花の四阿

    Lala掲載の『狼陛下の花嫁』二次小説のブログです。某SNSで書き溜めた小説の他・イラスト・詩文・写真・徒然日記・一部鍵つきを掲載しています。

    完【書庫】黒龍『橋シリーズ』

    完【橋シリーズ】


    完成を急がせていた 洪水で流された王都の橋が新しく架け替えられ、完成を祝う式典が行なわれることになりました。
    黎翔は、はじめての式典参加の夕鈴の為に、なにやら計画をたてている様子。
    白陽国の威信をかけて作られた新橋完成式典の黎翔と夕鈴をお楽しみください。

      
    目次は、続きに収めてあります。
    PCで、カテゴリ連続読みされる方は、開封しないほうが読みやすいです。 続きを読む
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    新○○大橋開通記念

    『触れ』が白陽国に出された

    黎翔が民のために完成を急がせていた
    白陽国に流れる大河の橋が完成した。
    近じか、完成式典を催すとのことである。

    交通の要だった大橋が、昨年の夏の氾濫で崩落してしまい
    物流が滞っていた為である。
    何より、黎翔唯一の妃が民を心配し、心を痛めていた為
    黎翔が工事を急がせたとの噂もある。
    (妃が、『生鮮が痛むと生活が困るから』というのは内緒である)

    不便をかけた民のため、橋に携わった工事人をねぎらうため、式典のほかに出店も出し華々しく行われるらしい。
    子供はもちろんのこと、橋の完成を待ち望んだ大人も2日後に迫る完成式典に目を輝かせた。




    ・・・続く


    2012.05.29 続きを読む

    式典前夜・二日前 狼陛下のおねだり

    『・・・夕鈴』
    呼ばれて振り向いた時には、すでに黎翔の腕にとらわれていた。

    (あいかわらず、心臓に悪い・・・陛下は意地悪だわ。)
    足音を立てない黎翔の登場はいつも突然で、
    こんなふうに時々侍女よりも行動が早くて、
    突然の背後からの抱擁にドキドキが収まらない。

    好きな人に抱きしめられているのは、嬉しいけれど
    こんなふうに侍女の目があっては恥ずかしすぎる。

    結局、いつも本気で怒れなくて。
    黎翔を涙目で睨むぐらいしかできない。
    ・・・が、今日はそれさえも出来なかった。

    引き寄せられながら、夕鈴の耳元で黎翔が囁く
    『夕鈴、今戻った』
    『おかえりなさいませ、陛下』

    妃の演技のまま黎翔の腕の中で、逃れようと君はささやかな抵抗をしている。
    ・・・私から、逃げようとするのか・・・面白い。

    君の香りが鼻をくすぐる。

    紅く染まる耳元に吐息を届けながら
    さっきより染まった耳元に
    『夕鈴、いい香りだ。』
    『湯上りか?』とつぶやいた。
    『・・・・///っ』
    さらに首筋まで染まり、羞恥に染まる君を見るのは楽しい。

    いつもなら、このあたりで人払いがされるはず。
    今夜の陛下はいつもと違った。

    (侍女の視線が痛い。)
    (もうやめてーっっ)
    (早く陛下、人払いをっ))
    内心の夕鈴の気持ちを知りながら、黎翔と夕鈴の演技はさらに続く

    『夕鈴、式典の準備は進んでいるのか?』
    『今日は、侍女たちと衣装を選んでおりましたが、まだ決まらなくて・・・』
    話を聞きながら、いつものように夕鈴の髪を指に絡ませる。

    指に絡めた髪が、はらりと解けたところで
    後ろに控えているであろう侍女に黎翔は問いかけた。

    『私が見立てた衣装も合わせたか?』
    よどみなく侍女が答える。
    『はい』
    『さすが陛下のお見立てです。』
    『お妃様の白いお肌を引き立て、一番良くお似合いでございましたわ。』
    その答えに満足した笑みで黎翔がうなずくと

    『・・・夕鈴』
    『はい・・・陛下』
    『私が見立てた衣装を式典で着てくれないか?』

    昼間、色の洪水と化した妃の部屋を思い出す
    『はい・・・陛下』
    『・・・陛下の御心のままに』

    (昼間の衣装は、式典のためか普段の妃の衣装よりどれも豪華で選べなかった。・・・あのなかに陛下の見立てた衣装があったなんて。)
    妃演技中の夕鈴には、是としか言えなかった。


    ・・・続く


    2012.05.30.

