花の四阿

    Lala掲載の『狼陛下の花嫁』二次小説のブログです。某SNSで書き溜めた小説の他・イラスト・詩文・写真・徒然日記・一部鍵つきを掲載しています。

    【長編】『楼蘭―風の行方―』 52  ※要注意!古代パラレル

    楼蘭



    ストゥーパの長い影が、楼蘭の水源の湖にかかる。
    砂漠を渡る風は湖で冷やされ、夕鈴の髪を優しく乱した。

    はしばみ色の大きな瞳は、わずかな光を残して消えようとしている
    砂漠の太陽を見詰める。

    物心ついたころの一番古い記憶と何一つ変わらない夕暮れ
    悠久の時の流れを感じる楼蘭の街並み。

    墨流しの空に、美しい一番星が光り輝く。
    過去と変わらぬ星の光。

    日中の謁見の緊張感も今は、ほぐれ……
    穏やかな暮れなずむ空を、ただ…静かに見守る夕鈴姫。

    かけひき上手な漢の将軍。
    ロブ=ノールで別れ、きちんと約束を守ってくれた黎翔国王。

    真昼の強烈な残像が夕陽と共に静かに消えていく。

    ほぅ……

    思わず零れた夕鈴姫の安堵の溜め息は、風にかき消され儚く消えた。











    最後の一条が砂漠の向こうに消えた頃。

    夕鈴姫は、ふと気がついた。
    どこからか聞こえる馬頭琴の寂しげな音色…

    物悲しく心震わす琴(きん)の音色は、間違いない。
    父…比龍王のもの。

    母を想い、奏でられる馬頭琴に誘われるように、
    夕鈴姫は自ら王宮の湖へと、せり出した四阿の方へ
    吸い寄せられていくように自室を抜け出した。


    馬頭琴の音色が流れる四阿に居たのは、やはり父・比龍王だった…

    自分と同じ金茶の髪を、しっとりとした夜風に靡かせて、琴を奏でている。

    謁見では、親子としての対面を、あまり実感出来なかった夕鈴姫。
    四阿の入り口で改めて、父王を見つめた。

    髪に白いものが混じり…
    王としての激務からか、その顔に深い皺が刻み込まれていた。

    年老いた父。

    幼き頃、武帝から隠し
    王宮から逃げるように立ち去った楼蘭。

    その間、夕鈴姫は父王とは、ほとんど会えなかった。

    父と会えない分だけ、武帝から身を隠せた。
    知らぬ間に父から自由を貰った。

    年老いた父を見つめる夕鈴姫。

    会えなかった日々。
    淋しかった離宮での想い出。

    私以上に妻も子も居なかった父は、どのような日々を一人王宮で過ごしていたのだろうか?

    こんな風に馬頭琴をかき鳴らして
    淋しさを紛らわせていたのだろうか?

    いつの間にか夕鈴姫の両頬を静かな涙が濡らしていた。


    四阿の入り口で近づくことさえ出来ない夕鈴は、
    父王を見つめて、ただ一人涙するのだった。


    ……53へ 続く



    2017年 02月21日改訂
    2013年 09月26日初稿


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    【長編】『楼蘭―風の行方―』 53 ※要注意!古代パラレル


    楼蘭







    「どうした夕鈴?
    何を泣いておるのだ?」

    四阿の入り口の桟橋で佇む娘を
    父は見つけて優しく微笑む。

    「こちらに、おいで……」

    馬頭琴を奏でる手を休め
    比龍王は娘を手招き呼び寄せた。


    四阿の篝火が煌々と焚かれて、
    夕闇にそこだけ明るい。
    夜空に赤々と火の粉が舞った。

    優しく微笑む父・比龍王。
    昼間の謁見の間以上に、温かな父の笑顔がそこにあった。

    「夕鈴。
    お前を待っていたよ。
    ずっと会いたいと思っておった」

    馬頭琴を立てかけた小卓に手を伸ばし
    古ぼけた木箱を開ける。


    そこには見知った色とりどりの手紙が入っていた。
    何度も読んだであろう手紙は擦り切れてボロボロに、でも大事に保管されていて。


    それは夕鈴が離宮から父へと送っていた手紙だった。

    「父を恨んでおるか?
    一度も、そなたの顔を見に行かなかった父を……」

    卓に置いた父の手が固く拳を握った。
    いつの間にか老いた手は、離れていた親子の月日を感じさせた。

    その手に、そっと夕鈴姫は手を添えて首を振る。


    「……いいえ。
    お父さま。
    いいえ、夕鈴は恨んでなどおりません。

    ただいま、お父さま……」


    確かに幼い頃は、勝手な真似をした娘を父が怒っているから会いに来ないのだど恨んだ時もあった。
    国の為を思えばこその婚儀による繋がりが、父の為だったと思っていたから。
    そんな事を、今なら望んでいなかったことを成長と共に知った。
    決して娘が嫌いになったからなのではなく、むしろ夕鈴を守るため。
    会いたい気持ちを長年、封印してくれたのだと国政を知るようになって、周辺諸国を知ってわかった。


