花の四阿

    Lala掲載の『狼陛下の花嫁』二次小説のブログです。某SNSで書き溜めた小説の他・イラスト・詩文・写真・徒然日記・一部鍵つきを掲載しています。

    カテゴリ:◆【目次】古代パラレル 黎翔王&夕鈴姫 の記事一覧

    【書庫】古代パラレル『楼蘭シリーズ』・・・・はじめに

    古代パラレル『楼蘭シリーズ』

    舞台は、古代・タクラマカン砂漠の幻の都『楼蘭』
    楼蘭王国『夕鈴姫』と白陽国の若き国王『珀黎翔』の物語。
    未だ未完成の長編です。


    はじまりのタネの短編
    熱砂の風景 (※パラレル注意!!!)2012.11.16.

    ー邂逅編ー 
    IMG_9832.jpg 

    【長編】楼蘭ー邂逅編ー 1  ※要注意!!!古代パラレル
    【長編】楼蘭ー邂逅編ー 2  ※要注意!!!古代パラレル
    【長編】楼蘭ー邂逅編ー 3  ※要注意!!!古代パラレル
    【長編】楼蘭ー邂逅編ー 4  ※要注意!!!古代パラレル
    【長編】楼蘭ー邂逅編ー 5  ※要注意!!!古代パラレル
    【長編】楼蘭ー邂逅編ー 6  ※要注意!!!古代パラレル
    【長編】楼蘭ー邂逅編ー 7  ※要注意!!!古代パラレル
    【長編】楼蘭ー邂逅編ー 8  ※要注意!!!古代パラレル
    【長編】楼蘭ー邂逅編ー 9  ※要注意!!!古代パラレル
    【長編】楼蘭―邂逅編― 10  ※要注意!!!古代パラレル
    【長編】楼蘭―邂逅編― 11  ※要注意!!!古代パラレル
    【長編】楼蘭―邂逅編― 12  ※要注意!!!古代パラレル
    【長編】楼蘭ー邂逅編ー 13  ※要注意!!!古代パラレル
    【長編】楼蘭ー邂逅編ー 14  ※要注意!!!古代パラレル
    【長編】楼蘭ー邂逅編ー 15  ※要注意!!!古代パラレル
    【長編】楼蘭ー邂逅編ー 16  ※要注意!!!古代パラレル     邂逅編・完


    ー離宮編ー
    【長編】楼蘭ー離宮編ー 17
    【長編】楼蘭ー離宮編ー 18
    【長編】楼蘭ー離宮編ー 19
    【長編】楼蘭ー離宮編ー 20
    【長編】楼蘭ー離宮編ー 21
    【長編】楼蘭ー離宮編ー 22
    【長編】楼蘭ー離宮編ー 23
    【長編】楼蘭ー離宮編ー 24
    【長編】楼蘭ー離宮編ー 25
    【長編】楼蘭ー離宮編ー 26
    【長編】楼蘭ー離宮編ー 27
    【長編】楼蘭ー離宮編ー 28         離宮編・完
    【長編】楼蘭ー離宮編・外伝1-
    【長編】楼蘭ー離宮編・外伝2-

    ー王宮編ー
    IMG_0152-1.jpg 

    【長編】楼蘭ー王宮編ー 29
    【長編】楼蘭ー王宮編ー 30
    【長編】楼蘭ー王宮編ー 31
    【長編】楼蘭ー王宮編ー 32
    【長編】楼蘭ー王宮編ー 33
    【長編】楼蘭ー王宮編ー 34    王宮編・完

    ー黎翔編ー
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    【長編】楼蘭ー黎翔編ー 35
    【長編】楼蘭ー黎翔編ー 36
    【長編】楼蘭ー黎翔編ー 37
    【長編】楼蘭ー黎翔編ー 38
    【長編】楼蘭ー黎翔編ー 39
    【長編】楼蘭ー黎翔編ー 40
    【長編】楼蘭ー黎翔編ー 41
    【長編】楼蘭ー黎翔編ー 42    李翔編・完
    【長編】楼蘭ー黎翔編・外伝1ー  砂漠の帳1
    【長編】楼蘭ー黎翔編・外伝2ー  砂漠の帳2

    ー夢逢瀬編ー
    【長編】楼蘭ー夢逢瀬編ー43   黎翔SIDE
    【長編】楼蘭ー夢逢瀬編ー44     夕鈴SIDE 1
    【長編】楼蘭ー夢逢瀬編ー45     夕鈴SIDE 2  夢逢瀬編・完

    ー再会編ー
    【長編】楼蘭ー再会編ー46
    【長編】楼蘭ー再会編ー47
    【長編】楼蘭ー再会編ー48
    【長編】楼蘭ー再会編ー49
    【長編】楼蘭ー再会編ー50
    【長編】楼蘭ー再会編ー 51     再会編・完

    ー風の行方編ー
    【長編】楼蘭ー風の行方編ー 52
    【長編】楼蘭ー風の行方編ー 53
    【長編】楼蘭―風の行方編― 54
    【長編】楼蘭―風の行方編― 55
    【長編】楼蘭―風の行方編― 56
    【長編】楼蘭―風の行方編― 57
    【長編】楼蘭―風の行方編― 58
    【長編】楼蘭―風の行方編― 59   風の行方編・完

    ー敦煌編ー
    【長編】楼蘭―敦煌編― 60 
    【長編】楼蘭―敦煌編― 61
    【長編】楼蘭―敦煌編― 62
    【長編】楼蘭―敦煌編― 63

     以下執筆中


    ├ 炎上編  執筆未定
    └ 新たな旅立ち編 執筆未定



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    熱砂の風景 (※パラレル注意!!!)

    砂漠に舞う熱い砂

    乾いた大地を歪ませ
    広大な景色の輪郭を朧気にする


    遥か彼方に見えるは、緑のオアシス
    湛える水は、空よりも青く
    潤いの恵みの水は、豊かな緑を茂らせ
    乾いた大地に、楽園の地を作り出す


    地平線に沿って進む
    ラクダに乗った商人の長いキャラバン

    遠くの陽炎だったような隊列は、
    緑のオアシスに近づくにつれ、徐々に輪郭が濃く確かになる
    その隊列から外れ、一人オアシスに近づく黒い人影。



    砂塵を避け
    目深に被る砂漠の民のマントより覗く
    漆黒の髪と、
    鋭い光を帯びた緋色の双眼。

    辺りを伺い、オアシスの安全を確かめる慎重な足取り。

    その泉の先で……


    …ぴちゃん


    静寂に木霊する。
    泉に響き渡る雫の音。

    何の音かと確かめ伺うと、うら若き乙女の水浴び。

    日除けの薄いヴェールから、
    金茶の髪が、垣間見える。

    冷たい泉の水に、腰まで浸かり、
    雌鹿のような、しなやかな四肢を泉に沈める
    瑞々しい乙女の姿態。

    水に濡れた衣は、身体に張り付き、
    豊かな胸……
    細いくびれ……
    雫で濡れ透けた柔らかな曲線
    乙女の悩ましいラインを浮き上がらせていた。

    眩しい白い衣から
    キラキラ……と水滴が滴り落ちる

    雫が水面に落ちる間に、
    幾つもの小さな虹が踊り、四散する。


    その緋色の双眸の男は、泉の水で身を清める
    精霊のような麗しい乙女に、一目で心奪われ恋に落ちた。


    ――――遥か…とおい異国の昔話。




    2015.08.18.改定
    2012.11.06.初稿




    楼蘭

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    【長編】楼蘭ー邂逅編ー 1  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭






    灼熱の太陽は容赦なく、大地を焦がし、
    砂漠を進む旅人たちを、衰弱させる。

    ようやく登りきった砂山の山頂から、旅人が見た落胆の景色。

    ……砂……砂……砂……す…な。

    あたり一面、乾いた砂漠が続く。


    はるか地平線まで、続く砂丘の砂原。
    陽炎揺らめく砂の景色は……砂漠を旅する人々の方向感覚を狂わせる。




    目印一つ。

    ――草木の一本も生えぬ不毛な大地。






    ここタクラマカンの影となって、黙々とキャラバンは進む。

    ウィグル語で、「タッキリ・死」「マカン・無限」

    「生きては戻れぬ死の砂漠」とは、よく名づけたものである。


    この砂漠で、道に迷ったのだろうか?