    式典前日 後宮の庭

    朝食後の暖かなお茶を飲みながら
    夕鈴は妃付きの筆頭女官長の言葉に耳を傾けた。
    毎朝の定時連絡。夕鈴の今日の予定である。

    『・・・・以上が、本日の夕鈴様のご予定にございます。』
    控えめで落ち着いた、上に立つ者の自信に溢れた女官長の声は
    耳に馴染んで、聞きやすい。
    黎翔がみずから、夕鈴につけた女官の中でも一番夕鈴が信頼のおける人物だった。

    『それから、政務殿に近い、第一後宮殿の庭にある池の四珂の花が見頃を迎えております。』
    『午前の政務室での休憩は、そちらにて陛下といかがでしょうか? 夕鈴様。』
    『・・・何の花が見頃を迎えておりますか?』
    『紫の花菖蒲と藤の花です。いつもは地味な庭ですが、この時期だけは見事な色に染まります。』
    『それは、楽しみですね。陛下も楽しまれることでしょう。』
    『では、女官長。そちらにて休憩することにします。』
    『四珂にてお待ちしています・・・と陛下へのことづてを頼みます』
    『分かりました。では、そのように手配させていただきます。』




    先を先導する妃付の女官に案内されながら、第一後宮殿の庭にある池の四珂に向かう。

    確かに、女官長の言うとおり庭の花は見頃を迎えていた。
    凛とした涼やかな濃い紫と藤の優しい香りに庭は包まれていた。
    目に心地良いだけでなく、夕鈴は爽やかな空気に包まれた気がした。

    いつもながら、後宮及び王宮内にかかわらず、夕鈴付きの女官長は庭にまで詳しい。

    『どうして、いつも花の見頃まで庭に詳しいの?』

    臨時花嫁である夕鈴は、後宮の事情に詳しくない。
    傍に付き従う女官長に、日頃の疑問を今日は聞いてみることにした。

    『毎朝、各宮殿の女官長より老師と共に、朝の定時報告を受けております。』
    『特に、筆頭女官長であり、夕鈴様付きの私は後宮殿内における花師・庭師の手配も仕事に入っております。』
    『各殿内の庭の見頃は、必須連絡項目なのですわ。』
    そう言って女官長はやわらかく微笑んだ。



    鳥のさえずりが聞こえる。
    四珂の外は眩しさを感じるほど輝いている。
    政務室の休憩時間には、もう少し・・・
    陛下を思わせる花菖蒲を眺めながら、夕鈴は思う。

    (陛下はもうすぐね。)
    (明日の式典も、今日のような天気だと良いのだけれど・・・)

    その様子を女官長は、やさしいまなざしで見守っていた。




    2012.05.30.

    ・・・続く

    式典前日 政務室

    『李順・・・方淵を呼べ』
    『方淵ですか・・分りました』

    朝から珍しく機嫌の良い陛下が方淵を呼んだ。
    明日の式典の責任者に任命され、忙しいはずなのに微塵も感じさせず陛下のもとへ参じる

    『お呼びでしょうか? 陛下?』
    『方淵・・・明日の式典の準備は滞りなく進んでいるか?』
    『すべて滞りなく進んでおります。陛下。』
    『例の準備も大丈夫だな?』
    『式典の要ですので、抜かりなく手配済みにございます。』
    『分った。明日は滞りなく進ませよ。』
    『御意にございます。』

    方淵が立ち去り、部屋には黎翔と李順だけになった
    『李順・・・明日は式典以外政務は入れるな。』
    『・・・それは『それと夕鈴の予定も入れるな。』』


    機嫌の良い狼に、悪い予感がした李順だった。


    2012.05.30.

