花の四阿

    Lala掲載の『狼陛下の花嫁』二次小説のブログです。某SNSで書き溜めた小説の他・イラスト・詩文・写真・徒然日記・一部鍵つきを掲載しています。

    黒龍【長編】果樹の杜 1

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    桃の花・2015.04.10.撮影




    麗らかな春の陽差し
    昨日までの雨が嘘のように晴れた
    とある日。

    私は、陛下の誘いで王都から離れた
    果樹園に来ていた。

    「夕鈴
    気をつけて」

    「……はい。
    陛下」

    来る途中、花盛りの中紅色の桃の林を抜け
    感嘆の声を零した。

    「……綺麗!」

    ふわりと風に香る
    季節花の芳しい香りを二人で楽しんだ。

    陽射しに透ける桃の花弁と
    澄んだ青空が心地良い。

    「綺麗ですね。
    桃の花を見せに、連れてきてくれたのですか?」

    「違うよ。
    夕鈴に見せたい景色は、あの丘のむこう……」

    「私に、見せたい景色って何ですか?」

    「んーーーー!?
    ……まだ内緒」

    楽しげに、イタズラっぽく笑う陛下は、
    いつもの王宮での狼陛下とも小犬陛下とも違う顔で笑う。

    新しい陛下の顔を知るたびに、私の心臓は“ドキン”と跳ね上がった。
    また貴方に恋をする。

    ( もう、どこまで好きにさせたら気が済むの? )
    照れ隠しで、理不尽な怒りが沸き起こった。

    「陛下。
    もう、そろそろ……
    目的地ぐらい教えてくれても、いいではないですか?」

    馬上ということも忘れ……
    ふくれっつらで怒る私は、陛下の胸をぐいっと押しやった。

    苦笑う陛下は、本当に楽しそうで……
    砕けた雰囲気に、二人の距離が縮んだ気がした。

    「夕鈴、あまり馬上で暴れると
    危ないよ!」

    「このくらい平気です。
    落ちやしません「アッ!」」

    「あぶないっ!!
    夕鈴っ」

    落ちかけた私を、
    陛下は、すばやく抱き止めてくれた。
    ゆっくりとした足並みとはいえ、高さのある馬の上。
    落ちたら只では済まされない。

    助かって、ほっとしたのもつかの間。

    陛下に、ぴったりと身体を抱き寄せられて、
    先ほどよりも、近付いたゼロの距離。

    陛下の腕の中は変わらないというのに……
    このいたたまれなさを、どうにかして欲しい。

    注意されたばかりで落ちそうになったことも拍車をかける。
    私は、とても恥ずかしくなった。

    「ほら、危ないと言ったばかりだ。
    ……ゆーりん
    君は、私の心臓を止めるつもりか?」

    陛下の怒気を孕んだ言葉。
    耳朶に囁かれて、知らず身体が震えた。

    ……怒られた?
    呆れた?

