花の四阿

    Lala掲載の『狼陛下の花嫁』二次小説のブログです。某SNSで書き溜めた小説の他・イラスト・詩文・写真・徒然日記・一部鍵つきを掲載しています。

    完【書庫】『君を忘れない』




    完【君を忘れない】

    物悲しい、もしかしたらありうる黒龍・黎翔と夕鈴の物語。
    夕鈴の借金が無くなり、二人は別々の道を歩みます。
    その一年後、王都が大火に包まれます。
    運命の大火、巻き込まれた夕鈴の運命は・・・・


       上から順にお読みください 

    2013.03.16. 【長編】黒龍『君を忘れない』1

    2013.03.16. 【長編】黒龍『君を忘れない』2

    2013.03.16. 【長編】黒龍『君を忘れない』3

    2013.03.17. 【長編】黒龍『君を忘れない』4

    2013.03.24. 【長編】黒龍『君を忘れない』5

    2013.03.25. 【長編】黒龍『君を忘れない』6

    2013.03.25. 【長編】黒龍『君を忘れない』7

    2013.03.26. 【長編】黒龍『君を忘れない』8

    2013.03.27. 【長編】黒龍『君を忘れない』9

    2013.03.28. 【長編】黒龍『君を忘れない』10

    2013.03.28. 【長編】黒龍『君を忘れない』11

    2013.03.28. 【長編】黒龍『君を忘れない』12

    2013.03.28.完【長編】黒龍『君を忘れない』13

    続きを読む
    スポンサーサイト

    【長編】黒龍『君を忘れない』1

    まだ10日しかたっていない。
    君が、後宮を辞してから・・・・

    別れ際、僕に見せてくれた君の一番の笑顔。
    日増しに、鮮やかになっていく面影の笑顔に
    ぼくは、胸が痛い。

    返済する借金がとうとう無くなり、君を引き止める理由には
    ならなくなった。

    危険と隣り合わせの後宮での生活。
    君は、愚痴一つ零さず、妃としての仕事を勤め上げていたね。

    政務室の君が最初に壊した衝立・・・・

    すでに撤去された君のいつもいたはずの定位置の椅子。

    書庫のかび臭い薄暗い部屋の片隅。

    気がつけば、僕は君の鮮やかな面影を探している。

    僕の瞳が、君を探しているんだ。

    開け放たれた窓の外

    陽に当たる後宮の庭を、何度君と歩いたことだろう・・・・。

    楽しかった思い出ばかりが、僕の脳裏に蘇り

    この心を苦しめる。

    日増しに鮮やかさを増していく君との思い出に

    君への想いが募り行く・・・・

    もう、私のことなど忘れているのだろうか?

    君は、ここでのことを忘れてしまうのかい?

    泣きたいくらいの綺麗な青空に、ツンと鼻の奥が痛い。

    涙が零れないように、空を見た

    なんだか、陽の光が眩しくて・・・・

    瞼を閉じたら、君が居た。

    暖かな陽射しを浴びて、瞼の裏に君が居たんだ。

    ーーーーーなんだか忘れられないよ。夕鈴。

    君が好きだったんだ。

    握った拳に血が滲む。

    君が居ないこの王宮は、色褪せた廃墟も同然。

    何の魅力も感じない。

    色褪せて凍りついたいつもの景色を、無感動で見つめる。

    黎翔の心は、夕鈴を求めていた。

    ・・・・続く。



    2013年
    03月15日
    13:20

    【長編】黒龍『君を忘れない』2

    いつもどうりの時を過ごし
    いつもどうりの日常を、夕鈴は こなしているつもりだった。

    忙しい下町でのいつもの風景。
    いつもの仕事。
    優しい風が頬を撫でる。
    一陣の風。
    ふと訪れる空白の時
    気づくと思いだす。  後宮での美しい日々。