    父は娘に会いに行きたくても、行けなかったのだ。
    夕鈴は、離宮にいる間に様々なことを教わった。

    それはつかの間の自由と、帝国で夕鈴が生き残る術だった。


    「いいえ。
    いいえ……おとうさま」


    感謝しています………


    最後の言葉は喉に引っ掛かり言葉に出来なかった。
    いつの間にか親子は再会を喜び涙を流していた。



    ーーーー言葉はなくとも
    親子だからこそ伝わる。


    離れていた絆を、溢れる涙が埋めた。
    それで、もう十分だった。





















    「必ず、お前は此処に来る
    と思っておった」

    父の膝で甘える娘の頭を撫でながら、父は愛しそうに言った。

    「お前の到着を待ち望んでいたのは、私だけではない。
    お前の客人(まろうど)が奥におる。
    ……早く会いに行きなさい」

    静かに語りかける父王の声で、夕鈴姫は我に返った。

    頬の涙を袖で拭き、不安そうに首を傾げる。

    「私を……ですか?
    どなたでしょう?」

    優しく慈しむような温かな父の眼差し。

    静かに落ち着いた声で、娘に語りかけた。
    国を支える支配者としての王ではなく……
    娘を持った一人の父親としての言葉。

    「奥の四阿に行けばわかる。
    そなたの良く知る人物だ」

    「……父上?」

    「……積もる話もあるであろう。
    ゆっくりと語らうがよい」

    「お前には、すまなかった。
    父親らしいことを、一つもしてやれなかった」

    「まずは四阿に行きなさい。
    夕鈴」

    「お前の邪魔をするつもりはない。
    私は、ここで琴を奏でていよう」

    そう呟いた比龍王は、再び馬頭琴を手にした。
    弦の震える奏でる音が、再び夜の湖を駆け巡る。


    風が父の想いの音色を運ぶ。


    それ以上夕鈴に、何も言わなくなった父。
    そんな父に不安げな表情を見せる夕鈴姫。

    比龍王は、そんな娘に
    慈しみといたわりの微笑みを投げかけると
    奥の四阿に視線で促した。





    父の脇をすり抜けて
    奥の四阿へと歩き出した娘を
    比龍王は静かに見守る。

    奥の四阿は明かりが落とされていて
    しっかりと風除けの垂れ幕が下ろされ
    中が暗くて見えなかった。
    とても中に待ち人がいるように見えない。

    入り口の垂れ幕の端を持ち上げたものの……中へ入る勇気が出ない。

    父が側にいるのだから、
    彼女に危険な人物と会わせるはずが無い。
    それでも不安だった。

    隔てる布の端を持ち上げたまま……父を振り向くと。

    静かに琴を奏で………中へ入るように
    促す父の顔。

    篝火に煌々と照らされた優しい父としての慈しみ溢れる笑顔だった。

    彼女は、その微笑みに勇気づけられ後押しされるように垂れ幕をくぐり
    四阿の中へと入っていった。


    彼女を待ち望んでいた、もう一人の人物と会うために……



    ……54へ 続く。


    2017年02月23日改訂
    2013年09月28日初稿
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    【長編】『楼蘭―風の行方―』 54 ※要注意!古代パラレル

    楼蘭




    意を決し、四阿の垂れ幕をくぐった夕鈴姫。
    ……暗い闇の中に星明かりは届かず、目が慣れない。

    やはり誰も居ないのでは?

    そんな疑問が、ふと頭をよぎる。
    垂れ幕の端がふぁさりと四阿の床に落ちたと同時に……
    彼女の腕が何者かに引き寄せられた。

    「きゃあ、、、(は、ンっ!)」

    そのまま抱き締められて、
    柔らかな唇を唇で奪われ、彼女の悲鳴が掻き消された。

    バクバクと跳ね上がる心臓の音。
    暗闇にいまだ慣れぬ身には、不埒な暴挙になすすべがない。

    んぅぅ…

    息苦しさと恐怖にバタバタと暴れるも硬い板床に縫いとめられて
    執拗に口腔を蹂躙された。


    熱い舌先が彼女の歯列を這う……

    誰とも見分けられぬ闇の中での、口付けは終わりが見えない。
    このまま永遠に続くのかと思うほど。

    ―――油断した。
    悔しくて、無性に腹が立った。
    自分にも、この男にも。

    夕鈴のささやかな抵抗は、ますます戒めがキツクなるばかりで。

    抱き締められた腕の中から逃げ出そうと試みるも…
    失敗し、落胆して……

    夕鈴は不意打ちの口付けの苦しさに涙がこみ上げた。
    抗うも全てが徒労に終る。

    口付けに翻弄される…
    荒々しい口付けに……

    ふぁ…ンっ…

    っ!





