花の四阿

    Lala掲載の『狼陛下の花嫁』二次小説のブログです。某SNSで書き溜めた小説の他・イラスト・詩文・写真・徒然日記・一部鍵つきを掲載しています。

    【書庫】本誌設定『緑風』

    こちらは、本誌設定・長編を収めた書庫室です。
    こちらは、珀 黎翔陛下と汀 夕鈴妃の物語。続ける余地のある終わり方をしています。不定期更新。





    DSCN3353-20160130早朝のエメラルド





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    本誌設定【長編】 緑風―それぞれの至福―


    緑風




    ーーーー風薫る新緑の頃。

    ようやく芽吹き出した草木が生命の息吹を感じさせる時期に、
    白陽国の王宮は、にわかに活気づく。
    続々と荷物を乗せた荷馬車が到着し、王宮に運び入れられた。

    主に、各地方荘園からの献上品なのだか…。
    中には、陛下に仕える貴族からの貢ぎ物も多い。

    荘園主、貴族たちが・・・・
    まるで競い合うかのように、次々と王宮に運び入れられる品たち。
    ……あっという間に、献上品の部屋は埋め尽くされてしまった。


    献上品と共に届けられた目録も、政務室へと運ばれる。
    目録と共に添えられた手紙を抱えて、政務室に到着の報告に行く政務次官。

    このような現象は、一年を通して見かけられるが……
    春は特に活気に溢れていた。
    それゆえ目録も多く、品も多彩で様々だった。


    一年の最初の実りを、国王陛下へ……

    それぞれが、それぞれに
    御国自慢を競う品評会の場が、王宮だった。
    特に、国王陛下とお妃様の目に止まった品は、市場で高額の高値がつく。
    国王陛下もお気に入りということで、評価が高く高額でも飛ぶように売れる為、
    その評価が欲しくて、必然的に最高級品が王宮に集うことになっていた。

    誰もが、国王陛下に献上品を認めたがられる。
    目録には、今回の品がどのように素晴らしい品なのかという
    荘園主や貴族の手紙も添えられていた。




    その中に春に献上される、春ならではの高級品があった。

    細い絹糸で織り込まれた繊細な錦の布袋。
    それにひとつひとつ包まれた小さな青磁の壺。
    封がされたその壺は、さらに丁寧に漆塗りの塗り箱に納められていた。
    他の献上品より、ことさら大切に扱われるその品。

    金封がなされた小さな小さな青磁の茶壷。

    白陽国の南の山間で作られた最高級の新茶の茶葉であった。



    ……「彼女のときめき」へ続く


    2016.01.31.改訂
    2013.05.03.初稿 続きを読む

    本誌設定【長編】 緑風―彼女のときめき―

    緑風




    後宮の一角。
    春の球根の優しげな色の花が咲きそろう四阿で、寛ぐ夕鈴と黎翔。

    爽やかな風は、豊かな春の香りを四阿にいる二人に届けてくれた。

    冬場、小さく固かった木々の芽は、柔らかな緑の小さな葉をようやく広げ
    春の太陽の光を浴びて競い合うように新緑に輝いている。

    その美しい刻に目を奪われる。
    一年で一番、生命の息吹の不思議さを感じさせる季節。
    止まった時間が急に動きだしたような、色鮮やかな世界に彼女の心は弾みだす。


    そんな夕鈴に、更なる胸弾ませる知らせが届いた。

    彼女の手づから淹れてもらった茶を一口飲んだ黎翔は
    「今日も、美味いな」
    愛する妃に労いのひと言を添えると、
    お茶を飲む手を休めて、彼女をまっすぐ見た。

    「夕鈴。
    あと数日で緑風の荘園から、特産の茶葉の献上品が王宮に届くという知らせが来た」

    ……愛する夫が、もたらした知らせ。
    それは夕鈴が心待ちにしていたものだった。
    そのことに、彼女の瞳が輝く。

    彼女のいつも淹れるお茶。
    その中でも、一番のお気に入りの茶葉。

    陛下も、夕鈴も一番大好きな春の香りのするお茶。


    この時期の緑風の荘園から、届けられる新茶は、緑茶(リュイ茶)の中でも特別で、
    東国の国の製法を取り入れた手間のかかる特殊なお茶だった。
    釜煎りで作られることの多い、白陽国の緑茶(リュイ茶)