    鮮やかに蘇る 今では懐かしい夢の世界。
    今とかけ離れた緩やかで穏やかな時に
    夕鈴は、想いを馳せる

    今でも思い出せる。
    陛下の優しい笑顔を。
    優しい紅い瞳。
    私だけに見せる優しい子犬陛下。
    厳しくも美しい孤高の狼陛下。
    忘れることなど出来ない たくさんの陛下との思い出のひととき。

    突然に告げられた言葉に、別れを決意した。

    いつかは、終わりが訪れることを知っていたはずなのに
    本当は誰よりも恐れていたの。

    あんなにも、一緒に居たいと願ったはずなのに

    この恋が戻れぬほどの痛みを知る前に、
    一刻でも早い 望みの無い恋を終わらたいと願っていたの。

    『いつ、どこに居ようとも、私は貴方の味方ですから。』
    とあの日誓ったはずなのに・・・・

    気づけば・・・・貴方から逃げるように、後宮を辞していた。

    ーーーーーー今でなければ離れられない。
    今でも間違ってはいないと思うのだけれど・・・

    貴方を恋い慕う気持ちは、消え去らない。
    こんなにも、住む世界が違ってしまったというのに。

    どちらとも無く 気づけば願っていたね。
    貴方を いつまでも忘れたくないから
    別れの時は 泣かないと決めていたの。

    貴方に笑って欲しいから。
    最高の笑顔で送り出して欲しかったの。


    冬が終わり
    芽吹きの季節。

    次の季節が始まりを告げた。
    ずっと一緒にいたかったけれど 
    それぞれの夢(みち)を私たちは歩みはじめた。

    結局、知り合う前の関係に戻っただけ
    貴方は、王様で。
    私は、一般庶民。
    所詮は、はじめから出逢うことなど無かったこの関係。

    いたずらな運命が引き寄せた絆は、断ち切られた。
    もう交差することは二度と無いでしょう。

    だけど、すべてがはじめから無かったことになど出来ない。
    色鮮やかな思い出のすべては、貴方と作り上げたもの。
    ・・・・・・一つ一つが大切な私の宝物だから。

    消せない記憶が私の心を占める

    『おはよう』も
    『おやすみ』も 毎日交わしたね。


    『ただいま』も
    「お帰りなさいませ」も
    毎日言ってくれたね。

    視線が合うといつも微笑み返してくれた。
    あの温かな笑顔で
    そんな日々が愛しかったの。

    心を占める温かな記憶が、私を苦しめる。

    いつもと同じ日常で最後のお別れを言いたくて
    お互いに、無理に普通のフりして
    でも別れ際 「さようなら」と言い出せなくて

    視線が合わないままに時を過ごしたね。

    二人で過ごしたかけがえの無い日々
    泣いたり 笑ったり いろんな時を過ごしたね。

    思い出せば胸を焦がす温かな記憶。


    ありがとう ありがとうと 今 貴方に伝えたい
    あの日言えなかった貴方への言葉。
        「さようなら」


    ーーー伝えられなかった想い
    「ずっと、貴方が好きでした。」

    始まりの風が夕鈴の頬を撫でる
    春色の陽だまりの中、滲む景色で
    夕鈴はいつの間にか涙を零す。

    ・・・・・ただ、陛下が恋しかった。


    ・・・・続く



    2013年
    03月15日
    14:24

    【長編】黒龍『君を忘れない』3

    別れの時に、抱き締められた記憶。
    切なげに耳元で囁かれた
    ーーーー貴方の願い。

    『泣かないで 笑ってよ。 一番の笑顔見せてくれ、夕鈴。』

    新しい毎日の中で キミは忘れていくのかな

    でも少しくらい覚えてて欲しい
     一緒に過ごした時間(とき)を

    何年経っても 色褪せない想い出を

    ありがとう ありがとう 
    今なら素直に言えるよ

    今 キミを 
    キミのことを いつまでも忘れないから

    キミの笑顔をこの胸に刻むんだ。 

    夕鈴、一番の笑顔を僕に見せてよ








    良かった事ばかり 思い出してしまうから
    寂しさは募るばかりで この胸 強く締めつける

    泣いたり 笑ったり いろんな時を過ごしたね
    ありがとう ありがとう 今 貴方に強く伝えたい


    貴方の鮮やかな笑顔を胸に刻みたい
    だから・・・ねぇ? 陛下 笑ってよ。

    いつまでも 忘れたくないから
    最高の笑顔を私に魅せて!!!