    ……
    ………




    どれくらいそうしていたのだろうか?

    夕鈴姫が抵抗を諦めた頃…
    長い戒めは始まりと同じように唐突に終わった。

    ぱたりと床に彼女の腕が投げ出された。
    もう……抵抗する気さえおきない。

    四阿の中、重い沈黙が流れた。









    「夕鈴……私です。
    黎翔です」

    夕鈴をしっかりと抱き締め、
    耳朶に抑えきれない恋の熱と甘さで囁く黎翔。

    「……黎翔さま?
    なぜ、こんな……酷いこと」

    長い抵抗の末、彼に動くことさえ出来ないほど翻弄された夕鈴姫。
    唇を奪った人物が、恋しい黎翔王だったことに驚いた。

    ……思考さえも奪われて、未だ混乱する夕鈴。
    乱れた裳裾から白い太腿が悩まし気に露わになっていることにも気が付かない。

    「すまない。
    怖い思いをさせたね。
    君に逢えて嬉しくて
    自分を抑えられなかった」

    闇に仄かに浮かぶ
    白い胸と細い喉が、粗く上下する。

    乱れた長い髪が、はちみつ色の河の流れを作り床に光る。

    彼女の咎めるような強い眼差しも、
    自分に翻弄されて乱れた姿も、
    すべてが愛らしく麗しい。

    昼間の他人行儀ではない。
    黎翔の知るロブ・ノールの愛しく気高い彼女だった。

    「驚かせてごめん」

    黎翔は、やさしく床から引き起こし彼女を胸の中に抱きしめなおした。
    腕の中に長く求めていた愛しい彼女の温もりがあった。

    とくん。とくん。とくん。
    脈打つ温かな血潮の音。

    彼は、ようやく会えた愛しい女性(ひと)に
    髪に、額に、瞼に、優しく口付けを贈った。

    先ほどまで、あれほど抵抗していた夕鈴は
    黎翔と知ると
    口付けの贈り物を優しく静かに受け止めてくれた。

    口付けを贈る度に、初々しくも微かに震える彼女に
    愛しさがこみ上げてくる。



    優しく微笑む黎翔は、いつになく上機嫌だった。
    場所も忘れ、時も忘れ、ただ彼女しか見えない。
    一人の恋する男として、彼女のすべてを感じていたかった。

    「……貴女にお逢いしたかった。
    夕鈴姫……愛しております」

    「私が愛する人は唯(ただ)一人。
    貴女しかいない可愛い女(ひと)」

    「……黎翔さま。
    お約束が違います。
    私は、ロプノールのまぼろし「幻などではない!」」

    「貴女は、ここに居る。
    ここに、こうして触れることができる」

    んっ!