    時折、足元の砂に埋もれ
    白い骨を晒した動物の屍が横たわる
    その脇を無言で進むキャラバン。

    先を急ぐ人々に「次はお前の番だ」 と、屍は告ぐ

    旅人たちの脳裏に「死の砂漠」タクラマカンの異名が、ちらつく。
    道に迷えば、即“死”に繋がる。

    駱駝に乗った人々は、死を覚悟して砂漠を旅する

    陽射しを避ける日よけのフードを目深(まぶかに)に被り……
    男たちは、先を急ぐ。





    ーーーー悠久の交易都市「楼蘭ーろうらんー」を目指して



    ……2へ続く

    2015.08.23..改訂
    012.08.15.初稿




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    【長編】楼蘭ー邂逅編ー 2  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭






    砂漠のはるか彼方に横たわる
    雄大に霞む大山脈

    タリム盆地にそびえる

    北に、天山
    てんざん山脈。

    南に、崑崙
    こんろん山脈。

    真夏にも、かかわらず真っ白な雪化粧を冠した大山脈が地平線に輝く。


    その山並みを目指しながら進むキャラバンの影。
    もう数日間で旅の目的地である“楼蘭“に着くはずだった……

    砂漠を旅する男たちの足取りは、ひどく重い。

    天山南路を、西に……国を出てから、
    もう何日、旅したことだろう?

    降水量の極端に少ない不毛の大地、

    水を湛えるオアシスが、少なく
    旅人たちの手持ちの水が、もう尽きそうだった。

    水が残り少ないことが、旅人たちを焦らせ
    初めて砂漠越えに挑むキャラバンを、道に迷わせた。

    このままでは、タクラマカンの名前どうり
    死の砂漠の餌食になってしまう……

    焦るキャラバンの人々は、生き延びる為
    命の水を湛えるオアシスを捜していた。

    ……3へ続く

    2015.08.23.改訂
    2012.08.12.初稿



    【長編】楼蘭ー邂逅編ー 3  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭






    照りつける砂丘の僅かばかりの影に寄り添い、しばしの休憩をする駱駝の群れ。
    キャラバンの屈強な戦士が、一人の青年に水袋を差し出した。

    「……黎翔様。
    飲み水をお飲みください。」

    「いや、私は大丈夫だ。
    それよりも、お前が飲め。
    先ほどから、水を一滴も口にしていないではないか」

    水袋の受け取りを拒否して、黎翔と呼ばれた青年は
    差し出した戦士に、水を勧めた。

    「いえ、私は平気です。
    それにオアシスに着けば、幾らでも飲めますゆえ……」

    「……すまぬ。
    残り少ない貴重な水だ。
    水を欲している者に、私の分も分け与えてくれ……」

    黎翔は、歩き疲れた人々を見渡し、苦しそうに顔を歪めた。
    皆、疲れきった顔をしていた。

    「浩大の先発隊の報告では、もうそろそろ休憩できるオアシスがあるらしい。
    皆の者、今しばらく水を我慢してくれ」

    商人らしくない力強い激が飛ぶ……

    目深に被った日よけフードから、力強い光を放つ紅い双眸と
    商人にしては、端整な美しい顔立ちが垣間見えた。

    どうやら、この青年がキャラバンを率いるリーダーだった。





    タクラマカンの西にある小国“白陽国”
    近年、内戦が続いていたその国は、新しい国王に代替わりをしてからというもの
    めきめきと国力をつけてきていた。

    内戦を制圧し、若いながらも国内外に“冷酷非情の狼陛下”との異名を轟かす国王。

    珀 黎翔陛下その人が、商人に姿を窶やつ
    し、
    少数精鋭の部隊のみを引き連れて、このタクラマカンの大砂漠を越えようとしていた。

    ところが運の悪いことに、砂漠越えの知識を持つ、道案内の商人とはぐれ、
    砂漠のど真ん中で道に迷ってしまった。

    更に運の悪いことに、砂漠越えの経験をした者が部隊に居なかったこともあり……
    乏しい水を分け与えつつ、あてどなくキャラバンはオアシスを探していた。

    陽炎が立ち上る……砂の大地。

    容赦なく吹きすさぶ熱風と果てしなく終らぬ水の無い旅は、
    さすがに屈強な戦士たちの体力を、少しずつ着実に削ぎとっていった。

    もはやオアシスが見つからねば、部隊の全滅は時間の問題だった。

    部隊を引き連れた国王・黎翔も、
    本当はカラカラに咽喉が渇いて水を欲していた。

    しかし自分以上に水を飲むのを我慢して、
    国王である自分を信じて、ついてきてくれる部下たちに水を残したかった。

    (……きっと、もうすぐオアシスが見つかる)

    激を飛ばす黎翔は、砂漠の向こうに必ず青い清冽な水を湛えたオアシスがあると信じて、疑わなかった。
    力強く皆を励ます国王に、キャラバンの誰一人として明るい希望を失っていなかったのである。

    ……4へ続く

    2015.08.23.改訂
    2012.08.12.初稿

    【長編】楼蘭ー邂逅編ー 4  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭






    雨雲一つ見えない快晴。
    ギラギラ……と、照りつける太陽が恨めしい。

    熱風逆巻く、砂漠の果てしない青空に、黎翔は2羽の鳥が飛んでいるのを見つけた。

    水を湛えたオアシスが近い証に、乾ききった旅人たちの瞳が輝く。
    急いで大空を優雅に舞う二羽の鳥を目指して、黎翔達はキャラバンの進む方向を変えた。

    まだ、点にしか見えない鳥の辺りは、幾つもの大砂丘に阻まれ、
    オアシスの存在の欠片さえも見えない。

    水を求めていた旅人たちには、二羽の鳥が神の導きに見え……
    誰もが「これで水が飲める……」 そんな安堵の顔をしていた。

    幾つかの大きな砂丘を越えた時……

    ようやく砂とは違う、青く光る天藍(てんらん)の色
    砂漠にぽっかりと出現した青く輝く水と涼やかな木陰の緑のオアシス。

    誰からともなく、歓喜の声が湧いた。
    中には、涙ぐむ者も……

    湿った水の確かな匂いに、誰しもが咽喉を鳴らした。

    近くて、遠いこの距離がもどかしい。
    砂に足を取られ、思うようにキャラバンはオアシスに進めなかった。


    ようやく緑の影が、椰子の木だと分る距離に来て、はじめて黎翔はキャラバンを止めた。

    このような荒れた不毛の土地のオアシスは、盗賊や無法者が多い。
    他に、どんな危険が待ち受けているのかが、分からなかった。

    ここは、白陽国の国内などではなく、国外なのだ。
    オアシスの安全を確かめるべく、誰か偵察をして安全を確かめてから
    オアシスに向うのがセオリーだろう。

    皆の反対を押し切って、キャラバンで 一番元気な国王・黎翔が、
    オアシスの偵察に、一人向かう事となった。

    そこに彼の運命が、待ち受けているとも知らずに……。

    ……5へ続く

    2015.08.25.改訂
    2012.11.13.初稿

    【長編】楼蘭ー邂逅編ー 5  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭




    砂塵が舞う……熱く赤い砂丘から
    黎翔は、砂漠に強い駱駝を乗りこなし砂丘を疾風のごとく駆けくだる

    乾いた砂は、砂埃をたてて駱駝の足を絡め取る

    脆く不安定な砂の大地は、簡単にサラサラ……と崩れ
    黎翔の行く手を阻んでいた

    オアシスを隔てる砂の砂丘はあと一つ

    やっと昇り切った、頂からオアシスを望む

    オアシスの湛える水は
    砂漠の風景をにじませ
    景色の輪郭を朧気にする

    輝く緑のオアシス
    湛える水は、空の青  天藍(てんらん)に輝き
    潤いの恵みは、木々を豊かに茂らせ緑に彩る

    近づくにつれ、濃く香る水の匂いに

    (これで皆が助かる……)

    黎翔は、そう思った。


    ……6へ続く。


    2015.08.26.改訂
    2012.11.12.初稿

    【長編】楼蘭ー邂逅編ー 6  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭






    雲ひとつ無い大空に空高く舞う、仲の良い二羽の鳥たち
    乾いた赤い砂塵が舞う砂漠の一角で、大きな円を描くように飛んでいた。

    最初、空の染みのように小さく見えていた鳥は、
    今や何の鳥か判別できるほど近くで飛んでいる。
    逆光で影としてしか見えなかった鳥が、青鷺の類だったことを黎翔は知った。

    鷺ならば、必ず近くに水辺があるはず……黎翔の読みは当たった。

    砂漠の乾いた空から
    青鷺が、急転直下で砂漠に舞い降りた。

    その青鷺を追いかけて……

    ようやく黎翔は、砂丘に隠された青いオアシスを見つけた。

    小さいオアシスが見つかればよいと思っていた黎翔は、そのオアシスの大きさに驚く。
    砂丘に沿って豊かな水を湛えるオアシスは、遠くに水平線が見えていた。

    思っていた以上に、溢れる水を湛えたオアシス。
    もうここはオアシスというより、湖と言っても差し支えなかった。

    黎翔は、首をひねった。

    (こんな湖、地図にあったか?)