    ・・・続く




    2013年
    03月15日
    16:19

    【長編】黒龍『君を忘れない』4

    芳しい庭の白梅。
    一つ…また一つと咲いてゆく…

    その穢れない美しさ
    青い空に映えて
    咲き誇る。

    君が、後宮から去った頃は、まだ固かった梅の蕾は

    ここ数日の麗らかな陽気で、すっかり咲き進んだ。

    枝全体が、ふわりと匂いたち、咲き誇る。
    そのひと枝を指先で手繰り寄せ引き寄せた。
    丸みを帯びたふっくらとした蕾たちの中に数輪、可愛らしい様で咲く、輝く白梅の花枝。

    かつて、唯一、黎翔が妃と呼んだ女(ヒト)の髪をこうして引き寄せた。

    引き寄せた花枝に黎翔は、口付ける。
    ふっくらとした蕾の花びらに唇が触れた。

    独りの寂しさが辛過ぎる。

    こんなに、寂しく感じるのは何故だろうか!?

    君を知るまでの僕は、寂しさなんて知らなかった。

    だけど、今はとても…寂しい。
    寂しいんだ、夕鈴。

    君と過ごした日々が忘れられない…

    …夕鈴。

    この寂しさは、君が居なくなった日から続く。


    夕鈴は、いつも僕にいろいろなものを与えてくれたね。

    …この寂しさもキミが教えてくれたもの。

    愛しい感情も。
    寂しい感情も。
    狂おしいこの想いも。

    全部、君が与えてくれた。
    気付かせてくれた。


    …ありがとう。
    知らなかった想いを教えてくれて。

    …ありがとう。
    寂しさを教えてくれて。

    居なくなった今、本当の君の価値に気付いた。

    君が傍に居た頃の僕は、とても幸せだったんだね。

    知らなかったよ。

    いったいこれから、僕は、どうしたらいいんだろう?

    今、凄く君に会いたいよ。

    …夕鈴。

    寂しさと愛しさに揺れ動く黎翔。

    咲き誇る白梅を手に
    しばらくその場を動けなかった。


    輝く白梅の芳しい香りと吹く春風に
    黎翔は、春の訪れを感じた。


    心弾む穏やかな陽気も、黎翔の心を慰めない。


    寂しさに打ち拉がれ…
    一人佇む。


    流れ逝く雲は、何処へ向かっていくのだろうか!?

    …天を仰ぐ。

    誰も知らない道標。


    自問自答を繰り返す黎翔は、答えは見つからなかった。

    …続く。



    2013年
    03月16日
    13:23

    【長編】黒龍『君を忘れない』5


    或る意味、BUTエンディングとなります。しかもまだ終わらない。
    やはりというか、なんというかこんな可能性もあるかなと。





    ・・・・・それでもよければ、どぞ。


    夕鈴が後宮を辞してから次の年。
    春まだ遠い、風の強い或る早朝のこと。







    紅蓮の炎に飲まれ、夕鈴は、逃げ場を失っていた。

    折からの季節風は、この時期激しい嵐並の強風をもたらす。
    下町の一角で火の手が上がったかと思うと、
    あっという間に下町を大火が飲み込んだ。

    夕鈴は、早朝出立したばかりの青慎を慮(おもんばか)り
    その為、逃げ遅れた。
    あっという間に、家にも火が着き
    かろうじて、庭に逃れるも、四方は火の海だった。
    舐めるように、焔が襲う。

    漆黒の空。まだ夜が明けない空に火の粉が舞う・・・。
    熱風で、衣がチリチリと焦げた。

    (・・・・・熱い。)

