花の四阿

    Lala掲載の『狼陛下の花嫁』二次小説のブログです。某SNSで書き溜めた小説の他・イラスト・詩文・写真・徒然日記・一部鍵つきを掲載しています。

    【長編】『楼蘭』―黎翔編― 35  ※要注意!古代パラレル

    楼蘭





    数十メートル級の熱砂の砂山を
    陽炎(かげろう)のような黒影が揺らめく。
    駱駝(らくだ)が、数十頭…炎天下の砂漠を乾いた砂煙(すなけむり)をあげて駆け抜けていく。

    砂の大地は、灼熱(しゃくねつ)の太陽を照り返し
    赤味を帯びた金色に燃えて輝く。

    どこまでも果てしなく広がる砂の海。

    隊列はタクラマカン砂漠を北へ、
    北へ……

    黎翔は、首都・楼蘭を目指し猛然と駱駝を走らせた。


    黎翔たちが通り過ぎた後は、駱駝の踏み散らした足跡が南から続くも
    砂塵によりサラサラとあっという間に跡かたも無く消え失せた。

    頼るべき道標(みちしるべ)も無く、季節により砂山の位置さえも変わる大地。

    砂漠に強い駱駝(らくだ)でさえ、音をあげ息を荒げる……その厳しさ。

    ジリジリ…と肌焼ける日差しをものともせず先陣を切って駱駝を駆るは……

    日除けフードを目深(まぶか)に被り、眼差しは遠く遥か【楼蘭王宮】を目指す黎翔。

    疾風迅雷、砂塵(さじん)をあげて疾走する颯爽としたその姿。

    風を孕(はら)みフードを翻(ひるがえ)しつつ……砂山を駆け上がるその姿は

    幾度もの内乱と粛清の戦で、ついた彼の畏怖の二つ名

    “狼陛下”
    の名に相応しいものだった。

    “……夕鈴!”

    愛しい姫をこの腕に抱く為に……固い決意で、駱駝に更に鞭を打つ。

    時折、感じる……
    どうしようもなく湧きあがる不安と焦燥に先を急がせど、
    隊列を飲み込みそうなほど、巨大な砂漠の砂山が彼の進路を阻む。

    我が身が引き裂かれるような恋する姫との別れから、五日目。

    もう、そろそろ【楼蘭王都】に着くはずだった。

    この長旅の終わりの予感。
    期待と不安に苛まれつつ……
    “一刻でも早く楼蘭王に会いたい!”と駱駝を急がせる黎翔だった。

    まだ見ぬ彼女の父王が、二人の未来の鍵を握る…と、そう信じて。


    ……黎翔編・36へ 続く。


    2016.03.06.改定
    2012.09.01.初稿
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    【長編】『楼蘭』―黎翔編―36 ※要注意!古代パラレル

    楼蘭





    昼夜(ちゅうや)駱駝を駆り、急ぎ幾つもの砂山を越えて来た黎翔に、やっと旅の終わりの兆し

    地平線に幻のように揺らめく“ストゥーパ”仏塔の影。

    砂山をひとつ越える毎に近づく
    幾つものストゥーパは、楼蘭王宮の象徴。

    駱駝を進ませるたびに、ストゥーパの影は大きくなるも……
    なかなか街の影までは、見えない。
    どれだけ高く大きな塔なのだろうか?

    「……まだ、着かぬのか?
    いったい、どれだけの距離があるのか?」

    流れる汗が、目にシミる。

    駱駝を全力で駆るも、行く手を阻む砂の壁に、黎翔の苛立ちが募る頃

    無情にも太陽は西に傾きはじめ
    砂漠に沈もうとしていた。

    ……黎翔編・37へ 続く





    2016.03.07.改定
    2012.09.02.初稿

    【長編】『楼蘭』―黎翔編― 37 ※要注意!古代パラレル

    楼蘭





    地平線に赤く滲(にじ)む
    大きな太陽がタクラマカンに沈みゆく……

    刻々と変化する
    燃えるような赤い城壁(じょうへき)

