫に駆け寄ろうとした。

    「来ては、ダメっ!!」

    羞恥に震える彼女の必死な叫びに、黎翔の足が止まった。

    「珀殿……わたくしは、大丈夫。
    ……しかし、このままでは、
    わたくしは、水からあがれません」

    「しばらくの間、わたくしが良いというまで
    ……砂漠の向こうを、向いていてくれませぬか?」

    全身を朱に染めて必死でお願いしている夕鈴姫。
    先ほどの威厳も、神々しさも、今は微塵も感じられない。

    今すぐ、恥ずかしくて消え入りたい。
    そんな彼女の気持ちが、黎翔には感じられた。

    (……面白い)

    姫君にしては、素直すぎる感情の機微を黎翔は気に入った。
    嘘をつけな性格らしく、鮮やかに表情が生き生きと変わる。

    可愛らしい彼女の仕草が庇護欲をそそる
    今頃、恥ずかしがるその様子に、黎翔は苦笑した。

    なんと、アンバランスな姫だ。

    夕鈴姫の願いを叶えるべく、少し離れて黎翔は湖を背にした。

    「ああ……すまなかった。
    後ろを向いたが、これで良いか?」

    「……はい。
    では、そちらに参りますゆえ、
    身支度が整うまで、そうしていてくださいませ」




    夕鈴姫のたてる水音を聞きながら、
    こみあげる笑いを押さえ切れない黎翔だった。


                 ー邂逅編・完ー


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    2016.01.26.改訂
    2012.11.20..初稿



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