    確かめるのが怖くて、陛下の顔が見れない。
    ぎゅっと、陛下の袂を握り締めて、小さく呟いた。

    「陛下、ごめんなさい。
    ……助けてくれて
    ありがとうございます」

    美しい果樹の森に、私は目を奪われたフリもできない。
    ……だって陛下の腕の中に、深く囚われたから。

    意識しなくとも
    普段よりずっと近い距離。

    陛下の匂い
    陛下の体温を……私は意識せざるを得ない。

    片想いだった頃は、近すぎる距離を仕事と割り切れた
    でも、今は……いまでは

    近すぎる距離に緊張して
    ドキドキと耳を打つ心臓の鼓動が煩い。

    大好きな恋人の腕の中だから……
    意識しすぎて、平常心が保てない。

    陛下と触れた箇所から
    私のドキドキが伝わってしまうような気がして
    緊張感と恥ずかしさで消え入りたくなった。

    ううん、違う。
    この遠乗りが始まった頃からだわ。

    陛下と共に、黒龍の背に揺られ
    陛下に抱き締められて支えてもらった。
    陛下の逞しさを知る度に……
    私の身体が火照り、鼓動が激しくなった。

    わざと景色に意識を向けて
    はしゃいでいないと、この距離に耐えられなくて……

    はしゃぐ私を見つめる
    陛下の瞳に、心焦がされて

    あぁ……どうしよう。
    「好き!」が、溢れて止まらない。

    両想いになった今だから
    貴方に恋する私は「貴方が好き!」を隠せない。

    不器用な私の恋は、何年たっても苦労するのよ。
    だって好きになった人が、たまたまこの国の王様だったのだから…………


    ……続く
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    黒龍【長編】果樹の杜 2

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    林檎の花・2015.04.23.撮影

    ……怖がらせてしまったか?

    黎翔の腕の中で小さく震える彼女を、
    彼は切ない想いで見つめた。

    こんなはずじゃなかったのに……
    ただ……彼女と楽しく時を過ごせたらと思っただけなんだ。

    彼女の扱いに、どうしてこうも自分は不器用なんだろうか?

    ようやく心を通わせ、気持ちが通じ合っても尚、
    彼女の気持ちのすべては理解できない。

    思うようには、いかないもどかしさ。
    こんな風にすれ違ってしまうと不安になってしまう自分の心。

    僕らは、ようやく愛を確かめて、
    不器用な愛を育みはじめたばかり。

    些細なほころびが、不安を招く。

    君に笑って欲しくて……
    君を喜ばせたくて。

    彼女に見せたい景色があるんだ。
    願う思い。

    愛しさと優しさと切なさと
    怖がらせたかったわけじゃない。



    ただ、本当に危なかったから。
    君を失ってしまうと思ったから……


    君を失えば
    僕の世界は闇に閉ざされることだろう。
    君は、僕の唯一無二の光なのだから。

    ふと気付くと、太陽は
    もう、あんなに高い位置にある。
    このままじゃ王宮に帰るのが、遅くなってしまう。

    それでは彼女が、怒られる。
    優秀すぎる自分の側近の顔が、チラリと浮かんだ。

    黎翔は、チラッと腕の中の夕鈴を盗み見ると
    小さい両手が、自分の袂を握り締めていた。

    怒らせて……
    怖がらせて……
    嫌われた?

    黎翔に、弱気な気持ちが、うまれる。
    怯える彼女に、なんて声をかけたらいいんだろうか?
    また怖がらせてしまうのが怖かった。

    夕鈴に、かけるべき言葉が見つからなかった。

    彼女には嫌われたくなかった。
    君に対しては、どうしてこんな気持ちになるのだろう?