    国を出る時も、道案内の商人からも、砂漠にこんな大きな湖が存在するなど聞いていなかった。
    これだけ広い湖ならば、地図にも載っていてよさそうなのに地図には、湖の存在など記されていなかったと記憶していた。





    黎翔の胸に、水を見つけた喜びが湧き上がる。
    逸る気持ちを抑えて、砂漠からオアシスへと足を踏み入れた。
    もちろん、細心の注意を払って

    湛える豊富な水の煌めき
    その中で、優雅に舞い踊る二羽の青鷺

    番(つがい)だろうか?
    仲睦まじく、舞い遊ぶ
    その姿が、ほほえましい。







    黎翔は、周囲の様子に目を疑った。
    目の前の風景が、黎翔自身 信じられなかった。

    「ここは、いったい?」

    砂漠の湖は対岸が見えない。
    浅瀬の青鷺の姿の先は、陽炎(かげろう)にゆらぎ霞(かす)む湖。

    緑濃い木々は 水の豊富さの証。

    何より信じられなかったのは、
    そこに集う鳥達だった。

    水の気配濃い空気に
    赤や黄、桃色、白、オレンジ、青など、極彩色の花をつける満開の木々

    その木々の間を縫うように
    ふるふると羽を扇のように広げ、求愛の踊りを踊る
    崑崙山脈を越えた南の国に棲むはずの孔雀たち

    白や七色の孔雀が、緑の岸辺を歩いていた。

    (……ここは、どこだ。)

    黎翔は、夢を見ているようだった。



    ……7へ続く


    2015.08.27.改訂
    2012.11.12.初稿

    【長編】楼蘭ー邂逅編ー 7  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭



    黎翔は、砂漠の夢から醒めるために
    ……吸い寄せられるように湖に近づいた。

    衣服が、水に濡れることも厭わずに
    湖の端に、膝(ひざ)まずき、
    日よけのフードを後ろに 払いのけると
    両手で、水を掬(すく)い 顔を洗った。

    日焼けで火照った肌に、冷たい清水が心地よい。
    砂漠の熱で、廻らなくなった頭が、少しずつ冷えてくる……

    それでもまだ、夢から醒(さ)めない
    ……まだ、冷やし足りない。

    黎翔は、乾いた咽喉(のど)を潤すため、水面に口をつけて
    咽喉を鳴らしながら、ごくごくと水を飲んだ。

    何時ぶりだろうか?
    水の残りを気にせず、思う存分 水を口にするのは?

    口元から零れる水は、黎翔の咽喉(のど)を伝い
    胸元に流れ落ち 衣服を濡らした。

    ――――それでもかまわなかった。

    乾いた身体が欲するままに……水を思うまま飲んだ。

    冷たい清水は、舌に甘く感じる。
    黎翔が、口にしてきたどんな美酒よりも、美味かった。

    ふぅ~~

    黎翔は、水にひとしきり満足して、思わず安堵のため息が零れた。
    ようやく生き返った気分だった。




    ……8へ続く。



    2015.08.29.改訂
    2012.11.00.初稿

    【長編】楼蘭ー邂逅編ー 8  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭



    ようやく冷静さを取り戻した黎翔。

    蓄積された知識と
    記憶を照らし合わせ
    答えを導き出そうとする頭脳

    ……いったい、ここは何処なのか?

    天国のような醒めない夢に、疑問が残るもののの
    砂漠に残してきた部下たちも気になる。

    皆、黎翔の報告を待っていることだろう。

    黎翔の警戒心を忘れない鋭い眼光が周囲を探る。
    瞳を凝らす。
    オアシスの安全を見極めようと耳を澄ます。

    黎翔の五感に感じるのは……
    静寂に包まれた濃厚な水の匂い。
    空の色した静寂の湖と……水鳥と孔雀たちの気配。

    当初の役割を果たすために、周囲の探索をすると
    別に、危険な野党などの気配もなく安全な場所らしい。

    今度は、慎重に腰の皮袋を取り出して、黎翔は水を汲み始めた。
    砂漠で待つ、部下たちの為に……

    キラキラと輝く透明な水が、皮袋に入っていく。
    水を汲みながらも、黎翔は周囲に警戒心を怠らない。

    黎翔は、李順からの楼蘭王国の知識を思い出していった。


    もしかしたら、ここは……


    うろ覚えながらも、
    心当たりのある記憶が手繰り寄せられた。

    ……ロプ=ノール。
    タクラマカン砂漠の彷徨える湖。

    黎翔の頭に、昔語りで知った……
    一つの幻の地名が浮かんだ。


    ……9へ続く


    2015.08.29.改訂
    2012.11.00.初稿

    【長編】楼蘭ー邂逅編ー 9  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭






    ……ぴちゃん

    静寂の場を破り、水鳥がたてた音ではない水音を 黎翔の耳が拾った。
    警戒しつつ周囲を探るも 水音以外、特に変わった様子がない。

    ……ちゃぷん。

    静寂の湖に、響き渡る鮮明な水の音。

    日よけのフードを目深に被りなおし
    腰の剣に手をかける。

    警戒しつつ、水音のするほうへ黎翔は歩みよる

    少しづつ足音を無くし 音のほうへ
    茂みに紛れジリジリ・・と 気配を消して近づく。

    盗賊かと、赤い花の咲く木の茂みの陰から 黎翔が湖を覗くと・・・

    孔雀が遊ぶ花の岸辺の近くの水辺で

    うら若き乙女の水浴び。
    目深に被った薄く透けるヴェールから覗く
    艶やかな絹糸のような金茶の濡れ髪。

    癖のない豊かな髪を背に流し
    強い日差しに、髪の輪郭は黄金色に輝く

    湖に、腰まで浸かり
    冷たい清水に身を沈める、白い肢体。
    水に濡れた衣は、身体に張り付き、悩ましい身体の線を浮き上がらせる。
    衣の貼りついた遠目からでも分かる白い肌。

    水に濡れた透けた衣から、キラキラと水滴が滴る
    水滴は空中で小さないくつもの虹をつくり、霧散していた。

    この世のものとは思えぬ、儚くも美しい娘
    砂漠の湖で出会った瑞々しい乙女に、黎翔は天啓のような衝撃を覚えていた。

    彼女から、目が離せない。
    黎翔は、高鳴る胸の鼓動を抑えきれなかった。


    ――顔が見たい。



    想像もしていなかった乙女の存在に、黎翔は気をとられ
    気配を消すのを忘れたのだった。



    ……10へ続く


    2016.01.03.改訂
    2012.11.00.初稿
    続きを読む

    【長編】楼蘭―邂逅編― 10  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭



    今まで優雅に舞い、遊んでいた青鷺達が激しく羽ばたき
    黎翔を警戒して、けたたましく 鳴きだした。
    つられて、孔雀達も 鋭く鳴き出す。
    静寂を破る 鳥達の声

    何?
    ……どうしたの?

    静かな湖に、劈(つんざ)くような鳥たちの警戒音が響き渡る。
    激しく羽ばたき、水面を叩く 青鷺。

    鳥達の警戒は、ただ一点…
    黎翔に 向かっていた。

    耳を塞ぎたくなるような その鳴き声に
    気配を気付かれた、黎翔は歯噛みする。

    鳥たちの鳴き声に 緊張を露にした
    水の乙女が、湖岸を鋭く振り向いた。

    金茶の髪が、振り向きざまにふわりと舞う。
    ふっくらとした頬に、鼻筋の通った美しい顔(かんばせ)。

    遠目の薄いベール越しでも、はっきりと顔立ちが分かる。

    今は、鳥たちの騒ぎに柳眉は寄せられ、不安な弧を描き。
    はしばみ色した大きな瞳には、鋭い警戒の色が滲む。

    言い知れぬ不安に、頬は強張(こわば)り 青ざめ気味に
    唇を白くなるほどかみ締めていた。

    ……素早く周囲を見渡す瞳が、人影をとらえた。

    その大きな瞳が…
    木陰いる不審な男を見つける。
    大きな剣を携えた 黒いフードの男。
    目深に被った日よけのフードからは、紅い瞳が覗いていた。

    男は腰に履いた剣に 手を当てている。
     危害をくわえるつもりなのか?
    瞳に映る、陽光に反射する鋭い光を放つ剣。

    誰?
    ……刺客?
    それとも、盗賊? 