    ・・・続く

    花菖蒲 1 -はなしょうぶ-

    夕鈴は、陛下を待ちながら、満開の風景を眺める
    池の畔には薄紫の藤花と濃紺の花菖蒲が、咲き競い合っていた。

    花菖蒲の凛とした葉は、天を向きいっそう涼やかで・・・・。
    藤花は、庭全体に豊かな甘い香りを振りまいていて・・・・。
    池の畔の小道が紫に彩られ重なりあう花々が目に鮮やかだった。

    池に、波紋が広がる
    丸い睡蓮の葉のその間に、波紋が・・・
    魚の気配がするその中に
    周りの景色と青い空が池に映りこむ。

    四阿の外は、幽玄の世界だった。

    そんなまぶしい光の世界を四阿でぼんやり眺めていると
    女官長より声がかかった
    「夕鈴様、陛下のお越しです。」

    陛下に侍女たちと共に拱手した。
    「夕鈴」
    陛下は、夕鈴にすべるように近づくと、表を上げさせ
    そのまま、陛下の指に絡ませた髪に口付ける。
    真っ赤になった夕鈴は、気丈にもお妃演技を続けている。

    「お待ちしておりました。陛下。」
    「お呼びだてして申し訳ありません。」
    「今朝、女官長よりこちらの庭が見頃と報告がありまして、こちらで陛下と一緒にお茶を楽しもうと思いましたの・・・」

    ゆっくりと髪の香りを楽しんでいた陛下が、夕鈴の言葉に四阿の外へ目を向けた。
    輝く世界に目を細める

    「確かに、花が見頃だな。」
    「我が妃と共に、花を愛でようか!?」

    夕鈴のすべらかな頬を撫ぜながら

    「女官長、お茶の用意はまだ良い。」
    「その前に、妃とともに、庭に下りる」

    女官長は、拱手し無言の肯を返した。



    2012.06.28.復刻





    ・・・続く

    花菖蒲 2   -はなしょうぶ-

    池の周囲の小道に沿って二人は進む。
    頭上には、けぶる甘い香りの藤の花。
    足元には、涼やかな色の花菖蒲が風に揺れる。
    甘い香りに二人包まれながら二人っきりで歩いていた。

    侍女たちは、すべて四阿に残してきた。
    ここには二人以外、誰も居ない。

    池の半分を廻った時、夕鈴から声が掛けられた。

    「・・・あの、陛下質問いいですか?」
    「何!?夕鈴?」

    二人向かい合い視線を合わせる。
    そのまま夕鈴の右手を掬い取り
    手の甲に口付けて、夕鈴の言葉を待った。
    離れた侍女からは、これで睦言をしているようにしか見えない。

    真っ赤に染まる顔で、次の言葉を探す君の姿に
    私はつい過剰な演技で困らせたくなる。

    「こんなこと、陛下に聞くのは変ですが・・・」
    「他に聞ける人いなくて・・・・・」

    「何でも聞いて 夕鈴。」

    「あの・・明日の式典は、私は何をすればよいのでしょうか?」
    「具体的には、何も聞いていなくて・・・」
    「教えて下さい。陛下」
    困り顔の君に答える

    「何もしなくていいよ。」
    「しいて言えば、美しく着飾って橋の上で私を待っててほしい。」
    「それだけでいいよ。」
    不安げな表情の君に安心できるよう柔らかく微笑む。

    「えっ それだけですか?」
    「後は、私の指示に任せて」

    「夕鈴、あした橋の上で待っててね。」

    甘い一陣の風が二人の髪を撫ぜていった。

    ぴちゃん。

    池の魚が跳ねた音がした。

       ー完ー




    2012.06.28.復刻

    ・・・続く

    式典前夜・小犬陛下のおねだり 1

    ・・・夕鈴。 是と言ってくれないか?』
    夜、後宮を訪れた陛下は夕鈴の指に指を絡ませながら囁く

    まだ侍女を下がらせていない為、妃の演技をやめるわけにはいかない。
    『陛下・・・昨夜の衣装の件でしたら、大丈夫ですわ。』

    『夕鈴、衣装の話ではない。 ・・・是と言ってくれないか?』
    今度は、指に口付けながら陛下は更に言葉を重ねる。
    (・・・困っている姿もかわいいなぁ)

    『返答に困ります、陛下。』
    『何に是と答えるべきなのか、先に用件を教えてください。』
    (衣装の件でないなら、なんだろう。・・・悪い予感がするわ。)

    『後で二人っきりになったら、用件を話す。』
    今度は、別な指に口付ける。
    『夕鈴・・・とにかく是と言ってくれ。』

    何がなにやら分からない。
    とにかく追い込まれてる気がする。
    夕鈴が是と言わない限り、人払いも用件も陛下は言わない気らしい。
    いたたまれないこの状況をなんとかしたい。
    早く終わらせたい。

    (悪い予感しかしないんですけど・・・)

    深いため息を一つ吐き夕鈴は承諾するしかなかった。





    2012.05.30.


