花の四阿

    Lala掲載の『狼陛下の花嫁』二次小説のブログです。某SNSで書き溜めた小説の他・イラスト・詩文・写真・徒然日記・一部鍵つきを掲載しています。

    【書庫】長編『白陽国・豊穣の祈り』

    こちらは、完了しています。 if 設定【長編】『白陽国・豊穣の祈り』です。

    少し進んだ恋人設定です。それでもよければ、どぞ。

    【長編】『白陽国・豊穣の祈り Ⅰ』 
    【長編】『白陽国・豊穣の祈り Ⅱ』 
    【長編】『白陽国・豊穣の祈り Ⅲ』
    【長編】『白陽国・豊穣の祈り Ⅳ』 
    【長編】『白陽国・豊穣の祈り Ⅴ 』 
    【長編】『白陽国・豊穣の祈り Ⅵ』
    【長編】『白陽国・豊穣の祈り Ⅶ』
    【長編】『白陽国・豊穣の祈り Ⅷ』
    【長編】『白陽国・豊穣の祈り Ⅸ』
    【長編】『白陽国・豊穣の祈り Ⅹ』 
    【長編】『白陽国・豊穣の祈り ⅩⅠ』
    完【長編】『白陽国・豊穣の祈り ⅩⅡ』   
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    【長編】『白陽国・豊穣の祈り Ⅰ』   

    一年に一度、白陽国の穀倉地帯が、金色の海原に染まる頃、
    白陽国の民が待ち望んだ収穫祭の時期が近づく。

    王都だけでなく、近隣のj村までもが収穫祭をめざし、
    忙しく準備に追われていた。

    秋の実りに感謝して、来年の豊穣を祈る収穫祭。
    国中の民が王都に集まる

    夕鈴も、下町に住んでいた頃は収穫祭を
    待ち望むほど大好きなお祭りだった

    様々な露店が立ち並び、
    様々な物珍しい商品から美味しいたべものまで、
    多種多様でにぎやかなお祭りの出店。

    夕鈴は、見て歩くだけで楽しくなる収穫祭の雰囲気が大好きだった。

    特に、近隣諸国でも白陽国の収穫祭は、観光に訪れるひとがいるほど、華やかで知られていた。

    昼の実りの王と王妃のコンテスト
    夜の実りの王と王妃のパレード
    そして、子供たちが知らない
    大人だけの秘密の時間
    篝火の中での大きな円を描く人々の踊りの輪

    年頃の乙女たちの秘密めいた噂話・・・
    子供たちが、家に返された後に大人だけのお祭り
    そこで、大人の仲間入りを許されたものは伴侶を見つけるのだという。

    一日一日と日を追うごとに祭りを待ち望む人々のこころは、浮き足立つ。

    会場になる王都の大広場に、篝火の材料が山積みされた頃、気の早い商人がポツリポツリと良い場所を求め集まりだした。

    白陽国の収穫祭は、あと二日に迫っていた。

    【長編】『白陽国・豊穣の祈り Ⅱ』   

    それは収穫祭をあと二日後にひかえた後宮の四苛でのこと。
    いつものように、この国の王と夕鈴は午後のお茶の時を過ごしていた。

    すでに周囲には、王の命で人払いも済まされており、
    気楽な寛いだ雰囲気で、初摘みだという薔薇の蕾のお茶を楽しんでいた。

    柔らかな優しい薔薇の香りが、ますます二人を寛がせる

    甘い芳醇な香りがする薄桃色と白の秋薔薇が咲く四苛で、二人。
    花の香りに酔いしれながらの二人の睦言が聞こえる。

    「・・・・黎翔様」

    王の膝には、唯一の妃である夕鈴妃が・・・
    王、黎翔の情熱的な口付けを受け入れていた。

    『夕鈴』

    彼女の頬は、薄紅の薔薇よりも艶やかに染まり
    零れる吐息は、花よりも甘かった
    黎翔の肩に添えた、小さな白い手までもが、薄紅に染まる

    先ほどから入れられた蕾の茶は、湯気がほとんどでなくなっていた。

    秋の爽やかな風が梢の花を揺らす。

    木々の陰が、複雑なモザイク模様を濃く映し出す。

    どれくらいそうしていたのだろうか・・・

    いつの間にか、黎翔の首に回された夕鈴の腕。
    首筋に埋めるようにもたげられた頭
    黎翔は彼女を片手に抱きしめたまま、愛しげに金茶の髪を梳(くしけず)る
    黎翔の顔は、穏やかで・・・愛しくてたまらないといったふうに
    何度も何度も夕鈴の髪を撫で愛でる。