    「……誰っ?
    そこにいるのは!!!」

    先ほどの儚く優しげな雰囲気とは、異なり
    厳しい誰何(すいか)の声が飛ぶ。

    「出て来なさい。
    フードを取り、顔を見せなさい!!!」


    けたたましい鳥達の鳴き声の中、
    その声は、黎翔の耳にハッキリと届いた。


    ……11へ続く。




    2016.01.03.改訂
    2012.11.00.初稿
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    【長編】楼蘭―邂逅編― 11  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭






    水の乙女の厳しい誰何(すいか)の声に、自分が不審人物に思われたことを知る。

    この状況では、仕方無いことなのだが……
    何故だろう、そのことに“ ツキン ” と、自分の胸が痛い。

    彼女のはしばみ色した大きな瞳が、黎翔を射るように見つめていた。
    お互いに、瞳を逸らさない。逸らせない。

    探りあう瞳。

    ――――視線が外せない。

    ……緊迫した時間の中、お互いをしばらく見つめていた。





    腰まで、水に浸かった彼女のその姿。

    水浴び中だった為 乙女の身体は濡れそぼり
    身体に巻きつけた薄いベールは、意味もなく身体に貼りつき透けていた。

    少女のような未成熟なその身体
    まだ硬い果実のようなその双丘も・・・
    その先端の蕾のような色合いの先端も・・・

    大人にまだ、なりきれていないなだらかな身体のラインも……
    濡れたベール越しに、すべてを黎翔に晒されていた。

    乾いたばかりの柔らかそうな金茶の髪が、
    黄金色(こがねいろ)に風に輝く……

    自分の無防備なその姿に 気づいていないのだろうか?
    そんな姿で男の前にいるというのに、身体を隠そうともせずに
    背筋をピンと伸ばし、黎翔を警戒するその勇気。

    女神の如く神々しいほどのまばゆい気品を全身に放ち
    その瞳に宿した強い勇気とプライドに 黎翔は惹きつけられた。

    (この私に、気丈にも相対して威嚇している。……面白い。)

    そのことに黎翔は、強い興味を覚えた。




    ……12へ続く。



    2016.01.06.改訂
    2012.11.00.初稿

    【長編】楼蘭―邂逅編― 12  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭




    水滴に彩られた
    彼女の誰何(すいか)の求めに応じ
    黎翔は、茂みから素直に彼女の前に姿を現した。

    警戒を解くために、わざと腰の剣から大げさに手を離す。

    「すまない。
    君を驚かすつもりはなかった」

    謝罪し日よけのフードを、後ろへとなぎ払う。
    彼女に顔を見せるなど、愚かな盗賊ならしないであろう。

    数十日間もの間、砂漠を旅してきたであろう日焼けした浅黒い肌。
    品のある西の国の衣装と、黒い日よけマント姿の若い男。

    漆黒の短髪と、優しい光を帯びた瞳。
    生き生きと輝く紅い双貌が印象的な男らしい精悍な顔つき。

    遠目でそれだけが、彼女の知り得る情報だった。

    当然といえば当然。
    彼女は、まだ警戒を解かない。

    「あなたは、いったい誰なのですか?」

    更なる追求の声。
    顔に滲む不安の色を、微塵も感じさせない声に黎翔は驚く。

    凛とした涼やかな声。
    落ち着いたその声に、静かな怒りが滲む。

    人を従わせるのに慣れた言葉遣い。
    気品ある立ち居振る舞いと犯しがたい雰囲気に目を見張る。

    こんな場所で水浴びをしているのだから、土地の村娘かとも思ったが……
    もしや身分の高い娘なのか?


    惜しいな。
    ……彼女の弾んだ笑い声が聞きたい。

    初めて出会う娘に、そんな考えが浮かび黎翔は、一人苦笑する。

    「私は、珀 黎翔。
    タクラマカンより西の白陽国から来た」

    黎翔は、なぜか偽りの名を彼女に教えたくなかった。

    彼女の口から偽りの名前で呼ばれたくないと思った。

    彼女には、本名で呼ばれたいと、そう強く願った。

    それが、恋とは知らず……

    「砂漠を越えて、楼蘭王国に向かっていたのだが……
    道に迷ったらしい」

    「水が尽きかけて困っている
    まだ砂漠に仲間がいて、死にかけている。
    助けては、くれないだろうか?」

    まだ他に仲間が……
    私に、助けてと?

    「では盗賊や
    刺客の類ではないのですね!」

    「神に誓って ……
    私たちは断じて盗賊や刺客ではない」

    「確かに……貴方の服装は、カシュガルより西の国のご衣装。
    わかりました。
    私に、助けを請うたのも何かのご縁。

    貴方を信じましょう。
    珀 黎翔殿」


    ……13へ続く

    2016.01.07.改訂
    2012.08.09.初稿

    【長編】楼蘭ー邂逅編ー 13  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭





    薄いベールから滴る雫が、輝き砕けながら落ちていく。
    彼女の強張った身体から、緊張の色が消えた。

    警戒の色の濃い鋭い瞳から、
    柔らかで煙るような優しい色合いのはしばみ色した瞳に変わる

    極度の緊張が解けて、上気しはじめた顔(かんばせ)は、
    黎翔には、可憐な花の咲き始めを思わせた。

    咲き初めの薔薇のような色をした柔らかそうな頬
    薄くれないの瑞々しい蓮のような唇は弧を描き
    彼に、優しく柔らかく微笑んでくれた。

    涼やかな鈴の音のような美しい声が、黎翔の耳に届く
    彼女の眩しい笑顔に、黎翔も微笑むのだった。

    「珀 黎翔殿。
    ここは、ロプ=ノール。」

    「砂漠を1600年周期で移動する幻湖。
    タクラマカン砂漠の伝説のさまよえる湖ですわ」

    「そして、わたくしは西域地区36ヶ国のうちの一つ。
    シルクロードの要衝・楼蘭王国の現国王・比龍王の一人娘・夕鈴です」

    「ようこそ我が王国へ・・・・珀 黎翔殿 幸運でございました。
    砂漠で迷われて、ここロブ=ノールの離宮に辿り着ける者は稀です」

    「聞けば、お困りのご様子」

    「砂漠の仲間と共にしばし、ここに留まりなさい
    わたくしの離宮にて、客人としてもてなしましょう」

    「楼蘭王国の首都までは、まだ距離があります。
    砂漠越えが出来る体力が回復されるまで、癒されるが良いでしょう」








    ……14へ続く

     2016.01.09..改訂

    【長編】楼蘭ー邂逅編ー 14  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭





    「但し、私の客人になるのに、一つだけ条件がございます」

    わずかに柳眉を寄せて、
    静かで物悲しげな夕鈴姫の声が続く。

    「ここでの滞在期間中、見聞きしたことは
    秘密にしていただきたいのです」

    「特に私が、ここに居ることを秘密にしてほしいのです。
    この条件が、守れるならば…客人として手厚くもてなしましょう」

    物悲し気な夕鈴姫のその様子は、
    酷く黎翔の胸を騒がせた。

    「もちろん、秘密に致しましょう。
    ここのことは勿論、姫のことも誰にも洩らしません。
    お約束致します」

    「ですが……夕鈴姫。
    貴方の様子が、私は気になる」

    「とても悲しげで……
    是非、訳をお聞かせ願いたい」

    意外な申し出に、夕鈴姫は驚き黎翔を見た。

    確かに国の者にも言えぬ、重い憂いを抱えいる。
    誰かに吐露したいとも思っていた。

    しかし国を支える国王の娘が、弱音を吐くことは許されないと考えていた。
    不安を隠し、姫としてふるまうこと。

    与えられた役割を果たすために、
    父上の元を離れ、ここに隠れて暮らしている。

    共の者さえ知らない自分の心を、
    珀 黎翔という若者に見抜かれるとは……。

    見透かされたことは、恥ずべきことだった。
    だが身勝手でも、誰かに打ち明けて……、心を軽くしたいとも思っていた。
    見ず知らずの旅人。

    ましてや、今日会ったばかりの親切な人に話すことは、憚(はばか)られた。

    (できれば、巻き込みたくない……)

    それは、夕鈴姫なりの優しさだった。
    彼女は、しばし迷い……彼の提案を、断る言葉を探した。



    ……15へ続く



    2016.01.10.改訂
    2012.11.20..初稿

    【長編】楼蘭ー邂逅編ー 15  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭




    「…………っ。
    できれば、話したくはありません」

    「聞けば、こちらの事情に巻き込まれることでしょう。
    珀殿の為でも、あるのです。
    分かっていただけますか?」

    ハシバミ色の瞳の色を更に深くして、夕鈴姫は懇願した。

    黎翔は、納得いかなかったが、
    姫の彼に対する心優しさに免じて 今、聞き出すことを諦めた。

    しばらく姫の離宮に滞在することになった。
    もしかしたら、その間に姫の事情を聞き出せるかも知れない。

    その望みに賭けた。
    その為には、姫の信頼を勝ち得なければ……

    (夕鈴姫の憂いを取り除きたい!)