    ・・・続く

    式典前夜・小犬陛下のおねだり 2

    やっと、人払いが済み、二人っきりになった自室。

    『今の何なんですか? 陛下!!』
    『用件を早く言ってください!!』

    なかなか言わない黎翔に夕鈴が切れた。
    それなのに、ほわほわと夕鈴の入れたお茶を飲んでいる。
    『やっぱり、夕鈴の入れたお茶は美味しいなぁ』
    (・・・恥ずかしくて怒った顔もかわいいなぁ)


    『僕のお嫁さん最高だね。』
    満面の笑顔で、にっこり笑うと夕鈴にもお茶を飲むよう席を促した。

    (なんか、すごくご機嫌!? 陛下。)
    ますます悪い予感しかしない。

    赤みが取れたものの、まだ涙目で睨んでいる夕鈴に黎翔は用件を切り出した

    『夕鈴、是と言ってくれてありがとう!』
    『夕鈴なら是といってくれると思ってた。』

    盛大に振っている幻の尻尾に昨夜にはない胸騒ぎを感じた。

    『老師に町娘の衣装の用意を手配させたんだ。』
    (・・・!)
    『明日、式典が終わったら、浩大に案内させるから抜け出そうね。』
    (・・・!!!)
    にっこりご機嫌に笑う黎翔に、頭痛しかおぼえない。

    すでに夕鈴の承諾は先ほど得たため、断定口調だ。

     夕鈴の悪い予感は的中した。
    (・・・青筋たてて怒るおっかない李順さんの顔が目に見えるんですけど・・・)
    夕鈴は、青ざめた顔で陛下に引きつった笑いをするしかなかった。

                      ー完ー


    2012.05.30.


    ・・・続く

    白陽国・新橋完成式典 1

    ぬけるような青空の下
    浄化の爆竹が鳴り響き、賑やかな楽の音が重なる
    低く響く銅鑼の音
    粛々と愛馬・黒龍の歩を進めるのは、この国の王『伯黎翔』
    付き従う、貴族と兵士の隊列。
    その列の奥に花籠に乗った国王・唯一のお妃。

    なかなかお目にかかれないその姿を一目見ようと
    沿道には、民が詰め掛けていた。

    『 ・・・すごい。人だかりだわ。』
    爆竹の勢いが増す。
    (方淵・・・ちょっとやりすぎなんじゃない?)
    厳重に守られた花籠の中にまで火薬のにおいがする。

    容易に外から覗かれない造りの花籠は、黎翔がこの日にあわせ作らせた特別仕立てである。
    中からは、巧妙に隠された覗き窓から、御簾越しに外を楽しめる造りになっていた。

    銅鑼の音が大きく三度響く。
    爆竹の勢いが更に増した時、花籠が止まった。
    どうやら、式典を行う橋に着いたらしい。

    覗き窓から深紅の布地が見え、陛下の声がした。
    『・・・夕鈴』
    『私は、先に対岸へ船で行く』
    『対岸から合図をするまで、しばらくこのまま花籠で待っていてほしい。』
    『李順を置いてゆく。李順と共に花籠に乗ったまま橋の中央で私を待っていてくれ。』
    『はい・・・陛下』
    そしてそのまま陛下の気配が消えた。



    2012.05.31.

    ・・・続く

    白陽国・新橋完成式典 2

    水音が遠ざかる音に反して、楽の音が賑やかになった。
    花籠の周囲を寿ぐように紅白の二匹の獅子が踊る。
    陛下が対岸を渡るまでの間、民が飽きない配慮らしい。
    密かに妃が飽きない配慮のほうが強いかもしれない。

    獅子舞を見る楽しげな子供たちの様子に、夕鈴は微笑んだ。
    (・・・・本来なら、私もあちら側で楽しんでいるのにな。)

    陛下の渡る対岸にも同じ二対の獅子がいるらしい。かすかに重なる楽の音で、それが窺えた。

    『夕鈴様。大丈夫ですか?』
    覗き窓から水色の式典用女官服が見えた。
    花籠に乗ったままの夕鈴を気にして、女官長が声をかけたのだ。
    『大丈夫よ、女官長。陛下は無事、対岸へ着いたかしら?』
    『はい。ご無事にお着きのようでございます。』
    『夕鈴様。もうしばらくご辛抱を。そろそろ合図が来ると思われます。』


    『・・・夕鈴殿。鏡の合図が出ました。花籠が動きます。お気をつけ下さい。』
    緑の官服が見えた。李順さんだ。

    いよいよ式典が始まる。
    花籠に乗った夕鈴に緊張が走る。鳴り響く銅鑼の音を合図に流れるように花籠が進んだ。



    2012.05.31.