    袂で口元を覆いながら、少しでも熱さから逃れる為に、井戸へと逃げる。
    カラカラと、井戸から水を汲み上げ、頭から水を浴びた。

    だけど、容赦なく炎が夕鈴を襲う。


    (・・・・ああ。もうだめかもしれない。)

    せめて・・・・青慎は、無事であって欲しい。





    ・・・陛下・・・・・

    ・・・・・最後に、一目お会いしたかった・・・・・








    煙に巻かれ、夕鈴が気を失う寸前、霞む煙の向うで、黒影が飛び込む

    崩れ行く身体は、夕鈴の意識に反して地面にくず折れた。

    漆黒の影・・・・・その姿は、紛れも無く黒龍だった。


    ・・・続く



    2013年
    03月24日
    20:24

    【長編】黒龍『君を忘れない』6

    或る意味、BUTエンディングとなります。しかもまだ終わらない。
    やはりというか、なんというかこんな可能性もあるかなと。


    ・・・・・それでもよければ、どぞ。



    ・・・・続きです。


    その知らせの第一報が、黎翔の耳に届いたのは、明け方近い※寅の刻。
    季節風の強い明け方だった。
    春一番とも言われる強い風。
    生暖かい風が、不安な予感を誘う。

    浩大がもたらした報告は、黎翔を青ざめさせた。
    この強風の夜に、城下から火の手が上がっているというのだ。
    しかも城下の風上の方向という。


    ーーーー最悪だ。

    黎翔は、寝乱れた夜着に軽く羽織物をかけただけで
    急ぎ、李順と宰相を呼び出した。
    と、同時に軍を纏める五人の将軍に伝令を出した。

    東の青竜(せいりょう) 軍、西の白虎(びゃっこ) 軍、南の朱雀(すざく) 軍、北の玄武(げんぶ) 軍の四将軍とその四軍を統括する「黄竜(おうりゅう)大将軍」に、鎮火の要請と、市民の救助を要請したのである。

    ――――時は、一刻を争う。

    往々にして、白陽国の歴史を紐解くと、たびたび大火にみまわれた。
    特に、このような大風の夜には、大被害が予想される。
    城下は大火に飲まれ、逃げ遅れた人々が、犠牲となってきた。
    時には、国の歴史が変わるほどに・・・・・、見過ごすことの出来ぬ
    国家の一大事であった。


    黎翔は、李順と大将軍・宰相・大臣達を大至急呼び寄せ、対策会議を練る。
    と同時に、浩大達に城下の全半鐘を叩かせた。

    軍だけでは、大火は鎮火できない。
    市井に知らせる必要があった。

    大火の知らせと警告を知らせる半鐘は人命に関わる。

    脳裏に彼女の姿が浮かんで消えない。
    はしばみ色の瞳。優しい微笑み。今は、下町の実家に帰った人。
    だが黎翔は、個人の安否など、口になど出来ない。

    なぜならば、この国の国王なのだから・・・・
    この火事を最小限にくい止めることこそが、今の彼の使命であり役割なのだから・・・・

    黎翔は、対策会議を行なっている部屋の窓から、外を見た。
    先ほどよりも強さを増した風が、木々を揺する。
    黎翔の眉間に深い皺が刻まれた。
    明け方近いまだ濃い群青色の空に、木々の枝が恐ろしい勢いで踊り狂っていた。


    ーーーー黎翔にとって、長い一日の幕開けだった。
    ・・・続く。




    ※寅の刻・・・午前4時頃

    2013年
    03月24日
    22:28

    【長編】黒龍『君を忘れない』7

    或る意味、BUTエンディングとなります。しかもまだ終わらない。
    やはりというか、なんというかこんな可能性もあるかなと。


    ・・・・・それでもよければ、どぞ。



    ・・・・続きです。

    自然の力に人が叶うはずも無く、あっという間に城下に次々と飛び火する大火事に。
    黎翔の願いも空しく、城下を包む大火となった。
    黎翔の不安が的中する。