    黎翔は、唇を噛み締め、強く決心した。



    ――――そう願い、黎翔は姫を熱く見詰めた。

    夕暮れ迫るロブ=ノール湖が、美しい薔薇色に染まる。
    風が、小さな漣をたてた。


    黎翔は、彼女の異変に気がついた。
    微かに身体が震えているような気がする。

    ひやりとした空気に、砂漠の夜が近づいていたことを知る。
    そういえば、いつから夕鈴姫は、湖に入ったままなのだろうか?

    黎翔は、急にそのことが気になってきたのだった。

    ……16へ続く



    2016.01.26.改訂
    2012.11.20..初稿

    【長編】楼蘭ー邂逅編ー 16  ※要注意!!!古代パラレル     邂逅編・完

    楼蘭







    黎翔は、夕鈴姫の身体を気遣い 声をかけた。

    「夕鈴姫。
    もう、そろそろ水から出た方がいい。
    夜が近づいている。
    あなたの身体に良くない」





    黎翔からの指摘により、
    夕鈴は自分の身体が、震えていることに初めて気が付いた。
    それと同時に、自分がどんな姿で彼と相対峙していたのかを知る。

    夕鈴姫は自分の姿に、ハッ…と気がつくと、
    羞恥で大きく身体が震えだした。

    気付いた途端に、
    ガタガタと大きく膝が震えて、膝から崩れ折れそうになる。

    かろうじて踏みとどまったのは、せっかく乾いた衣が
    水に透けるのが嫌だったから……

    同時に、全身が朱に染まる。
    恥ずかしすぎて・・・景色が涙で滲んだ。

    突然の夕鈴姫の様子に、黎翔が姫に駆け寄ろうとした。

    「来ては、ダメっ!!」

    羞恥に震える彼女の必死な叫びに、黎翔の足が止まった。

    「珀殿……わたくしは、大丈夫。
    ……しかし、このままでは、
    わたくしは、水からあがれません」

    「しばらくの間、わたくしが良いというまで
    ……砂漠の向こうを、向いていてくれませぬか?」

    全身を朱に染めて必死でお願いしている夕鈴姫。
    先ほどの威厳も、神々しさも、今は微塵も感じられない。

    今すぐ、恥ずかしくて消え入りたい。
    そんな彼女の気持ちが、黎翔には感じられた。

    (……面白い)

    姫君にしては、素直すぎる感情の機微を黎翔は気に入った。
    嘘をつけな性格らしく、鮮やかに表情が生き生きと変わる。

    可愛らしい彼女の仕草が庇護欲をそそる
    今頃、恥ずかしがるその様子に、黎翔は苦笑した。

    なんと、アンバランスな姫だ。

    夕鈴姫の願いを叶えるべく、少し離れて黎翔は湖を背にした。

    「ああ……すまなかった。
    後ろを向いたが、これで良いか?」

    「……はい。
    では、そちらに参りますゆえ、
    身支度が整うまで、そうしていてくださいませ」




    夕鈴姫のたてる水音を聞きながら、
    こみあげる笑いを押さえ切れない黎翔だった。


                 ー邂逅編・完ー


    ……離宮編・17へ



    2016.01.26.改訂
    2012.11.20..初稿



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    【長編】楼蘭ー離宮編ー17  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭







    夜の離宮を彩る
    オレンジ色した沢山の篝火(かがりび)

    砂漠の凍えた空気を暖め
    客人(まろうど)をもてなす  

    夜を照らす 暖かな灯りに
    皆の気持ちも和らぐ

    年若い女主人の離宮だけあって
    華やかで、繊細な異国情緒あふれる調度品。

    東西の商人たちが、一同に集まる 
    シルクロードの要衝都市・楼蘭ならではの異国の品が
    品良く部屋に配置されていて……
    主の趣味の良さが心地良い。

    離宮の湖で飼われている孔雀の尾羽が部屋の片隅の
    大降りの青染付けの中国花瓶に挿してあった

    上手(かみて)の隅には五本爪の双龍染付けの大きな花瓶に
    オレンジの娯楽鳥花と様々な木花が華やかに活けてある。

    大降りの繊細な鋳物の香呂から、薫り高い伽羅の香りが部屋に香った。 

    湖からの少し冷たい夜風が、孔雀の羽と伽羅の煙を揺らす。

    はるか西の国ペルシアからはるばる商人が運んできたであろう。
    何枚もの繊細な模様の美しい絨毯が、部屋の床に敷き詰められていた。

    壁にも装飾として、美しい刺繍の布が飾られている
    大き目の窓辺には、一幅の絵のような夜の星空を映す湖の眺望……

    部屋の絨毯に いくつも重ねられた大き目のクッション
    金糸銀糸で刺繍された花鳥柄が、煌びやかで美しい。

    床で寛ぐスタイルは
    南国を模したここの女主人の趣味だという。

    黎翔は、クッションに凭れ掛かり、
    爽やかなオレンジの実を齧(かじ)りながら、
    離宮の女主人・美しい夕鈴姫の登場を待っていた。





    明日は、とうとう楼蘭の首都へ旅立つ。
    ……最後の砂漠越えをする出発の日。

    (滞在のお礼と、お別れの挨拶をしなければ)

    黎翔の気持ちは、出立の晴れやかさとはかけ離れ、ひどく沈んでいた。
    夕鈴姫との別れの時は砂時計のごとく、さらさらと残り少なくなってゆく。



    ……18へ続


    2016.02.10.改訂
    2012.08.21.初稿 続きを読む

    【長編】楼蘭ー離宮編ー18  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭






    部屋に近づく 密やかな衣擦れの音
    上品な花の優しい香りが黎翔の鼻をくすぐる

    部屋の入り口に立て掛けてある
    繊細な透かし彫りの衝立の向こうに、チラチラと隙間見える淡い女物の衣の色。

    いやが応にも、彼の期待は切ないほどに高まっていく。
    それだけで愚かな恋心は、彼の胸をドキドキと高鳴らせていた。




    ……シャラン。

    女主人の登場を期待させる
    涼やかな貴金属の擦れた音が、広間の場の空気を一変させた。


    夕鈴姫の登場を知らせる 
    控えめな侍女の先触れの声が広間に響く。

    黎翔は逸る気持ちを押さえきれず、彼女を入り口まで出迎えた。

    夕鈴姫は、普段の慎ましやかな衣装とは違い、
    今宵は、出会いを彷彿とさせる胸元を大きく開けた女性を意識させる衣装で現れた。

    歩くたびに、チラリと幾重にも重ねた薄紅の薄衣から、スラリとした白い脚が透けて……
    今宵の大胆な姫の衣装に黎翔は、ますます胸の鼓動が跳ね上がるのを抑えられなかった。

    美しい花の顔(かんばせ)は、瞳を伏せ気味にして頬に睫毛の濃い影を落としている。
    感情豊かな瞳は今は影になり見えない。
    篝火に揺れる睫の影さえも、黎翔には愛おしい。
    白檀に螺鈿細工の扇で、目元から下の顔が隠されていたが上品な姫の美しさは隠しきれなかった。

    印象的な彼女の白い額(ひたい)に、映える鮮やかな紅の赤い花押(かおう)。
    伏せ気味の目元にも 同じ色で化粧が施され、赤い縁取りがなされていた。
    エキゾチックで、艶ややかな目元。


    篝火に輝く豊かな金茶の髪は、半分を背に流し、もう半分を複雑に高く結い上げている。
    金と銀と七宝の玉を連ねた長い簪を数本髪に挿していた。
    背に流した髪に沿って連なる玉の飾りは流れ落ち、彼女が首を傾げる毎にシャラ…シャラとした涼やかな音を鳴らす。
    耳元の髪には、あの日湖で咲いていた一輪の赤い花が、髪に彩りを添えて、かぐわしい香りを薫らせていた。

    舞姫のような見たことも無い、柔らかな色彩が溢れる繊細な衣装。

    異国情緒溢れる薄い布は、幾重にも豪華に色を重ね、
    下に着ている 絹の薄紫のドレスを 透けて見せている。

    特に胸元が大胆だった。
    まろみを帯びた双丘が1/3見えており、柔らかく身体を包む。

    開いた胸元には、七宝とカットされた宝石が輝く。
    繊細な金細工のネックレスが胸元に華をそえていた。

    細かい鳳凰の刺繍が施された羽織ものは
    薄羽根の蜻蛉のごとく透けており、細い手足も華奢な手首も透けて見える。
    黎翔には、彼女自身が華やかに輝く宝玉のように見えた。

    先ほどの入室前の涼やかな音の正体は、
    華奢(きゃしゃ)な手首に、幾重(いくえ)にも重(つら)ねられた、繊細で細い金細工の腕輪から……
    彼女が動くたびに涼やかな綺麗な音が奏でられた。