    再び、奪われた唇は、先ほどの荒々しさではなく
    夕鈴を甘やかすように彼女の心の頑なさを甘く蕩かすものだった。

    …ぁ。

    「夕鈴。
    もう一度言う。
    私の妻になってくれ」






    自分を唯一、愛するという男に熱く愛を乞われたプロポーズの言葉を
    夕鈴は甘い至福(とき)の中で、ぼんやりと聞いた。


    その言葉は風のよう。

    遠い麗しのロプ・ノールの湖面を吹く風のようだと彼女は思った。
    決して求めてはならぬ愛しい風。

    でも心は求めずにいられない。
    ーーーーーー好きで好きで大好きで。


    とても







    ……切なかった。



    ……続く

    2017年03月13日 改訂
    2013年09月27日 初稿

    【長編】『楼蘭―風の行方―』 55  ※要注意!古代パラレル

    楼蘭


    「どうして……?」

    状況が呑み込めず、ぽかんと呟く夕鈴に
    熱い視線を送り、抱きしめる腕を強くする黎翔。

    夜目に夕鈴が慣れてくると、四阿の外に明々と焚かれた篝火
    四阿の天幕を仄かに明るくさせていた。

    僅かな明かりで抱きしめる人物を確かめると、それはやはり黎翔王だった。



    「貴女と別れ、逢えない日々。
    私は、ずっと貴女を想い慕い、貴女を夢に見ておりました」
     
    触れる彼の唇は、夕鈴の顔の輪郭を辿り
    耳朶に…頬に…額に

    「ずっと貴方に焦がれていた……夕鈴姫」

    ふたたび塞がれた唇は、先ほどよりも甘く情熱的だった。

    二度目の黎翔との口付け。
    不意打ちで唇を奪われたのに、不思議と夕鈴は嫌悪感を感じなかった。
    むしろ彼に求められていることが嬉しい。

    唇は……愛しい人を覚えていた。
    触れられた場所から、黎翔の熱が彼女の心に灯を点す。

    ……こんなにも黎翔王に求められ愛されていることに、夕鈴姫は胸が熱く締め付けられた。

    ロブ=ノールから別れて数日。
    ほんの数日だったというのに、何十年も会えなかったように淋しく感じた。

    情熱的な口付けに、おずおずと彼女も舌を絡ませる。
    黎翔は、そのことに気付いて微笑み、更に口付けを深くした。


    夕鈴も、また彼に心惹かれ求めていたことに気付いた。
    愛する人との口付けで、黎翔王を愛していることに気付けた。

    “好き……”

    甘酸っぱく切ない想いが、彼女の心を満たしていく。


    “いけない。
    私には、もう婚約者がいるのに……”

    “でも、もっと……口付けて”

    理性と本能が、せめぎあう。
    恋を知ったばかりの彼女に、彼の愛に抗う術は無かった。

    黎翔王との口付けが甘い。
    ふわふわと夢のように心地良かった。

    いつの間にか、彼の背を抱き
    覚えたばかりの二度目の口付けを、情熱的に彼女は求めた。

    全ては、良き思い出の筈だった。
    夕鈴姫の初恋。

    ロブ=ノールでの甘く優しい愛のひととき。
    もう忘れようと諦めた人だった。
     
    素敵な恋の思い出を秘め
    父と変わらぬ歳の皇帝の元へと嫁ぐ覚悟でいた。

    愛を告げずに終わった恋。
    そう彼女は思っていた。

    黎翔王は、父王から事情知り、私を諦めてくれるだろう。
    私を忘れてくれるはず……胸が痛いことだったが、あらがえぬ運命と知っていた。

    甘い思い出に縋り、彼女は異国で静かに朽ちていく筈だった。
    そう思っていた。


    ……でも 、そうじゃなかった。

    忘れようとしても忘れるはずも無い。
    初めて自分が愛した人を。
     
    二度目の口付けは彼女に、ゆるゆるとした変革をもたらす。
    恋を成就させたいと願ってしまった。



    彼を本気で愛していると知った今。
    彼と結ばれたいと思ってしまった。



    *****
    ********
    ***********


    彼女の身も心も蕩かす
    情熱的で熱砂のような黎翔王の口付け。
     

    あれほど頑なだった彼女か、彼に応え始めた。
    彼の求めに、あらがいは微塵もなく口付けに身を任す夕鈴。

    彼の背を華奢な彼女の腕がしがみつき
    そのことに無上の喜びを隠せない黎翔王は、ますます彼女を可愛らしいと思った。
     
    真っ赤な顔で口付けに翻弄される彼女。
    もっと……と
    強請るように、熱に潤んだ大きなハシバミ色の瞳が潤むと
    黎翔の心に歓喜が湧きあがり、どうしようもなくもっと泣かせたくなってしまう。


    “我ながら意地悪だな”

    と思うが、彼女が無意識に自分を煽るのだから仕方ない。


    誰にも見られることのない天幕の中の夜の四阿で
    ロブ=ノールで出逢った運命の恋人達は、お互いの再会を純粋に喜び合う。

    愛してやまない魂の片割れ。
     
    黎翔は、ゆっくりと彼女を床に押し倒した。


    “離れたくない……”

    “離したくない……”


    絡めあう四肢は、いつの間にかお互いの身体を求めてた。
    言葉はなく口付けで会話する恋人達。
    お互いの気持ちが一つに繋がった時間だった。

    楼蘭の運命が変わる。
    これから襲う楼蘭の悲劇を、二人は知るよしもない。

    四阿の外から馬頭琴の物悲しい音色が聞こえた。

    震える馬頭琴の音色を含んだ風が楼蘭に吹く。

    湖から吹き抜ける風は、タクラマカン砂漠を越えて
    はるかはるか遠くへと流れていった。

    吹く風は、さほど強くも無いのに
    サラサラと砂丘の形を崩し、瞬く間にその形を変える。
     




    比龍王は静かに楼蘭の街を見渡した。



    今は街の灯は 落とされ、静かな眠りの静寂が満ちる。


    比龍王が守ってきた平穏で豊かな楼蘭王国。

    苦渋に満ちたはしばみ色の瞳。
    比龍の 眉根に、皺が深く刻まれた。

    比龍は楼蘭王国・国王としてではなく、
    夕鈴姫の父として重大な決断をする時が迫っていた。



    ……続く


    2017.04.06.改訂
    2013.09.28.初稿