    砂岩(さがん)で作られた堅牢(けんろう)な城壁は
    燃えるような夕陽に照らされ、
    黎翔の目の前で、鮮やかな薔薇色に染まった。

    城壁を幾重(いくえ)にも取り囲んだ掘水も、
    照り返された夕陽に薔薇色に染まる。

    燃え上がるような夕焼けに染まる
    赤銅色(しゃくどういろ)した砂漠の城砦都市

    明日も晴れると約束しているかのような夕焼け空。
    たなびく雲も赤く……

    城壁の向こうの数基のストゥーパは 
    夕陽を背に暗褐色(あんかっしょく)の影を見せ、そびえ立つ

    ようやく黎翔達は、楼蘭王都の城門に辿り着いたのだった。

    砂漠と城門とを繋(つな)げる掘の跳ね橋は上げられており、
    城郭(じょうかく)の中には入れない。

    黎翔達は、跳ね橋の対岸に立て看板を見つけた。



    ――ここは楼蘭。
    中に入りたい者は、この半鐘(はんしょう)を鳴らせ!
     
    砂漠を越えてきた者、これから越える者は歓迎しよう。
     
    だが、我が国に仇(あだ)なそうとする者は、即刻立ち去るがいい―



    黎翔は、指示されたとおり半鐘を鳴らした。


    かぁあぁぁぁぁぁぁーーーーーーん

    城壁を越えて高らかに響く
    鐘の音。

    城門の小窓が開き
    跳ね橋の門番の顔が顔を出した。

    「何用か?」

    門番の誰何(すいか)の声が響く。
    黎翔は朗々と門番に答えた。

    「私は白暘国から来た珀黎翔と申す者。
    砂漠を越え比龍王に会いに来た。
    開門されたし」


    「ようこそ
    楼蘭王国へ…
    今、開門する。
    しばし待たれよ!」

    ガラガラと古めかしい滑車と
    金鎖の重い音がして、
    大きな跳ね橋が城門から下りてきた。
    それに伴い城壁の中の都が現れる。

    輝く光に溢れた楼蘭の街は、大変な賑わいをみせていた。

    ようやく姿を現した楼蘭王国の首都・楼蘭。
    謎に包まれたオアシスの貿易国家・楼蘭王国

    夕鈴姫を手に入れる鍵を持つ 
    夕鈴姫の父・比龍王の治める地

    黎翔は、ついに首都・楼蘭にたどり着いたのである。

    ……黎翔編・38へ 続く。



    2016.03.08.改定
    2012.09.02.初稿

    【長編】『楼蘭』―黎翔編― 38 ※要注意!古代パラレル

    楼蘭






    黎翔達が跳ね橋を通過中に
    陽気な門番が呼び止めた。

    「旅の方、比龍王への謁見と言っておったな。
    今日の謁見の時間は、もう過ぎた。

    今夜はどこかの宿で一泊して
    明日、王宮へ行くとといいだろう」

    「ありがとう!
    そうするよ」

    いつの間にか、すべて沈んだ太陽。
    涼しく澄んだ夜風が吹き渡る。

    楼蘭の街は、夜の顔を見せ始めていた。

    様々な国の言語が飛び交い、
    肌の色・髪の色・瞳の色が違う沢山の人々で賑わう街は、
    明るく活気に満ちていた。

    王宮に続く大通りだけでなく
    街の人々が普段使う生活道路にも
    ふんだんに篝火が灯り、エキゾチックな町並みの濃い陰影を作る。

    異国情緒溢れる国際貿易国家の一面を、早くも見せていた。

    色町の女たちは、カラフルな薄絹で客を手招き誘う。
    その白く細い腕(かいな)で、長旅に疲れた男たちを慰めた。

    酒場から、賑やかな笑い声。
    酒場から、あぶれた客たちは通りにある屋台で、
    お互いの旅の無事を祈り、一期一会の出会いに感謝して、
    酒を酌み交わして陽気な酒宴が行われていた。