    王城の中にまでは、大火で燃えた記録が無く、城壁も高い為、市民に門を開放し、避難させることにした。

    その中に、黎翔は彼女の姿を探した。

    ーーーーが、見つからない。

    あるいは、城下の外に逃げたのか?
    一縷の望みを残して、浩大の報告を待つ。

    まもなく青ざめ血相を変えた浩大が現われ、黎翔に告げた。

    ーーーーー城下の外に彼女の姿は無く
    ーーーーー彼女の家のある地域にも、飛び火したとの報告だった。

    城壁の外。紅蓮の焔の大海と化した城下を見つめる。

    ーーーーーまさか、逃げ遅れたのか?

    (夕鈴!!!!)


    『「陛下っ!!!!」』

    浩大・李順の止める声も、耳に入らない。

    黎翔は、馬屋に走り出していた。

    黎翔の頭の中は、夕鈴のことでいっぱいだった。

    不安が募る。

    ーーーー無事でいてくれ!!!

    もどかしげに黒龍に鞍をつけると、そのまま燃え盛る城下へと飛び出した。

    軍馬である黒龍は、焔に怯むことなく駆け走る。


    黎翔は、見知った道が地獄絵図のようになった城下の町を真っ直ぐに夕鈴の実家へと黒龍を全速力で走らせた。


    ・・・続く



    エンドは、見えています。・・・・が、そこまでが長い、たどり着かない。
    お付き合いくださいませ。

    2013年
    03月25日
    08:24

    【長編】黒龍『君を忘れない』8



    或る意味、BUTエンディングとなります。しかもまだ終わらない。
    やはりというか、なんというかこんな可能性もあるかなと。


    ・・・・・それでもよければ、どぞ。

    ヒンヤリとした指先が、優しく私の髪を梳く…

    ゆるゆると・・・・緩やかに浮上する意識に…。
    いつもと違う違和感に気が付いた。

    自分の髪が短めにさらさらと零れ落ちる。
    切った覚えなど無いというのに・・・・・

    いつもなら、ずっと櫛削ってくれる幸せな昔の夢。


    いつもの夢より現実的なこの感覚は、覚えがあるもの。
    この指先は私に何を伝えようとしているのだろうか!?

    夕鈴は、目を開けて確認しようとしたが、見れなかった。
    何か、ヒンヤリとした覆いのようなもので目元を包まれていた。

    ツンと鼻をつく、消毒液の匂い。薄荷の匂い。

    幾度となく、夢でくりかえした陛下のぬくもり。
    夢でもいいから、陛下を確認したくて、手探りで梳る指を探した。




    『・・・・夕鈴。』

    温かな手のひらに、包まれて、見知った声が耳を打つ。
    あまりにも近い距離でのその言葉に夕鈴の心は、どきんと跳ね上がった。

    (陛下!?)

    一年前に別れて以来、忘れもしない変わらぬ陛下の声がした。

    ・・・・・・何故、陛下の声がするのか?
    ・・・・・・何故、このぬくもりがここにあるのか?
    ・・・・・・この目元の覆いは何?

