花の四阿

    Lala掲載の『狼陛下の花嫁』二次小説のブログです。某SNSで書き溜めた小説の他・イラスト・詩文・写真・徒然日記・一部鍵つきを掲載しています。

    カテゴリ:【長編】緋色の衣 ―ひいろのころも― の記事一覧

    完了【書庫】パラレル踊り子・夕鈴『緋色の衣―ひいろのころも―』

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    【短編】プロローグ『緋色の衣 ー兆しー』

    【長編】『緋色の衣』の前エピソードになります。

    謎めいた女長の職業は、占い師。
    先見の目を持つ彼女が何も知らなかったはずが無い。

    某所で書いていたお話を纏めて、加筆修正したものです。
    すでに読んでいる方には、スミマセン。

    『緋色の衣』

    踊り子・夕鈴と流れの民の女長 続きを読む

    短編】パラレル踊り子・夕鈴『緋色の衣―ひいろのころも―』

    白陽国の王  珀 黎翔陛下の在位を祝う宴が王宮で行なわれた。
    在位を祝い、流れの芸人だちが、祝いの席に呼ばれ華を添える

    王の御前での晴れ舞台。
    皆一様に、在位を祝い晴れ舞台に臨んだ。

    その中で、緩急の或る激しいリズムを取る太鼓と涼やかな鈴の音
    王の目に留まる踊り子が一人。

    色素の薄い髪とはしばみ色の大きな瞳。
    情熱的に生き生きと楽しそうに踊る少女。

    ーーーー楽しげなその姿に、王は、目が離せない。


    王の視線の先で踊り子が緋色の薄絹を持って舞い踊る
    宙を舞い上がり…生き物のように揺れ動く薄絹
    舞い手操るの緋色が、揺れ動く

    王の心を捉える踊り子の
    色素の薄い素直な髪が、羽毛のようにふぁさりと舞い落ちる

    大きなはしばみ色は、篝火に揺れ動いて
    オレンジ色の灯火を映す。

    雌鹿(めじか)のようなしなやかな四肢に絡みつく薄衣

    咲き始めた薔薇のような淡く艶やかな薄紅の衣は
    少女と女の境界線のアンバランスな肢体を際だたせる

    半裸のような踊り子の衣装。
    惜しみなくむき出しにした白い四肢が
    しなやかに絡みつくように自由に宙を舞う。

    時に可憐に
    時に妖艶に
    少女と女の顔を覗かせて
    感情豊かに舞あげる

    踊り進むうちに、
    上気した薔薇色の頬
    飛び散る汗
    粗い呼吸
    踊りに陶酔し濡れた瞳

    まるで、男を誘うような妖艶な仕草で
    深紅の薄絹が激しく舞い絡み付く

    時に激しく奔放な少女のような顔

    時に、清らかな乙女のような姿

    時に、情事のさなかのような仕草

    くるくると…
    めまぐるしく色を変える踊り子に王は、興味が尽きない。


    彼女に幾重にも巻かれた鈴付きの腕輪と足環の音が途絶えたとき
    音楽は、止み。場が静寂に包まれた。

    踊り子が、御前に進み優雅にお辞儀をする。
    とたん割れんばかりの喝采の拍手・・・・

    王は、踊り子から目を離さずに話しかけた。
    『面(おもて)を上げよ』
    『見事な舞であった。名は・・・・』

    初めて、踊り子は、王の顔を見た。
    紅い焔のような二つの瞳が踊り子を見つめていた。
    はしばみ色の大きな瞳が王の賛辞の言葉に喜び
    嬉しそうに顔(かんばせ)が輝く

    光りが飛び散ったような眩しい笑顔。
    純粋な喜びに、少女は嬉しさを全身に表していた。

    素直な感情の発露は、王宮には無いもの
    王は、喜びを持って、少女の言葉を待った。

    「陛下、ありがたきお言葉。」
    「名は夕鈴と申します。」

    ーーーーそしてもう一つの物語は始まる

    ー完ー

    【長編】IF設定・パラレル踊り子『緋色の衣Ⅱ―ひいろのころも―』


    先ほどから、夕鈴は、居心地の悪い思いをしていた。
    宴の後の深夜の後宮。

    宴の主催者であるこの国の国王の居室。
    静かで物音一つしない豪華な居室に、この国の国王である白陽国国王と二人で対峙していた。

    ほかに侍女も誰も居ない、踊り子である夕鈴には不釣合いの豪華な居室。
    何をするでもなく、ただ佇む。

    この場の重い沈黙がイヤだった。

    チラリと、国王を盗み見ると、眉間に皺を寄せて難しい顔をしている。
    どうやら、国王の不興を買ったらしい。

    自分の運の悪さを呪いたくなる。
    (・・・明日の朝日を私は拝めるのだろうか?)

    何か不興を買うようなことをしたのだろうか?
    否や。
    夕鈴には、心当たりがなかった。

    息を詰めて、身を縮じこませるしかない。
    全てを成り行きに任せるしか夕鈴には、術がなかった。

    『冷酷非情な狼陛下』『戦場の鬼神』目の前に居る国王の通り名が頭によぎる。悪いイメージしか浮かばない。

    はしばみ色の大きな瞳がじわりと涙で滲む。
    ざざぁっ・・・と血の気が引くような音を感じて、背筋が寒い。
    夕鈴はーーーーーー生きた心地がしなかった。




    数刻前の出来事を、夕鈴は思い出していた。
    眼鏡をかけた国王陛下の側近だと名乗る青年。

    宴の余興で踊りを舞い終わったばかりの夕鈴に逢いに来た。
    息をあげたまま、踊りの興奮冷めやらぬ夕鈴に、自分の用件を告げるとすぐに立ち去った。

    『今夜、国王陛下の居室をお訪うように』と告げられた。

    一座の女達が色めき立つ。
    あれよあれよと言う間に、お姉さま達の手で、夕鈴は着飾られた。

    華やかな宴の衣装。
    踊りの舞台以外化粧をしたことが無い夕鈴に紅が引かれた。

    年若い一座の花への国王の呼び出し・・・・
    流れの踊り子である彼女への呼び出しは、夜の相手を意味していた。

    しかし、そんなこととは夕鈴だけが知らない。
    くすくすと笑いさざめく女達は、何一つ夕鈴に、教えてくれなかった。

    夜に、名指しで指定をされて居室をお訪う。その意味を・・・・

    ただ老婆心で・・・・年若い妹に《陛下のチョウを受けてきなさい》と
    《すべてを陛下にお任せしなさい》のただ二つだけのアドバイスを言われて、定刻どおりの迎えの侍女に夕鈴は引き渡された。

    複雑な入り組んだ王宮の奥深く・・・・
    後宮の入り口にて、夕鈴は目隠しをされて陛下付きの侍女に手を引かれて連れて来られた国王の居室。

    刺客対策と言うそれは、見えないだけに更に不安を煽る。
    一歩、一歩、歩を進むたびに不安が夕鈴を襲った。

    曲がり角を曲がるたびに、方向感覚が狂う。
    迷宮に迷い込んだような心もとない気持ちであった。

    それでも、ここは王宮と思い直して我慢した。
    案内の侍女に失礼と思い、連れ添う侍女に不安を口にせず従順に歩いた。

    やがて、目隠しを外された夕鈴。

    豪奢な扉の前に立っていた。
    二頭の龍が向かい合う豪華な彫り物。
    ここが、国王の居室の扉なのだろう・・・。
    扉に、気を取られているうちに、案内の侍女がいつの間にか、居なくなっていた。