    時には、夜の女たち向けに、
    様々な絹織物や宝飾品を客に見せる露店を構え、
    ちゃっかり連れの男客に買わせて、商売をしている商人も居た。

    混沌とした活気溢れる楼蘭の街


    天空に浮かび輝く美しい月
    浮かび上がる巨大な月影を街に落とす
    楼蘭の街の奥に、静かに眠るように佇む王宮とストゥーパ

    秘密を握る比龍王の居城は、夜に存在を示す。


    黎翔たち一行は大通りに面した1階に大きな酒場のある
    比較的治安の良さそうな宿に決めて、早々と明日の謁見に備えた。

    宿の者は、駱駝たちを酒家の裏手に連れて行き
    水と干草を与え、砂漠越えを労うのだった。



    …………黎翔編・39へ 続く



    2016.03.08.改訂
    2012.09.02.初稿 

    【長編】『楼蘭』―黎翔編― 39  ※要注意!古代パラレル

    楼蘭




    次の朝、黎翔は謁見するために王宮へと向った。


    最初の楼蘭王の印象は、なんて穏やかな人なのだろうと思った。

    玉座に座る比龍王その人は……
    夕鈴姫と同じ金茶の髪
    ハシバミ色した優しい瞳
    ああ……似ている。
    親子なんだなと血の不思議さに、つくづく驚く。

    「お初にお目にかかる楼蘭の比龍王。
    私は、西方の白陽国を治める珀 黎翔と申します」

    「貴殿が白陽国国王殿か……
    無事で何より、珀国王殿」

    「先触れの使者の到着から、だいぶ遅れましたな。
    心配しておりました」

    温かな出迎えの挨拶に、夕鈴姫を思い出した。
    黎翔は、なんだか無性に姫に会いたくなった。

    同じ色の瞳が、姫を思い出させるからだろうか?










    ……どうやって
    姫のことを切り出そう?

