花の四阿

    Lala掲載の『狼陛下の花嫁』二次小説のブログです。某SNSで書き溜めた小説の他・イラスト・詩文・写真・徒然日記・一部鍵つきを掲載しています。

    【書庫】完『薔薇の園―そうびのその―』 ※要注意!! 一部大人味。・・・・ご説明

    ※一部表現で、大人表現があります。
    ご不快に思う方は、お読みにならないでください。
    それでも、よいと思う方は、そのままお進みください。

    短編・長編・詩文を一本にまとめてみました。
                       2012.09.27.さくらぱん


    【短編】『薔薇の雫―そうびのしずく―』プロローグ
    【詩文】『薔薇色の月ーローズムーンー』
    【短編】『薔薇色の夢』※がっつり大人味
    【詩文】『朝露の薔薇―あさつゆのばら―』
    【詩文】『一滴の為に-薔薇の香油ー』
    【長編】『薔薇の口付けーそうびのくちづけー1 』
    【長編】『薔薇の口付けーそうびのくちづけー2 』
    【詩文】『秋咲きの粉粧楼』 ※がっつり大人味
    【長編】『薔薇の口付けーそうびのくちづけー3 』
    【長編】『薔薇の口付けーそうびのくちづけー4 』※舞台は夜。
    【長編】『薔薇の口付けーそうびのくちづけー5 』※舞台は夜。
    【長編】『薔薇の口付けーそうびのくちづけー6 』※舞台は夜。
    【長編】『薔薇の口付けーそうびのくちづけー7 』※舞台は夜。
    【長編】『薔薇の口付けーそうびのくちづけー8 』※舞台は夜。
    完【長編】『薔薇の口付けーそうびのくちづけー9 』 ※舞台は夜。
    【短編】『濡れそぼる白薔薇―ぬれそぼるしろそうび―』後夜祭
    【短編】『染まりゆく薄紅の薔薇ーそまりゆくうすくれないのばらー』
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    【短編】『薔薇の雫―そうびのしずく―』プロローグ

    藍宵(あいよい)の朧月夜(おぼろづきよ)に
    人知れず咲く
    薔薇がある
    後宮のとある場所

    池に面した
    薔薇の庭
    ―そうびのにわ―

    月に照らされた
    秋咲きの薔薇

    月の雫に濡れ
    金色のほのかな光に震える
    その庭の
    いずれの薔薇かを
    選び取り
    とある晩の
    月の池に浮かべれば

    生涯の恋人が
    池の水鏡に現れるという

    君が選ぶ
    その一輪の花に
    秘めたる大いなる月の魔法

    天の定めた
    ただ一人を
    見る為に

    今も昔も
    変わらない

    人知れず
    訪れる者が
    絶えない

    太古の息吹を感じる
    そんな場所が
    後宮の
    忘れ去られた場所に
    あるという

    古い魔法は
    月の雫を湛えた薔薇なのか・・
    それとも月の池なのか・・・・


    -完-

    【詩文】『薔薇色の月ーローズムーンー』

    今夜は
    優しい光が降り注ぐ
    月の夜

    星々は、雲間に隠れ
    柔らかな月光が降り注ぐ

    雲母のような
    雲の煌めき

    月を見上げて
    私は、ため息を一つ

    今夜は陛下の姿がない
    地方の視察へと
    王宮を離れてもう幾日

    私の傍らは、とても寒い

    夕方の黄昏時
    この月は、
    薔薇色の月
    ーローズムーンー

    優しく私を見守る
    陛下の紅い瞳の色だった。

    優しい紅は、私の心を慰める
    今もまた優しい光が私を包む
    まるで、陛下が側にいるかのよう

    寂しさを埋める
    月の優しい魔法

    貴方もこの月を見上げているのでしょうか? ・・・・・黎翔様。

    【短編】『薔薇色の夢』※がっつり大人味

    色・艶のある作品です。
    お好みで無い方は、開封せずとも『薔薇の園』楽しめます。
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    【詩文】『朝露の薔薇―あさつゆのばら―』