    混乱する意識の中で、夕鈴の瞼の裏に紅蓮の焔が燃え立つ。

    ・・・・・私は・・・・私は・・・・

    陛下に「大丈夫!!!」と声をかけようとして、息を吸い込んだとたんに
    酷く咳き込んだ。

    声が出ない。

    ーーーーーかわりに、胸に鋭い痛みが走った。

    「『お妃様っ』」

    何人もの声がした。

    そのどれもが、一年前に別れたきりの人々の声だった。

    『…夕鈴、ようやく目覚めたか。』

    『…心配したぞ。』

    再び、陛下の声がして、
    手のひらを取られて、陛下に捕らわれた。

    手のひらが、チクチクする・・・

    どうやら、陛下の頬に夕鈴の手は押し付けられているらしい。
    その頬は、濡れていた…

    温かで柔らかな涙が、夕鈴の手のひらを濡らしているのだった。

    ・・・続く。


    2013年
    03月25日
    10:08

    【長編】黒龍『君を忘れない』9

    或る意味、BUTエンディングとなります。しかもまだ終わらない。
    やはりというか、なんというかこんな可能性もあるかなと。


    それでも、よければ、どぞ。

    …続き

    夕鈴の周囲から、静かに遠ざかる絹擦れの音。
    とりかこんでいた人々が、居なくなる気配。
    足音さえ、聞こえなくなった。

    見えないことが、もどかしい。
    どうやら、陛下が人払いしたらしい。

    先ほどから、夕鈴の手を握り締める手は、温かな陛下の手。
    大きなその手が、、しっかりと夕鈴の手を包み込み、心までも温める。

    優しさが滲み出る温かな声。

    『…夕鈴。人払いをしたよ。』
    『君の知りたいことを教えてあげる。』

    『喋らなくていい。』

    『僕は、唇の動きを読めるから、声に出さず、僕に教えて』
    『但し、君は、目覚めたばかりなのだから無理しないで、質問は少しだけだよ。』

    「(…わかりました…)」

    陛下に支えられて、夕鈴は、寝台に起きた。
    目と、胸の痛み以外は、痛みはなかった。


    『まずは、質問の前に僕の話を聞いて!』

    「(…はい)」

    その言葉に、頷き耳を傾ける。

    『まずは、火事があったことは、覚えてる!?』

    「(…はい)」

    『あの日、君は逃げ送れて家の前の井戸で倒れていたんだ。』

    『火事に巻き込まれたせいで、少し目を傷めてしまったんだね。』
    『今は、包帯をしているけれど、それは、すぐに治るそうだよ。』

    『声が出ないのは、煙で痛めた為らしい。』
    『不自由だろうけれど・・・少しずつ治るそうだ。』






       IMG_0659.jpg    IMG_0660.jpg





    『君の髪も、切らせてもらった。』
    『焼けて、痛んでしまったんだ。』
    『・・・・ほら、今は耳の長さまでしかない。』

    そう言って、夕鈴の手を髪に触らせた。

    『君が倒れている姿を見つけた時、僕の心臓は凍りついた。』

    『辺りは、火の海で・・・・君は、逃げ場を失っていたんだね。』
    『僕が、見つけたときには、すでに気を失っていたから、君は、知らないだろうけれど、下町は、見る影も無く全部焼け落ちてしまった。』
    『通りには、逃げ遅れてしまった人々が、たくさん倒れ伏して亡くなっていたんだ。』

    『あの時、はじめて君を失ってしまうかもしれない恐怖を感じた。』
    『狼陛下と怖れられている私が、君を失うことが怖かったんだ。』
    『君の姿を見つけてようやく分かったんだ。』