    すでに卓の碗の茶は、すっかり冷めていた。

    【長編】『白陽国・豊穣の祈り Ⅲ』   

    『もうすぐ、収穫祭だね。夕鈴。』

    『夕鈴は、後宮に来るまで、行ったことあるの?』

    「ありますよ。幼い頃から、楽しみにしていました。」

    「幼い頃は、家族と…」

    「大きくなってからは、明玉や几鍔たちと…」

    「何度もあります。」

    『ふぅ~ん。友達ねぇ。・・・・・。』


    ・・・・・・・静かな沈黙



    『僕は、参加したこと無いから、どういったものがあるかわからないな。』

    『今日、収穫祭への国からの助成金にさっき判を押してきたんだ。』

    『それで、収穫祭が明後日って知った。』

    『いつもは、それで終わりなのだけど…』

    『今年は、君がいるからかな?行ってみたいな。』

    『そうだ、夕鈴。収穫祭に参加しようよ。』

    『老師に下町の衣装を頼んでおくよ。』

    『残念ながら、日中は、収穫祭に係わる行事でお忍びできないけれど、夜は予定が無いはず。』

    『夜の収穫祭を楽しもう夕鈴。』





    小犬の提案にしばし思案する夕鈴。

    チラリと脳裏をかすめたのは、・・・・・眼鏡を光らせ怒る陛下の側近の顔を想像してブルリと身を震わせた。

    夕鈴は、小犬陛下の腕の中で、満面の笑みを浮かべる陛下の顔を盗み見る。

    振り切れんばかりの幻の尻尾がぶんぶんと・・・

    ぴぃんと、立った幻の耳・・・・

    肯定の答えしか疑っていない・・・・・とても嬉しそうな小犬陛下の顔

    キラキラと輝く瞳は、純粋に夕鈴の答えを待っていた。


    ・・・・とても、この状況は・・・・私には、断ることなんて出来ない。

    一抹の不安が残るものの、あっさりと、OKの返事をした。

    ますます喜んだ小犬陛下だったのは、言うまでもない。

    【長編】『白陽国・豊穣の祈り Ⅳ』   

    慌ただしい収穫祭の当日。

    収穫祭の開催を告げる朝の花火から、黎翔と夕鈴の忙しい一日が始まる。
    諸外国からのお忍びの王侯貴族の謁見がまばらに続く。

    謁見の間に、呼ばれるたびに、夕鈴の緊張が走る。
    黎翔の座る玉座の隣で優雅に微笑みながら妃として佇む。

    (お忍びなのだから、ご挨拶に来なくてもいいのに・・・。)

    昨夜から侍女たちが、腕の見せ所として準備していた、正装姿の夕鈴。
    正直、動き回るのに向かない、非実用的な衣装。

    ひとつひとつの謁見は、短いものの・・・いつ終わるのかと思う謁見は
    謁見終了時間まで続く。

    夕鈴は、知らないが、・・・・諸外国の謁見者の中には、
    噂の狼陛下の唯一の寵妃を自分の目で確かめ、
    母国へ持ち帰ることを目的とした謁見者も多い。

    そんな事情など夕鈴はつゆ知らず、次々と現れる謁見者に辟易する。

    玉座に座る黎翔の過剰な演技にも、翻弄される。
    理性を保ちつつ、甘く濃厚な過剰な愛の演技に対応する。
    謁見者は、噂どうりの様子に満足して謁見は終了していく。


    あからさまな演技は、気のせいではないと、
    夕鈴が気づく頃には、昼のコンテスト時間を過ぎていた。

    【長編】『白陽国・豊穣の祈り Ⅴ 』 

    謁見の間の隣の小さな黎翔と夕鈴の控え室

    小さいながらも、そこは王と妃の控え室。
    豪華で上品な装飾品により居心地よく整えられた部屋だった。

    そこに設(しつら)えた長椅子に、疲労困ぱいの夕鈴は、崩折(くずお)れるように、持たれ掛かる。

    シャラランと幾つもの銀の歩庸(ほよう)が、涼やかなる音を立てる。

    いつも以上に 飾り付けられた歩庸(ほよう)と髪飾り・・・髪型に重みを感じるほど。

    ダラダラとした謁見が、一つ伸びる度に頭痛が酷くなる。

    絹糸と麻糸を交互に織り込んだ光沢のある濃い青緑の衣に、鮮やかな銀糸の花の紋…散らした輪の中に丁寧な刺繍で施してある。
    重ねた空色の薄衣に散らされた小花の金糸の刺繍。
    空色の色から透ける青緑の銀の花輪。
    秋の色目(いろめ)。月草(つきくさ)の重色目(かさねのいろめ)。