    いまだ
    日が昇らぬ
    朝霧の
    後宮の庭先

    乳白色の
    白い世界に
    色とりどりの
    薔薇が咲く

    初秋の
    冷たい空気に
    花弁は
    濡れそぼり

    ようやく
    開き初めた
    蕾の薔薇までもが
    朝露の白玉に
    濡れて ぶるりと
    震えている

    私は
    柔らかく白く輝く
    朝露の世界で
    たった一輪を探す

    ようやく
    朝露の白玉のついた
    薄くれないの一輪を
    気に入り
    花弁を傷つけないように
    丁寧に手折る


    薔薇の香りを
    確かめる
    濃く香る
    優しい気高い香り
    高貴なかの人を
    思い浮かべる

    私がお仕えする
    大事なかの人
    大事に抱える
    この一輪を
    かの人のもとへ

    かの人の
    頭上を飾る為に
    それが私の朝の仕事
    大事な早朝の儀式

    あたり一面の
    秋薔薇の香は
    濃厚に私の裳裾に
    染み付いた

    【詩文】『一滴の為に-薔薇の香油ー』

    濃い朝もやが
    辺りを包む

    濃厚な甘い香りが
    立ちのぼる

    この白い世界に
    美しく咲く
    香油の薔薇を

    一輪一輪
    丁寧に摘み行く

    気高く高貴に咲き誇る花々
    茨の道を 一人ずつ

    薔薇を摘み取り
    花篭へ 

    零れ落ちそうな花篭の中

    一列に並ぶ 
    摘み取る人々は

    遠くへ行くほど白く霞む
    青い人影

    黙々と作業する
    たった一滴の
    香油の為に。

    朝露のついた花を摘む
    今朝 花開いたものばかり

    手元の薔薇は
    白露が宿り

    朝の柔らかな光に
    甘い香気を放つ

    紅い薔薇の海の中
    溺れそうな香りに包まれて

    まだ見ぬ香油を使う かの人の為に
    私達は摘もう 
    薔薇を もっと・・・もっと・・・

    【長編】『薔薇の口付けーそうびのくちづけーⅠ』

    鳥のさえずりで目が覚めた。
    肌寒さに、思わす布団に潜り込む

    静かな朝のまどろみのひと時
    寝台の帳越しに
    朝日が差し込む

    眩しい光に目が慣れる
    寝室の中央に活けられた真紅の薔薇
    大きな花瓶に大輪の薔薇が咲誇る

    朝の光に映える
    その気高い花は
    今は、居ない陛下を思い起こさせた。

    するりと寝台から降りて
    薔薇に近づく
    甘い香気が夕鈴を優しく包む

    (まるで、陛下のようね・・・)

    気高さは、陛下を思い出す
    その真紅の色は 瞳の色
    甘い香りは 貴方の言葉
    今は会えない人だけに
    薔薇に面影を重ねる

    陛下の化身のような薔薇に
    朝の光に彩られた
    夕鈴の砂金のような優しい微笑み

    にっこりと薔薇に微笑む。

    「おはようございます。陛下。」

    真紅の薔薇に、輝く金茶の髪が揺れていた


    ・・・・続く

    【長編】『薔薇の口付けーそうびのくちづけーⅡ』

    朝の光の中
    鏡の私が問いかける
    未だ見慣れぬ【狼陛下の花嫁】 

    【お妃様】と呼ぶ声にも
    だいぶ慣れてしまったけど

    下町の私はここには居ない
    鏡に映るかしずかれた貴婦人

    亜麻色の髪を侍女に梳(くしけず)られ
    唇には、鮮やかな紅を塗り
    きらびやかな錦の衣装
    豪華な宝飾品を身につけた
    白い肌とはしばみ色の瞳の美しいひと。

    (貴方は、だれなの。)

    見知らぬ人に、今日も私は問いかける。

    問いかけに答える美しい人。

    (あなたが求める、ホントの自分とはどちらなの?)

    問い返された言葉に、答えは無い。

    どちらも、私。 【汀 夕鈴】なのだから・・・

    鏡台に置かれた小さな花瓶に
    朝露のついた薔薇が一輪

    乳白色の花弁の中央が薄紅色がほんのりと色づいている
    美しい薔薇の花

    「綺麗な薔薇・・・」

    その夕鈴の小さな呟きを、髪を梳く侍女が聞いていた。

    ーお気に召しましたか?
    :今朝、摘み取ったばかりの薔薇にございます。
    今日のお召し物にあわせてみました。ー

    髪を梳(す)く手を休めて、
    嬉しそうに笑う侍女はとても誇らしげだった。

    ー香りもとても良い花ですわ。
    まるで、お妃様のようですね。-

    上気した頬でそう言うと、また髪を梳(くしけず)るのだった。

    【詩文】『秋咲きの粉粧楼』 ※大人風味

    こちらは、少し色艶のある作品です。

    大人表現の苦手な方は、避けてください。

    もちろん、開封せずとも『薔薇の園』は楽しめます。 続きを読む

    【長編】『薔薇の口付けーそうびのくちづけーⅢ』

    ほぅ・・・

    感歎のため息が零れ落ちる

    秋風に揺れる 満開の薔薇園
    深い色合いと甘やかで優雅な香り
    心地良い風と共に豊かな薫風が場を包む

    池に面した薔薇園を教えてくれた侍女の言うとおりの景色

    (天界とは、こうなのかしら・・・・?)