    昨夜から出せない答えに思案している間にも、
    さらさらと楼蘭王との謁見の時間が過ぎていく

    謁見も終わりに近付く頃、黎翔の何かに気付いた比龍王が、
    冷たく鋭い慧眼で黎翔に問いかけた。

    「珀国王殿。
    なにやら話したいことが、あるご様子」

    「私も、比龍王に尋ねたきことがあります」

    「なるほど……

    では、別な時にゆっくりと貴殿と話がしたい。
    王宮に部屋を用意させよう。
    連れの者達と存分に寛がれよ」


    ……黎翔編・40へ 続く


    2016.03.08.改訂
    2012.09.02.初稿

    【長編】『楼蘭』―黎翔編― 40 ※要注意!古代パラレル

    楼蘭



    物悲しく響く馬頭琴(ばとうきん)の調べが、夜の静寂(しじま)に響く
    楼蘭王宮の湖にせり出した四阿から……哀愁漂う琴(きん)の調べ

    過去を遡り懐かしむ
    楼蘭国王・比龍の愛と悲哀の琴
    馬頭琴は優しく震え、柄頭の馬の彫りも影を濃くする

    比龍王の白髪交じりの薄い金茶の髪は、夜風に靡き
    ハシバミ色の瞳は、深い憂慮に沈んでいた……

    「……やはり来たか。
    珀 黎翔国王殿」

    馬頭琴(ばとうきん)を奏でたまま、比龍王は黎翔の存在に気付き声をかけた。
    王の手元の弓は、震えるまま澄んだ音色で馬頭琴を奏でている。

    星空が綺麗な夜だった。

    夜風が比龍の心のように、湖に細かな漣(さざなみ)をたてる。
    澄み切った馬頭琴(ばとうきん)の音色が、湖面を渡っていった。

    「綺麗な音色が聞こえましたので、つい誘われてしまいました。
    比龍王よ。
    お寛ぎのところを、お邪魔してしまいましたか?」

    王宮から四阿へ渡る橋の上で、黎翔は比龍王に控えめに声をかけた。

    「いや……かまわん。
    むしろ、貴殿を待っていたと言うほうが正しいか?」

    そこで、はじめて
    比龍は、自分を訪ねて来た若い王を見た。

    凛々しく引き結んだ口元。
    奥に秘めた情熱と決意の焔揺らめく澄んだ紅い瞳
    ……片耳には見覚えのある深い緑の美しい翡翠の耳輪(じかん)が光る。

    比龍には亡き妻・藍鈴(あいりん)姫と出会った頃の
    若く自信に満ちた過去の自分を見ているようだった……

    比龍は改めて、西国から来た若者を好ましく眺めた。
    今の自分には無い
    若さと、才気あふれる自信……
    この若さで、一国を治める、その器量。

    比龍王は、懐かしくも眩しいものを見るかのように
    黎翔を見る瞳を細めた。

    少しずつ年老いた王へと歩みを進める黎翔は、
    極度に緊張しつつも……
    夕鈴姫のことを尋ねるために比龍へと近付いた。

    「珀国王殿。
    いや、黎翔殿。
    そう緊張せずともよい」

    「私こそ貴殿とゆっくり話が、したかったのじゃ……

    貴殿のしている
    翡翠の耳輪には懐かしく見覚えがある」


    「……我が娘。
    夕鈴に会(おう)たのか?
    珀 黎翔殿?」

    突然、馬頭琴の音色がプツンと途絶え……
    代わりに穏やかな楼蘭王の声。

    黎翔に問いかけた比龍王の顔は、
    先ほど謁見の間で、かい間見た厳しい王の顔では無く、
    温かく優しい父の顔をしていた。




    ……黎翔編・41へ 続く



    2016.03.08.改訂
    2012.11.13.初稿 続きを読む

    【長編】『楼蘭』―黎翔編― 41 ※要注意!古代パラレル

    楼蘭







    「貴殿のつけておる
    その耳環は、かつて私が娘に贈った品に似ておる。
    黎翔殿は、ロブ=ノールの離宮に行ったのか?
    我が娘とは何処で?」

    「はい。
    隠すつもりもございません。
    私は砂漠で迷い危ういところを姫に助けられました。
    数日間、供の者と共に、離宮にて客人として手厚いもてなしを受けました」

