花の四阿

    Lala掲載の『狼陛下の花嫁』二次小説のブログです。某SNSで書き溜めた小説の他・イラスト・詩文・写真・徒然日記・一部鍵つきを掲載しています。

    現パラ【中編】 君に告ぐ  1  SNS45000hitキリリク

    その日、朝刊の一面を飾ったゴシップ記事に、
    新たな嵐の予感。

    何も知らない当事者たちは、
    静かに……まだ微睡み続けていた。









    西日が傾きかけた陽射しが差し込む
    最上階の会長室。
    このビルのオーナーであり、
    珀コーポレーションの会長、珀黎翔は、鬼の秘書から会長室に缶詰にされ
    今日は外界と遮断された生活だった。

    「李順、もう疲れた。
    そろそろ休憩にしないか?」

    本皮貼りの豪奢な椅子から落ちそうになりながら、
    情けない顔で机に突っ伏し、この部屋の主である黎翔は、ぼやいた。

    「まだです。
    もう、そろそろ奥様の到着する時刻です」

    「奥様が来たら、
    きっと会長は、仕事しないでしょう!?」

    「…………」

    「休憩はそれからでも、いいはずです。
    わかったら、ちゃっちゃとここにある書類を終らせてください」

    「分かった。
    夕鈴が来たら、必ず休憩だぞ。
    約束だ!」

    よし、さっさと終らせるぞ……

    黎翔は、ひとつ背伸びして、また新しい書類を手に取った。
    李順は、手持ちの書類の影で困ったものだと気重なため息を一つつくと……
    部屋の時計をチラリと見た。

    もう、そろそろでしょうか?
    夕鈴さんの到着が早いか?
    会長の仕事が終るのが早いか?
    さて、どちらでしょう。

    私としては、明日の分の書類も一つ二つ混ぜておきたい所ですが・・・









    一方うまく李順に乗せられたとは知らない黎翔は、もうすぐ訪れるだろう
    “愛する妻”を待っていた。

    世界中を傘下に束ねる会長の妻。
    まだ高校に通学している、うら若き少女。
    黎翔が見初めた唯一の女だった。

    現在、お披露目前の彼女は淑女教育中の真っ最中で、
    黎翔と夕鈴の結婚は、極秘事項とされていた。










    パタパタパタパタ……

    小走りに、廊下を走る軽やかな足音。


    黎翔は、その音を聞きつけ歓喜に湧いた。

    ――――夕鈴だ!

    もうすぐ彼女が、会長室のドアを開けて
    可愛い笑顔で僕の名前を呼ぶんだ!


    “黎翔さんっ!!”







    黎翔は、今サインしたばかりの最後の書類を李順に手渡すと、
    可愛い妻を出迎える為、簡単に机の上を整理した。



    「黎翔さんっ!!」





    え?

    扉を開けて入ってきた最愛の人に、黎翔は驚いた。


    扉を開けた彼女は、いつもの輝くような笑顔ではなく……
    唇を青ざめ、大粒の涙をボロボロと零しながら、黎翔の前に現れた。

    「ど…どうしたの!?
    夕鈴?」

    ガタん!