    ・・・続く

    白陽国・新橋完成式典 3

    (・・・これが陛下が作った新しい橋)
    足元は堅牢な黒い石を複雑に組合わせ、しかし硬い石を使っているであろう表面は、細かい刻みが模様のように全体に施されている。これならば、雨で滑ることもなく実用的だ。
    花籠が前後に揺れないことを考えると限りなく水平な造りの設計になっていることが伺える。橋幅は広く荷車二台が楽に交差できそうだ。
    対して、橋の欄干は白い石の見事な透かしが全面に施され、百花繚乱の華麗な透かしから足元と同じ黒い石が覗く造りになっている。
    諸外国の商人も通過するであろう、その橋は確かに国力を示すほどの見事な出来栄えであった。

    石工職人の見事な透かしに飽きることなく眺めていた夕鈴は、花籠が静止したのを気づかなかった。

    『夕鈴様、もうすぐ陛下がお越しです。花籠からお出になってください。』
    女官長の合図で花籠の扉が開け放たれた。
    女官長に手伝ってもらいながら、ようやく夕鈴は花籠から開放された。

    ようやく現れた狼陛下唯一の妃に、その場に居た者、すべてが釘付けになる。

    風に孕み幾重にも重なる鮮やかな深紅の衣装。
    妃の白い肌を引き立てる衣を、精緻に施された金糸の鳳凰の刺繍が舞う。
    川風に乱れぬように計算され、いつもと違い高く結い上げられた金茶の髪は、陽に当り金色に輝く。
    涼やかな音のする金の歩楊は風に揺れ音を奏でていた。
    それらは、夕鈴にとても似合い彼女を引き立てていた。

    ようやく花籠から開放された夕鈴は、御簾越しでない景色をようやく楽しめた。
    橋の中央にある川上、川下側に正方形にせり出したこの場所は、他の場所とは造りが違っていた。

    川上、川下に向かっている手すりに、それぞれ二頭の龍の彫り物が施してあり、睨みをきかせていた。ちゃんと龍玉まで持っている。
    ちょうど四頭の龍が橋を守っている形である。これがこの橋のシンボルになるのだろう。



    2012.05.31.


    ・・・続く

    白陽国・新橋完成式典 4


    『夕鈴殿、陛下です。』
    李順さんの声に、慌てて拱手する。

    夕鈴が来た方向と反対側の方角から
    黒毛の愛馬・黒龍に乗った黎翔が近づいてくる。
    着ている陛下の衣装は、夕鈴と同じ深紅。
    黎翔の二つの瞳の色。
    豪奢な衣には、四神が白金糸の精緻な刺繍で施されていて、馬上で宙に舞う。
    夕鈴と完全なる一対であった。


    『待たせたな、夕鈴。』
    『お待ちしていました。 陛下。』

    黒龍から降りると夕鈴の手を取り、川上のほうへと向かう。
    いつの間にか、祭司が王と妃を待っていて、川上に向かって橋に祈りを捧げた。

    祭司から小箱が王に手渡され、黎翔は夕鈴と向かい合う
    『夕鈴、銅鑼の音が三度鳴ったら、この箱を開けてくれ』

    黎翔から橋へ祈りの寿ぎが紡がれる。
    王の声が止んだとき、銅鑼が三度空に響いた。

    黎翔の手元にある小箱を夕鈴が開ける
    中から二匹の薄紫の蝶が空に舞い上がった。
    王と妃の蝶は、絡み合いながら空へ舞ってゆく

    王の蝶が舞い上がった瞬間、いつの間にか皆の手にあった小箱が開かれ一斉に蝶が飛び立つ。

    蝶が放たれた瞬間
    王の瞳は、嬉しそうに輝く妃の顔を見ていた。





    『これで式典は終了だよ。ゆうりん。』
    空の小箱を祭司に返しながら、小犬陛下が耳元で囁く。
    びっくりして陛下の顔を見ると
    すごく嬉しそうなニコニコ笑顔の小犬陛下があらわれていて




    そのまま愛馬・黒龍へと夕鈴をいざなう。
    『皆、大儀であった。これにて式典を終了する。』
    『李順。』
    『民に妃を見せる為、夕鈴とともに先に王宮に帰るぞ』
    『お待ち下さい! 陛下っ!!』
    『民の期待に答えねばな。』

    『方淵!』
    『手はずどうり、道を開けさせろ』
    すでに馬上の夕鈴は、陛下にしがみつくしかない。

    今来た道を全速力で駆け抜ける。
    疾走する黒龍の背で一対の深紅は、民の目にどのように映ったのか?