    文字どうり、たった一人。
    廊下の明り取りの蠟燭が揺らめく・・・・。
    薄暗い廊下に、ずっと居るわけにはいかなかった。
    この国の国王陛下の呼び出しなのだ。

    ・・・・ごくりと、息を呑む。

    意を決して扉の中に声をかけた。

    国王陛下の呼び出しに応じるために・・・・

    ・・・・続く


    2013年
    04月13日
    19:44 続きを読む

    【長編】IF設定・パラレル踊り子『緋色の衣Ⅲ―ひいろのころも―』





    宴が終わり、深夜自室にて、過ごす黎翔に入室を問う女の声。

    時刻が時刻なだけに、刺客なのかと思い身構えた。

    扉の外の気配を探ると、刺客ではないらしい。

    あからさまな気配に、ホッとすると同時に疑念が湧く。

    しかも、先ほど聞き知ったばかりの女人の声がした。

    ・・・・確か、彼女は先ほどの宴で知り合ったばかりの踊り子。

    鮮やかな緋の衣、艶やかで見事な踊り・・・

    思い浮かんだ彼女が、どうしてここに居るのだろうか?

    黎翔が扉を開けると、薄絹の翡翠の衣。

    白磁の白い肩を惜しげもなく出した彼女が扉の前に佇んでいた。

    「陛下のお召しにより、参りました。」

    優雅に腰を折り、挨拶をされた。

    金の甫傭が涼やかな音を立てる。
    翡翠の衣を縁取る。薄紅の重ねの衣。

    どう見ても、先ほど生き生きとして踊っていた彼女と結びつかない
    たおやかな艶姿。

    ーーーーー誰の差し金だろう。

    眉間に皺が寄る。

    呼んだ覚えの無い彼女。

    彼女に気付かれないように、そっと深いため息をついた。
    彼女に夜の訪問を命じた覚えが、黎翔は無かった。

    廊下に、そのままにするには忍びなくて、黎翔は自室に夕鈴を招きいれた。

    まさか、この小さな訪問が、その後の黎翔の人生を変えることになろうとは。

    黎翔は、運命の扉を自ら開いたのだった。

    ・・・・続く


    2013年
    04月13日
    19:45

    【長編】IF設定・パラレル踊り子『緋色の衣―ひいろのころも―Ⅳ』

    息さえもはばかれる重い沈黙。
    極度の緊張状態を強いられていた夕鈴は
    意識を手放そうとしていた。

    膝からくず折れるその身体。
    床へと吸いこまれていく。

    『…危ない!』
    黎翔は、傾ぐ夕鈴の身体を辛うじて抱き止める。

    ようやく彼女が居たことを思い出した黎翔。
    無意識に不機嫌さをもろに、初対面同然の彼女に
    ぶつけてしまったことに気付いた。



    『大丈夫か!? ・・・・たしか、夕鈴だったか!?』

    青ざめた彼女の意識は、朦朧としており、黎翔は慌てて、抱き上げて
    長椅子へと夕鈴を連れて行った。

    ーーーー抱き上げた身体は、驚くほど軽かった。

    『しばらく、そこで休むが良い。』

    先ほどまでと、打って変わって怖がらせないように優しく話しかけた。
    夕鈴の怯えたようなはしばみ色した瞳が、すこしだけ和らぐ。

    ついつい怒りに任せて周囲を気遣うことを忘れていた。

    政務室や謁見の間であれば、いつものこと。
    ここは、自室で彼女は、出会ったばかりの女人。

    しかも、踊り子だ。
    言われたとおりに、ここに来たのであろう。

    何も疑いもせずに・・・。
    彼女に何の罪も無い。

    私は、世間では、どれほど怖れられているのだろうか?
    彼女は、私が不機嫌だった為に、生きた心地がしなかったに違いない。
    怯えた目がものがたる。

    長椅子に寝かせた彼女の額に手を当てて、黎翔は彼女を気遣った。
    黎翔は赤い双眸に心配の色を滲ませて彼女の回復を待った。
    彼女から聞かねばならないことがある。

    誰が彼女を差し向けたのかということを。

    それを知らない夕鈴は、はしばみ色の瞳に涙を浮かべて、眉をへの字に下げて、黎翔に詫びた。
    「・・・・もうしわけございません、陛下。お手をわずら『もうよい、喋るな。』」

    夕鈴の裏の無い素直な言葉が、黎翔の心に届く。
    自然と言葉に出していた。

    『先ほどは、すまなかった。決して君に怒ったわけでない。』
    『許して欲しい。』

    うら若き女人に対しての適切な対応でなかったことを黎翔は詫びた。

    張り詰めた緊張の糸が緩んだのか、夕鈴から、ため息が零れ落ちた。
    夕鈴が柔らかく、黎翔に微笑んだ。

    「・・・・私、てっきり・・・・・。」


    勘違いだったことに初めて気付いた夕鈴。
    更に、勘違いから倒れそうになり陛下の手を煩わせてしまった。

    夕鈴は、恥ずかしさで顔を衣の袖で顔を隠した。
    衣から隠れない耳が真っ赤に染まっていた。

    しばらくして、落ち着いたのか、長椅子から起きる。

    『大丈夫なのか?』と問う黎翔に

    「陛下、ご心配をおかけしました。もう大丈夫です。」

    と夕鈴は、にっこりと微笑んだ。

    二人には、もう先ほどの重い空気は無く、緊張もほぐれ和やかな空気に包まれていた。


    ・・・・・続く。



    2013年
    04月18日
    12:22


    【長編】IF設定・パラレル踊り子『緋色の衣Ⅴ―ひいろのころも―』




    ・・・・続き

    ようやく、緊張も解けて落ち着いた夕鈴。
    改めて、王の居室を物珍しそうに見渡す。

    初めて見る一国の王の部屋。

    どんなに、絢爛豪華なのだろうと考えていた予想に反した部屋に驚く。
    長年踊り子として、数々の貴族等の屋敷に訪問してきた夕鈴。
    絢爛豪華さでは、貴族の屋敷の方が煌びやかかもしれない。

    余計なものをそぎ落とし、一つ一つ吟味された調度品。
    長年、大切に使われてきたのであろう調度品が、蠟燭の明かりでとろりとした飴色に耀く。

    国王陛下の趣味なのであろう。
    簡素でありながら、質の良さが感じられる清潔感溢れる上品で落ち着いた部屋。

    あるべきところにあるべきものがある・・・・そんな部屋だった。
    はしばみ色の瞳が、或る一点で止まる。

    煌々と明るい蠟燭の光りがそこを照らし続ける。
    雑然と重ねられた書簡の山。
    読みかけで広げられた書簡。
    部屋のほかとは違う、さきほどまでの部屋の主の息遣いが感じられる場所。

    顰(ひそ)められる眉と翳(かげ)るはしばみ色の瞳。

    「陛下、もしかして、私はお仕事の邪魔をしてしまいましたか?」

    確認の為に、尋ねた語尾が震えた。
    胸の前に握り重ねた両手。
    先ほどの陛下の怒りは、やはり私に向けられたものなのかも知れない。
    夕鈴の拳が白くなるほど握り締めた手の中に、嫌な汗が噴出した。

    再び、青ざめ始めた夕鈴の視線の先に気付いた黎翔。
    彼女の視線の先は、夕鈴が訪れるまで居た自分の文机。
    積まれた書簡に、苦笑する。

    今夜も、少しでも国が良くなるようにと、黎翔は、自室で仕事をしていた。
    どうやら今夜の仕事は、ここまでらしい。
    確かに仕事は中断したが、続きを再開するつもりは、もう無かった。