    めったに泣かない彼女の大粒の涙に、黎翔は激しい動揺を隠せない。
    椅子を蹴飛ばしながら、彼女に近付いた。

    ところが、彼女を慰めようと抱き締めようとしたら

    スッ……

    黎翔は、避けられてしまった。

    「……夕鈴?」











    代わりに投げつけられた彼女の身を切るような言葉

    「黎翔さんなんて、大ッ嫌い!
    もう離婚です!」

    黎翔の顔に投げつけられた、ぐしゃぐしゃに握られた新聞紙。
    訳もわからず……彼女の離婚の意思に、黎翔は顔色を失い固まってしまった。


    何も言わない夫に、失望の色を見せて、
    夕鈴は悲しそうに、首に掛けられた結婚指輪を床に投げ捨てた。

    “命より大事にするね”
    嬉しそうに、そう言ってた指輪を……




    「黎翔さんを信じてたのに……
    さよなら!」

    静かにそう言って
    彼女は来た道を、エレベーターホールへと走り去っていく。

    彼女の突飛な行動は、今に始まったことじゃない。
    いつも本気の彼女は、実現不可能なことまでも、いつの間にか実現していく。

    皆を巻き込み、幸せにしていく……

    いつの間にか、僕の心を揺さぶり
    君が僕の心に住んでいた。

    君も僕が好きだと知った時は、迷わずプロポーズしていた。
    僕たちは、こんなところで別れる運命じゃない。
    これは何かの間違いだ。

    僕はようやく状況を飲み込み、ゆるゆると動き出した。
    ふと手元の彼女の投げつけた新聞に目をやると……

    そこには、彼女のこの不可解の行動の元凶が一面を飾っていた。



    僕だった。

    それと……



    「夕鈴!
    待って!」

    黎翔は逃げる彼女を追うべく、エレベーターホールへと走っていった。







    「これは……!」

    「とんだ茶番ですね。
    今時、昼ドラでもしませんよ」

    会長室に残された秘書は、床に投げ捨てられた新聞を開くとポツリ呟いた。


    「もう、そろそろ潮時ということでしょうか?

    まだ仕上がっていませんが……しかたありません」

    はぁ~~~


    気重なため息を一つつくと、どこかへ電話したのだった。



    ……続く
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    現パラ【中編】 君に告ぐ 2

    嫌だわ……

    もう!
    こんな時に限って、エレベーターが来ないなんて!

    夕鈴はエレベーターホールで、足止めをくっていた。
    黎翔さんに別れを切り出して急いでいるだけに、早くここから立ち去りたい!

    そう思っているのに……
    自身の焦りとは、裏腹に。
    下りのエレベーターは、全然来なくて。

    焦らせる気持ちが、なんど下りるボタンを押し続けたことだろう。
    やっと来たエレベーターに乗れたのと同時に……

    「待つんだ!
    行くなっ、夕鈴!」

    彼がエレベーターホールに飛び出して来たのは……










    今にも閉じられそうなエレベータードアに、黎翔さんは身体を挟み
    エレベーターを止めた。

    普段、焦ることなんてない黎翔さんの
    必死に止める姿に、私は唖然として逃げることを忘れた。

    「夕鈴!
    こっちへ来るんだ!」

    そう言って、私の手首を掴み
    去ったばかりのエレベーターホールに連れ戻された。

    私を引き寄せた勢いあまって、二人ともエレベーターホールの壁に激突したけれど……
    黎翔さんが私を抱き抱えてくれたので、私はどこも怪我をしなかった。

    「何で……
    なんで、追いかけてくるの?
    こんな無茶……」

    「君の為なら、無茶だってするよ。
    君の誤解を解きたい……」

    「誤解?」

    「誤解だろう?!
    あのゴシップ記事」

    夕鈴が持ち込み、社長室に捨ててきた新聞。

    “若き狼
    珀コーポレーション会長・珀黎翔
    ハリウッド進出女優 ●●●●と熱愛発覚!
    結婚も秒読みか!?”



    「…………」

    「隠しているとはいえ、僕の妻は君一人だ。
    あんなもの……デマに過ぎない」

    「あの女優の売名行為だ!
    もっと僕を信用してくれないか?」

    「でも…あの写真!」

    「あれは、先日のパーティーで
    勝手にあっちからKISSしてきたんだ……
    あんなところを、写真に撮られていたなんて
    僕がKISSしたい相手は、世界中で君一人だけだ」

    苦々しげに呟く黎翔さん。
    夕陽に照らされた真剣な紅い瞳に射竦められ
    徐々に近付く彼の顔。

    「泣かせてゴメン、夕鈴。
    もう不安にさせない
    ……君を…愛してる」



    んっ!