    緑風の荘園の緑茶は、(リョク茶)と呼ばれ、東方国の名で呼ばれていた。
    東方国から伝来した製法の蒸す工程が取り入れられている緑茶(リョク茶)。
    その茶は、甘みがありまろみのあるとろりとした翡翠色の美しいお茶だった。
    甘味と旨みと渋みのバランスのとれた味も大変美味しいお茶である。

    夕鈴の瞳が輝く。
    「もう、そんな時期なのですね。
    緑風の新茶ですか……わぁ♪
    到着が今から楽しみです」

    急に、ウキウキしだした夕鈴。
    可愛らしい素直な反応に、黎翔は心から微笑む。

    「到着したら、真っ先に君に届けるよ。
    そしたら僕にお茶を淹れてくれる?」

    「もちろんですわ、陛下。
    陛下の為に、とびきり美味しいお茶を淹れて差し上げます」

    「その時は、一緒に飲もうね。
    夕鈴」

    「ハイ」

    「約束だよ」

    何だか弾んだ夕鈴の気持ちが、黎翔にまで伝わったようで……
    嬉しそうな彼女の様子に黎翔の心も弾みだす。

    春風に乗って……
    一足早く訪れた春の知らせに、
    二人はドキドキ・ワクワクしながら、茶葉の到着を待ちわびるのだった。


    ……「彼のときめき」へ 続く


    2016.01.31.改訂
    2013.05.03.初稿 続きを読む

    本誌設定【長編】 緑風―彼のときめき―

    緑風


    そんな会話を交わして、黎翔と夕鈴が微笑みあった……
    数日後の或る日。

    普段、後宮を管理する張老師が、珍しくも政務室に向かう廊下を一人歩いていた。

    ご機嫌で足取り軽く、鼻歌交じりに歩くその姿は、とても毒に精通する医官であり、
    狼陛下から、絶対の信頼を寄せられている重要人物には、とても見えない。

    立派な白い髭で、ようやく大人と分るほどの身長の気のいい小さな老人である。

    狼陛下の唯一の妃が住まう後宮を任されている張老師。
    ――高級官史でさえ、首部を垂れ敬意を払う。

    その小さな老人が皺だらけの手に、小さな包みを抱えていたことなど、誰も気にも止めなかった。

    当然とばかり官吏達が忙しく政務している政務室に入ると、更に奥に老師は進んだ。
    精緻な彫刻が施された陛下の居る執務室の重厚な扉の前で老師は“ピタリ”と立ち止まった。

    「コホン」

    少し、もったいぶって小さく咳払いをすると、入室の許可を願い出た。
    その顔は嬉々としていて、いつも以上に朗らかに見える。

    「陛下、いらっしゃいますかな?
    張元でございます。
    入りますぞ……」

    静かでありながら、朗々とした張りのある声は、さすが現役を勤める後宮管理人である。
    その声に、仕事に集中していた官史達は、手を休めて振り向くと……

    「お待ちしておりました。
    張老師。
    どうぞお入りください」

    眼鏡をかけた陛下の側近が、老師を招き入れ
    扉に消えゆく後ろ姿だった……

    「もう、そろそろお越しすると思っておりました。
    陛下が痺れを切らしてお待ちです。
    政務に支障無きよう、さっさとソレを陛下にお渡しください」

    少し不機嫌気味に、柳眉を寄せて
    側近である李順は、事務的に淡々と言った。

    「なんじゃ?
    一番待ち望んでおったのは、お主か?」

    「ここ数日、毎日問われ続けておりましたから。
    そして休憩時間でもないのに、お妃様のところへ報告に抜け出すので
    政務がさっぱり進まないっっっ!
    まったく困ったものです」

    ぷぷっ(笑)

    笑いをこらえきれず、失笑した老人を、李順はキッと睨みつけたが、まったく堪えていなかった。
    張老師は、ますますゲラゲラ……と笑うばかり……

    次の老師の言葉に、李順は黙って口を噤んで会話を流した。
    視線は、冷たく鋭いままで……

    「若造。
    おぬし、恋というものを一度もしておらぬようじゃな。
    今まで一度も、もてなかろ?