    夢のような花の景色が広がっている
    赤や黄
    ピンクや白
    はたまた・・・・複色の薔薇の花々・・・

    一重や多重  色や形、香りも様々な薔薇の庭園。

    四苛からの眺め・・・
    眼前の景色に心躍る。
    花の景色に心奪われる。

    だけど・・・・・・・・・・・・一抹の寂しさだけは、埋められない。

    (陛下、。あなたが居ない)

    何かを察した女官長が年若い侍女に耳打ちする。
    年若い侍女は、女官長ににっこりと微笑むと夕鈴に優しく話しかけた。

    ・・・夕鈴様
    この場所の伝説を知っていますか?
    この場所には、素敵な伝説が言い伝えられております。・・・

    「まぁ・・・・どのような伝説なのですか?」

    ・・・半身の欠けた宵月に愛と美の女神の金星が近づく時に、
    誰にも見られず、人知れずここの薔薇を一輪だけ選び取り、
    目の前の池に落とし願えば・・・自分の生涯の相手が水鏡に映るということです。・・・

    ・・・条件は、そう難しいものではございません。

    必ず、誰にも、見られず深夜にここに来ること。
    宵月の金星が輝く夜ということ。
    この池が、月の光で溢れているということ。
    そして、夜露に濡れた沢山の薔薇からたった一輪だけ選ぶということ。
    そして一番大切な、心から水鏡に願うこと・・・

    ・・・夕鈴様、今夜も宵月の夜ですわ。
    昨夜、月の傍に、愛と美の女神の金星も輝いておりました。
    きっと、今夜なら、水面に夕鈴様の生涯の相手【陛下】が写りますわね。・・・

    はしばみ色の瞳を見開き驚く夕鈴。
    侍女の顔から視線を、池に面した薔薇園に、走らせる・・・・

    先ほどの景色と変わらないはずなのに、
    どこか魔法のような力を覚える。

    (ーーーーなんて不思議。)

    侍女は話し終えた後、いたずらっぽく微笑むと、元の位置に下がっていった。

    無言で薔薇園を見つめるはしばみ色の大きな瞳
    風そよぐ粉粧楼の艶めいた花びらが
    夕鈴の金茶の髪とともに秋風に揺れる

    静かに時間が過ぎていく池に面した薔薇の四苛

    風に飛ばされたひとひらの紅い薔薇の花びらが
    秋風にそよぎ、くるくると一枚水面に浮かんでいたのだった。

    【長編】『薔薇の口付けーそうびのくちづけーⅣ』※舞台は夜。

    夕鈴は、深夜 突然目が覚めた。

    今夜も、甘い夢に翻弄されて
    溶け残る熱が身体を炙る

    夢と現実の区別がつかない。
    手探りで探すあの人の残滓

    居ないはずの陛下を夕鈴は探す

    寝室の窓から差し込む 月の光
    ーーーむせ返るような薔薇の香り
    花瓶に挿した大輪の紅薔薇

    (・・・・っ!!!)

    (陛下っ!!!あなたに会いたいっ)

    頬を伝う銀色の雫
    いつの間にか、夕鈴の両頬を涙が伝い落ちていた。
    会いたくても、会えない寂しさで、夕鈴の心は限界だった。

    (まどろみから目覚めれば、貴方は居ない。)

    夢から、覚めてしまった。
    今夜は、もう陛下に会えないの?