    申し訳無さそうに、眉尻が下がり、大きな瞳に涙を浮かべて黎翔の言葉を待つ夕鈴。
    再び、青ざめ始めた彼女を気の毒に思う。


    つくづく・・・・いったい誰が、彼女をここに呼んだのか?
    それを聞くためにも、彼女には、落ち着いてもらわねばならなかった。

    彼女の握られた手に大きな手を重ねて包み込む。

    『夕鈴、卓の上の書簡を気にしているね。』
    『もう今夜は、仕事は止めようと思っていたところだった。』
    『君のせいじゃないよ。』

    黎翔は、彼女を安心させるようににっこりと笑った。

    「ホントウですか?」

    今にも、零れ落ちそうな涙が、蠟燭の明かりで煌めく。
    はしばみ色の大きな瞳が真っ直ぐに黎翔を見つめていた。

    『本当だよ。』

    子供のように、なかなか信じようとはしない彼女のその様子に
    黎翔は、くすりと笑った。

    「よ・・・よかったぁ・・・・・」

    ほぅ・・・・・ため息と共に、へにゃりと笑った夕鈴。
    その様子に、黎翔は、再び笑いが零れる。









    「陛下は、噂とは違う方なのですね。」
    「・・・・お優しいです。」

    『噂とは、どのような噂か?』

    大きなはしばみ色の真っ直ぐな瞳が、黎翔を見る。
    己の間違いを恥らうような仕草が、可愛らしい。

    黎翔は、どの国にも属さぬ流れの民が、自分をどのように
    見ているのかに興味が湧いた。

    紅い双瞳が、興味深げに夕鈴を覗き込む。
    そのまま、夕鈴の隣に黎翔は腰掛けた。

    その距離の近さに驚いた夕鈴は、狭い長椅子をできるだけ
    失礼の無いように、端に居住まいを正すのだった。


    ・・・続く

    2013年
    04月29日
    22:46

    【長編】IF設定・パラレル踊り子『緋色の衣Ⅵ―ひいろのころも―』




    ・・・続く

    逡巡し、夕鈴は、迷う。
    どう答えたら良いのだろうか!?

    目の前の白陽国・国王陛下の噂は、良い噂は一つも無い。

    『冷酷非情な狼陛下』、『戦場の鬼神』、通り名どうりの噂話は、旅してきた先々で耳にしてきた。
    こうやって、直接お会いしてみて、それは噂に過ぎなかったのだと言い切れない。先ほどの陛下はとても怖かった。

    それでも、今、夕鈴に見せた陛下の優しさを彼女は信じたかった。

    温かな柔らかな微笑で、笑いかけてくれた陛下。
    踊り子にすぎない自分。
    気分の悪くなった自分を介抱してくれた陛下。

    自分の直感を信じたい。
    この国王陛下は、噂どうりの人物ではない。
    優しい国王陛下なのだと・・・・。

    自分の知る噂を知りたいと望む国王。

    自分の知る噂は、悪い噂ばかり・・・・こんな事を言ったらこの優しい陛下は、傷つくのではないかと夕鈴は思う。
    黙り込む夕鈴のはしばみ色の瞳が揺れる。

    国王陛下に、自分の知る陛下の噂を話すのを躊躇(ためら)うのだった。






    夕鈴の迷いが、すべて黎翔に読み取れた。
    こんなにも、感情豊かに表情に現れる娘も珍しい。

    虚像・虚言ばかりの王宮の人間達。
    そんな人間ばかりを相手にしてきた黎翔にとって、嘘のつけない夕鈴の存在は、それだけで愛すべき存在だった。

    彼女の気持ちを後押しするように、穏やかに話しかける 。

    『何も心配いらない。気兼ねなく民の噂…君の言葉が聞きたい。』
    『教えてくれないか?』

    『君が躊躇うということは、悪い噂ばかりなのかな?』
    『君たちにも浸透しているのかな?「冷酷非情な狼陛下」とか?』

    その陛下の言葉に、夕鈴ははっとして陛下の顔を見た。
    苦笑する柔らかな夕焼け色した温かな瞳。
    何処にも、噂の国王の面影も無い。

    「陛下は、知っていたのですね。ご自分の噂を。」

    『夕鈴、意地悪な質問だったね。一応ここは、私の国だ。』
    『この国での私の噂は、知っているよ。』
    『流れの民の君たちにまで浸透しているとは、思わなかったけれど・・・』

    『それとも流れの民だからこそなのかな?』
    『どの国にも属さない君たちは、不穏な空気を読むことに長けている。』
    『危険を先読みして、生き残るには、噂話は無視できない。』

    「・・・・はい。」
    その言葉に、こくりと頷く夕鈴。

    「情の無いとても恐ろしい方だと耳にしました。先ほど対峙した陛下は、噂どうりの方と思い、私は生きた心地がしませんでした。」
    「誤解してスミマセンでした。」

    唇を引き結んだ夕鈴が、深々と陛下に詫びる。
    怖いと感じたのに、自分の認識が間違っていたのだと謝る、その潔さ。
    真っ直ぐな心で、接してくれるその純粋さ。
    なんの疑いもしない純粋な瞳が、黎翔を見つめていた。

    眩しさを感じるほどの純粋な信頼という視線。

    今更、彼女に噂どうりの人物だよと教えたほうがいいのだろうか?
    黎翔は、自分を見る真っ直ぐな瞳を失うのは、惜しいと思った。恵みの雨が大地に染み入るように、夕鈴の素直さが自分を潤し癒していくのを感じとるのだった。


    ・・・・続く

    2013年
    04月30日
    10:29 続きを読む

    【長編】IF設定・パラレル踊り子『緋色の衣Ⅶ―ひいろのころも―』





    ・・・続く

    隣に座る夕鈴が、落ち着いた頃を見はかり、黎翔が話しかけた。

    『夕鈴、ひとつ聞いてもいいかな?』

    「はい…陛下。なんなりと…」

    『今夜、私の部屋をお訪うように頼まれた人は、どんな人だった!?』

    複雑な心境の視線がかち合う。

    落胆し、不安げな夕鈴のはしばみ色の瞳。
    相手の裏を探りたい黎翔の紅い瞳。

    絡み合う視線は、お互いを遠慮がちに見つめる。









    「やはり、陛下が私を呼んだのではないのですね…。」

    『残念だけど、私は君を呼んでいない。』

    しゅん…とした、夕鈴を慰めるように覗き込む黎翔。
    そのまま…辛抱強く彼女の答えを待つ。

    「眼鏡をかけた陛下の側近と名乗る若い人です。」
    「宴で踊り終えたばかりの私に会いにきました。」

    その話を聞き、思い当たる右腕とも呼べる人物。
    若く優秀な自分の側近の口癖が蘇る。

    ーー陛下、正妃をお迎え下さい。
    寵妃でもよろしいです。

    白陽国の未来をお考え下さい。
    御子を作り、国を安泰にするのが国王としての陛下の務めです。ーー


    ことある毎に、進言していた年若い側近。
    私が宴にて興味を示した彼女を、優秀すぎる側近は見逃さなかったのだろう。

    興味を示した娘ならあるいは…と考えたに違いない。
    確かに、宴で踊る彼女に興味が湧いた。

    しかし…黎翔は、それだけで彼女と床を共にしようとは思わなかった。

    今日知り合ったばかりの彼女の何に対して惹かれ、何をそんなにも気遣うのか・・・・・
    黎翔は、答えが出ないまま・・・彼女を国の理由に巻き込みたくない。
    そう、漠然と感じていた。

    ・・・・続く


    2013年
    05月02日
    15:04 続きを読む

    【長編】IF設定・パラレル踊り子『緋色の衣Ⅷ―ひいろのころも―』




    ・・・続く

    「お知り合いでしたか?」
    『ああ・・・たぶん、知り合いかな?』

    知り合いと分かり、少しだけ夕鈴はほっとしたものの・・・
    状況はさほど変わらない。

    ・・・・・・・・

    そこで、会話が止まってしまい。
    沈黙が降りた。

    今夜のことは、気をきかせたつもりの側近の仕業。
    政治的、裏も悪意もまったく無いらしいことは、分かった。
    ・・・・・・はぁ・・・さて、これから彼女をどうすべきか?