    陛下に、ようやく春が訪れておるのじゃ……
    ワシは、陛下の恋に協力したい。
    言われんでも、コレを陛下に届けたら、すぐに立ち去るつもりじゃて
    安心せい」

    皺枯れた腕で、大事に抱えてきた小さな包みを、
    ひと撫でするとにっこりと微笑んだ。

    「コレを届けるだけで、夫婦仲がますます仲良うなることは、いいことじゃ……

    お妃は、ほんに贅沢からは無縁じゃからのう。
    綺麗な衣も、高価な宝石もいらないという。
    それどころか、高価な贈り物を喜ぶどころか、陛下を叱って怒る。
    質素倹約がお妃の身上。

    唯一の贅沢が、陛下にお出しするお茶とは、
    実にお妃らしいではないか?

    ……ところで陛下が見当らぬが、どこじゃ?」

    「只今、周宰相と共に謁見の最中です。
    しばしお待ちくだされば、すぐに戻られます」

    「おぬしは、何故行かなかったのじゃ?」

    「ここで、張老師が来るかもしれないからと、
    留守番を申し付けられました。

    なにも其処までしなくとも……そう進言したんですけどね」

    陛下に届ける大事な品を卓に置くと、
    老師は手近にある椅子に、ちょこんと座った。

    「だから、おぬしには春は来ないんじゃよ……」

    そういって、今度はにやりと訳知り顔に笑った。




    「陛下はまだ来ぬかの?……」

    軽く目を瞑り、寝入ったように見える張元が、顔を紅潮させて

    いっそ本物のお妃として……
    だの

    たわむれに御子が産まれぬものかのぅ?……
    だの

    ブツブツとつぶやくのを、李順は聞くともなく聞くと、
    大きなため息をひとつついた。
    そのまま彼は、老人のたわ言を無視することに決めた。


    執務室の窓からは、燦燦と降り注ぐ春の陽光に、若葉が輝き踊るように揺れていた。
    白陽国の王宮に穏やかな春が訪れていた。

    ……「陛下のときめき」へ・続く


    2016.02.10. 改訂
    2016.02.09..初稿



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    本誌設定【長編】 緑風―陛下のときめき―

    緑風



    後宮でも奥まった静かな中庭の池に、ことさら静かに佇む四阿があった。

    清い水面に、影を落とす翡翠宮
    八角の角柱を持つ縁起の良い四阿は、建物自体が緑色の玉で飾られたなんとも贅沢な建物である。

    過去の白陽国の栄華を示すこの四阿は、奥まった場所の小さな四阿でありながら、
    非常に繊細で凝った作りの芸術品のような建造物であった。

    庭の景色も美しく調和がとれ、水鳥たちの集う落ち着く隠れ家的な四阿は、
    代々の時の王のお気に入りの場所。

    もちろん黎翔も、例外ではない。
    黎翔のお気に入りのお昼寝の場所の一つであった。
    彼女が来るまでは……

    今では、夕鈴と二人でつかの間の安らぎを得る場所になっていた。

    僕が“お嫁さん”を貰って、一番驚いたこと。
    存外、彼女の居る生活も悪くない。
    むしろ楽しい♪

    夕鈴と居ると、退屈することがない。
    彼女のペースに、いつの間にか巻き込まれるが、結局は私の為に良くしてくれる可愛いい娘。

    偽の“僕の花嫁”を、安全にいつ手離そうかと考えるも、いつの間にか考えることをやめてしまうほどに
    大切で大事な僕の宝物で……狼陛下の僕が、いつ君を傷つけてしまうのかを憂いている。

    それでも手離せないのは、僕の我侭。
    いつまでも君の傍に居たい、君の笑顔が見たい、甘えていたい、僕の我侭。


    ほんのささやかな幸せでいい。
    君の笑顔が見たいんだ!


    後宮の庭を横切る黎翔は、翡翠宮までの近道を真っ直ぐに辿る。
    息を弾ませ走り出してしまうのは……
    夕鈴、君の笑顔が早く見たいから。

    先ほど老師から手渡されたばかりの小箱を抱えて……
    君の待つ四阿へ、君の笑顔を届けに行くよ。

    もうすぐ会えるんだ。
    君の笑顔が大好きだから!

    君の笑顔が僕の喜び……
    君のすべてが、僕のときめき





    ……芽吹きの季節へ・続く




    2016.02.20.初稿

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    本誌設定【長編】 緑風―芽吹きの季節― 

    緑風



    「陛下。
    助けてっ……!」

    小さな悲鳴と共に、黎翔の背中に小さくて柔らかな衝撃!