    「比龍王に聞きたかったのは他でもない……夕鈴姫のこと。
    彼女の憂いを取り除きたいのです」

    「姫の憂いを聞いてどうする?
    その憂いは、取り除けないかもしれぬぞ?」

    「それでも私は知りたい!
    彼女の涙を止めたいのです」

    揺るぎ無い固い決意を秘め、まっすぐに比龍王に詰め寄る黎翔。

    言葉、苦しげに
    黎翔は比龍王に打ち明けた。

    「理由を聞いても……
    彼女は、私に心の内を教えてはくれなかった」

    「夕鈴姫の父君である貴方ならば……
    もしかして事情を知っているかと思い馳せ参じました」

    純粋に姫を恋慕う想ひの色を秘めた黎翔の瞳が、
    真っ直ぐに比龍王を見つめた。

    真っ直ぐな穢れない青年の瞳……かつて比龍王も持っていた瞳。
    馬頭琴の弓を止めて、比龍王は真摯に尋ねる。

    「なぜ、そこまで……?
    他国であるはずの我が娘の憂いを尋ねる?
    黎翔殿?」







    「何故と問われれば単純なこと。
    彼女を愛しておりますゆえ、姫の憂いを晴らしたいのです。

    貴方に許可を頂き
    国に連れ帰り、我が妃・白陽国の正妃に……と願っております」

    「黎翔殿。
    その気持ちは嬉しいが……
    夕鈴には、もう伝えたのか?」

    「もちろん。
    了承は得られませんでしたが……

    離宮を出立する前の晩に、夕鈴姫に気持ちを打ち明けました!」

    その時の夕鈴姫との逢瀬を思い出したのか、黎翔の顔は紅潮し輝いた。

    「姫は、貴殿に何と……答えたのだ?」

    「何も……。
    ただ “もう少し早く、お会いしたかった” とだけ…………」

    「………………」

    比龍王は、黎翔から愛娘の言葉を聞き…
    深い思慮に沈んだ。

    「泣きながら私の胸で、眠りについた彼女の憂い。
    ――どうか楼蘭王。
    この私に、彼女の憂いを教えてください」

    黎翔は比龍王に切々と訴え続けた。
    愛する夕鈴との未来の為に……


    …………黎翔編・42へ 続く



    2016.03.09.改定
    2012.11.14.初稿

    【長編】『楼蘭』―黎翔編―42 ※要注意!古代パラレル 黎翔編・完

    楼蘭






    「そうか……
    夕鈴は、もう少し早く貴殿と会いたかったと……そう言っておったか。
    不憫な……」

    小さく呟いた比龍王の言葉は、
    誰に向けたものでも無く、父としての心情、本音。

    馬頭琴を傍らに置き、立ち上がり
    遥か遠くロブ=ノールに住む愛娘を思う。

    国の為とはいえ、運命に逆らえず好いた男の手を取れなかった……
    そのことに対して、父親として胸が痛い。
    沈痛な面持ちで比龍王は、湖にひろがる対岸を眺めた。

    ストゥーパ(仏塔)は、星空に濃い濃紺の影を落とし……
    対岸の家々には、温かなオレンジ色の灯りが幾つも灯る。
    夕鈴が守りたい……父王・比龍の治める幸せな楼蘭王国の風景。

    とても平和な楼蘭だが……
    それは夕鈴の犠牲あっての平和。

    漢帝国の手で、仮初めに守られている、うわべに過ぎない。
    夕鈴を漢の武帝に差し出したとしても、
    皇帝の気まぐれで、何時戦が起きたとしても不思議ではなかった。

    冷たい夜風が比龍を翻弄する。
    漢帝国という大きな嵐。

    その嵐に晒されて、果たして楼蘭王国はどうなるのか?
    娘は、どうなる?
    比龍は暗い瞳で、冴えた美しい星空を見ていた。

    その時、ストゥーパから西へと大きな美しい星が二つ流れた。
    楼蘭王国から、砂漠の西、白陽国へと……

    天啓のような……その光!

    かつて、ロブ=ノール湖で初めて出会った比龍王と藍鈴姫も
    数奇な運命に導かれ、結ばれた仲だった。
    そんな場所で、かつての自分と同じく、娘は黎翔と恋に落ちた。

    「これは天啓なのかも知れないな。
    なぁ……藍鈴!?」

    まだ遅くは無いのか?
    まだ間に合うのか?

    比龍の自問自答の答えは無く、星々が煌くのみだった。
    比龍王は、娘・夕鈴の運命の歯車が、大きく廻り始めたことを知る。

    運命を信じてみるか?