    苦しくて・・・・苦しくて・・・・・胸が痛い。

    帳を揺らす秋風が、寝台に居る夕鈴に
    むせ返るような薔薇の香りを運んできた。

    脳裏に浮かびあがるのは、昼間の光景。
    年若い侍女が話してくれた薔薇の伝説。

    夕鈴は、窓辺に駆け寄り、月を確認する。
    確かに今夜は、半身のない宵月。
    小さく美しく輝く愛と美の金星も傍にある。
    半月とはいえ明るい月夜。
    夕鈴の部屋に面した池は金色に輝いていた。

    太古の魔法の条件の揃う空。

    夜着の上から、夜露を弾く外套をはおり
    そっと、夕鈴は、自室から抜け出した

    影を伝い、人知れず離れていく

    足取りは静かに、後宮の庭を進みいく
    太古の魔法の息づく 薔薇園へと夕鈴は向かっていた。

    【長編】『薔薇の口付けーそうびのくちづけーⅤ』※舞台は夜。

    深夜の薔薇園は、たなびく夜霧につつまれていた。
    遠くの景色は、滲んで見えない

    砂金のような月の光が、庭園に咲く薔薇を神秘的に輝かせる

    昼とは違う、夜の顔

    夜の帳と薔薇の香りの中、夕鈴は夜露の付いた彼女だけの一輪を探す。

    なかなか花は見つからない。
    ・・・・・どれなのだろう。

    心の琴線に触れるその一輪は、どこに咲いているの?

    必死に探す視線の先に、ひと際輝き咲誇る真紅の紅薔薇。
    砂金のような月光を弾きながら、自らを主張するその存在感

    ビロードのような艶のある光沢。
    灯火を想わせる輝く深紅の深い色合い。

    陛下を想わせる凛としたその一輪。

    砂金のような月の光を纏う深紅の薔薇から夕鈴は、目が離せない。

    (―やっと、見つけた。私の薔薇。)

    夕鈴は、その花にそっと手を伸ばす。

    花びらを傷つけないように慎重にそっと・・・

    花首も長く・・・・・茎も長めに鋏で静かに切って、薔薇を手に入れた。

    手の中で香る真紅の薔薇に、顔を寄せる

    しっとりとした夜を思わせる高貴な甘い香り

    瞳を閉じれば、浮かぶ陛下の姿。

    こうして、夕鈴は、自分の薔薇を見つけたのだった。

    【長編】『薔薇の口付けーそうびのくちづけーⅥ』※舞台は夜。

    月の光に輝く池の畔に夕鈴は、佇む

    池をすぐ望める端の端に。

    水面は、月光の砂金の光を湛えて金色に輝いていた。

    夕鈴は、手元の薔薇を見つめる。

    夜霧が彩る真紅の紅薔薇

    陛下のような気高い薔薇

    夕鈴は、静かにはしばみ色の瞳を閉じた

    瞼に陛下の姿を思い描きながら

    半信半疑の祈りの捧げる

    (どうかお願い。私の薔薇よ。陛下の姿を私に見せて!!)

    金色の水面が、夕鈴の祈りに答えたかのように漣をたてる

    しっとりとした夜の闇。

    夜の薔薇の濃厚なむせ返るような甘い香り

    砂金のような宵月の月光

    輝く愛と美の星

    宵月の月光を湛えた砂金の水鏡

    そして、真紅の夕鈴の薔薇

    彼女の真摯の祈り

    条件は、すべて揃った。

    夕鈴は、はしばみ色の瞳を開けた。

    願いをこめて、薔薇を池に捧げる

    (お願い・・・)

    夕鈴の薔薇は、ゆっくりと夜露を煌めかせて

    砂金の池へと軌跡を描きながら落ちていった。

    【長編】『薔薇の口付けーそうびのくちづけーⅦ』※舞台は夜。

    瞑目して 夕鈴は、もう一度祈る。

    ・・・・もしも、やっぱり見えなかったらどうしよう・・・・・

    万が一の不安に、血潮が凍る

    夕鈴の祈りが更に加速する。

    月光が夕鈴に降り注ぐ・・・・金色の砂金のような光りの粒。

    金茶の髪が夜霧に濡れてしっとりと重い

    外套から覗く夜着の裳裾も、夜霧に濡れていた。

    重さの或る青い夜。

    太古の魔法が身じろぎ蠢(うごめ)く。

    宵月が輝く・・・・藍宵の空に。

    砂金の池に真紅の薔薇が浮かぶ・・・

    どれくらいたったのだろうか・・・・

    夕鈴は、おそるおそる目を開ける。

    月の光りを湛えた水面には、夕鈴しか写っていなかった。

    瞑目して、嘆息の長いため息をついた。

    ふぅーーーーーーーーーーっ

    (今までの数時間は、何だったのかしら・・・)