    黎翔は、池の四阿に渡る橋のたもとで、急に呼び止められた。
    最愛の夕鈴の声を聞き、一瞬刺客かと思い緊張が走る。
    黎翔を周りこんだ夕鈴を背に庇い、辺りを鋭く伺うと

    ……そこには、彼女を狙う刺客など影も形も居なかった。

    訝しむ黎翔。

    夕鈴付きの侍女達が、庭を数人走ってきていたが、
    黎翔の姿を見つけると、皆うやうやしく頭を垂れた。

    いったい、誰から逃げてきたのだろう?
    夕鈴は、誰から「助けて」欲しいのか?

    夕鈴から詳しい事情を聞こうと、黎翔が彼女の方に振り向くと
    ……彼は息を呑んだ。

    息を弾ませ、胸の動悸を両手で抑える夕鈴は、常の慎ましい姿と違い、
    宴に赴くような軽やかで煌びやかな衣装を身に纏い、
    碧玉や白玉で身を美しく装っていた。

    匂いたつ朝露を纏った若葉を思わせる新緑の衣装。
    朝餉の時と同じ化粧が、黎翔には少し惜しかった。

    「夕鈴、キレイ……
    どうしたのソレ?」

    事情が呑み込めず…
    間抜けな賞賛の言葉を呟く黎翔に…

    彼女は、美しく装った外見にそぐわない顔で、
    黎翔を恨みがましく涙目で、ねめつけた。

    「陛下がイケないのです。

    “君の輝く笑顔が見たい”などと…

    先触れの御使者に、伝えるのですもの。
    私付きの侍女たちが、喜んで張り切って
    私を飾りたてたのです」

    「私……
    途中で、逃げてきました!」

    ピンクの唇を尖らせて、拗ねたように抗議する夕鈴。
    身長差があるとはいえ、上気した頬で涙を浮かべた大きな瞳で
    僕を見上げるのは反則だよ、夕鈴。

    「ごめん。ごめん。
    ……でも、ホント綺麗だよ!

    夕鈴、もっとよく見せて!」

    怒っても、拗ねても、君は可愛いだなんて言ったら……
    君は、ますます怒りだすだろうか?

    喜怒哀楽を、まったく僕の前で隠さない君は、王宮では稀有な存在。
    生き生きとした君を見ているだけで、灰色の僕の世界は、極彩色の輝きをみせる。

    質素倹約を美徳とする君は、不必要に自分を飾りたてるのを好まない。
    財政難な僕の国で、 君の考えは価値のあることだけど…

    君が美しく装った姿を、時々見たいなと願うのは、僕の我が儘なのだろうか?

    夕鈴は、呆れ怒りつつも……しかたがないと
    僕の目の前で、くるりと一回転してくれた。

    金糸の縫い取りがされた若草色の薄衣。
    風に揺れる袖から、腕の白い肌が透けて見えた。
    袂からは慎ましい襟に反して、鎖骨が…胸元が…透け見える。

    碧玉と白玉を陽に輝く髪に編み込み、流れる金の簪が風に軽やかな音をたてて耳を楽しませた。

    金糸、銀糸を織り交ぜた巾の広い錦の帯を、細い腰にキュッと巻き、
    豊かな胸が強調されて、彼女の女性らしさが強調されて魅惑的だった。

    着飾る夕鈴は、仮とはいえ僕の花嫁。
    仮で、こんなにも僕の胸をときめかすのに、
    もしも本物の花嫁となったのならば、どんなにドキドキと狂おしいのだろう?






    「陛下、お妃さま。
    失礼致します!
    お妃さま、お支度の途中でございます!
    お部屋にお戻りくださいませ!」

    「夕鈴。
    諦めたほうがよい、鬼ごっこは終わりだそうだ。
    お迎えがきたよ……」

    「……でも。
    陛下を待たすわけにはいきません!
    どうか、このままで……」

    君に“助けて”と目で訴えられても……
    僕の心は決めていた。



    「いや大丈夫だ。
    私は、まだ来たばかり。
    それに美しく装った君が見たい。

    ……君の支度が整うまで四阿で待とう」

    「ぅ……
    でも、でも」

    「……夕鈴。
    動くな!」

    「え!?
    あ……はい?」

    ?????