    chu…

    気づけば、私は黎翔さんに囚われ
    唇は奪われていた。

    「君は分っているはずだ。

    僕のすべてをさらけ出せる相手は
    君だけだということを……」

    「君だけが僕の安らぎ」

    chu…

    ふ…ぁ。

    chu… chu…

    ン。

    chu…  chu… chu…

    「君に離婚を切り出されて
    僕の世界は一度死んだよ、夕鈴」

    「……ごめんなさい」

    「この罪は君の一生をかけて償ってもらうから……
    覚悟して!」

    chu…

    「僕は君一人しか愛せない!」

    「君は僕だけを信じて愛するんだ……
    離婚なんて……許さない」

    chu…

    ぁ……

    chu…      chu…     chu…

    ャ…


    逃げ出せない。
    黎翔さんのくすぐったいようなKISSの雨
    優しい彼に囚われて……蜜の時間は永遠に続くかに思われた。







    「……コホン、会長。
    失礼致します。

    問題は、解決したようですね」

    「李順!「李順さんっっっ!」」

    「いつからソコに居たんだ?」

    「お忘れでしょうが……
    最初から一部始終です」

    「さて、会長。
    時間があまりございません。
    記者会見の準備を整えました」

    ……?

    唐突な李順さんの言葉に、私は付いていけず黎翔さんと顔を見合わせた。

    「会長のお考えは、お見通しです。
    何時までも奥様を隠し通せるとは思っていません」

    「良い機会ですから、正式にご発表なさりたいのでしょう!
    ●●●●ホテルに、結婚報告記者会見の手配を整えております」

    「手回しがいいな……
    さすが私の秘書だ」

    「お褒めにあづかり光栄です。
    ですが、時間はあまりございません。
    夕鈴さん!?」

    夕陽に、硬質な光を煌かせ眼鏡の李順さんは呟いた。
    昔、夕鈴が独身だった頃、アルバイトの雇い主だった李順さん。

    「うぁあっ!
    はい」

    「何ですか!
    その気の抜けた返事は!
    返事は短く、可憐にお淑やかで慎ましく!

    本当に貴女って人は、教育のし甲斐が無い」

    「……すみません」

    鬼の上司として名高い李順さんの部下だっただけに、
    本能的に夕鈴は居住まいを正して謝った。

    「まあ、いいでしょう。
    今は時間が惜しいですから……」

    「貴女の淑女教育が、終っておりませんが…致し方ない事態です。
    今までのおさらいがてら、記者会見を乗り切っていただきましょう」

    Σ!
    「記者会見!?
    乗り切るって何をですか!?」

    「鈍い人ですね。
    貴女と会長の結婚発表ですよ。
    きっと貴女に質問攻めです」

    「とにかく準備を致しましょう。
    私に、ついて来て下さい」

    「ドレスとメイク道具をご用意しました。
    素材は十人並みですが、私が何とかいたしましょう!」

    「え゛
    李順さんが、メイクするのですか?」

    「時間がありませんし……
    僭越ながら私が致します」

    「黎翔さんっ」

    「夕鈴、諦めて……
    本気の李順は、もう誰にも止められないから」

    「夕鈴さん、ちゃっちゃと来る!!」

    「は……はい!」











    パタパタと走り去る彼女の後姿を見送った後。
    黎翔は、手のひらをゆっくりと開いた。
    そこには、先ほど李順から手渡されたプラチナに光る夕鈴のシンプルな結婚指輪があった。

    今度こそ君の指に、ずっと光らせることができるんだ!

    まだ新品のようなソレを、どうやって彼女の指にはめようか……
    黎翔には、頬を染め嬉しそうに微笑む夕鈴の姿が想像できた。

    “黎翔さん
    この指輪、今度こそ一生大事にするね!”

    優しく微笑む妻の姿が……




    黎翔は幸せを握り締めて、足取り軽くエレベーターホールを去っていく。
    美しく着飾った妻を待つべく、記者会見会場に向うのだった。






    おしまい



    2015.11.27.改訂
    2015.11.26.改訂
    2015.11.23.初稿  トピックいい夫婦の日 final  参加作品 続きを読む