    夕鈴の小さな震えが、黎翔に伝わるたびに
    彼の不安を煽る。
    小さな罪悪感が、じわじわと広がった。

    「夕鈴、
    このままじゃ目的地に着くのが遅くなる。
    黒龍のスピードを速めてもいいかな?」

    たずなをギュッと握り締めて、
    黎翔はコレ以上怖がらせないように……優しく夕鈴に囁いた。

    彼女は、小さくコクン…と頷いた。

    “是”と理解して、黎翔は、黒龍のわき腹を蹴り上げた。

    「夕鈴、
    振り落とされないように
    しっかり私に掴まっていて!」

    おずおず……と伸ばされた華奢な両腕が、
    黎翔の背中に回された。

    ギュッと抱きしめた彼女の温もりに、
    まだ嫌われていないことを悟ると希望が湧いてくる。

    ヒュッ…と、黒龍の背に鞭をふるうと
    黎翔は風を切って、猛スピードで走り出した。

    駆け抜ける風圧に夕鈴の髪が乱れても
    黒龍の足が早すぎて、夕鈴には、直す暇など無いほどに。

    必死にしがみ付いた陛下の腕の中で
    夕鈴の視界に映ったのは、濃い薄紅色の花々が……木々が……
    残像を残して、ぐんぐんと後ろへ流れていく景色。

    黒龍の力強い軍馬の蹄の高らかな音と共に
    キラキラと光となって流れる景色。

    麗らかな春の日差しを浴びて輝く果樹園の中

    確かに二人と一頭は、駆け抜ける一陣の風になり
    丘を目指して、一直線に駆け抜けていった。


    ……続く



    黒龍【長編】果樹の杜 3

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    林檎の花・2015.04.23.撮影


    少し初夏めいた陽気に、黒龍が作りだす風が心地よい。

    荒々しさを増した馬上で、
    私は陛下にしがみつく理由ができて嬉しかった。

    果樹の木々と春の光が織りなす光と影。
    輝く春の景色は、飛ぶように後ろへと流れていく。
    ちょっぴりスリリングな黒龍のスピードは、軍馬ならではの速さで……
    やがて、あっという間に小高い丘の頂上に着いた。

    落馬しないように、しがみつくのに夢中だった私は、
    黒龍の足が止まり、丘の上の目的地に着いたことをしらなかった。

    「夕鈴、着いたよ。
    顔を見せて……」

    優しく声をかける陛下の声に、ハッとして見上げると……
    青空を背に、至近距離で見つめる陛下と目があった。

    「……さっきは、ゴメン。
    君を怖がらせてしまった」

    少し悲しそうな小犬陛下の顔。

    どうしてそんな顔をするの?
    落馬しかけた私が悪いのに……

    「私のほうこそゴメンナサイ。
    陛下と二人っきりで遠乗りなんて
    久しぶりで……一人で、はしゃいじゃって」

    「陛下を怖がってなんかいません。
    陛下に怒られるようなことをしたのは、私ですから」

    「呆れて、
    私を嫌いになりましたか?……」

    私は、心臓が凍るほど冷たい陛下の言葉を覚悟しながら
    「嫌いにならないで…」の願いと共に、陛下をギュッと抱き締めた。

    「嫌いになんか、なるものか。
    ……夕鈴。
    君が好きだよ。」

    壊れ物を扱うかのように優しく抱き締め返された陛下の腕の中で、
    啄ばむような優しい口付けを陛下と交わした。



    嫌われてない。
    陛下が、私を好きって言ってくれるのが
    こんなにも、くすぐったくて…嬉しい。

    私は、心に溢れてくる嬉しさを言い表せなくて
    陛下の優しい口付けに、私も口づけで返した。



    私から陛下に、口付けなんて、王宮では恥ずかしくて出来ないけど。
    ここには、侍女も老師も居ない。
    二人っきりだから……
    少し大胆になれた。

    私からの口付けに、嬉しそうな陛下の顔。
    甘くて拙い口付けの雨に、二人酔いしれていた。

    「陛下……好きです「ああ、私もだ、夕鈴」」

    私たちは、それ以上の言葉は要らなかった。
    お互いの唇の温もりで、互いの愛を確かめあえたから。

    ……続く

    黒龍【長編】果樹の杜 4

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    林檎の花・2015.04.23.撮影


    「夕鈴。
    少し、この辺りを歩いてみないか?
    君に見せたい景色が、あるんだ!」

    沈みかけた夕陽を背に、
    陛下が私に優しく微笑む。

    馬上から降りて、
    私に両手を差し伸べる陛下。
    陛下が優しいのは、バイト妃だった頃と変わらないのに、
    どこかしら変わったように思うのは、気のせいではないよね……

    うまく言い表せないけれど、
    これが両想いと片想いの差なのかしら?