    素早く夕鈴の頤を捉えて、そのピンクの紅の唇に僕は唇を重ねた。
    びっくりした夕鈴のハシバミ色の瞳が、更に大きくなる。

    僕は、真っ赤になった夕鈴を腕に捉えたまま……
    後ろに控えていた、先ほどの夕鈴付きの侍女と夕鈴に話しかけた。

    「今朝の化粧のままでは、この衣装に似合わぬな。
    紅が薄い……」

    たった今、口付けたばかりの夕鈴の唇をしげしげと吟味すると、
    彼女の顔が益々真っ赤になった。

    「そうだな。
    スモモが良い。
    瑞々しく食べ頃の齧りたくなるスモモの実のような
    オレンジかがる紅の色」

    「……夕鈴」

    とん……と背中を軽く押して、彼女を侍女へ引き渡した。

    「かしこまりました」

    律儀な侍女の控えめな声に重なり、夕鈴の声。

    「んもぅ。
    ……しかたがない人ですね。
    しばし、お待ちください」

    「夕鈴。
    楽しみに、しているよ!」

    僕は足取りも軽く翡翠宮へと続く、池の橋を渡る。
    美しく着飾った君を待つために……


    ……至福の刻・前編へ 続く


    2016..03.02.初稿

    唐突に、彼女の口紅の色が気に入らなくて、口付けで拭う陛下が書きたかったんです。

    芽吹きの季節は、恋の季節陛下の幸せ度高くてすみません。

    本誌設定【長編】 緑風―至福の刻・前編― 

    緑風







    輝き煌く新緑の世界
    池越しに見る翡翠宮からの眺めは、穏やかで心和む。

    黎翔は、四阿の長椅子に座り景色を眺めながら……
    最愛の妃を待ちわびていた。

    ――そこへ、夕鈴の訪れを知らせる先触れの声。
    黎翔は、ワクワクしながら、その双眸を閉じた。

    聞こえてくるのは、池渡る爽やかな風の音。
    少しずつ近付く、彼女の柔らかな絹擦れる音。
    涼やかな装飾品が奏でる音。

    薫るは、風渡る陽だまりの匂いと若葉の香り。
    瑞々しい花ような彼女の香り。

    「陛下。
    お待たせ致しました。」

    ―――ー知るは

    背後から、そっと黎翔の目元を覆い隠した
    彼女の小さくて柔らかな掌。
    うなじに、かかる熱い吐息。

    「夕鈴。
    どうして目隠しするの?」

    「だって
    ……恥ずかしいんです。

    侍女の皆さん、これでもかって、いうくらい飾り立てるのですもの。
    宴でも無いのに……このようなこと」

    少し疲れたように可愛らしい小言を言う夕鈴。

    「目隠しなんてされたら、
    せっかく美しく装った君が見れない……
    あきらめて僕に見せて!」
    僕は、クスクス……と笑いながら、彼女の両手を掴んで、
    目隠しをそっと外した。

    「ねぇ……夕鈴。
    お願いだから、
    僕の正面に回りこんでくれる?

    それまで目を瞑っているから……」

    「陛下?
    ……???
    いいですよ」

    彼女が移動する音がする。
    日当たりの良い僕の正面が陰り、花の香りがぐっと近付いた。
    僕の緊張感と期待が、嫌が応にも高まる。

    「陛下。
    もう目を開けてもいいですよ!?」
    クスクス……と、今度は彼女が楽しそうに笑った。

    僕は、ゆっくりと目を開けた。
    期待で、ドキドキ……と胸の動悸が高鳴る。

    僕の目の前には、輝く太陽を背に受けて
    僕の女神が眩しく微笑んでいた。

    金茶の髪が陽に透けて、ときめくほどに輝く。
    半分結い上げた髪から覗く、華奢な白い首筋。

    恥ずかしそうに潤んだ
    大きなハシバミ色の瞳が、僕を見つめ
    上気した顔は、頬だけではなく……耳朶や首筋までもを薄紅色に染めていた。

    ツンと上向く唇は、ぷるんと柔らかそうで……
    甘酸っぱい杏色に輝く口元に、僕は口付けて齧りたくなった。

    そよ風を孕み、なびく若葉の薄衣が、僕を誘う。



    あっ!

    僕は、夕鈴の細い腕を引き寄せ……僕の膝に乗せた。

    「素敵だよ。
    僕の可愛い奥さん」

    「…ぁりがとぅございます」

    パッ…と散った彼女の朱に染まる顔を、僕は見逃さなかった。
    僕にしか見せない可愛い顔。

    ……っ!