    落胆し、あきらめて自室に帰ろうともう一度目を開けた時

    太古の魔法が発動した。

    水面に写る自分の姿ともう一人。

    見間違えようも無い陛下の姿。

    会いたくて会いたくてたまらなかった人。

    「・・・・陛下。」

    嬉しくて、溢れる涙が止まらない。

    ぽろぽろと黄金色した真珠の涙が頬を濡らした。

    【長編】『薔薇の口付けーそうびのくちづけーⅧ』※舞台は夜。

    夕鈴の背後から、二本の逞しい腕が、現れて…夕鈴は、その腕に抱き締められる。

    『ただいま。夕鈴。』

    『会いたかった…。』

    耳元で、囁かれた優しい言葉。

    優しく暖かいよく知っている両腕。

    背中に感じるぬくもり

    (…!?)

    魔法をかけられ、夢を見ているような現実に頭がついて、いけない。

    「陛下なの…なんで…」

    『私だよ。夕鈴。』
    『待たせたな。遅くなってすまない。』

    未だに、信じられなくて…振り向き仰ぎみると、懐かしい紅い瞳の会いたい人が、そこにはいた。

    愛しさを隠しきれない優しい微笑み。
    紅い瞳が優しい光を湛える。

    …っ。

    あ…ああ、本物の陛下!!

    「陛下ぁ!」

    抱き締められた陛下の腕の中から、何とか、陛下の首に夕鈴は、すがりついた。

    「黎翔さま…黎翔さま…お会いしたかった…」

    『私もだ。夕鈴。』

    「夕鈴は、昼も夜もなく、陛下を思っておりました…」

    子供のように、何度も何度も名前を呼ぶ。

    今まで、我慢していた黎翔への思いが、一気に噴き出した。

    溢れ出した涙も気持ちも、とめられない。

    すがりついた、腕に力を込めて、夕鈴は黎翔の胸の中で泣き濡れた。

    黎翔は、夕鈴を更に抱き締めて、強く彼女の温もりを感じた。

    泣き濡れた、夕鈴の涙の雫は、黎翔の衣にゆっくりと染み込んでいった。

    宵月に輝く砂金の池が、全ての出来事を映し出していた。

    完【長編】『薔薇の口付けーそうびのくちづけーⅸ』 ※舞台は夜。

    (やはり、予定を早めて正解だったか…)

    泣きじゃくる夕鈴への愛しさと待たせたことへの罪悪感で、黎翔の気持ちは、加速する。

    何度も、何度も自分の名前を呼び、温かい涙が、枯れない泉のように溢れ出し、黎翔の衣を濡らす。
    すがりつく、白い腕も、もはや隠さない嗚咽も、夕鈴の全てが愛しかった…。

    二人引き寄せられるように、自然と重なる口唇

    薔薇の甘い濃厚な夜の香薫が、二人を包む。

    会えなかった二人の日々を、埋めていくような…甘やかで優しく濃厚な口付け。

    夕鈴の肌が、鮮やかな薔薇色に染まる

    まるで、咲き初めの薔薇のように。

    甘やかな口付けは、夕鈴をゆっくりと薔薇(そうび)のように、花開かせ艶めかせる。

    愛に溢れ出した夕鈴は、黎翔を求めて、口付けを返す。

    池の畔の薔薇の園。

    太古の魔法が息づくその場所は、王の住まう後宮に在るのだという。

    今宵の奇跡の立ち会い人は、貴女です。

                  ―薔薇の口付け・完―

    【短編】『濡れそぼる白薔薇―ぬれそぼるしろそうび―』後夜祭

    「温かいぬくもり…今度こそ、夢ではないのね…。」

    抱き締められる黎翔の身体の熱を感じて
    最初の口付けを終えた夕鈴が呟(つぶや)く。

    『そう、夢で会わなくても、いいんだ。』
    『…私は、ずっと君の側にいるから…』

    抱き締める手を緩(ゆる)めて、黎翔が囁(ささや)いた。

    そのまま…蝶の羽ばたきのような
    触れるだけの口付けを夕鈴の柔らかな唇へ…

    激しい口付けの後の余韻を確かめるような密やかな口付け

    黎翔が、大好きな彼女の金茶の髪に触れた時。
    黎翔は、あまりの冷たさに驚いて、夕鈴に質問していた。

    『君が温かいと感じるはずだ…』

    「え・・・??」

    『夕鈴、君はいったい何時(いつ)から此処(ここ)にいるんだ!?』
    『まるで、夜露に濡れそぼりうつむく薔薇だ』
    『髪も衣も夜露でじっとりと濡れているではないか!』

    「気付きませんでした。夢中だったので・・・」

    『夕鈴、身体が冷えきっている。』
    『今すぐ、暖めなくては・・・』

    「きゃっ・・・」

    そう言って、黎翔は夕鈴を抱えあげた

    (・・・・・少し、軽いな。少し痩せたか?待たせすぎたのか?)