    陛下と、お話するのを楽しみにしてきたのに・・・・
    陛下が、私を呼んだわけでないことが分かった今
    私は、どうすればいいのかしら?
    陛下も困っているみたいだし・・・・
    ・・・・・・ふぅ・・・どうしよう。

    どちらともなくため息が零れる。
    ちらりと、隣を盗み見ると思案顔。




    困りに困った夕鈴の頭に、一座の女達の声が蘇る。
    年若い夕鈴を、着飾るのを手伝いながら
    彼女に贈ったアドバイス。

    ーーもしも、困って分からないことがあったら、陛下に聞くのです。
    陛下は優しく教えてくれることでしょう・・・・
    そして陛下を癒してさしあげなさい。ーーー


    困ったことって・・・今よね。
    いいのかな?
    陛下も困っているみたいだけど・・・質問してみても、いいのかな。

    ・・・・陛下の癒されるコトってなんなのかしら?

    姉さんたちの言葉
    チョウをうけてくおいでって、なにかくれることなのかしら?
    上手く踊れたご褒美に、お菓子でもくれるのかと期待していたのだけれど・・・そんな雰囲気でないよね。




    『・・・・さて「あの・・・」』

    困っているのは確かで、沈黙もイヤだったのでようやく意を決して陛下に質問しようと声を掛けた夕鈴。
    タイミング悪く、陛下とかぶってしまった。


    ・・・・続く


    2013年
    05月02日
    19:54

    【長編】IF設定・パラレル踊り子『緋色の衣Ⅸ―ひいろのころも―』





    ・・・続き

    『あ「ぁ…」』

    ばちっ…と陛下と視線がかち合い 慌て夕鈴は、口を噤む。

    『夕鈴…なに?』

    「陛下こそ、何か言いかけましたよね。何でしょうか!?」

    『いや…これからどうしようかと思って…』
    『誰か侍女を呼んで夕鈴を、一座の皆のもとへ帰してあげるよ。』

    このまま・・・部屋に置いておくのも、側近の誤解をうむだろう。
    黎翔は、打開策を提案したが、意外な答えが返ってきた。

    「陛下、それは私も困ります。」
    「今夜は、一座に帰れません。」

    『・・・・どうして?』

    不思議そうに見つめる黎翔に
    どうしてよいのか分からない幼子のように、途方にくれた夕鈴が見つめる。
    への字の眉の皺が、ますます深くなる。
    真っ直ぐに見つめる夕鈴の次の言葉に、黎翔は、くらりとなった。

    「一座の皆に、陛下を癒して差し上げなさい。と・・・・」
    「そう言われて来ているのです。」
    「一座の姐さんに、分からないことは、陛下に聴くとよいと言われました。」

    「陛下の癒されることってなんですか?」
    「陛下のチョウを受けておいでと言われました。」
    「チョウってなんですか?」
    「私は、何をすれば、陛下が癒されるのでしょうか?」

    恥らうそぶりも無く、真剣に黎翔に聞いてくる夕鈴。
    どうやら、まじめに質問しているらしい。

    『夕鈴、・・・・それを私に問うのか!?』

    「はい。分からないことは、陛下が優しく教えてくれることでしょうと姐さん達から、言われました。」

    『・・・・・・・っ!!!!』

    黎翔は、両手で頭を抱えて絶句した。
    気の利いた優秀な側近の顔を思い浮かべる。

    ーーーーこんな、質問をしてくる娘を私にどうしろと言うのだ李順!!!

    「・・・・あの、質問しちゃいけないことでしたか?」

    不安そうなはしばみ色の瞳と、困惑の紅い瞳がかちあう。
    いったい彼女は、私にどうしてほしいというのだろうか・・・・・
    ズキズキとする頭を手で抑えて、黎翔は、夕鈴に質問した。

    『君は、恋愛はしたことあるの?』


    「えっ・・・・あの・・・・。まだ無いです。」
    「ずっと、踊りの練習ばかりで、恋もしたこと無いんです。」

    恥ずかしそうに俯いた夕鈴。

    『じゃあ、男と女の恋愛事情は?』

    「・・・・・すいません。それも詳しくなくて・・・」

    ますます、消え入りそうに小さくなる夕鈴。
    ふぅ~・・・・・小さく黎翔がついたため息さえも彼女の身を縮ませる。

    黎翔は、ここに居ない優秀な側近に、口には出さずに内心で罵倒していた。




    ・・・続く
    2013年
    05月09日
    16:29

    続きを読む

    【長編】IF設定・パラレル踊り子『緋色の衣Ⅹ―ひいろのころも―』




    ・・・続き

    『私を癒したいと申したな。・・・・では夕鈴、私にお茶を淹れてくれないか?』

    「・・・お茶を淹れるのですか?'」
    「それで、陛下は癒されるのですか?」

    『・・・ああ。』
    『・・・・お茶を飲みながら、君の旅の話が聞きたい。』

    「お安い御用です。」
    「それで、陛下が癒されるのでしたら、心を込めてお淹れ致しましょう」

    ぱぁぁぁぁ・・・・と光りが弾けたように笑顔になった夕鈴。
    これで、陛下を癒すことが出来る。
    聞いてよかったとばかりに・・楽しそうにお茶を淹れはじめた。