    『夕鈴、君を愛していることを。ずっとずっと前から、好きだったんだね。』
    『だけど、この気持ちがなんなのかさえ、私は、分からなかった。』

    『夕鈴、生きていてくれてありがとう。』

    『君が無事で本当に、良かった!!!』

    「(…陛下…)」

    気持ちが溢れてきて、言葉が出ない。

    柔らかく引き寄せられて、抱きしめられた。
    壊れ物のような優しい抱擁。
    陛下の言葉が、嬉しい。

    「(…助けてくれてありがとう。…)」

    陛下に抱きしめられた胸の中で、夕鈴はむせび泣くのだった。


    ・・・続く


    2013年
    03月26日
    17:01

    【長編】黒龍『君を忘れない』10

    或る意味、BUTエンディングとなります。しかもまだ終わらない。
    やはりというか、なんというかこんな可能性もあるかなと。


    それでも、よければ、どぞ。

    …続き

    夕鈴が落ち着いた頃、抱きしめられていた腕が離れる。
    代わりに柔らかく髪を漉かれる感触。

    『夕鈴、何を聞きたい?』

    夕鈴が、一番知りたかったこと。

    「(せいしんは? かぞくは、ぶじですか?)」

    陛下の衣を掴み、心配げに夕鈴の眉が寄せられる。
    撫でていた陛下の手が、一瞬だけ止まった。
    夕鈴の心臓が、ドキリと、冷たい音で跳ねた。

    『青慎くんも、お父さんもみんな無事だよ。安心するといい。』
    『君の友達の明玉さんも金貸し君もみんな無事だ。』
    『だから夕鈴、……安心して。』


    目が見えないから、夕鈴は、分かってしまった。
    陛下の声が、最後の言葉だけ少し違ったことを。

    「(へいか、なにかかくしてますか?)」
    「(もしかして、だれかおおけがをしたとか)」


    少しだけトーンが落ちた声…
    陛下…私に、何か隠してる!?

    悪い想像ばかりが、働く…

    『誰も怪我などしていないよ。』
    『君に嘘はつかない。安心するといい。』

    『だけど、君に伝えなきゃいけないことがあるんだ。』
    『でも、今は言えない。』
    『君は、目覚めたばかりで、傷も癒えていない。』
    『必ず、君に教えるから』
    『今は、僕を信じて身体を癒やすことに専念してくれないか?』

    今は言えないが、後で必ず教えてくれると言う、陛下の言葉を信じるしかない夕鈴。

    不安はあるが、

    『(…はい。)』

    と言うことだけしか夕鈴には、出来なかった。



    …続く



    2013年
    03月28日
    08:07

    【長編】黒龍『君を忘れない』11

    或る意味、BUTエンディングとなります。しかもまだ終わらない。
    やはりというか、なんというかこんな可能性もあるかなと。


    それでも、よければ、どぞ。

    続きです。

    それから、月日は流れ…
    目覚めた夕鈴は、医者が驚くほど日に日に元気になっていった。

    胸の痛みも薄れ、目元の包帯も取れて目が見えるようになった。

    陛下は、相変わらず政務で忙しかったが、毎晩必ず夕鈴のもとに訪れていた。

    しかし夕鈴は、いつまで待っても、陛下の口から続きの言葉を聞くことが出来なかった。

    もうそろそろ教えてくれてもいいはず…

    ある晩、しびれをきらした夕鈴は陛下に切り出した。

    「陛下、目も見えるようになりました。」
    「声も出せるようになりました。」
    「…もうそろそろ、私に隠し事を教えてくれてませんか?」







    黎翔は、重く長いため息を漏らして、瞑目した。
    (ああ…もう少しだけ、君に内緒にしたかった…)

    黎翔は、夕鈴にどう話そうかと思案するも…答えは見つからない。

    沈黙の時間だけが過ぎていく…

    黎翔は、手をひいて夕鈴を長椅子の方へ導いた。
    自分の膝に座らせる形に夕鈴を横抱きにする。

    言葉を探しても、見つからない黎翔の紅い瞳。
    僅かな表情さえも見逃さない夕鈴のはしばみ色の瞳。

    かち合う視線とかつてない緊張感が走る。

    夕鈴の不安気な表情を覗きこんでいた黎翔は覚悟を決めた。

    いずれ、君に知れること。
    君には、辛いことだろうけれど、現実を受け入れてもらうしかない。

    この現実を、君は受け入れてくれるだろうか!?

    私は、君に嫌われるのだろうか!?

    黎翔の心は、激しく振り子のように揺れ動く。

    膝に乗せた夕鈴を、愛おしいと感じているからこそ、今から話す真実が、重かった。

    「…陛下、教えて下さい。私が知らない、何を知っているのですか!?」

    夕鈴の言葉に、黎翔は夕鈴の両手を強く握り締める。

    黎翔は、二度目の覚悟を決める。

    夕鈴が受け入れてくれることを信じるしかなかった。

    『夕鈴、今から言う【現実】を受け入れてほしい。』

    『教える代わりに』

    『一つだけ、忘れないで』

    『私は、君を愛してる。ずっと君を守ることを誓うよ。』

    「ありがとうございます。」



    『夕鈴、落ち着いて聞いてほしい。』

    『君は、家には帰れない。』

    『もう、家族には二度と会えないんだ。』

    「…え?」


    ・・・続く




    2013年
    03月28日
    09:59

    【長編】黒龍『君を忘れない』12



    或る意味、BUTエンディングとなります。しかもまだ終わらない。
    やはりというか、なんというかこんな可能性もあるかなと。


    それでも、よければ、どぞ。

    続きです。

    (え・・・・うちに帰れない?)