    瞑目して更に自問自答を繰り返したが、正しいと思える答えは出なかった。

    黎翔は星空を見上げる、比龍王の言葉を待った。

    こちらに背を向けているため、その表情は伺い知ることが出来ない。
    粘り強く老王の言葉を待つ。

    黎翔は、その背に滲む苦脳を読み取り
    同じ王として不安を抱いた。だが…もはや、ただじっと待つしかない。










    しばらくして比龍王は、夜空を見上げながらこう告げた。

    「……数日。
    あと数日で夕鈴は、この王宮に戻る」

    「時は巡り……
    運命は変わりゆくのだろう」

    「珀 黎翔国王殿。
    貴殿に娘の憂いを打ち明ける前に、私も娘に聞かねばならないことが出来た」

    「夕鈴が戻る。
    その後でいいだろうか?」

    「構いません。
    姫に出会えるのは私も嬉しい。
    感謝します、楼蘭王」

    そう言うと踵を返して、与えられた自室に戻る黎翔を
    比龍は、静かに見送った。
    比龍の心は、国王としての自分と父親としての自分がせめぎあう。

    今宵、黎翔と話して比龍は、一つ決心した事があった。

    ロブ=ノールの神託に……
    黎翔と娘の運命に任せてみよう……すべては、娘の夕鈴の幸せの為に。

    しばらくして、四阿から物悲しい馬頭琴の音色が聞こえてきた。
    震える琴の音色は、望めぬ国の未来と、娘への愛情を奏でているかのようだった。

                  ―黎翔編・完―

    黎翔編 外伝 砂漠の帳1へ 続く

    本編 夢逢瀬編 43 へ 続く



    2016.03.09.改訂
    2012.11.14.初稿 

    【長編】『楼蘭』―黎翔編―外伝 【砂漠の帳 1】

    楼蘭外伝 








    【砂漠の帳 さばくのとばり 1 】



    幾つもの星がざわめく 砂漠の夜に
    明々とオレンジ色の焚き火が灯る

    夕鈴姫のいる
    夜営する蒋(しょう) 将軍の部隊。

    部隊に守られるように華やかな緋色の女テントから
    焚き火に誘われるようにーーー旅衣装のうら若き夕鈴の姿。

    「蒋(しょう) 将軍」

    焚き火に近づいた夕鈴は、
    駱駝の乾燥した糞を燃やし
    明々と燃え盛る焔を見つめていた老将軍に話しかけた。

    「姫様。
    どうされました?」

    「なにもないわ。
    隣……いいかしら?」

    「こんなところで、よければ。
    御用件なら、テントまで伺いましたものを」

    「もう真夜中だし、侍女達も寝ているわ。
    起したくなかったし、将軍とお話したくて」

    「昔みたいに、焚き火を囲みながら
    あなたとお話がしたかったから……」

    膝を抱えて老将軍の隣に座った
    焚き火に照らされた夕鈴の顔は、子供のように無邪気に将軍を慕い……
    先の見えぬ不安の影は、色濃くその顔に滲み出ていた。