    ン。

    僕は、すばやく君の唇を奪うと満足して、君をギュッと抱き締めた。

    「…………////っ!
    へいかっ!」

    「ゆーりん、真っ赤だ。
    かわいいな……」

    侍女が見守る中、僕に抵抗できない君を、更に引き寄せ抱き締める。
    とまどう君のささやかな抵抗など、気にならなかった。

    君の抵抗など……僕には甘い誘惑にしかならない。
    無自覚で無意識な僕の花嫁

    僕を酔わせ夢中にしてゆく
    無邪気で無垢な君の生き生きとした美しい魅力

    「へーか……」
    抵抗をやめた夕鈴が、微熱めいた瞳で僕を呼ぶ。

    「ゆーりん……」

    今度は彼女に、性急すぎない確かめるような口付けを贈ると
    夕鈴は小さな甘い吐息を零した。


    時が止まればいいのに……と思うほどの甘やかな刻が、二人に過ぎていく
    どちらともなく離れた唇に、心寂しく思うぐらい……僕は幸せだった。

    僕は、胸いっぱいに君の香りを確かめた。
    腕の中の君は、陽だまりの太陽の香りと芳しい花の香りがした。



    ……至福の刻・後編へ続く



    2016.03.05..初稿 続きを読む

    本誌設定【長編】 緑風―至福の刻・後編― 

    緑風






    新緑の優しい風が吹き渡る

    「陛下。
    もう、そろそろ……
    私をここへ呼び出した理由を教えてください」

    腕の中の夕鈴が居心地悪そうに…
    真っ赤になりながら、モジモジ……と呟く

    恥ずかしがり屋の君は、
    甘い僕との触れ合いに、未だ慣れない……

    また、それが初々しい花嫁らしくて
    周囲の者も、まさか君が雇われた“臨時花嫁”とは気がつかない。

    君のぎこちなさも、極端に恥ずかしがり屋の性格ゆえのことなのだろうと
    思われているのだろう。

    抱き心地の良い君を
    僕は、いつまでも抱き締めていたいけど……
    これ以上、君が困るのを諦めた。

    だって、この先に甘く触れ合うチャンスがあっても、
    僕に警戒して逃げそうだったから……

    君が僕を避けて逃げるなんてことは困る。
    すっっごく困る。

    「実家に帰らせてください!」

    ……なんて君に言われたら……
    考えることも嫌だけど、きっと僕は仕事が手につかない……
    君を下町まで追いかけてしまうよ。

    「大袈裟です!」
    と君は一刀両断にバッサリと、つれないことを言うけど、
    僕の不安は増す一方だから仕方がない。

    君の一挙手一投足が、僕を突き動かす。
    君の笑顔が僕を勇気付ける。

    “君なしでは居られない”……だなんて
    どこかの恋物語のようだけど
    君と出会うまで、ホントのことだとは思いもしなかった。

    至近距離でありながら、君の問いに答えない無反応な僕に
    心底困った顔をする夕鈴。






    分かった!
    お手上げだよ!

    君に意地悪しているつもりは無いんだ
    僕は近くの侍女に頼み、卓に置いた小さな包みを持って来させた。

    「夕鈴、君の待ち望んでいた品だ!」

    小さな四角い包みを、夕鈴の小さな掌に乗せた。

    肌触りの良い包みは、良質の絹。
    しっとり重い小さな包みに、夕鈴の顔はぱぁぁぁ……と輝いた!

    「陛下、
    お茶ですね!」

    「そうだよ!
    君と一緒に飲もうと思って、老師に頼んでおいたんだ」

    「荷が届いたら、
    一番良い茶葉を、すぐに持ってくるようにね!」

    「陛下!
    ありがとうございます♪」

    夕鈴の本当に嬉しそうな輝く笑顔に、僕も釣られて笑う。

    先触れの使者に伝えた君の
    この輝くような笑顔が見たかったんだ!

    「では早速!
    陛下の為に、お茶をお淹れ致しますねっ!」

    夕鈴は嬉しそうに、ピョンと僕の膝から降りると、
    すぐに、僕の目の前でお茶を淹れはじめた。

    輝く季節に、緩やかな時が過ぎ行く……
    僕は君と過ごす、こんな時間が、大好きだ。

    二人で居ることの幸せの意味を知る。
    心がなんだか温かくて君と過ごすだけで癒される。


    いつか君が本物の花嫁になっても、
    変わらぬ時が過ごせたらいいな。

    そんなことを僕は願わずには居られない。

    お茶を淹れてくれる僕の大好きなお嫁さんの姿を見守りながら、
    穏やかで平和な時間に包まれている僕は、世界一幸せ者だと感じていた。


    ……続く

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