    侍女たちが夕鈴に着付けた重色目の衣が、謁見の重責と堅苦しさで重苦しい。

    間ばらに飛び込む謁見に。衣を寛がせ休む暇も無い。
    窮屈な堅苦しさを夕鈴は感じていた。

    脚に絡みつく青緑の衣。重ねた内側の空色の衣も軽やかなはずなのに、纏わりつくのが煩わしく重く感じる

    何もかもが、煩わしく感じる。

    ふぅ。

    夕鈴が、人目につかないように
    そっと、漏らしたため息を、黎翔は聞き逃さなかった。

    【長編】『白陽国・豊穣の祈り Ⅵ』    

    『夕鈴、謁見に疲れたか?』

    黎翔に頤(おとがい)を捕らえられ、俯(うつむ)いていた顔を上げさせられる。

    黎翔は、眉をひそめて、自分の唯一の妃を気遣う。

    華やかな衣装と美しい化粧でごまかされているが、夕鈴の顔色が少し悪い。

    夕鈴は、いつもながら黎翔の気遣いに嬉しくなる。

    夕鈴の頤(おとがい)に添えられた手に、夕鈴は、自分の手をそっと重ねて少しだけ甘えてみたくなった。

    「ええ・・・少しだけ。」

    気だるげな様子で、夕鈴は素直に答えた。

    『確かに、こう次々と賓客ばかりの謁見では、私でも疲れるな。』

    『夕鈴、謁見終了時刻までは、あと半日、残りは、私一人で対応しよう。』

    『夕鈴、自室にて休むが良い』

    『夜の外出も取り止めてもよいぞ。』

    それを聞いて、慌てて夕鈴は頭(かぶり)を振った。

    「いいえ、私は大丈夫です。」

    「賓客の謁見を陛下お一人でさせるわけには、いきません。」

    「なにより、陛下もお疲れです。」

    「私(わたくし)、一人休もうとは、思いません。」

    「どうか、貴方の唯一の妃としての勤(つと)めを全(まっと)うさせてください。」

    夕鈴は、しっかりと黎翔の赤い瞳を見据え、懇願した。

    「・・・それに・・・」

    【長編】『白陽国・豊穣の祈り Ⅶ』

    「陛下との夜のお忍び、夕鈴も楽しみにしてますの。」

    「楽しみのためなら、謁見も苦ではありませんわ。」

    「・・・だから、取り止めるなんて、言わないで。」

    黎翔は、夕鈴の両頬を両手で包み込み 優しく額に口付けた。

    『楽しみならば、なおの事。』

    『無理をしては、いけない夕鈴。』

    『辛いなら、私を頼ってくれと何度も申しつけたはず・・・』

    『無理をしないと、私に誓えるか?』

    「はい。陛下。私に仕事をさせてください。」

    『・・・・我が妃は、頑固だな。』

    『夕鈴らしいといえば、らしいのだが・・・』

    ほろ苦く笑う黎翔は、夕鈴に呟いた。

    そのかすかな陛下の呟きを夕鈴は、聞き逃さなかった。

    頬を膨らませて、反撃する。

    「・・・・・陛下、ソレってどういう意味ですか。」

    『僕のお嫁さんは、まじめで可愛いって話だよ。』

    突然、小犬陛下が答えた。

    顔をますます朱に染めた華奢な夕鈴の身体を、黎翔はきつく抱きしめた。

    謁見の控え室に、楽しげな陛下の笑い声と、抗議する妃の声が響いていたという。

    【長編】『白陽国・豊穣の祈り Ⅷ』

    「・・・・ま・・まって、・・・李翔さん!!!」