    蒋(しょう) 将軍にも、わが子同然の姫の様子に、胸が痛い。

    ささやかな幸せな夢に浸る年頃なのに ……
    それさえも彼女には許されない。

    それを思うと仕える楼蘭王の苦悩も分かり
    溜め息しかでてこなかった。

    明々と燃える焔を見つめながら、夕鈴は淡々と話す。

    「王都と王宮の様子は相変わらずなのですか?
    漢は私との約束を、きちんと守っておりますか?」

    「楼蘭を守る
    漢の駐屯地の衛兵は、いまだ我が物顔で町を闊歩。
    楼蘭を守る為と言っていますが最近は兵を増強しており、あれでは占領ですな」

    「王宮には、相変わらず漢の目と耳が送り込まれ続けています。
    王宮に着きましたら、言動にご注意ください。

    此度の使者は漢の将軍。
    下手な使者より扱いも悪いかと」

    「……それは何故?」

    「武帝直属の卓越された近衛を率いる武帝お気に入りの将軍と聞いております。
    その発言や決定は、武帝の決定に准じた扱いとか……

    それに年若い将軍ながら武と智に優れているとか。
    奴なら楼蘭王宮の見取り図など手元に無くとも、
    簡単に頭に叩き込むことでしょう」

    「それに、他国の間者や刺客も入り込みましょう……
    漢と楼蘭の婚姻は、西方諸国の今の関心。
    気に入らない諸国は、昔から多い。

    姫様も、十分にご注意ください。
    王宮にいる間は、この蒋(しょう)が命をかけてましても姫様をお守りいたします」

    父と同じ、年老いた将軍は、いつも夕鈴の心配をしてくれた。
    皺の刻まれた顔に、決意が漲る。

    心配してくれている……ただ、それだけで彼女の心は温かくなる。
    嬉しくて、少し涙が滲んだ。

    「ありがとう、蒋(しょう) 将軍。
    嬉しい言葉だけど私より、お父様を守ってほしいの。
    約束して!
    決して命を粗末にしてはいけないと……」

    「楼蘭の民は誰一人として、血を流してはいけない。
    私は、その為に武帝に嫁ぐのよ」

    毅然と胸を張る夕鈴の言葉は、
    民を守る優しさと強い決意に溢れ、一国の王女らしい言葉だった。

    早くからそれを求められ、強いられてきた言葉に彼女の運命の過酷さを改めて知る。

    「街の様子。
    王宮の様子は、よく分かりました。

    私からも、一度
    武帝に頼んでみます。
    漢軍が楼蘭の人々に、酷いことをしないように……と」

    焚き火の焔を見つめ続ける夕鈴の表情からは
    老将軍はその心を読み取れなかった。



    ……砂漠の帳 2へ 続く



    2016.06.10.改訂
    2012.11.15.初稿

    【長編】『楼蘭』―黎翔編―外伝 【砂漠の帳 2】

    楼蘭外伝 




    【砂漠の帳 さばくのとばり 2 】

    焚き火の焔を瞳に映し、夕鈴は老将軍に話しかけた。

    「ねえ、蒋(しょう) 将軍。
    こうして焚き火を囲みながら星空を見ていると
    あなたと初めて砂漠の夜営をした夜を思い出すわ。」

    「あの頃は……
    お母様も健在で
    お父様も、いつもにこやかで……」

    「そうでしたな。
    あれは、ずいぶんと昔のことになりますなぁ……」


    夕鈴の心は、遥か過去に遡り……
    幼き日の夜営の夜へと飛んでいく。

    確かあれは王宮から、ロブ=ノールの離宮へ
    はじめて旅した時の記憶。



    「はじめて見た何も無い砂漠に夕陽が沈んだ時。
    燃えあがるように真っ赤に染まる砂漠と空」

    「初めて過ごした夜の砂漠。
    満天の降るような星空に、感動して泣いたっけ……」

    「私には、初めての夜営だったけど。
    とても楽しかった。
    その頃が、きっと一番の幸せだったのね。

    それからすぐに戦が起こり、お父様は戦場へ向われた。
    お母様は…………」

    その先の言葉を切り、夕鈴は膝に顔を埋めた。
    彼女の小さく震える肩を、老将軍は優しく宥めた。




    しばらくして夕鈴は頭上の美しい星空を見上げた。


    「この続く星空の下に、お父様がいる。
    蒋(しょう) 将軍、貴方や、楼蘭の人々がいる……
    そう思うと、ロブ・ノールの離宮に、独りでも淋しくはなかった」

    「私はロブ・ノールの離宮から、
    東方の漢の後宮に、居を移すだけ」

    引き結んだ口元が、今の彼女の精一杯の強がりなのだろう。
    夕鈴は、隣の老将軍を見つめて、言葉を静かに紡いだ。

    「覚えておいて……蒋(しょう) 将軍。
    この続く星空の下に、私が居る事を」

    「お父様を頼みます。
    私に代わりに、楼蘭を
    父を守ってください……」

    ――――そして、この続く星空の道筋の下に、黎翔様も……

    見上げた星空に続く、天球の光る道筋。
    漆黒の宇宙に、煌く輝く星々が作る巨大な光の道は、
    はるか彼方、地平線の先まで続いていた。

    夕鈴は、頭上に輝く星を眺めながら、
    黎翔への熱い想いを封印すべく
    夕鈴は、そのはしばみ色の瞳を、ゆっくりと閉じるのだった。


                ー砂漠の帳 さばくのとばり・完-

    本編・夢逢瀬編43  黎翔SIDEへ 続く


    2016.03.10.改訂
    2012.11.15.初稿