    その様子を苦笑しながら、黎翔は夕鈴を見つめる。

         ・ ・
    黎翔の選択は、正しかった。

    夕鈴は、何も知らない。

    男女の秘め事も、寵愛という言葉さえも・・・

    楽しそうに旅の様子、踊りの練習のこと、一座のことを黎翔に話す夕鈴。


    にこにこと、真っ直ぐに見つめるはしばみ色の大きな瞳。

    その瞳が嬉しくて、いつの間にか黎翔も笑顔になっていた。

    お茶を飲みながらの楽しい時間はあっという間に過ぎていく。

    明け方の薄明かりが窓辺を彩る。

    陽が昇ろうとする明け方の空。

    いつの間にか夜明けが来てしまった。

    夕鈴を見ると、眠そうに眼を擦っていた。

    ここで、昼まで仮眠を取らせるわけには行かない。

    侍女を呼び、夕鈴を預けた。

    「陛下、楽しかったです。」

    半分眠たげなはしばみ色の大きな瞳。
    その幼さに、黎翔は、クスリと笑った。

    『・・・・夕鈴、待って・・・・』

    侍女に伴われて、黎翔の部屋を辞そうという時、
    黎翔が夕鈴を引き止めた。

    そのまま、額にちゅっ・・・軽い口付け・・・・

    『君に、寵がまだだった。』
    『今夜もおいで・・・待ってるから。』

    顔を真っ赤に染めて、額を両手で押さえた夕鈴。
    びっくりしたおおきなはしばみ色の瞳がまん丸になる。

    口をぱくぱくさせながら・・・・こくんと頷いた。

    その様子が、とても可愛い。
    黎翔と夕鈴の運命の一夜が、こうして明けたのである。


    ・・・・続く
    続きを読む

    【長編】IF設定・パラレル踊り子『緋色の衣ⅩⅠ―ひいろのころも―』

    ・・・続き

    その晩も…その次の晩も…夕鈴は、黎翔に呼ばれて部屋を訪れる。

    二人が、朝まで、部屋でただお茶を飲んで語らっているだけなのだということを、誰一人知らない。

    夕鈴が、黎翔の部屋を通うようになってしばらくして…

    劇的に黎翔が一つ変わったことがあった…

    目に見えて、黎翔の表情が以前より明るくなり…氷点下の不機嫌な日がまったく無くなったこと。

    これも、それも、寵愛するあの踊り子の存在が大きいのだとまことしやかに噂された。

    明日にも、陛下はあの踊り子を寵妃として正式に召し上げるのではないかとまで噂された…

    知らないのは、噂の当の本人。

    夕鈴だけ…








    今夜も、黎翔の呼び出しで後宮の渡り廊下を歩く夕鈴。
    いつの間にか、目隠しの道順もだいたい覚えてしまっていた。


    …続く



    2013年
    05月09日
    17:40

    【長編】IF設定・パラレル踊り子『緋色の衣ⅩⅡ―ひいろのころも―』






    ・・・続き

    後宮のなかほど・・・
    角を折れた時に、その声は聞こえた。

    『今日も、陛下の許に呼ばれたか・・・』
    『陛下は、本当に、おぬしのことが、気に入ったようのじゃのう・・・』

    皺がれた老人の声に、夕鈴は、声のしたほうへと振り向く。
    目隠しをしているために、姿が分からない。

    『コレ、何処を見てるんじゃい。ワシは、コッチじゃ。』

    「そう言われても・・・姿が見えないもの。」
    「仕方が無いわ。」

    『ふむ・・・それもそうか。』
    『これ、そこのもの。その娘と話がしたい。目隠しを解いてやれ。この張元が許す。』

    ・・・はい。

    突然、目隠しを外されて、夕鈴はビックリする。
    陛下の部屋までは、目隠しのはず・・・・
    この老人のたった一言の言葉で、目隠しは外された。

    きっと、身分の高い人なのだろう。
    いったい、この老人は何者なのだろうか?

    『なるほど、澄んだ綺麗な瞳をしておる。素直そうな娘じゃ・・・陛下が気に入るわけじゃな。』

    意外と小さな老人は、白い顎鬚撫でながら訳知り顔で訊ねてきた。
    つぶらな瞳が、温かな光りを宿していた。
    どうやら、悪い人ではないらしい。

    『これで、ワシが見えるか?』

    「おじいさん、何者なの?」
    「陛下のお父さん・・・・って感じじゃないよね。」
    「・・・何者!?」

    『ワシか、ワシは後宮を取り仕切る後宮管理人 張元じゃ。』
    『おぬしに、聞きたいことがある』

    「なんでしょうか?」

    『陛下は、よくして下さるか?』
    『おぬし、昼は、よく眠れておるのか?』

    「陛下は、いつも優しいわ」
    「昼も、一座でしっかり眠むれているけど・・・。」

    『そうか。それはよい。』
    『おぬしは、陛下のお気に入りじゃ』
    『身体を壊しては、大変じゃからのう。』

    『こう毎晩毎晩では、お主も大変じゃて・・・』
    『陛下も、若いからのう・・・』

    苦笑しつつも、嬉しそうな張元。

    「私は、ちっとも大変ではないわ。」
    「むしろ楽しみだもの。」

    その言葉に、張元は目をみはる。
    夕鈴の隣に居た侍女も、ぽっと頬を染めた。

    『ずいぶんと素直な娘じゃわい。』
    『おぬしは、恥じらいというものを持っておらんのか。』

    呆れた張元の声。
    意味の分っていない夕鈴は、素直に答える。
    二人とも、会話がかみあっていないことに、気付いていなかった。

    「恥じらいって・・・ホントのことだもの。」

    まあ・・・問題はあるが、根は素直そうだし・・・後は、お妃教育で・・・ぶつぶつ・・・

    張元は、苦笑しながら、言葉を続ける。

    『おぬし、陛下のことをお慕いしておるか?』
    『どうじゃ・・・このまま陛下のお傍で仕えてみたいとおもわぬか?』

    「陛下をお慕いしているかどうかは、分らないけれど。」
    「陛下のことは、好きよ。」

    「仕えたいとは、思わないわ。」
    「私は、流れの民だもの。」

    「傍に居たいとは、思うけれど、それは無理ね。」
    「私は、家族と共にあるの。」

    張元の質問の意図が分らないものの。
    今の気持ちを夕鈴は口にする。
    その言葉は、張元の予想の範疇の言葉だった。

    『ーーーーー陛下を好きといいつつ、家族を捨てられぬか。』

    『おぬし、陛下から寵を賜っているのじゃろう?』

    その言葉に夕鈴は、真っ赤になり袖で顔を隠した。
    コクンと一つ頷く。

    『だったら、何故じゃ・・・』
    『陛下より、家族を選ぶとは・・・まあ、よい。』

    『娘よ。心に留めるがよい。』
    『きっと、どちらかを選ぶ時がくる。』
    『おぬしの心に素直になることじゃ・・・』

    『だがな、きっと陛下はおぬしが居なくなれば、嘆かれるぞ。』
    『ここに、留まる選択肢を忘れないことじゃな・・・』
    『おぬしの為に、もう一度、よく考えるがよい。』

    そういうと、夕鈴から去って行った。
    小さな後姿の張元の言葉を、のちに夕鈴は思い出すことになる。

    ・・・続く


    2013年
    05月10日
    07:50

    【長編】IF設定・パラレル踊り子『緋色の衣ⅩⅢ―ひいろのころも―』


    ・・・続き

    一つの季節が終わり、次の季節が訪れようとしていた。

    流れの民の夕鈴の一座が白陽国に留まりだいぶ時が過ぎた。
    王宮での生活は、満ち足りた生活ではあるものの。
    所詮は、間借りの生活。
    どこか窮屈で、息苦しい。

    それでも、一座の皆は、年若い家族の王の寵愛を喜び
    辛抱強く待っていた。

    彼女が、幸せになることを・・・・

    しかし、一向に彼女が寵妃に召されることはなく
    時が過ぎ、季節が過ぎた。

    一座の皆は、焦りだす。

    このまま、彼女の為に留まることが、本当に彼女の為になるのかということを。



    ある晩、しとしとと・・・柔らかな雨の降る星の見えない夜のこと。
    珍しく政務で忙しい陛下。
    予定の変わってしまった手持ち無沙汰な夕鈴を訊ねる一人の女。

    一座の長であり、母であり、姉でもある彼女のなりわいは、占い師。
    彼女の宣託は、一座の決定であり、皆が従っていた。
    黒いベールから覗く、深い黒曜石の瞳。
    吸い込まれそうなほど美しい瞳は、全てを見つめる。