    黎翔は彼女を迎え入れる為、夕鈴姫に手を差し出した。

    「珀 黎翔殿。
    出迎えありがとうございます。
    お待たせ致しましたか?」

    夕鈴姫の鈴の音のような可愛いらしい声が、黎翔の胸を喜びで満たした。
    差し伸べた黎翔の手に、そっと重ねられた優美な白い小さな手。

    扇で隠されていた花の顔(かんばせ)が現れた。
    匂いたつがごとく上気したバラ色の頬。
    うっすらと色づき密やかに生きづく、陶磁器のような滑らかな白い肌。

    夢見るような柔らかなはしばみ色の瞳は、黎翔を間近で見つめていた。
    彼だけを見つめる視線に、黎翔は胸を熱くさせる。

    愛しの姫の登場に、黎翔はうまく言葉が出ない。
    言葉の代わりに重ねられた手に、ゆっくりと賛辞の口付けを贈った。



    ……19へ続く


    2016.02.14.改訂
    2012.08.21.初稿

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    【長編】楼蘭ー離宮編ー19  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭





    黎翔に誘(いざな)われ、夕鈴姫が優雅に宴席の中央を横切る

    南国の香木・伽羅の香りと姫の優しい花の香りが部屋を包んでいった。
    ふわふわと姫の後ろには、優雅に踊るようにたなびく幾重もの薄衣(薄ごろも)

    豪華な衣装に身を包みながら、軽やかな彼女らしさを失っていない。
    楼蘭王国の王女らしく気品溢れる美しい微笑みで、客人達の視線を集めていた。

    その姿に、黎翔は嫉妬していた。
    その微笑みのすべてが……
    彼女の柔らかな眼差しが……
    自分に向いていて欲しいと願った。
    彼女の瞳に、私以外の者など映したくないと思った。

    やがて短すぎる誘いの時は過ぎ、あっという間に姫の席へと着いた。
    黎翔は、当然とばかりに姫の隣に席を着く
    重ねられた手に名残惜しいものを感じながら、黎翔は姫の手を離した。

    (明日から姫の姿が見られなくなる……)

    姫に会えなくなる例えようもない淋しさを、
    引き裂かれる苦しみを、黎翔は既に感じていた。

    (――姫と離れたくない)

    姫と初めて出会ったあの日のことを鮮やかに思い出す。
    そして、離宮で過ごした素晴らしい数日間。

    楽しかっただけに余計に夕鈴姫と別れ難かった。
    夕鈴姫の手を再び取り、その美しい花の顔(かんばせ)を熱く、じっと見つめる黎翔。

    黎翔に見つめられて、ぽっ…と頬を赤く染める夕鈴姫。

    「……あの?
    いかがなされましたか、珀殿?」

    「今宵の姫は……とてもお美しい。
    貴女の美しさに、今宵の月は恥じいるでしょう」

    「…ぁ//////ありがとうございます」

    至近距離での賞賛の賛辞と握られたまま離さない手に、
    困ったように手元と黎翔の顔を交互に見る夕鈴姫。

    (困った顔も愛らしい)

    そんなことを黎翔が考えていると、姫と視線がかち合った。
    とたん夕鈴姫は、ますます頬を赤らめた。

    (ああ……
    なんて可愛らしいんだ)

    ここにいたのは、「白陽国 国王 珀 黎翔」ではなく
    麗(うるわ)しい夕鈴姫に恋する一途(いちず)な青年だった。



    ……20へ続く



    2016.02.14.改訂

    【長編】楼蘭ー離宮編ー20  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭






    「姫…ひとつ。
    願い事があるのだが……」

    「……?
    何でしょう?
    私に出来ることがあれば、なんなりと……」 

    引き寄せた柔らかな手に恭しく口付けると
    やや緊張した面持ちで、擦れた声で夕鈴姫に囁いた。

    「夕鈴姫……・
    私はこの数日の間に、夢のような時をここで過ごすことができました。
    それは貴女との出会いが、もたらした幸せ。

    この数日の間……・
    私は貴女の信頼を得られましたでしょうか?」 

    黎翔は、ひと言ずつ区切り夕鈴姫に囁いた。
    姫の返事を真摯に待った。

    姫の手に自分の手を重ね目を閉じて、その時を待つ。
    気分は、審判を待つ者のようで、ドキドキと不安な動悸が治まらない。

    「はい。
    私も楽しゅうございました」

    「最初は、盗賊かと思いましたが……・
    今では信頼しております、珀 黎翔殿」

    姫の言葉に、黎翔は喜んだが。
    しかし、黎翔は切なげに柳眉を寄せた。
    再び、姫の白い指先に口付ける

    「夕鈴姫……ありがとうございます。
    では是非“名前”で呼んでいただきたい。
    ……「黎翔」と」

    真っ直ぐな焔の瞳が彼女を映す。
    その力強い瞳に、夕鈴姫は魅入られた。
    重ねられた黎翔の手を、熱く感じたのだった。

    夕鈴姫は乞われるがまま、舌に黎翔の名を乗せ、呟いてみる

    「・・・・れい・・しょう・・・どの」

    「ただの黎翔でよいのです。
    姫」

    「・・・・れいしょ・・・う・さま」

    「それでは、先ほどとかわりませぬ。
    黎翔と!」

    「……れ…いしょう」

    「黎翔」

    姫の口から紡がれる自分の名
    その甘美な響きに、黎翔は心から笑みが零れた。

    夕鈴姫は、乞われるがまま何度も名を呼んだ。
    名を呼ぶ度に、小犬のように嬉しそうに笑う黎翔。
    辺境の神殿に居る自分に、まして訳ありの姫に言い寄る異性など居ない。

    自分が、名を呼ぶだけでこんなにも喜ぶ男性を夕鈴姫は見たことが無かった。
    彼の笑顔に魅力を感じてドキドキとする甘酸っぱい感情の名を知らずに……
    夕鈴姫は、目の前に居る黎翔に頬を染めて、繰り返し彼の名を呼んでいた。

    生まれて初めて名前だけで呼んだ異性の名に…………自分が驚く。
    黎翔という名前を舌に乗せ、もう一度、目の前の青年を呼ぶ

    「黎翔」

    夕鈴姫は、その名の持つ
    意外な効果と甘い響きに次第に酔いしれていった……。

    自分に呼ばれて、本当に嬉しそうに微笑む黎翔。

    客人としてしか意識していなかった黎翔が、
    夕鈴姫の中で一人の男性として認識された瞬間だった。

    ……21へ・続く



    2016.02.17.改訂
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    【長編】楼蘭ー離宮編ー21  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭 






    「それと、もう一つ……お願いしたい。
    私も、“夕鈴”とお呼びしても良いだろうか?」

    「はい、黎翔様。
    どうぞ、お好きにお呼びください」

    聞き馴れた自分の名が、黎翔の口から紡がれると
    ドキドキとした甘い胸の動悸を感じて、夕鈴姫は軽い眩暈を覚えた。

    「夕鈴。
    私は明日の朝、楼蘭へと出立いたします。

    その前に、貴女と初めて出会ったあの場所で
    ……二人っきりで、お会いしたい」

    「湖の畔のあの場所ですか?
    何故?」

    初めて彼と出会った出来事は、
    夕鈴姫にとって、思い出すだけで恥ずかしい出来事……
    瞬く間に、顔の火照りを感じ手元の扇で顔を隠した。



    だけど隠しきれない姫の耳朶が、赤いことに気づいた黎翔は笑み零れる。
    姫を愛しげ見つめると、更に微笑むのだった。

    「夕鈴…………」

    躊躇い無い瞳で、真っ直ぐに彼女の瞳を見つめた。

    彼女を愛しいと思う気持ちは、もう押さえきれない。
    黎翔は、国へこのまま彼女を連れ去りたかった。


    「少々、事情が変わりました。
    はじまりの場所から、貴女とやり直したいのです」

    「…………」

    「夕鈴。
    私は貴女に打ち明けなければならない。

    私自身のことを……
    私の内なる気持ちを……」

    「黎翔様……」

    秘密を抱えている夕鈴姫の心の警鐘が鳴る

    (……これ以上、聞いてはいけない気がする)

    真摯な彼の面持ちに興味を持った夕鈴は、
    彼のことがもっと知りたいという好奇心を止められなかった。

    黎翔の――聞いて欲しい話とは、いったい何だろうか?