    「私に掴まって、夕鈴。
    足元に、気をつけて…」

    少し頬を染めて、陛下に身をあづけると
    ふわり……と、軽やかに抱きあげられて、
    私は危なげなく、黒龍から降りた。

    薄紅色の花が咲く果樹園。
    爽やかで甘い花の香りが漂う。
    歩き出した陛下が、そっと私に手を差し伸べてくれた。

    さり気ない気遣いが嬉しい。
    差し出された手に、手を重ねた。

    温かな大きな手のひらは
    私の気持ちまで包んでくれる。

    キュッと握らられた手を離さずに、
    夕陽の沈もうとしている丘の向こう側へと、二人で歩いて行った。

    ――そこは。

    少し傾きはじめた輝く斜陽が、果樹の木々を豊かな色に染めあげる。
    見渡す限りの“白い林檎の花”

    「わあっ!
    綺麗~~」

    何もかもを夕陽色に染めようとしている薄紅色の空に、
    果樹の森が、静かに輝く。

    私が景色に目を奪われていると……
    突然、後ろから陛下に抱きしめられた。

    耳もとで囁く、陛下の静かな声。

    「……夕鈴。
    李順から聞いた」

    ポツリポツリ……と
    呟く陛下の言葉に、私は耳を傾けた。

    ……続く 続きを読む

    完・黒龍【長編】果樹の杜 5

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    ぎゅっと抱き締められて、陛下の柔らかな抱擁。
    陛下の手に私は、そっと手を重ねる。
    隣を盗み見ると、じっと真摯な瞳で見つめる陛下と目が合った。


    「……何を、でしょうか?」

    陛下は、李順さんに何を聞いたというの?

    心当たりが無くて、陛下に問いかけた。
    その間にも、じっと見られていて……

    密着して抱かれているってだけでも、
    恥ずかしいというのに……

    至近距離。
    しかもマジマジと見つめられては、
    今更ながら顔が火照ってくる。

    静かな丘は、風の音さえも、音を潜めているかのように
    陛下の優しい声と息遣いしか聞こえなかった。

    明日に向け、真っ赤に焦がれる空。
    落つる夕陽に、私は照れて真っ赤になった顔を、俯いてごまかした。

    「君が、私の本当の妃になることの決意を李順から聞いた。
    もう二度と下町には、戻らない。
    君の大切な家族にも、友人にも、誰にも会わない覚悟をしていたと」

    ……ああ、そういえば、
    李順さんに聞かれたっけ……

    でも、あれは……

    「陛下。

    それは……「もう少しだけ聞いて……
    最後まで言わせて」」

    優しくも、否やを言わせぬ
    陛下の言葉。

    チュッ……

    こめかみに軽い衝撃。
    陛下の口付けと、心地良い酩酊感。
    口付けひとつで……
    私は、そのまま何も言えなくなった。

    「……そのことを聞いた時、
    私が、どれほど嬉しかったか分るか?」

    顔の輪郭を指先でなぞられ、
    陛下のほうを上向かされた。

    当然というように
    重ねられた唇。

    ……ン。

    問いかけの後の
    二度目の口付けは、私の唇に……
    夕陽の温もりではなく、陛下の確かな唇の温もり。

    すぐに離れたソレは甘噛みされて
    私の唇が、ジン……と甘く痺れが残った。

    耳朶に心地良い、
    低く甘い陛下の声音。

    夕陽に照らされた陛下からの強い視線。
    綺麗な朱赤の瞳に魅入られる。

    「君が、どれだけ弟思いの姉なのか……
    私は、ずっと君を見ていたから知っている。
    どれほどの決断だったのかも……」

    「ーー夕鈴。
    私を選んでくれて、ありがとう!」

    屈託無く、笑う陛下が眩しくて、
    私は目を細めた。

    「いいえ、陛下。
    それは、私の台詞です。
    陛下だったら、どんな美姫でも選べるというのに……」

    「本当に、私があなたの妃で、いいのですか?」

    まだ信じられない夢の続きを見てる気がして……
    もう何度目か分らない質問をしてみた。

    だって、私が王様と相思相愛だなんて……
    現実でも、まだ夢じゃないかと思うの。

    「……ばかだな。
    何度も言わせるな。
    君にしか私の妃は勤まらない……」

    「冷酷非情の狼陛下と異名を誇る私を
    恐れず逆らい、自分の意思を貫ける娘など、君しか居ない。
    何よりね私が跪き、愛を請いたいと願うのは君だけだ、夕鈴」

    「君だけが、私を恐れず……
    嘘、偽りの無い心で私を愛してくれる
    君だけが、私を癒してくれる」

    「愛しているよ。
    これからも、ずっと愛し続けるよ。
    元気で、片時も目の離せない……僕の花嫁」

    「……陛下。」


    ……ん!?