    (どういうこと???)

    廻らない頭で、陛下の言葉を反芻してみる。
    信じられない気持ちで、夢だと思いたかった。


    「・・・・陛下、冗談ですよね。」
    夕鈴は、信じたくない気持ちで、陛下に尋ねた。




    『下町の汀夕鈴という娘は、もうこの世には居ない。』

    『あの日、焼け死んだことになっている。』

    『すでに、葬儀は済ませ、墓もある。』

    『君が生きていることを、下町の誰も知らないんだ。』

    『ここに居る君は、私の唯一の妃、夕鈴だ。』

    『汀夕鈴は、死んだんだ。』

    淡々と、事実を告げる黎翔。
    その顔に、冗談は見受けられない。

    墓までもがあるという信じられない話。
    すぐには、信じられないことだった。

    「・・・・嘘。」

    『嘘じゃない。事実だ。』

    『君が昏睡状態の時には、すべてが終わっていた。』

    『私が、あの日君を助け出したことも、後宮に無事でいることも家族は知らない。』

    『私の落ち度だ。』

    『夕鈴、すまない。』

    青ざめ、震える夕鈴をただ抱きしめることしか、黎翔は出来ない。

    『明日、汀夕鈴が亡くなって一月目の墓参りがあるそうだ。』

    『明日、一緒に行こう。』

    『家族に、そっとさよならしよう。』

    『そして、現実を受け入れてくれ。』

    震える背中を陛下の手が摩る。

    夕鈴の耳に、現実感の無い陛下の言葉が、すり抜けていく・・・・・

    (・・・・もう、青慎や父さん、下町のみんなに会えないなんて・・・・)

    夕鈴は、自分の身に何が起こっているのかを理解したくなかった。

    ・・・・続く


    2013年
    03月28日
    14:17

    いまさら、のこのこ出て行けばいいじゃないかという突っ込みは、無しで御願いいたします。

    完【長編】黒龍『君を忘れない』13



    或る意味、BUTエンディングとなります。ようやく終わりましたが、自分の力量不足が否めない。
    やはりというか、なんというかこんな可能性もあるかなと。


    それでも、よければ、どぞ。

    続きです。

    眩しい太陽が暖かな陽射しを贈る良く晴れた日。

    小高い丘に作られた小さなお墓に青慎は、白い花を手向けていた。

    真新しい白木の墓には、たくさんの花が手向けられていた。

    『姉さん、未だに信じられないよ。姉さんがこの世に、居ないだなんて・・・』

    『あの日、元気に送り出してくれた姉さんの姿を 僕は、はっきりと覚えてる。』

    『姉さん・・・・・僕、忘れないよ。姉さんのこと。』

    『約束するよ。国試に受かって、絶対官吏になるからね。』

    『天国(そら)から見守っていて。』

    見渡せば、丘には無数の小さなお墓。

    あの大火の日に亡くなった人々の墓だった。

    青慎は、そう祈ると踵を返して姉の墓を立ち去った。

    その姿を遠くから、見ていた寄り添う大小の二つの影。

    青慎の姿が、丘から消えるとその影が

    今、白い花を手向けたばかりの墓の前に来た。

    白木に、濃い墨で書かれた『故 汀 夕鈴』の文字。

    その文字を、小さな影がじっと見つめていた。

    やがて、陽も傾きはじめて・・・・

    小さな影を大きな影が支えるように寄り添って離れていった。

    それっきり、その影は、二度とこの場所を訪れることはなかったという。



                        ー完ー



    2013年
    03月28日
    14:26