    「黎翔様。
    ここで話せないことなのですか?」

    大きなハシバミ色の瞳が、真っ直ぐに黎翔を見つめ返し問いかける。
    夕鈴の揺れる瞳に、不安と動揺が入り混じる。
    黎翔は無言で頷き、安心させるように姫の指先に口付けた。

    「今夜、あの場所で全てお話します」

    二人っきりで……

    「わかりました」

    「黎翔様が、そこまで願うのであれば……
    はじまりの場所へ行きましょう」

    「離宮の裏口に、駱駝を用意させます。
    待ち合わせは、そこでよろしいでしょうか?」

    「感謝します。
    夕鈴」

    ロブ=ノールの運命の車輪は、廻り続ける。
    誰も二人の運命を止められない。






    ……21へ・続く



    2016.02.20.改訂

    【長編】楼蘭ー離宮編ー22  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭 





    今宵も澄み切った砂漠の夜空に 降るような輝く星々
    キラキラと宝石よりも輝き、夜空を彩る。

    ロプ=ノールの天鏡は星空を切り取り、湖面はもう一つの夜空のように輝きだす。

    漆黒の夜空に輝く、満天の星空と……
    天空の星々の輝きを映す、星空の反転した水鏡と……

    悠久の時間である過去の星の光命と、今を瞬く人々の光命
    相反し交錯する時の輝きを 今に映し出す天の鏡

    ロプ=ノールの星鏡

    幻の湖の幻の景色に誘われるかのように
    黎翔と夕鈴の二人は、先ほどの約束のままに、はじまりの場所に着いた。

    「寒くは、ありませんか?
    夕鈴」

    「平気です。
    ここは生まれ育った土地。
    夜の砂漠は、慣れております」

    椰子の葉擦れの音がサヤサヤと……
    二人がはじめて出会った湖の畔あたりで、黎翔は駱駝の足を止めた。

    「足元が、暗い。
    夕鈴、気をつけて……」

    黎翔は、駱駝から先に降り
    夕鈴姫の腰を支え、降りるのを手伝った。

    「ありがとう。
    黎翔様」

    一瞬、黎翔の胸に夕鈴は飛び込んだが
    すぐに、パッと離れてしまった。
    そのことが、黎翔には少し寂しく思う。

    「綺麗ですね」

    黎翔の少し先を歩く、夕鈴を呼び止める。
    目の前は、ロブ=ノールの湖が見渡せる開けた場所。

    遠く離宮の篝火も美しく水面を彩っていた。

    「ええ……
    ここは、いつ見ても美しい場所(ところ)。
    朝も昼も夜も……」

    「私の心静かになれる場所。
    何時、どんな時も……」

    夕鈴は、胸に両手を重ねて、静かに瞳を閉じた。
    まるで星鏡に祈るような仕草は、はじめて出会った印象のままで……

    黎翔には、穢れない水の乙女のように見えた。
    どうして、こんなにも彼女のことが気になるのだろうか?
    物悲しく儚げなその様子に、黎翔は不安を掻きたてられた。


    「ここで夕鈴。
    貴女と出会って、私は幸運だった。
    おかげで、命拾いをしました。
    改めて感謝申し上げます」

    黎翔は、夕鈴姫の足元に跪き、その衣に口付けた。

    「黎翔様」

    「ここで……貴方とお会いしたことが数日前のこととは……
    時とは、短いものですね。
    私も、お会いできて良かった。
    お連れの皆様も、誰一人欠けることなく、ご無事で良かったです」

    「夕鈴、ほらまた
    お約束が違います。
    「黎翔」と呼んで欲しいと約束したはず……」

    「どちらでも、良いではないですか?
    きちんと、お名前で呼んでおります!
    これからも私の呼びたいように呼ばせていただきますわ!」

    口を尖らせ、子供のようにプイッと怒り出す夕鈴。
    その姿は、先ほどの姫君然とした宴の面影はなかった。

    「クッ……
    やはり夕鈴は面白い!!!」

    実に楽しそうに、黎翔は屈託無く笑った。
    先ほどの姫君然とした彼女も好きだが、
    生き生きとした表情をする今のほうが夕鈴らしく、黎翔は好きだった。

    取り澄ました顔だけの姫君より、ずっといい。
    彼女は見ているだけで楽しくなる。
    見ていて飽きない。
    仮面をつけて妃に名乗りを揚げる母国の女たちには正直、黎翔はウンザリしていた。

    自分の足元で、自分を笑う黎翔に、夕鈴は顔を更に赤くして怒った。

    「……なっ!!!」



    「黎翔様!!! 
    面白いって失礼ですわ!
    しかも、そんなに笑うだなんて……」


    「私を、からかう為に連れ出したのでしたら」
    私、離宮に帰らせていただきます」

    きびすを返して帰ろうとする夕鈴の手首を、黎翔は捕らえた。
    そのまま……
    彼女を手中に捕らえた。

    「離してください!!
    黎翔様!!!」

    怒った夕鈴は、黎翔を振り払おうとしたが振り払えない。
    緩やかな抱擁でありながら、振りほどけない力で引き止められた。

    「離して!!!」

    激昂する彼女を更に抱き寄せ、彼は強く抱きしめた。
    暴れる夕鈴の耳元で、黎翔は囁く。

    「すまない。
    怒らせてしまったか?
    からかってなどいない」

    「むしろ貴女が好ましくて、褒めていたのだか……」

    「面白いが……
    お国では褒め言葉ですの?
    そんなの、おかしいわ」

    「夕鈴、ホントに悪かった……。
    笑うつもりは、まったく無かったんだ」

    耳元で、囁かれた黎翔の言葉は、夕鈴の心を柔らかく打つ。
    激昂していた彼女も、しだいに、心が凪いでいった。
    はじめ暴れていた彼女は、今では黎翔の声に耳を傾け、身を任せるようになっていた。



    なぜなら、彼は、もう笑ってなどなく、
    真面目で真摯ないつもの彼に戻っていたから。

    夕鈴姫が、信頼する珀黎翔に……
    夜風に揺れる星鏡が、二人の心の様を映しているようだった。





    ……23へ・続く


    2016.02.20.改訂

    【長編】楼蘭ー離宮編ー23  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭 




    「夕鈴姫。
    無礼を承知で、このまま聞いてほしい」

    黎翔の夕鈴を抱きしめる腕に、力が籠もる

    夕鈴は呼吸もままならないほど、きつく抱きしめられて
    気が遠くなりそうになりながらも……
    彼の言葉をひたすら待った。

    その言葉は彼女に思いがけない茨の呪縛を与える。

    「私は白陽国の国王。
    珀 黎翔」

    「黎翔様が国王様……」

    呆然と青褪めて身を強張らせる夕鈴。
    彼女が黙している彼女の秘密と、黎翔の告白の事の重大さに
    血の気が引く思いで、彼女は耳をそばだてた。

    腕の中の彼女が、身を強張らせるのを感じつつ……
    黎翔は覚悟を決めて、先の言葉を続ける。

    「タクラマカンの西の都・カシュガルよりも、
    遥か遠い国を、私が治めている。

    故あって楼蘭王国の王に会う為に、
    はるばる砂漠を越えてきたのだが……
    慣れない砂漠で道に迷い、
    偶然、貴女に助けられた」

    「姫……夕鈴姫。
    今まで、貴女に黙っていたことをお許し願いたい」

    「夕鈴、貴女を愛しております。
    貴女を国に連れ帰り、私の妻にしたい」

    「明日の早朝、楼蘭の王都へ向け出立いたします。
    貴方の父上に、結婚の承諾をもらってこよう」

    「楼蘭王国を去る時には、貴女を国に連れて帰りたい。
    夕鈴、どうか……是と言ってほしい」

    星明りが浮かぶロプ=ノールを背に
    黎翔は胸に迸る想いを夕鈴に告げ……

    「……夕鈴」

    ……ぁ。

    言葉では伝えきれない気持ちを込めて、
    腕の中の彼女の柔らかな唇を奪うと、そのまま情熱の口付けをするのだった。


    ……24へ・続く。


    2016.02.21..改訂

    【長編】楼蘭ー離宮編ー24  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭 




    夕鈴は、黎翔との初めての口付けに困惑していた。

    本来なら、はじめて意識した異性との熱い口付けは、
    恋する乙女ならば、すべてが薔薇色に満ちて幸せになるはずなのに……

    「……ゃ!
    ダメ、黎翔様!」

    何故だろう
    ……忍び寄る不安。

    “いけない!”
    警鐘が割れ鐘のごとく、頭の中で大きく鳴り響く。

    足元から地に吸い込まれそうな……
    そんな喪失感と、絶望感。

    愛する人を愛せない
    私には、それが許されない。

    砂漠を吹きすさぶ夜風が、夕鈴の心を凍らせる

    恋を知ったばかりの彼女には残酷だった。

    彼女は知っていた。
    この恋は実らない。
    実らせるわけにはいかない。



    自分の手で幸せを壊す、定められた未来に忍び寄る影。
    未来に起こりうる出来事に、彼女は胸を痛め、身体が小刻みに震えた。
    運命が、軋んだ音をたてて廻り始めた気がした。