    元気って、目の離せないって……褒められてるの?
    どうなのコレ。
    って……今までの行動が行動だけに、私は苦笑いするしかない。

    「君を一度 手放したのは、私の間違いだった。
    君の行動は、私の予測の範疇をいつも越える」

    愛情深く、啄ばむように施される口付けの甘さに、
    私は上手く呼吸できない。

    臨時花嫁だった頃と変わらない甘さ……否や

    嘘偽り無く、陛下に愛されていることを知った今、
    苦さのなくなった甘いだけの愛に、私は溺れそうになる。

    口付けに翻弄されて、酔わされそう……

    でも、でも……
    これだけは陛下に伝えなくては。

    「ーー陛下。
    ……いえ、黎翔さま。
    貴方だから私は、黎翔さまと共に歩む道を選べたんです」

    「民への想い。
    施政への熱意。
    私への優しさ。
    誰よりも賢王で、誰よりも努力をしている
    雄々しい私の陛下。
    いつまでも私を、貴方の御側に置いてくださいませ。

    ……黎翔さま、お慕いしております」

    「きっと素性、分からぬ正妃と風当たりは強いだろう。
    ーー許せ、夕鈴」

    「そんなこと、とっくに貴方を選んだ時点で、
    諦めております!」

    「黎翔さまと、両想いになれるなんて……
    私は、微塵も思わなかったのですから」

    心から晴れやかな笑顔を、私は愛する人に向けて
    お互い太陽よりも眩しい笑顔で笑いあった。

    芳しく香る白い林檎の花弁が暮れかけた空に舞う。
    愛を確かめ、育みはじめたばかりの初々しい二人。

    林檎の花の花言葉は「選ばれた恋」

    身分違いで諦めかけた恋。
    玉砕覚悟で臨んだ夕鈴の初恋は、思わぬ成就で実った。

    たとえ、この先どんな困難が待ち受けていようとも
    受けいれて打ち勝つ覚悟で、結ばれた二人。

    真綿で、くるんで育てた恋じゃない。
    お互いに手を差し伸べて、ようやく繋いだ強い愛なのだから。
    きっと壊れることは無いはず……
    いつか愛は実を結び、大きな幸せが訪れることでしょう。


    I met you, I fell for you, now I love you, and I can’t stop.

    ――――きっと、そんな日はもうすぐ。


    ー果樹の杜・完ー
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    黒龍【長編】果樹の杜 おまけ  -恥らう林檎ー

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    ……長くて短い二人の時間。
    つかの間の休みは、あっという間に過ぎていく……