    『寛いでいるところ、お邪魔するわね。夕鈴。』
    『貴方に、聞きたいことがあってお邪魔したの。』

    『明日の早朝、一座は南の国に旅立つわ。』
    『白陽国での仕事は、もうおしまい。』




    『貴女は、どうする!?』
    『貴女は、陛下に寵を賜っている。』

    『もちろん、ここに留まってもいいし、一緒に明日旅立つのもいい。』
    『夕鈴が、陛下が好きで傍に居たいなら、留まり幸せになりなさい。』

    『私たちと一緒に行くのなら、明日の出立です。』
    『陛下にお別れを言わねばね。』

    深い慈愛の夜の瞳が、夕鈴を見つめる。
    突然の話に、大きなはしばみ色の瞳が揺れた。
    大粒の涙が零れだす。

    「姉さま・・・・私、どうしてよいのか、分らない。」

    嗚咽し始めた妹を、優しく抱き寄せ慰める占い師。
    そのまま、長く癖の無い金茶の髪を撫でる。

    『突然のお話でごめんなさい。』
    『だけど夕鈴は、知っているでしょう?』
    『私たちは、流れの民。長く留まることは出来ない。』
    『鳥のように、自由をこよなく愛する。』
    『翼を無くしてしまったら、私たちは、死んだも同然。』
    『夕鈴、分るでしょう!?』

    「でも、でも・・・姉さま、明日なんて・・・」
    占い師の衣を握り締めて、泣きじゃくる夕鈴。
    衣が濡れるのにまかせて、彼女は夕鈴を抱きしめる。

    『貴女は、陛下のことが好きなのね。』
    『それと、同じくらい私たち家族も・・・・大好き。』

    抱きしめた腕に、きゅっと力を込める。

    『ごめんね。夕鈴、貴女には辛い思いをさせるわ。』

    『白陽国に、私たちは、長く居過ぎてしまったの。』
    『・・・・貴女の幸せを見届けようとしていたのだけれど・・・』

    ーー私には、陛下が、何をお考えになっているのか、わからない。
    そっと、占い師は心の中で呟いた。

    『それも、もう限界。』
    『もうそろそろ、次へと移動しなければ・・・』

    『貴女が、どのような決断をしようとも』
    『例え、離れることがあっても私たちは、家族。』

    『夕鈴、貴女を愛しているわ。』
    『一晩しかないけれど・・・、見方を変えれば一晩もある。』

    『夕鈴、よく考えて貴女の幸せになれる道を選びなさい。』

    そう言うと、占い師は、にっこりと夕鈴に微笑んだ。







    『貴女には辛い決断を強いるけれど、よく考えるのですよ。』
    部屋を立ち去る前に、一度だけ振り向いた占い師は、そう言って立ち去っていった。

    崩おれた夕鈴の耳に、音も無く雨が降る。
    ーーーーー優しい雨の音が聞こえていた。


    ・・・続く


    2013年
    05月10日
    10:51

    【長編】IF設定・パラレル踊り子『緋色の衣ⅩⅣ―ひいろのころも―』




    ・・・続き

    部屋に一人。
    ぽつん・・・・・と一人。

    夕鈴は考えることが、出来なかった。

    ーーー陛下は、好き。

    ーーーだけど、家族は大事。

    どちらか一つなど、選ぶことなど出来ない。

    結論など、できるはずもなく、ぐらぐらと心が揺れる。
    鉛のような身体を引きずって夕鈴は、荷物を纏め始めた。

    出立は、明日。
    それまでに荷物は、纏めなくてはならない。

    長年の経験で、荷物を纏める作業は苦もなく進む。
    長びいた王宮の生活で、荷物もずいぶん増えてしまった。

    夕鈴が、次の荷物を纏めようと、重い衣装箱の蓋を開けた時。
    ーーー中に、あの『緋色の衣』があった。



    …ふっ…くっ…

    …うっ…

    ……っ。



    感情を押し殺して、荷造りをしていた空っぽの夕鈴から、嗚咽が漏れた。

    秘めた想いが、じくじく痛む。

    何も知らない自分だけれど…
    一つだけ分かっていたことがある。

    『―はじめての恋が、もうすぐ終わる―』

    陛下から、額にチョウを受ける度に、心が躍った。
    日を追う毎に、どうしようもなく陛下に惹かれていく自分。

    いつの間にか、陛下が、好きになっていた夕鈴。

    初めから分かっていた。
    いつか、必ずお別れの日が来ることを覚悟しての毎晩の逢瀬。

    踊り子と国王陛下の埋められない溝。
    叶うはずのない、身分違いの恋。

    『初恋は、実らない』

    誰かから聞いた、昔からの諺に、夕鈴は、心底そう頷いた。

    初めて陛下の前で、踊った宴の衣装。
    初めて好きになった優しい人との最初の記憶。

    夕鈴は、緋色の衣を抱き締める。

    毎晩、つのる想いを隠して、陛下に逢えることを楽しみにしてきた。
    それさえも、今夜を過ぎれば、もう会えない。

    ーーーきっと、もう二度と会うことはできないだろう。

    この夜が明ければ、夕鈴の初恋が終わる。
    きっとこの想いも告げずに、終わりを迎えるのだろう。


    ―緋色― それは、想ひの色。
    狂おしく想う恋の色。
    灼熱の焔の色。

    夕鈴の秘めたる想いを現すその色は、もうすぐ終わりを迎える彼女の初恋の色。

    ーーーーその初恋に、葬送の涙を。
    緋色の衣を抱きしめて、夕鈴は新たな涙を流すのだった。

    …続く。


    2013年
    05月10日
    12:25 続きを読む

    【長編】IF設定・パラレル踊り子『緋色の衣ⅩⅤ―ひいろのころも―』



    ・・・続き

    漆黒の夜の王宮。
    薄絹を濡らす柔らかな雨の中。

    緋色の薄絹が まるで生き物のように宙を舞う。








    一心不乱に踊る夕鈴。
    降りしきる雨の中。
    ずっと、踊り続けていた。



    夕鈴の手繰る緋色の薄絹が舞い踊る
    宙を舞い上がり…生き物のように揺れ動く薄絹


    雨に濡れ、重たげに揺れ動くその緋色
    その薄絹にあわせ重たげに鈴が鳴る。
    雨の夜を震わす微かな音色。
    雨の音に消されて、すぐに消えてしまう。