    『はやくっ早く!!!!夕鈴こっちだよ!!!』

    しっかりと、繋いだ手を握り締めて、
    子供のように駆け出した彼。

    必死で、人ごみを縫って 辿り着いた場所は・・・

    李翔に連れられてこられたのは、
    いつの間にか、パレードの見える最前列に・・・・。

    真夜中の暖かなオレンジ色の篝火がたくさん焚かれた広場に、
    溢れる色洪水のような山車(だし)が並ぶ

    その多くは、今年収穫したばかりの作物のせて
    来年の豊作を願うために白陽国の神殿に供物として奉げるために、
    神殿へ静々と移動する

    山車を囲む踊り子たちは、山車とは、対照的に明るく陽気なリズムで
    祭りを盛り上げる。

    祭り気分が盛り上がってきたところで、一番大きな山車がやってきた。

    豊穣の徴の葡萄の手籠を持ち沿道の観客に
    にこやかに手を降る今年の稔りの王と王妃。

    緩やかな藤紫の衣に、葡萄の柄の輪郭に沿って刺繍がしてある。
    葡萄の樹つるで編んだ冠に、金木犀と月桂樹・葡萄の実が飾られていた。

    李翔と夕鈴の目の前を巨大な山車が横切っていく。

    篝火に照らされた山車の上の稔りの王と王妃。
    正直、暗すぎてあまり顔が分からない。
    照らされた華やかな衣装ばかりが目に付く。

    李翔は、それを見て、隣の夕鈴に小声で囁く。

    『あの稔りの王妃より』

    『君のほうが美人だな。』

    『昼間の君の正装で、コンテストに出れば、稔りの王妃は、君に間違いないな。』


    『来年は、コンテストにでてみようか?夕鈴。』

    「何を言ってるのですか?」

    「稔りの王と王妃は、民のものです。」

    「本物の王と王妃は、引っ込んでいるべきです。」

    「私以上の美人なら、たくさん居りますよ。」

    「自分のことは、自分が分かってます。」

    「お世辞は、結構です。」

    『・・・・・・。』

    なかなか本気にしてくれない、恋人に苦笑する。

    (君ほど、魅力的な女性は、居ないのに。)

    『ねえ、夕鈴、もう一度聞くけど・・・』

    『来年は、二人でコンテストに参加しようか?』

    『きっと、来年の稔りの王と王妃は、僕らだよ』

    「そんなの意味ないです。」

    ぴしゃりと夕鈴は言い切った。

    【長編】『白陽国・豊穣の祈り Ⅸ』    

    夜のパレードが終わり、二人で夜店をそぞろ歩く。

    さすがに、同じような露天商を幾つも廻れば、李翔さんが、何かを探しているのは、明らかで…。

    祭りの夜が、深まるごとに、何となく見つからない事への焦りも見えてきまして…

    普段冷静で焦りなど見せないだけに、珍しいななどと、私は思っていて…

    何故、この祭りに同じような露天商が並んでいるのかなんて、露ほども考えなくて だだ一人焦りまくる李翔さんの後を物珍しく付いて行った。

    李翔さんが、それを見つけたのは、八軒目ともなる少し大き目の露天商の店先。

    先ほどから、李翔さんが廻っていたのは、露天の宝飾品のお店。
    王宮で、私が使う高価な芸術品のような品ではないが、やはり庶民には高嶺の花が並ぶ。
    何故か、対になる品物ばかり?