    燃えるような夕陽の色
    空を焦がして、山向こうに消えていく……

    「あぁっ!
    消えちゃう。」

    思わず呟いた言葉に、陛下はクスッと笑った。

    「消えるわけではないよ。
    太陽も、夜のうちは休んでまた明日照らしてくれる。
    さあ、もう日が暮れた(王宮に)帰ろうか。」

    暗くなったからと、差し伸べられた陛下の手に、
    私は、くすぐったくも嬉しくなってしまう。



    ほんの半日の陛下のお休み。
    まさか、こんなに遠くにまで、遠乗りするだなんて思わなかった。

    私は、少し先を歩く陛下の横顔を見つめ……
    せっかくの休みをこんな潰し方でよかったのかしらと問うと……

    「せっかくの休みだからこそ、
    誰かに邪魔されることなく、君と一緒に過ごしたかった。」

    と答えられた。

    その答えに、嬉しくもありね心配にもなる。
    かえって疲れていないと、いいのだけれど……
    そんな心配は、臨時花嫁の頃と同じ。

    結局、この人は妃(私)に対し、どこまでも甘いのだ……

    ふぅーーーーっ

    王宮に帰る道すがら、そんなことを考えて、袖の内側で細く短いため息を吐き出した。
    気付かないと思っていた、かすかなため息は、すぐに見抜かれた。

    「どうした夕鈴。
    疲れたか?」

    「……いいえ」

    あれ?
    そういえば……

    「あの、陛下。
    素晴らしい夕陽でしたが……
    私に見せたかったのは、あの夕陽ですか?」

    「そう。
    いや正確には、あの場所から見える見渡す限りの林檎の木だよ。
    綺麗だったろう。」

    「はい。
    とても綺麗でした。」

    「あの丘から見える景色は、王領地で作られている林檎園だ。
    もちろん他の果樹も作られてはいるが……林檎が多い。
    何故だか分るか、夕鈴」

    陽は落ちて、街道を照らす月明かり……
    黎翔と夕鈴を乗せ、漆黒の黒龍は、危なげなく歩みを進める。
    カツカツ……という、リズミカルな蹄の音。

    考えても市井のただ人だった夕鈴には、皆目見当がつかない。
    分らないものは、聞くしかない。

    「どうしてですか?
    教えてください陛下。」

    知ったかぶりをせず
    知らないものは聞いても知ろう。
    耳を傾けようとする姿勢。
    素直で、純朴な資質は夕鈴の美徳だった。

    「ここ白陽国は、冬は長い雪に閉ざされ物流も少なくなる。
    他国に比べて、生鮮、葉物野菜や果物が当然少なくなる」

    「思い出してごらん。
    下町で、安く林檎が手に入っただろう?」

    「そういえば、そうですね。
    青慎が、風邪をひいた時は、摩り下ろした林檎をよく食べさせていました」

    「その林檎は、さっきの果樹園で作られた林檎だよ。
    冬の間、栄養不足の民の口にも入るように、大量に作らせている。
    林檎は、上手に保管すれば、冬を越せる果物だからね。
    とても大事にしている果樹園なんだ」

    「価格が高騰しないよう、いつでも庶民の口に食べられるようにしている。
    また、冬の間の諸外国への輸出品にもなっている。
    我が国の林檎は品質が良くて甘いらしいからな……」

    「そんなこと知りませんでした。」

    林檎一つで、ここまで国に絡むとは。
    冬の間の民の健康にまで、気を使う
    やっぱり、陛下って凄い。

    「一度、夕鈴に見せたかったんだ。
    林檎の木は、一年中手がかかる。」

    「太陽の光が足りないと、実が落ちる。
    雨が多くても、少なくても、いけない。
    甘い実だから、当然虫も動物も寄ってくる」

    「たくさん愛情を注いで真っ赤な美味しい林檎になるんだ…
    君にも、知って欲しかった」

    「たとえ身近に居なくとも、
    君は私の傍で、家族も友人も守っていることを……」

    「この国の妃。
    国母となるのは、君なのだから。
    二人で力を合わせて、民を支えていこう!」

    「はい。
    ……陛下。」

    「そして、早く私の子を産んでくれ……」

    「はい。
    ……え!?

    (ぎゃーーーーー/////!)
    ~~~~~~っっっ!」

    思わず返事をしてしまった私の顔は、
    収穫期の林檎より真っ赤だったという。

    朗らかに笑う陛下に恥ずかしさのあまり
    ポカポカ……と、叩いてしまったのは……/////不可抗力だと思う。

    でも、いつかあなたの子を産み育てたい。
    そんな幸せ、早くくるといいなぁ……

    私のそんな気持ちは、まだ内緒。
    だって、恥ずかしいじゃない。


    もう、陛下のばかっ!





    ―果樹の杜 -恥らう林檎ー・完-

    2015.05.26.初稿 続きを読む