    舞い手操る、夕鈴の頬に雨が流れる

    濡れた夕鈴の 色素の薄い髪が、
    重たげに身体に絡み付く・・・・・

    大きなはしばみ色は、空虚を見つめる。
    夜の闇に、焦がれの色を放つ瞳。


    悲しいことがあると、踊っていた。
    苦しいことがあると、踊りが忘れさせてくれた。

    きっと、今夜もうまくいく。

    陛下への想いも、踊りが忘れさせてくれるはず・・・・

    雌鹿(めじか)のようなしなやかな四肢に絡みつく薄衣

    重たげに身体に貼りつき踊りにくい。
    それでも、夕鈴は踊ることを止めない。

    身体に絡みつく重たげな衣は、夕鈴の陛下への思慕のよう。

    なかなか消し去ることなどできない想い。

    裸足の素足が、雨水を搔く。
    雨に濡れた衣から、雫が零れる。

    濡れそぼる雨にうたれ
    踊り続ける夕鈴は、踊りで泣いているようだった。

    彼女に幾重にも巻かれた鈴付きの腕輪と足環の音が途絶えたとき
    場が静寂に包まれた。

    静寂の夜の庭。

    静かな雨の音が耳をうつ。

    胸に緋色の衣を抱き締めて、はしばみ色の大きな瞳を閉じて
    夕鈴は、雨の音を静かに聞いていた。

    静かな雨が、彼女には幾つもの喝采に聞こえる。

    柔らかな雨の音は、夕鈴の心を慰めていった。
    しばらくして、夕鈴の瞳が開いた。

    静かに、星の無い空を見上げる。
    滲む景色でよく見えない。
    温かな雨が、夕鈴の頬を伝い流れ落ちるのだった。


    ーーーーー白陽国での最後の夜。

    ーーーーーーーーーーー彼女の最後の踊りが今、幕を閉じた。



    ・・・・・続く


    2013年
    05月10日
    17:13

    【長編】IF設定・パラレル踊り子『緋色の衣ⅩⅥ―ひいろのころも―』



    ・・・続き

    雨の音に混じり・・・自室で過ごす黎翔に入室を問う女の声。
    今夜、訪れるはずの無い夕鈴の声に黎翔はいぶかしむ。

    しかも、いつもの部屋の廊下の扉ではなかった。
    庭に面した窓の外。

    いるはずの無い、彼女の声をもう一度、確認しようと声をかけた。

    『・・・・夕鈴!?』

    「陛下、お別れの挨拶に参りました。」

    扉越しで、ようやく聞こえたその言葉に、黎翔は驚き、慌てて扉を開ける。

    『・・・・夕鈴っ!?』





    ーーーーそこには、雨にうたれる、ずぶ濡れの踊り子姿の夕鈴が、あの日の緋色の衣装を着て、深々と拱手していた。

    漆黒の夜の闇に、銀糸の雨が降る。
    黎翔には、流れ落ちる雨の中で、拱手する夕鈴の表情は見えなかった。

    『夕鈴、こんな夜更けにどうしたの?』

    『雨で、ずぶ濡れだよ。このままでは、風邪を引いてしまう。』

    『早く、部屋の中へ・・・・』

    いつもと様子の異なる夕鈴に、黎翔の不安が募る。

    じわりと、冷たい不安が心を支配していく。

    ーーーーさきほど夕鈴は、何て言った???

    お別れの挨拶??

    ーーーーーいったい突然、どうしたというのだ。

    耳を疑う言葉に、黎翔は夕鈴を室内へと導こうとした。

    だが・・・夕鈴は、動かない。

    代わりに、夜の闇を微かに震わす。
    静かな夕鈴の声が響いた。

    「陛下、長い間お世話になりました。」

    「明日、一座は南へと旅立ちます。」

    「陛下との想い出は、私の一生の宝となることでしょう。」

    「陛下、良くして下さり、ありがとうございました。」

    「黎翔様、お元気で。  ・・・・さようなら。」

    拱手していた腕を外して、くしゃりと夕鈴が微笑んだ。
    雨にうたれた夕鈴のその顔は、いつもの笑顔のはずなのに、 なぜか黎翔には泣いてるように見えた。

    そのまま・・・夕鈴は、踵を返して夜の闇へと走り去る。

    漆黒の闇に鮮やかな緋色の衣と裸足に着けた鈴の音が、遠ざかっていった。










    ざぁ・・・ざぁ・・・・と雨が降る。

    静かな夜に、雨の音だけが響く。

    先ほどまで夕鈴のいた地面に、柔らかな雨の波紋が、いくつもの滲む輪を作っていた。

    突然の出来事に驚いた黎翔。
    呆然と立ち尽くしていた彼は、一拍遅れて走り出す。

    遠ざかる鈴の音に導かれて、黎翔は夕鈴を追いかけるのだった。


    ・・・・続く



    2013年
    05月10日
    21:46

    完【長編】IF設定・パラレル踊り子『緋色の衣ⅩⅦ―ひいろのころも―』

    ・・・続き


    『夕鈴、待てっ!!!』

    ようやく、夕鈴に追いついた黎翔。

    華奢な夕鈴の肩を力強く引き寄せた。

    そのまま・・・・彼女を抱き締める。

    簡単に、夕鈴は黎翔の腕の中に収まった。

    ・・・・くっ・・・っ・・・

    ・・・ふぇ・・・・うぅ・・・へい・・かっ・・・・

    掴まえた夕鈴は、泣いていた。

    震える身体を、さらに強く抱きしめる。

    「・・・・・へいか離してください。」

    『いやだ。離したくない。』

    『君が好きなんだ。夕鈴。』

    『君が居なくなると知って、ようやく私は気付いた。』

    『私の傍から去らないでくれ!!!』

    『----夕鈴、愛している。』


    柔らかな雨が二人を濡らす。

    静かに降りしきる夜の雨。

    身分も関係なく、平等に雨は降る。


    おずおずと夕鈴の唇に重ねる黎翔の唇。

    黎翔は、はじめてーーーーーー夕鈴の唇に触れた。

    微かに震える彼女の唇は、甘くて柔らかだったーーー。

    濡れた衣越しに伝わる彼女の熱が愛おしい。

    こんなにも、愛おしい存在があったとは・・・。

    黎翔は、抱きしめたまま、彼女を見つめた。

    真っ赤に染まった夕鈴の顔。

    今、口付けたばかりの唇を押さえる指先までもが赤い。

    大きなはしばみ色の瞳が、真っ直ぐに黎翔を見つめていた。

    黎翔の紅い瞳が、夕鈴を優しく見つめる。

    愛おしくてたまらない。

    願いを込めて、黎翔は乞い願った。

    『夕鈴、私の妃になってくれないか?』

    真剣そのものの黎翔の言葉に、夕鈴は驚く。

    はしばみ色の大きな瞳がさらに大きくなった。

    「・・・・本気ですか?」

    信じられなくて、呟く夕鈴。

    そのまま黎翔は、夕鈴の耳朶に愛を囁き請い願う。

    『・・・・夕鈴、私は本気だよ。』
    『私の愛を君に捧げよう。』
    『一生、君を大事にするよ。』
    『私の寵愛を君に受けて欲しい。』

    「・・・・陛下。」
    「私は、ただの踊り子です。」
    「何も、持っておりません・・・」
    「それでも、かまわないとおっしゃるのですか?」


    『かまわない、夕鈴。』
    『私は、君が欲しい。』

    「この身ひとつですが、すべて貴方のものです。」
    「私も、黎翔様をお慕いしておりました。」

    黎翔の胸に顔をうずめながら、夕鈴が応える。
    叶わなかったはずの初恋。
    伝えるつもりのなかった夕鈴の陛下への恋心。
    ようやく告げたその言葉に、羞恥で夕鈴は、耳まで真っ赤だった。