    『ああ…これがいい!・・・・・これにしよう!』

    李翔の手に握られていたのは、李翔の瞳の色と同じ血赤の珊瑚の手環き。

    「あの…李翔さん、私、そんなに高価な宝飾品はいりませんよ。」

    『そんなこと言わず、今日だけは、コレを着けて。』

    夕鈴の白い手首に、艶やかな珊瑚の紅色が映える。

    《お嬢ちゃん、この後の祭りは、初めてかい?》

    露店の店主が李翔の助け舟で、声をかける。

    《素直に、恋人の云う事聞いていたほうがいいよ》

    《兄さんも苦労するなぁ。》

    『店主もそう、思うかい?』

    《こんな可愛い恋人じゃ手環きの保険一つじゃ足りないよ。》

    《兄ちゃん、しっかり護ってやらなきゃ。》

    李翔は、もう一回り大きな【男性用血赤の珊瑚の手環き】を手に取り

    『では、それと、コレを二つ貰おう。いくらだ・・・。』

    店主と李翔の会話が分からずとも、その後の祭りに関わることらしいと判断して、夕鈴は、李翔から【血赤の珊瑚の手環き】を受け取り、身に着けた。

    かくして、夕鈴の手首には、李翔とおそろいの珊瑚の手環きが、揺れるのでありました。

    【長編】『白陽国・豊穣の祈り Ⅹ』     

    宴もたけなわ…
    夜の大人たちの祭が始まる。

    中央に木組みされた大きな篝火を中心に男女一対になり大きな輪を作る

    中央の篝火の炎が大きければ、大きいほど豊穣の女神は、喜ぶという。

    素朴な太鼓の音と単純な笛の音に合わせ人々は踊りの輪を作る。

    篝火により真昼のような明るさの広場で

    人々は、来年の五穀豊穣を女神に願い 一心不乱に踊る

    その顔は、皆一様に祭りに酔いしれており 楽しそう・・・


    手に手を取り合い、老若男女が今年の稔りに感謝し、
    来年の豊作を願う踊りを明け方まで続けるという。

    踊り明かす大人たちの夜のお祭り。
    輪の外では、酒に酔いしれ輪を外から眺める人々の姿も・・・

    いつしか、李翔と夕鈴もその楽しい輪の中に入っていった。

    オレンジに揺らめく光りに照らされて、夕鈴は見よう見真似で李翔と踊りだす。

    やがて踊り始めてすぐに、単純な振り付けながら
    かなり情熱的な踊りに気付いた

    近づいたり、離れたりはするもののパートナーである李翔に絡め取られる腕。
    攫われる腰に廻されるたくましい腕に、・・・夕鈴は翻弄される。

    何よりも口付けされるのでは、という至近距離での情熱的な踊りに
    夕鈴は、激しい動揺と気恥ずかしさを感じていた。

    ほとんど、自分が踊っているという感覚がなく、
    李翔に踊らされているような感覚。

    地に足がつかない。
    夢を見ているような不思議な感覚。
    身体が、祭りに馴染んでゆく。

    いつしか、身体の求めるままに李翔にあわせて踊りだす。
    無垢でありながら、他を凌駕する圧倒的魅力を夕鈴は放ちはじめる。

    金茶の髪は、篝火に照らされて朱金に波打ち
    白い肌は、踊りの熱によりほんのりと紅く色づく・・・

    紅く濡れた唇は、優しく孤を描き、白い歯が覗き
    篝火のオレンジを湛えた濡れた瞳は夢にまどろむ

    上気した薔薇色の頬に浮かぶ 乙女の微笑み
    李翔の腕の中で、華奢でなよやかな肢体が艶めく

    無垢と妖艶の混在
    豊穣の女神の降臨

    『ーーーーーっ!!!』

    李翔は、突然踊りを止めて、夕鈴を踊りの輪から連れ出した。・・・

    【長編】『白陽国・豊穣の祈り ⅩⅠ』

    「きゃっ…」

    『っ!!君はっ!!』
    『・・・・無意識なのか故意なのかっ!!』

    (なんでっ???・・・怒ってる?)

    李翔は、祭会場に続く林に夕鈴を連れ込むと、
    手近な樹の幹に、荒々しく夕鈴を押しつけた。

    華奢な手首が黎翔によって掴まれ、頭上で幹に押し付けられる。
    樹の幹にはりつけられたごとく、黎翔の腕の中で、身動きさえもままならない。
    掴まれた手首が痛い。