                        ー完ー
    .



    2012.05.31.


    夜市編へ・・・続く

    お忍びで・・・

    昼間、式典のあった橋の両岸に並ぶ屋台を眺めながら
    人ごみを縫うように、二人は手を繋ぎ歩く。

    『こんなに人が居たんじゃ、はぐれたら見つからないよ。』

    すでに夕鈴の片手には、李翔の買った出店の食べ物が抱えられているが、握っている手は李翔から離してもらえない。

    昼間、黎翔として二人で参加した橋も今は綺麗に篝火が焚かれ、水面に姿を映している。

    『待って下さい。へ・・・李翔さん。』
    結局、夕鈴もそれなりに久しぶりの下町の空気を楽しんでいた。
    『ごめん。夕鈴、歩くの早かった?』
    『・・・それとも、欲しいの見つけた?』
    『そうじゃなくて、李翔さん。もう、これ以上私持てません!!』
    人ごみの中、二人は立ち止まる。

    『んー困ったなぁ。』
    (ぜんぜん困ってるように見えないんですけど)

    李翔は、黎翔の瞳で人を探す。
    探していた人物が、李翔と目が合ったとたんビクリとした。

    『・・・浩大。』
    『コレを持て』
    いつの間にか近くに来ていた浩大に、夕鈴の荷物をすべて李翔から押し付けられた。
    『そりゃないよ。李翔様』
    情けない声に浩大が、少し可哀想になる・・・も
    つかの間
    『・・・コレ食べていい?』
    『全部食べていいが、食べかけはやらん。』
    (・・・・・////!!)

    浩大に向けていた視線を夕鈴に戻す
    『これで軽くなったね、夕鈴。・・・次は、どこに行く?』
    浩大を残し、また人ごみを縫うように、二人は手を繋ぎ紛れた


    2012.05.31.


    ・・・続く

    君が、勝てない小犬の僕で

    『李翔さん、帰りましょうよ!』

    僕の手を引っ張りながら、今晩、何度目かの帰りを促される

    『もう少しだけ・・・ね。大丈夫だよ。夕鈴。』

    祭のような露天商めぐりが楽しくて、いつの間にか長居をしていた。

    僕の話は、ぜんぜん君は聞いていなくて・・・
    せっかく二人で来ているのに、君は帰ることばかり。
    繋いでいたはずの手も、なんだか冷たい。
    君の心は僕に無いとは思いたくなくて
    ぎゅっと握り返して、君にもう一度お願いをする。
    君が、勝てない小犬の僕で・・・。

    『もう少しだけ。』


    2012.06.01.


    ・・・続く

    びいどろ

    ・・・ぱつん。・・ぽっぺん。
    不思議な音がする
    夢中になっている夕鈴がすごくかわいい
    ほっぺたが膨らんでまるで子供のよう
    僕の知らない子供の頃の君を見た気がした。

    買ってあげようとしたら
    『無駄遣いしないでください。』
    と怒られた。


    2012.06.01.

    ・・・続く

    無花果ーいちじくー

    『アレ、美味しいんですよ』
    君が指差すその先には、甘い香り。
    砂糖をまぶしたボールみたいな揚げお菓子

    『ここのは、すっごく美味しいんです。』
    『ちょっと変わってて、よそでは食べれないんです。』
    露天の行列の最後尾に、すぐに二人で並んだ。

    立ち止まって行列に並んでいたら
    『 危ない!』
    通行人が夕鈴にぶつかりそうになり、夕鈴を抱き寄せる。
    『夕鈴、危ないから気をつけて!』
    立ち位置を入れ替えながら、肩を寄せた

    さほど待たず手に入れたお菓子の中には、甘酸っぱい無花果の甘露煮が入っていた。
    指についた砂糖を食べる。
    ついでに、夕鈴のも食べたら、真っ赤な顔で怒られた。


    2012.06.01.