    黎翔は その告白に、はにかんだ笑顔を向けると 嬉しそうに彼女を大切に抱き上げた。
    今走ってきた道を、今度は、ゆっくりと夕鈴を抱えて自室へと戻る。

    いつの間にか、雨は止んでいた。
    黎翔は部屋に戻ると、内閂をカチャリ・・・と閉めた。

    そのまま・・・夜の静寂が後宮を包んでいった。
    何事も無かったかのように夜が明ける。






    次の日、一座の出立の時間になっても、夕鈴は現れなかった。
    定刻どうり、一座の荷馬車は南へと街道を進む。

    雨上がりの雫が昇る朝日を浴びて、透明な美しい光りを放っていた。


    白陽国王宮が、空と溶けて遠く青い影になった頃、一座の長である女占い師は、王宮を見つめた。
    王宮の青い影と重なる年若い妹の面影。

    「夕鈴、幸せになるのですよ。」

    呟いた言葉は、風に攫われ、かき消された。

    晴れた澄んだ青空を、眩しそうに見つめる占い師。
    その瞳に、涙が光る。

    そのまま荷馬車は南の街道へと折れた。


    ーーーーーーーのちに、立后し白陽国・国王 珀黎翔の正妃となった夕鈴の運命をこの占い師は、先見していたのかもしれない。



    ー緋色の衣・完―


    2013年
    05月11日
    04:33

    【短編】緋色の衣『寵愛ー拙い恋ー』※黎翔編

    ※SNS未公開・書き下ろし
    こちらは、先日終了した【長編】踊り子・夕鈴『緋色の衣ーひいろのころもー』の幕間となります。







    初めて黎翔からの寵を受けてから数日後のある日のこと。
    いつものように、夜の後宮で過ごす夕鈴。

    楽しい時間というものは、いつもあっという間に終る。

    いつの間にか、夕鈴が一座に帰る時間になっていた。

    また明日逢えるとはいえ、終わりの時間が近づいてくると、夕鈴は、黎翔と離れたくないようなそんな一抹の寂しさを感じるようになっていた。

    その感情は、言葉にしなくてもなんとなく伝わるもの。

    そんな様子の夕鈴を、黎翔もいつの間にか愛おしいものとして見るようになっていた。

    『ーーー夕鈴、もうそろそろ帰る時間だね。』

    「もう、そんな時間なのですか?ーーー名残惜しいです。」

    とても淋しそうに呟く夕鈴に、慰めるように優しく微笑む。
    本当に、心の感情を素直に言葉として伝えられる君が、愛しくてたまらない。

    『おいで・・・夕鈴。』
    『今夜も寵を授けてあげよう。』

    恥ずかしそうに頬を染めた夕鈴。
    そのままおずおずと黎翔の差し出した手に、手を重ねた。

    黎翔は、彼女の手を引きながら
    今まで、茶を飲んでいた卓から、長椅子へと移動した。

    あの日から、毎晩のように、彼女に寵を施していた。
    私から君へと贈る額への口付け。

    なんて子供じみた滑稽な芝居。
    恋愛も寵愛も知らない君には、それくらいがちょうどいい。

    未だ慣れない純粋な君に
    唯一、直接触れられるこの時間。

    ・・・・・何よりも、私が楽しみにしている。

    この時間を君は、どう思っているのだろうかか?
    ーーーーー君の心が知りたい。

    震える指先を優しく握りながら、黎翔は長椅子に先に座った。
    彼女を引き寄せて、自分の膝へ座らせる。
    吐息が掛かるほどの見下ろした距離。

    はしばみ色した大きな瞳が、私を見つめる。

    「陛下、重くありませんか?」

    『重くないよ、夕鈴。気にしないで・・・・』

    「えっ・・・・でも、だって・・・」

    いつまでも、この時間に慣れない君に
    黎翔は、クスリと笑った。

    夕鈴は、益々羞恥に身を染めて、恥らう。

    至近距離で、会話が始まる甘い時間。
    コレで、何もない関係だと知ったら李順は、驚くだろう。

    薄紅色に染まる君を、嬉しく思う。
    素直な君を、この距離で愛でることが出来る。
    君の熱を直接感じることが出来る。
    ーーー愛しくてたまらない稀有な乙女。

    大切にしたい貴女(ヒト)   ・・・・・夕鈴。

    引き寄せて、腰を支えていた手を外し、両手で彼女の頬を挟み込む。
    頭(こうべ)を捕らえて、口付ける額への寵。

    バランスを崩しそうな君は、遠慮がちに私の肩へと両手を添えた。

    少しづつ・・・・近づいていく君との距離。

    近づく視線に耐えられなくなり、君の瞳が閉じられる。

    震える睫。
    薔薇色に染まる頬。
    そして・・・・私は、口付ける約束された場所に口付けた。

    ちゅっ・・・

    「・・・・・・ぁ。」

    私の熱が、残るように、二度・・・三度・・・口付ける
    愛しさの表れ。

    これが、精一杯の私からの寵愛。
    だけど、ありったけの愛しさを込めた口付け。

    少しづつ離れていく君との距離に名残惜しさを感じつつ
    黎翔は、唇を離した。



    ーーーーーーーいつかは、居なくなるのであろうこの愛しい花。
    野の花は、自然の中にあることこそが、美しい。
    王宮の庭に植えたのならば、美しさを失ってしまうに違いない。
    ーーーーーーいつかは、自然に帰してやらねば。

    だけど、いつまでも愛でていたい。
    手放したくないと願っていることを黎翔は、気付いていなかった。

    『夕鈴、おやすみ。』

    「陛下、おやすみなさいませ。」

    『明日も、おいで・・・』

    「・・・・・はい。」

    別れ際、このまま、時が止まればいいのに・・・・そう思う黎翔の恋。
    今夜も黎翔の甘い夜が終る


     2013年
    05月13日
    08:37 続きを読む

    【短編】緋色の衣『寵愛ー拙い恋ー』※夕鈴編

    こちらは、先日終了した【長編】踊り子・夕鈴『緋色の衣ーひいろのころもー』の幕間となります。


    甘い花の香りに目が覚めた。
    夕暮れごろの陛下からの花束。

    この中から、一番見目の良い花を髪飾りに使う。
    いつも、香りの良い美しい花が選ばれた、
    薄い色素の金茶の夕鈴の髪を飾る。

    届けてくれた侍女が笑う。
    本当に陛下は、貴女をお気に召したようね。
    さすがは、陛下の寵のしるしの贈り物。
    毎日、素敵な花が届きますわね。

    初めて陛下から寵を受けてから数日後のある日。
    小さい蕾のついた薄紅色の薔薇(そうび)
    その薔薇を髪に飾り、陛下の許へと訪れた。

    いつものように、黎翔の部屋で時を過ごす夕鈴。
    語らい、ゲームに興じる楽しい時間は、あっという間に過ぎた。



    今夜も甘い夜が彼女を焦がす。

    『・・・・夕鈴、おいで』

    と差し出される手に手を重ね、誘われるがままに陛下の膝へ

    恥ずかしくて、たまらない。
    この後のことを思うと、消え入りたい思いに囚われる。

    最初、額だけの口付けは、頬にまで施されるようになった。

    漆黒の髪、優しい紅の瞳。整った顔立ち。
    綺麗な綺麗なこの国の王様。

    その王の膝に座り、口付けを受けるなんてことは
    夢のよう。

    毎日のように、降る甘い口付けは、夕鈴の心に変化を与えていた。
    最初、ビックリしただけの額への口付け
    二度、三度・・・・と
    日を追うごとに痺れる甘さが心を満たすようになった。

    いつの間にか、この時間を待ちわびている自分。

    陛下に心を奪われていることなど、知らぬまま・・・
    甘い口付けに、心ときめかす。

    『・・・・・夕鈴、いい?』

    「はい・・・陛下。」

    恥ずかしくて、目を瞑る。
    だけど、陛下の気配が近い。
    ドキドキと高鳴る胸。

    チュッ・・・

    陛下の唇から、微熱が伝わる・・・・
    微熱は、夕鈴の心に届く。

    今夜も口付けの甘さが、夕鈴の心を熔かす。

    額に・・・
    こめかみに・・・
    右頬に・・・
    左頬に・・・


    触れるたび、色づいてゆく夕鈴の熱は増すばかり・・・
    頬を染め、口付けを受ける夕鈴は、
    髪飾りの薄紅色の薔薇(そうび)より赤かった。

    ーーーーーーーーーそのときめきが、恋と知ったのは、先のこと。
    身分違いの初恋に身を焦がし、辛い決断するのは、さらに先のお話。


    2013年
    05月27日
    06:54


    カテゴリ『秘密の味は、蜜の味』に、『緋色の衣』続編 大人味『寵愛』を不定期にスタートします。
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