    ありえないほどの冷たい冷気と緊張感。
    夕鈴は、青ざめた顔で、はしばみ色の大きな瞳を更に大きくする。
    身体が、小刻みに震えだす。

    この雰囲気は、狼陛下の逆鱗に触れたもの。
    それが今、夕鈴のみに向けられている。

    黎翔は、仄暗い瞳で夕鈴を見下ろす。
    硬く・・・冷たく・・・苦しげに言葉を紡ぐ。

    『夕鈴。』

    狼陛下のその声は、夕鈴の心に冷水を浴びせた

    ついーーーーーーーと、伸ばされた夕鈴の紅い花簪。
    艶やかで綺麗な一重の生花。

    黎翔の行動が読めず、ビクリと身を震わせる夕鈴。

    黎翔は、夕鈴の髪から抜き取ったかと思うとそのまま手の中で、
    ぐしゃりと握り潰した。

    『・・・・・白は、独り身の印。・・・・・赤は、パートナーの居る印』

    『やはり、こんなものは無意味だったか。』

    バラバラになった花だったものが、地面に落ちてゆく。
    握りつぶしたばかりの新鮮な青草の香りが、黎翔の手のひらから香る。

    夕鈴は、地面に落ちてゆく無残な花を、無意識に目で追う。
    夕鈴の咽喉は、カラカラに乾き始めた。
    瞳に涙が滲む。

    一言も言葉を紡げない。紡ぐことが出来ない。
    青ざめた唇は、震えわななくのみ。
    言葉を飲み込む 咽喉が渇く。

    チャリ・・・

    夕鈴の掴まれた手首に巻かれた血赤の珊瑚の手環きーーーー
    黎翔の手環きと擦れ合い、かすかに音をたてる

    二つの手環きが意味するもの。

    二人が、意思を交わしあい祭りの間もその後も、決して離れない。
    生涯のパートナーを決めていることの証。

    黎翔が選んだ珊瑚の手環きは、しっかりと二人の手首に巻かれていた。

    『君は、どれだけの人を魅了すれば気が済むんだ・・・』
    『祭りに来ていたものは、皆 君に魅了された。』

    『あそこには、もう戻れない。戻りたくない。』
    『君を攫おうと狙う虫が多すぎる』

    『どれだけの保険をかけても、足りなかったな。』
    『君の魅力に勝てるものなどない』

    『ーーーーーーーーー収穫祭に参加したいなどと、言うのではなかった。』



    『君は、もっと自覚するべきだ。』
    『自分が、魅力的だということを。』

    『私だけを魅了していれば、いいのに・・・』
    『私以外の者を、魅了するのは許さない。』
    『・・・・・私だけが、君を知ればいい。』

    仄暗い紅い双眸が、夕鈴に近づく。
    交わされる紅い瞳とはしばみ色の瞳
    眼を反らせられない瞬間の緊張。

    「・・・・・んっ!!」

    夕鈴の柔らかな口唇に狼陛下の口唇が深く重なる
    冷たい情熱の口付け。

    どうしてこうなったのか、わからないまま夕鈴は
    黎翔に奪われるように口付けをされていた。

    【長編】『白陽国・豊穣の祈り ⅩⅡ』    


    気付いたら、朝だった。
    いつの間に自分の寝台で夜着に着替えて寝ていたのだろう。
    眩しい光が寝室に差し込む

    まだ雨戸の開け放していない薄暗い室内に人の気配。
    自分の寝台の端に腰掛けている
    こちらを見ている人影から声が掛かる。

    『・・・・おはよう。夕鈴。』

    夜着姿の陛下の声
    逆光と薄暗い部屋のせいで、表情が見えない。

    その声は、優しい小犬陛下のもの。
    夢の中の狼陛下の声を思い出して、あからさまにほっとした。

    『おはようございます。陛下。』

    寝起きを見られた気恥ずかしさで、顔が火照る
    なんとか、朝の挨拶をすることができた。
    はにかみつつも、柔らかな微笑が零れる
    片手で、支えて、寝台から起き上がる。

    小犬陛下にほっとする。

    陛下の手が、夕鈴の頬に伸びる。
    優しく頬を撫ぜられる

    頬を撫でる陛下の手首に珊瑚の手環き
    朝日の中に真紅が連なる・・・

    (私の手首にも・・・)

    見て確認しなくても絡みつく 滑らかな石の触感と重み。
    白い敷布と白い夜着の間に肌に纏わりつく血赤の珊瑚の手環きがあるということが・・・

    夢でない、現実。

    『昨日は、ごめん。夕鈴。』

    何が・・・とは聞かない。夢の断片を拾い集める。

    「・・・いいえ。」

    繋がらない記憶。断片の出来事。
    血赤の珊瑚の手環きが伝える現実。

    陛下の気持ちが遠い気がして、陛下の頬を撫でる手に重ね。頬を寄せる。
    瞼を閉じれば、より伝わる陛下の熱。

    『・・・・夕鈴』

    寄り添う頬に添えられた手が身体を引き寄せる
    柔らかく抱きしめられて・・・・陛下の胸に優しく抱きしめられた

    『私だけを魅了してくれ。』
    『・・・・ずっと、私の側にいてくれ。』
    『夕鈴』
    『愛しているよ』

    「・・・・私も、黎翔様をお慕いしております。」
    「どうか幾久しくお側に置いてくださいませ。」

    祈りのような願いの言葉は、朝の光と共に二人の心の奥に刻まれた。

                         -完-
    .