    抱えあげた夕鈴の身の軽さに黎翔は、ツキンと胸が痛む

    『ここからだと、私の部屋が近いな。』
    『夕鈴、私の部屋でいいか?』

    「はい・・・貴方の部屋へ連れて行ってくださいませ。」

    足早に黎翔は夕鈴を連れて立ち去っていった
    後には、静かな池と薔薇園に、白い夜霧が深く立ち込めていった。

    【短編】『染まりゆく薄紅の薔薇ーそまりゆくうすくれないのばらー』

    侍女に湯殿を申し付けて、夕鈴を湯殿へと送り出した。
    と同時に、夕鈴付きへの女官長に夕鈴の着替えを用意してもらう。

    しばらくすると、夕鈴が戻ってきた。
    湯上りなので、肌が薔薇色に美しく染まっている。
    濡れた髪を一つに纏(まと)め上げているが、まだ雫が滴(したた)っていた。

    「陛下ありがとうございます。」
    「おかげさまで、温まりました。」

    『夕鈴、ここに来て・・・』

    呼ばれて、不思議そうに小首をかしげて歩み寄ると、
    長椅子を勧(すす)められた。

    『ここに座って!!雫が落ちてる。僕が髪を拭いてあげる』

    「えっ・・・いいです。自分でやります。」

    『いいから・・・・・やりたいんだ。』

    そこまで言われれば、お願いするしかない。
    半ば、強引に長椅子に座らされた。

    大きな陛下の手が布越しに私の頭をつつむ。
    最初は、丁寧だったのだけど・・・・・突然。

    わしゃわしゃわしゃ・・・・

    『きゃあ・・・』

    思いっきり髪を拭かれた。
    金茶の髪が激しく乱れる。
    心なしかちょっと痛い・・・

    「ちょ・・・・陛下痛いです。」

    『えっ・・・・痛かった?』
    『ごめん、夕鈴。』

    ・・・・でも、髪は乾いたみたい・・・・だけど。

    「陛下、酷いです。髪が・・・・」

    『髪が、ぐちゃぐちゃだね。でも、髪乾いたね。』
    『大丈夫!!!ちゃんと、僕が梳いてあげるよ。』

    そう言って髪まで梳いてくれた。

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


    『夕鈴、お願いがあるのだけど・・・いいかな。』

    ・・・・くすっ

    遠慮がちに、お願いする小犬に夕鈴は笑みが零れる。
    たれた耳が見えるかのよう。

    「なんでしょうか?」

    『こんな時間なのだけれど、夕鈴のお茶が飲みたいんだ。』
    『夕鈴、いいかな?』

    「いいですよ。少々お待ちしてもらっていいですか?」
    「今ご用意しますね。」

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

    差し出されたお茶を、嬉しそうに飲む陛下に夕鈴も幸せな笑みが零れる。

    『これこれ、この味。』
    『やっと帰ってきたって実感するよ。』
    『夕鈴、ただいま。』

    言われて気づくまだ、お帰りなさいって、言ってなかった・・・・。

    「お帰りなさい、陛下。」

    穏やかな陛下との時間。

    ありきたりで、大切ないつもの日常が、戻ってきた。
    離れていたからこそ気付いた。お互いが、こんなにも大切な人だということ。

    離れてた日々に感謝しよう。・・・・だからこそ、気付いた。

    初めて二人が出会った日に感謝しよう。   ・・・・・運命の奇跡に。






    かすかに香る薔薇の残り香。
                          ・・・今日の奇跡の残滓。
    今日の奇跡に感謝しよう。      ・・・戻ってきた日常に。

    もう、貴方と離れたくはない。離れない。
    貴方は、私のこの世で一番愛する人。
    私にとって、かけがえのない運命の伴侶。
    愛のこもった優しい笑顔で微笑みを交わそう。
    確かな貴方のぬくもりが、私の命。

    静かな宵月の夜が過ぎてゆく。
    奇跡の夜に、砂金のような月光がさらさらと降る。

    日常という・・・・・・・・・・二人の奇跡は続く。



                    ー薔薇の園・完ー
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