    黎翔の甘く蕩けるような口付けを受けながら……
    彼の愛に応えることは出来なかった。
    愛する彼の求婚に応える日は、永久に来ない。

    いつの間にか、夕鈴の眦(まなじり)から静かな涙が伝った。
    止まらない涙が溢れる……次から次へと彼女の頬を冷たい涙が流れた。

    この恋を忘れなければ……

    自分と黎翔との恋は永遠に実らない。
    彼の国に、自分は嫁ぐことは無いだろう。

    ……何故なら、もう自分の運命は定められているのだから。

    夕鈴は、芽生えたばかりの恋を失うのが、とても辛く悲しかった。
    彼女の冷たい涙は、いつの間にか黎翔をも濡らしていた。


    ……25へ・続く



    2016.02.21.改訂

    【長編】楼蘭ー離宮編ー25  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭 






    昼間は熱砂の砂漠の夜は、凍えるように寒い。
    冷たい夜が、二人を包む。

    ロプ=ノールの星鏡に、夜風か吹き渡り、水面に細波(さざなみ)が立つ
    星鏡は、歪んだ天空を映しだしていた。

    …………まるで、夕鈴の心のように。








    いつの間にか、離れた二人の唇。
    黎翔は、静かに涙を溢(こぼ)す夕鈴を深く胸に抱きしめ、
    姫の言葉を静かに待った。

    時おり夕鈴の泣き濡れた頬に、優しく口付けをして優しく囁く 
    「愛しています」 の言霊と共に……

    優しければ優しいほど、夕鈴の恋心はジクジクと痛み出す。
    もはや自身では、立っていられない身体を
    かろうじて黎翔に支えてもらっていた。




    ……っ。



    もう少し早くお会いしたかった……





    消え入るように呟いた、彼女の言葉を黎翔は聞き逃さなかった。
    その言葉は、黎翔に向けたものではなく、
    自分自身に呟いたものだと分った。


    「ごめんな……さぃ……」

    静かな涙は今や嗚咽(おえつ)に替わり 静かに切なく泣き崩れる夕鈴。
    黎翔の胸を切なく締め付ける彼女の姿。

    黎翔は訳も分からず…………
    ただ愛しい彼女の髪を梳き、涙が止まるまで慰めるしか手はなかった。




    ……26へ・続く。




    2016.02.22.改訂

    【長編】楼蘭ー離宮編ー26  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭 



    夕鈴は泣き疲れ
    身体が妙に、だるく重く感じた。

    とろとろと、薄れいく……意識の中で・
    黎翔の声を聞いた。

    「私は、もう貴女に
    この思いを隠そうとはしない」

    「夕鈴姫……否
    夕鈴」

    「何故そのように涙する?
    答えてくれ夕鈴」

    「先ほどの君の涙は悲しみの涙だった。
    私の求婚に応ええられない理由は、何故だ?」

    「君をここまで苦しめる。
    秘密とは……いったい?」

    「答えてくれ!
    夕鈴」

    今は、何も考えたくなかった。
    過去も今も未来も。
    眠りにこの身を任せたいのに、彼は許してくれなさそうだ。

    空っぽの意識のなか夕鈴の耳に、黎翔の悲痛な叫びだけが響く


    彼女は、黎翔の問いに答えなかった。

    ……沈黙の時間が流れる。

    すべては、愛する貴方・黎翔の為。
    滑りゆく意識の中で、夕鈴は夢で答えた。






    ――――――私は、国の為に嫁がなければならない。
              第29番目の寵妃として……    
               皇帝の待つ 東の強国へ嫁ぐの。

    ――――――黎翔様。
              好きよ。

    ――――――たぶん、初めてお会いしたときから。
              気付くのが、遅かったけれど
                出会うのが、遅すぎたけれど

    ――――――貴方に恋して良かった。
              この想いを胸に秘めて、かの国に嫁ぐことができる。

                黎翔様。
                   ……ありがとう


    ――――――だから許して……
              何も告げることの出来ない私を。
               貴方を、私の運命に巻き込みたくないの。





    ――――――だから、忘れて。
              お願い……私のことを。

    ――――――ロプ=ノールの星鏡が見せた夢だとおもって……
            私ははじめから幻なの……



    ……27へ・続く。



    2016.02.24.改訂

    【長編】楼蘭ー離宮編ー27  ※要注意!!!古代パラレル

    楼蘭 



    黎翔の腕の中で気絶するかのように、意識を手放した夕鈴。
    その顔は悲しみに満ちて、未だ止まらぬ涙が頬を濡らす。

    意識を失う間際に
    ようやく聞き出せた彼女の秘密

    ぽつり……ぽつり……と、ところどころようやく聞き取れた。
    彼女の言葉の欠片を繋ぎ合わせると……
    どうやら国の為に、何処かへと嫁ぐらしい。

    嫁ぎ先が決まった娘は、他の男の目から隠される。
    楼蘭国王が愛娘を、この離宮に隠したのもそんな理由からだろう。

    黎翔の衣服を、しっかりと握り締め、彼にすべてを委ねる夕鈴。
    国の命運を一人で背負うつもりだったのだろう。
    楼蘭王女としてのプライドが、そうさせたのかもしれない。



    まだ……間に合う。
    君は、未だ嫁いではいない。
    君の憂いを、取り除くとあの日決めていたんだ。

    夕鈴……待っていて。
    必ず私のもとへ
    白陽国に連れて帰るから……



    華奢な彼女の身体を抱え直し、その瞼に口付けた。
    震える睫に夜露のような大粒の涙が、ひと粒輝く。
    黎翔の唇に触れて消えた、その涙は彼女の切ない悲しみの味がした……

    痛々しいその姿に、黎翔は決意を新たにするのだった。



    ……28へ・続く


    2016.02.24.改訂

    【長編】楼蘭ー離宮編ー28  ※要注意!!!古代パラレル  離宮編・完

    楼蘭 




    白み始めた天空の空
    まだ朝陽が昇らぬ ロプ=ノール湖畔。

    先ほどまで輝いていた星鏡は、もう湖面のどこにも無い。
    夜のヴェールから昼の装いへと……刻々と変化する湖。
      
    ロプ=ノールに、また新しい一日が始まろうとしたいた。


    水面に、静かに影を落とす一対の青鷺。
    あの日の青鷺なのだろうか?

    水中を探り、仲睦まじく寄り添い歩く。

    どうやら、朝食の時間らしい……
    静かに凪ぐ朝の湖面に、穏やかな風が吹く




    腕の中の姫の温かなぬくもりが、今は切なく辛い。

    黎翔は、確かな絆が欲しくて彼女を抱き締める。
    君は私と、心通わせる時間をくれなかった。

    未だ、涙の痕が残る頬を優しく撫でる
    滑らかな手触りと柔らかな頬の感触。

    切ない想いが、黎翔の心を
    キュッと締め付けた。






    昨夜の切ない嗚咽の声と、抱きしめた彼女の肩の震え
    星鏡のロプ=ノールに 儚く消えたその美しい涙

    抱きしめて、抱き寄せても……
    かき消えてしまうのではなかろうかと、不安になって、
    何度も何度も、彼女を抱き寄せ口付けた。

    触れあう温もりだけが、彼の確かだった。

    もうすぐ朝陽が昇る
    生き物たちの寝覚めの気配。

    楼蘭の首都「楼蘭」への出立の刻限が迫る
    未だ目覚めぬ、愛しい人との別れの時間が恨めしい。

    陽が昇れば、白陽国・国王 珀 黎翔と 
    楼蘭王国 王女 夕鈴姫に、戻らなくてはならない。

    陽の光が、湖水を輝かせるまで、あと数刻なのが恨めしい
    二人が、背負うべきしがらみが無い刻を過ごせる時間は、あと僅か。







    黎翔は、未だ目覚めぬ愛しい人に口付ける。

    ――――涙で彩られた睫が、美しく煌く瞼に……

    ――――柔らかな曲線に沿って、いまだ消えぬ涙の痕が残る頬に……

    ――――朝日に輝く、朝露に濡れたようなバラ色の唇に……

    黎翔は、僅かな時を惜しんだ。

    番いの鳥が優しく相手を啄ばむように、黎翔が夕鈴に口付けを贈る。




    ……君の憂いは、僕が晴らす。
    夕鈴、君を愛してる。
    ……誓おう
    必ず君を迎えに来るから……






    新たな願いを叶える為に……首都・楼蘭へ
    すべての鍵は、彼女の父。
    楼蘭国王・比龍王が握る。

    朝日が、ロプ=ノールを輝かせる。
    夜明けの湖は、青空を映し始めた。

    輝く青の湖面から、澄んだ風が二人を包む。

    すでにロブ=ノールの運命の車輪は、
    強く二人を結び付けて、静かに廻り始めていた。


                    ー離宮編・完ー


    ……離宮編・外伝1へ 続く

    ……本編・王宮編 29へ・続く


    2016.02.25.改訂
    2012.08.29.初稿