    ・・・続く 続きを読む

    【詩文】「わたあめ」白陽国SNS地区・恋人の日限定コミュ

    夜店で買った
    わたあめを
    きみは
    美味しそうに
    食べる

    君の
    鼻先についた
    わたあめの味は
    きみのように
    ふんわりとして
    僕の口の中で
    甘く溶けた



    ・・・続く

    小犬のささやかな幸せ 1 祝!恋人の日

    先ほどから、ふくれっつらの小犬が隣を歩く
    なぜって
    さっきから、
    私が断ってばかりだから

    小犬の要求は呑めない
    (だって、私は臨時なのよ)
    (本気になんて、させないで・・・)

    横目で苦笑しつつも
    ため息しか出てこない
    目に鮮やかな夜市の出店は
    にぎやかな輝きと共に
    人々に輝きをふりまく

    特別なことなんて
    無くてもいい
    閉じ込めた思いに
    気づかないで・・・
    揺れる瞳で
    喧騒の中をそぞろ歩く
    貴方の辿る道を
    私は必死でついてゆくから


    僕は、真剣に今日の思い出になるものを探している
    君の好みはいまひとつわからない。
    さっきから、君は断ってばかりだ。
    ついつい頬がふくらんでしまう。
    いつもこんなに近い距離に僕らはいるというのに・・・。
    何一つ君が分らなくなる。
    距離が近すぎるせいなのか?
    どうか、僕の気持ちに早く気づいて!




    ・・・続く

    小犬のささやかな幸せ 2

    「・・・あ。」

    先を進む僕に君の声が聞こえた。
    何かを見つけたような小さな声を僕は聞き逃さない。
    「どうしたの?」
    と彼女に聞くと。
    「あれ見たいです!」
    人ごみを避けるように、小さなこじんまりとした露天があった。
    なにやら、商品なのだろう。
    夜道を照らす提灯の明かりに照らされ、きらきら素敵に輝いている。
    夕鈴の興味をひいた物に強く興味を引かれ二人はお店に向かった。

    商品は、形は違えど同じものだという。
    異国の珍しいものだと恰幅の良い客うけする笑顔の店主はそう言った。
    「万華鏡」というらしい。
    何故か、万華鏡の商品の中に茶碗に挿した花が一輪生けてあった。
    店主はかわるがわる夕鈴と僕を交互に見た
    何かに納得するようにうなづくと・・・・
    店の奥から、商品を取り出し、同じものを僕らに手渡した。
    細工の精緻なそれは、明らかに店先の商品より高価な品だった。
    形も違っていた。
    店先の商品は、ただの円筒形なだけの商品で、装飾に綺麗な紙が巻かれていた。
    渡された商品は、円筒形の片側に、丸い水晶球がはめ込まれていた。
    円筒形の筒の部分は、銀と紅い貴石で精緻な装飾がされている。
    明らかに、形も細工も違うのに、同じ万華鏡なのだという。

    「球体万華鏡です。お嬢さん、覗き穴から水晶球を通してそこのお花を見てごらんなさい。」
    店主の言うがままに夕鈴は一輪挿しの花を覗き見る

    「わぁ! すごい!!!」
    「李翔さん、これすごいです!!」
    夕鈴の万華鏡の中には、たくさんの花々
    まるでお花畑に居るような光景に、夕鈴の瞳が輝いている。

    その夕鈴をかわいいなと思い眺めていると
    突然、店主から袖を引かれた
    そのまま小声で、隣の彼女を万華鏡越しに見ろという。
    いわれるがまま覗くと、

    「!!!!」
    見えない幻のしっぽが、高速でぱたぱたと振り出した。

    「二つでいくらだ?」
    「コレをもらおう!!」
    そのまま李翔は、値切りもせず店主の言い値で二つ買い、いそいそと大事そうに懐にしまった。

    急な展開についていけない夕鈴だけが、ぽつんと取り残された。



    ー完ー



    ・・・続く

    【詩文】「心の万華鏡」白陽国SNS地区・恋人の日限定コミュ

    後宮の景色を
    水晶球に映して
    次々と変化する筒の中の景色を
    飽きずに夕鈴は、くるくると眺める

    陛下から
    いただいた
    あの日の夜のプレゼント

    水晶球が作る
    夢の世界に
    浸りながら
    巡る世界に浸っていたら

    急に
    陛下がたくさん現れて
    心臓が
    跳ね上がった


    2012.06.12.

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